【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

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第一章

02-1.乙女ゲームを復習しましょう ★

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(……よしっ)

 朝食には大分早い時間に目が覚めた俺は、窓から覗く朝焼けを眺めて気合いを入れた。
 転生した事や近状を回想してから三日後。寝ている間に情報が整理されたのか、あれだけ酷かった吐き気はすっかり治まり、部屋の中でなら自由に動けるようになった。

(体調も問題ない、着替えも済ませた……そして暫くは誰も来ない)

 記憶の中のアルフレッドは、朝食の時間ギリギリまで寝ていた。誰かが起こしに来れば起きていたのだろうが、悲しくも誰も起こしに来ず、結果慌てて身だしなみを整える、といった朝を送っていたようだった。
 今までのアルフレッドからすれば「起こしに来てよ!」といった感じなのだろう、が、今の俺には好都合でしかない。

(周囲に誰もいない時間って貴重じゃないかっ。ゲームの事や今の攻略対象との関係を振り返ったり、今後の行動を決めたりするのにもってこいだ)

 王子というだけあり、殆どの時間を誰かと一緒に行動している。そんな中で前世の事や乙女ゲームの内容を紙に書き出す事は難しい。見られたら「お花畑がとうとう妄想までするようになったか」と思われてしまう。ただですらアルフレッドの評価は低いのにそれは避けたい。

(お花畑は卒業だぞ、アルフレッド。勉強・鍛錬はサボるのに無駄な正義を振りかざすお前とはサヨナラだ。これからはゲームのお前とはほど遠い人間になるんだ)

 陰謀渦巻く王家や貴族社会、そしてあと六年後に通うようになる学園では、今のままでは食われるだけだ。今ですら王弟に良いように使われ始めているのに……これ以上、周囲に見放されないよう努めないと。

(さて……悲しい事に、使われていないノートとインクはたくさんあるし、早速書き出してみますかね)

 まずはこの世界……乙女ゲームの設定から振り返ろうと、俺は机にノートを広げると、思い出せる事全てを書き始めた

(ゲームの名前は【学園グランディオーソの桜】で、この国・グランディオーソの王都にある魔法学園が舞台。そこで平民のヒロイン――マリアが、攻略対象たちと一緒に学園で起こる不可思議な問題を解決したり、目覚めた聖女の力を徐々に発揮していったりする、と)

 どこにでもありそうな内容だなぁ、と思いながら書いて行く。学園で起こる問題の数々も悪魔が関連したもので、その悪魔を聖女の力で成敗していくものだった。本当に何処にでもある内容だったなと改めて思う。

(出会いもなぁ、入学式で道に迷ってとか、虐められてるのを庇ってもらってとかそんなんだったしなぁ)

 例えば、入学式で会場までの道がわからないで迷っている彼女を親切にも会場まで連れて行ってあげるというのが俺ことアルフレッドの出会いだ。
 他の攻略対象との出会いもそんな感じで、平民という出生の彼女が上流貴族と関われるようなベタな出会いになっている。テンプレ設定と言っても良いだろう。よく続編が出るくらい人気になったなと逆に関心してしまう。

(あとタイトルも変というか……語呂が悪いというか)

 書いていて思ったが、やっぱりどう考えても国の名前が“グランディオーソ”は無理がある気がする。
 クラシック音楽の発想記号、イタリア語の「雄大な・威厳ある」って意味から付けたのだろうけど、ゲームのネーミングとしてはいまいちだと思ってしまった。しかもそれが国の名前でもあるのを知れば尚更そう思わずにはいられない。もうちょっと良い名前は無かったのか。意味は良いのに勿体ない。

(まぁ……名前はさておき、問題はマリアとの出会いだよなぁ。回避したいけど、前世でいう“強制力”が存在したらきっと無理だし……遭遇してもスルー出来るようになるしかないのか?)

