【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

文字の大きさ
23 / 51
第一章

09-3.転落(Side.アカリ+エイベル) ★

しおりを挟む
2022/03/06に加筆修正しました。




 エイベルに導かれ、ショウたちと同じ世界に転生したアカリは、九つまでは普通の女の子として生きて来た。両親に愛され育ち、自身も優しい子に育った平民の娘で、名をマーガレットという。
 平民の生活であっても十分満足していた彼女が、最悪にも前世を思い出してしまったのは、地主である貴族の邸前で、ジュード家の次男・ウィリアムを目撃したからだった。

「…………最悪だわ」

 この日は上位貴族が町に来ると話題になっていた。何でも地主の親戚で、人見知りの激しい従妹のために会いに来るのだという。
 娘の姿は見たことがなかったが、話しによれば自分と同い年だと、マーガレット、もといアカリはしっかり記憶していた。

「なんで」

 貴族が来るからと、その姿を一目見ようと茂みから様子を見ていたマーガレットは、ウィリアムの姿を目撃して落雷を喰らったような衝撃を受けた。そして今世の人格であったマーガレットを強制的に沈めていったのである。

「ちょっと! いるんでしょ!?」

 声を抑えながら怒鳴るという器用な技を披露しながら、エイベルを呼んだ。
 音もなく現れた男は、ニコニコと機嫌良さそうに微笑んでいる。その笑顔がアカリの怒りを助長させた。

「やっとお目覚めかな? お嬢さん」
「ふざけるんじゃないわよ!! わたしのヒロインポジションはどーしたのよ!?」

 前世の記憶が完全に蘇ったお陰で、交わした契約の内容も思い出したのだろう。思っていたのとは違う現実に、アカリはエイベルに向かって怒りをぶつけた。

「ヒロインポジションって、ちゃんとなってるじゃない」
「どこがよ! ただの田舎娘じゃない!」
「ヒロインは平民の女の子でしょ? 何処の出身なんて設定、あったっけ?」
「ないけど王都の学園に入学するんだから王都に住む平民でしょ! そんなこともわかんないの!?」

 エイベルの言う通り、ヒロインはどこの町出身の平民だとい設定まではなかった。ただ平民の女の子という生い立ちだけがゲームで語られるだけ。だから男はその通りにしただけだ――そこに悪意を混ぜながら。

(まぁ、意地悪したのは確かだよ)

 ヒロインに細かい設定がないのを良い事に、絶対ヒロインではないと断言出来る町娘として転生させた。
 目的は言わずもがな、上司の命令を完遂すること。そのためには、アカリにはもっと罪を背負ってもらわねばならない。

「……で、君は何を望むの?」

 だから誘う。彼女の魂が、二度と太陽の光を浴びる事のない闇に沈むように。

「あの地主一家を事故に遭わせて、殺してほしいの」
「それで、どうするの?」
「あの家の娘になりすますのよ! 今の親は田舎者で使えなさそうだし、このままだと学園に通えない。だからあの地主の娘になればウィリアムの家が拾ってくれる。そしたらウィリアム繋がりでアルフレッドに近づけるわ! あ、ショウさんはちゃんとアルフレッドになった?」

 悪びれる事なく言い放つアカリに、エイベルは頷いた。だが浮かべた表情とは裏腹に心は冷たく、本当に救いようのない娘だと吐き捨てる。こんな娘に全てを奪われたマーガレットには心から同情した。

「その後の事は考えてるの?」
「もちろんよ! 事故死したら皆の記憶から娘の姿を曖昧にするの。完全に消しちゃったら娘になりすませないからね。だから「こんな感じだったっけ?」ぐらいに皆の記憶を曖昧にしてちょうだい。あ、娘の遺体だけは完全に消してね? そしたらわたしが娘の振りして事故現場で泣いていれば良いだけだから。ふふ、楽しみ!」

 既に邸に入って行った一行がいた場所を見ながら、アカリは前世と同じく醜悪な笑みを浮かべた。
 マーガレットの面影は、一欠片も残っていなかった。



*****



 それから暫くして、ついにアカリの企みは実行された。彼女は狙い通りまんまとジュード家に潜り込み、尋ねて来たアルフレッドに接触したのだ。
 これで自分はアルフレッドに気に入られて悪役令嬢を断罪出来る。全て我が思うままと信じていたアカリだったが、既に転落中だとは想像すらしていなかった。
 ショウの魂は抑え付けているから、前世を思い出す事はないと気楽に考えていたのに、彼はショウの記憶を得た。それだけではなく、完全にショウの意識で動いている。
 その報告を聞いたのアカリの動揺は凄まじかった。そのせいで室内の腐敗が進んでいるのだが、気にも留めない。それよりも、目覚めたショウがゲームの進行を阻止しるべく動き出した事が、軟禁状態のアカリの精神を揺さぶった。

「もう一度抑え付けることは出来ないの!?」
「記憶を蘇らせたのは創造神だからねぇ、俺では対抗出来ないな」

(対抗するために目覚めさせたんだろうけど)

 心の中で、エイベルは苦笑した。
 アカリの執念と同じくらい、神の執念も深く根強かった。
 神は世界の外側でならその世界に関わる事は可能だが、内側に干渉することが出来ない。だから神は、干渉するために人間に転生して、ショウの魂を解放した。執念以外の何物でも無い。

「このままミツキに会ったらどうするのよ……はっ! ミツキは!? 悪役令嬢はどんな感じなの!?」
「ノエルは周囲から人気のある令嬢に育っているよ。僅か十才で慈善活動やスラムの環境改善に取り組んでいる」
「それの何処が悪役令嬢なのよ!! 絵に描いたような完璧令嬢じゃない!! もしかして、記憶あるの!?」
「記憶はないけど、魂がそうさせているんだよ」
「……ふんっ。清く・正しく・美しくぅ? 笑わせないでよ。そんなだから呆気なく死んだのよ」

 その瞬間、部屋にあったランプが破裂した。アカリの場所まで破片は飛んで来なかったが、周囲に破片が散らばり、窓から射し込んで来る日を受けて輝いている。

(自分が殺したくせによくもまぁ……思わずランプ壊しちゃったじゃん)

 男は目に力を入れてランプを見つめた。すればランプは破裂前の状態に戻り、ほんのりと淡いオレンジ色の光りが灯る。その優しい色が、ノエルの柔らかな笑みを連想させた。

(はぁ~、興味本位って怖い)

 この世界に来てからというもの、エイベルはノエルを観察していた。それも、黒猫の姿で。
 決して青年の姿で接する事はしなかったが、彼は猫の姿で遠くから、時には間近で彼女の行動を見ていた。ニャアと一鳴きすれば『あら、また来てくれたのね?』と、嬉しそうに頭を撫でて来るのだ。気分が良くならない訳がない。
 そんなこんなで、アカリよりも長い時間を、エイベルはノエルに費やしている。気持ちは惹かれて行くのは自然の事だった。

(興味なんて沸かなければよかったのに……)

 ショウや創造神、そして上司やアカリまでノエルの事を意識している。そんな存在を気に入ってしまうなんて、悲劇以外の何でもない。想いに気付かない方が幸せだったのは確かだ。

「ねぇ、わたし、悪役令嬢を見たいんだけど」
「……嫌な相手を見たいって、良い趣味だね」
「なんでそうなるのよ! これからのために敵を知っておく必要があるでしょ!? 好きで見る訳じゃないわよ、ムカツクわね!!」

 キーキー喚くアカリを他所に、何回目かのお願いを叶えるべく、エイベルはハンドミラーを出現させた。

「はい、見たい対象を想像しながら覗けば、相手の今の状態を見る事が出来るよ」
「こんな良いもの隠し持ってたなんて、本当に嫌な奴っ」

 そう言いながら、アカリはひったくる様に鏡を受け取った。
 ほんの一瞬でも待てないらしい。彼女が鏡を覗くその目は血走っていた。

(ほーんと、憐れ)

――お前も、俺も

 写し出された相手の状況に驚愕するアカリを見ながら、エイベルは思う。
 愛し子を守るために人間に転生までした神が、ショウの記憶を呼び覚ますだけで終わる訳がないだろう、と。

「どうして、どうして初期設定姿のヒロインが存在してるのよ!?」

 この世にいないと思っていた少女の姿を見て、アカリは悲鳴を上げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい
恋愛
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜 「もっとゲームがしたかった……!」 そんな切実な未練を残し、山積みの積ゲーと重量級の設定資料集に埋もれて物理的に「尊死」した限界オタクの私。 目が覚めると、そこは大好きな乙女ゲーム『幻想のルミナス』の世界。しかも、推しカプ(王子×聖女)を邪魔して最後には無残に断罪される悪役令嬢・リリアーナに転生していた! 普通なら破滅フラグ回避に走るところだけど、オタクの私は一味違う。 「断罪イベントを特等席(悪役席)で見られるなんて……これって最高のご褒美じゃない!?」 完璧な婚約破棄を勝ち取り、二人の愛の軌跡を「生」で拝むため、私は悪役として嫌われる努力を開始する。さらに、転生特典(?)で手に入れた**『好感度モニター』**を駆使して、二人の愛の数値をニヤニヤ見守るはずだった。 ――なのに、視界に映る現実はバグだらけ。 「嫌われようと冷たくしたのに、王子の好感度が**【100(カンスト)】を超えてエラーを吐き出してるんですけど!? というか、肝心のヒロインまで私を姉様と慕って【200(唯一無二)】**ってどういうこと!?」 推しカプの二人は私を見るばかりで、お互いへの好感度は一向に上がらない。 果たしてリリアーナは、重すぎる全方位からの溺愛をはねのけ、理想の「婚約破棄」に辿り着けるのか? 勘違いとバグが加速する、異色の溺愛(?)ファンタジー開幕!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

いや、無理。 (本編完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...