 転生と同様、強制力という名の力も前世のライトノベルで流行ったのを覚えている。むしろ転生とセットでも良いぐらいの頻度で小説に出ていた。
 そんな強制力は、抗う系の主人公からすれば厄介そのもの。何しろ『いくら回避しようと足掻こうとも、ストーリー通り進むように強制的に物事が発生する』のだ。ライトノベルの主人公たちはこの強制力に散々悩まされ振り回されるのだが、まさか自分自身その苦悩を体験するとは、転生と同じように全く考えていなかった。

(まだ強制力が働くとも限らないけど、いざという時のために準備はしておいた方が良いな。まぁ、意識が俺になった以上、ノエルをないがしろにしたりしないけど)

 そこまで考えて、俺はペンを走らせるのをピタリと止めた……否、自然と止まった。

(……ミツキ)

 脳裏に浮かぶのは、前世婚約していた最愛の人――ミツキの姿。
 この世界で意識がハッキリとしてきたこの数日、今までミツキの事を想わなかった訳ではなかった。ただ、思い出せば出すほど空虚感に襲われ、どうしようもない感情に身が引き裂かれそうで、後悔や悲しみ、自分に対しての怒りに浸る余裕がなかった。

「何をどうしたところで、ミツキを守れなかった事に変わりは無いからな」

 自分しかいない部屋に、空しい声が響く。
 どんなに嘆こうが喚こうが、事実が覆ることはない。

 俺は死んだ。ミツキも守れなかった。それ以外なにもない。

(だからこそ、今回絶対アカリを潰すのだけど)

 幸せの具現化であるミツキがいないのは最悪でしかないのだが、また俺の人生をメチャクチャにしようとしているアカリに前世の分も含めて断罪するには好都合なのが今の現状だ。

「アカリ含め、マリア対策と推しの幸せのために、ノエルとの関係改善に努めないとな」

 そう言って、俺はノートにノエルの名前と彼女のゲーム設定、そして『関係改善。絶対婚約破棄しない』と書き込んだ。
 ゲームのアルフレッドは、ヒロインのマリアに入れ込んで、自身の婚約者であるノエルの事をぞんざいに扱っていた。毛嫌いしていると言っても過言ではない状態だった。元々良好な関係でもなかったのかもしれないが、それにしたって酷いと思う。

(どうせアルフレッドが悪いんでしょ? 自由に結婚出来ない云々言って反発してた部分もあっただろうし、オヤジたちの甘言もあっただろうし)

 夢見がちなアルフレッドからすれば、親や周囲に決められた婚約は運命も何も感じず嫌だったのだろう。実際アルフレッドの記憶の欠片からそんな雰囲気が滲んでいる。それに拍車をかける様に、王弟たちからは『これからの時代、貴族も王室も恋愛結婚を許容するべきだ』と、まるで希望を持たせるような言い方で聞かされている。色んな物事が重なった結果があのゲームのアルフレッドなのだろう。恋愛結婚を目指していた彼にすれば、マリアとの出会いは運命的で思い描いた夢そのものだったに違いない。

「アホらしい……」

 想像して、俺は空気が抜けるような溜め息を吐いた。
 今のような子どもであればまだ良いだろう。そんな夢を持つのも悪くは無い。
 だが、親が決めたと言えど、アルフレッドには既に婚約者が存在している。その相手をほったらかして良い理由にはならないし、歩み寄りもせず突き放すのは論外だ。

(俺の心はミツキのものだけど、俺とミツキの推しだったノエル、君の事も幸せに出来るように頑張るからっ)

 ノエルのところに『幸せにする』と書き足す。
 悪役令嬢がなんだ。少なくともアルフレッドよりしっかり者だわ。

(ノエルの事はまずはここまでで良いかな。この実際の彼女の事は会ってみないとわからないし……。次はウィルの事をもう少し振り返りつつ、他の攻略対象三人の事をまとめてみよう)

 俺はページを捲ると、ウィリアム含む幼なじみのメンバーの名と設定と、アルフレッドの記憶にある実際の彼らの事を書き始めた。



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