46 / 51
第二章
02-2.チートな叔父と間者扱いな俺(Side.アルフレッド)
しおりを挟む『……叔父上の予想は半分当たりで、半分外れです』
俺の頭に置いたままだった叔父上の手を退けて、居住まいを正す。
青紫の瞳は俺の内側を探っているが、事実として、俺はアルフレッドでありアルフレッドではないのだから仕方ない。嘘も言っていないので裏も何もない、ただの王子だ。貴方の可愛い可愛い、甥っ子ですよ~っ。
(そもそもこんな桁違いの相手に嘘なんて吐ける訳ないじゃんよ~っ。そんな自殺行為するほど考え無しじゃないっつーの……ていうか)
『叔父上……全て承知の上で問い質してますよね?』
俺が今居るのは、星古学の研究室の奥の奥だ。資料や貴重な古書の囲まれたこの場所は、現在室内にいる学者でもそうそう立ち寄る場所ではない。むしろそういう場所を借りて研究の邪魔をしないようにしているのだから、人の気配が少ないのは当然のことだ。この場所に来るのは、俺に用がある者か、静かな場所を好んでいるアンジェリカだけ。
尚、そのアンジェリカは、少し離れた場所から俺達を観察している。俺が頭を鷲掴みにされた瞬間から、猫の姿のままな彼女は、見事なやんのかステップを踏んで叔父上を威嚇していた。
アンジェリカ、俺は大丈夫だから。だから早まらないでくれ。
(国内外渡り歩いてた叔父上とは数年ぶりの再会だし、俺の異変を自分で勘付いた訳でもないよな……ということは、誰かが秘密を漏らした?)
そんな口の軽い人物は俺の側にいない、と、信じたい。雰囲気的に一番口の軽そうなマリアは、その実一番固かったりする。じゃあ誰だ。先生怒らないから漏らした人来なさい。
『……なんじゃ、随分と潔いのぉ』
そう言うと、ダダ漏れだった殺気を消した叔父上は、近くにあった椅子に腰掛けた。
俺が逃げないと判断したからなのか、少なくとも、今すぐどうにかされる事はないのは確かだ。
『もう少し抵抗でもしてみせんかっ』
『生憎、圧倒的強者に丸腰で挑むほど愚かではないつもりですよ』
いやだって、そうでしょ? こんなレベル一〇〇超えの魔王相手に、生まれ故郷を出発して二日目くらいの冒険者が挑んだところで絶対に勝てないだろ。
叔父上の反応を見るに、アルフレッドの何かが変わったことはもう調べるに値しないほど古い情報なんだろう。今彼が欲しいのは、俺が間者なのか、それとも本当に変わっただけなのか、という真実だけだ。なら、始めから全てを話してしまった方が状況的にはマシな筈だ。
『つまらんのぉ~。もうちょっと遊んでもよかろうに』
『遊びで可愛い甥に尋問しないで下さいよ』
というより、尋問を遊びだなんて言わないでくれ。
『お~、順調に小生意気に育っておるのっ。感心感心! あの女子の云うた通りじゃっ』
『そうですか、それは何より……です?』
ちょっと待て。
今、女子って云った?
『……叔父上』
『なんじゃ?』
『その……女子って、どなたですか?』
嫌な予感がする。
もしかしたらもしかしたで、俺はさっきフラグを立ててしまったのかもしれない――いや、虫の知らせのようなものだったのかも。兎に角嫌な感じがプンプンする。
まさかまさか、あのピンク色の髪の少女じゃないよな??
『ほれ、あのピンク色の髪をした、ランベールのところの養女じゃ』
『…………』
マリアーーーー!!!!
フラグは死亡フラグだった事に絶句する。
おい、俺の人を見る目の無さよ。何故あの子を一番口固いって評価したの? 思いっ切り裏切ってるじゃないか!!
(何あっさり白状しちゃってんの!? あれだけ秘密だって言ったじゃないか!!)
ノエルとマリアに前世の話を打ち明けた時に、それはもうウンザリ顔をさせるほど口酸っぱく注意をしたものだった。
この世界に前世という概念が存在した事には安堵したけれど、それを知られるにはリスクが大き過ぎる。
『前世の文明を参考にして国を発展させろ』なんて命令されたら、今の俺は困っちゃうよ。いや、国の発展のためなら吝かではないけれど、少なくとも今は無理。まだまだやるべき事が多いし、ノエルを破滅させる事なくイベントをクリアするまでは余計な事を入れたくない。
『あ、「アタシの名前は黙ってて!!」って、約束しとったんじゃった』
アンタも何暴露してんだよ。
いや、何も問題ないと判断したから暴露したんだろうけど……何なんなの? どいつもこいつも口軽なの? 針千本飲まずぞ??
『まぁ、そんな怒らんでやってくれ。お主とて直ぐ白状したではないか』
『そりゃまだ死ぬ訳にはいきませんから……まさかですが叔父上、脅したりなんてしてないでしょうね?』
叔父上の言い方が妙に引っかかった。
十代に足突っ込んで間もない女の子相手に脅したりするなんて、考えたくない。考えたくないのだけど、マリアが白状したのが俺と同じ状況下だったのなら仕方ない事だと思う。いや、だから脅すのがおかしいんだけどっ。
『……いや?』
『……脅したんですか?』
『まぁ、若干』
『脅したんですか!! なんて脅したんです!?』
『うん?『騎士の道を閉ざしたくなくば正直に答えよ』じゃったかの~』
何やってんのこの人??
相手少女だよ、少女!! それもスラム育ちの元孤児だよ? そんなつい最近貴族になったばかりの子どもになーにしてくれてるのよ!? そりゃマリアだって全部話すわ!!
『どこで会ったんです? 訓練場ですか?』
『いんや、ランベール邸じゃ』
『……何故、ランベール邸に?』
『そりゃ用があったからじゃろ』
何を当たり前のような顔をしているんだ。
そりゃ、訓練場で会っていないのなら、ランベール邸にでも訪れないと、貴族令嬢に会うのは難しだろう。だからランベール邸に行くのは間違ってないのだけれど……そもそもランベールに何ら用のない、ましてやほぼ関わりのない叔父上が行く事そのものがおかしいんだよ。
(わざわざマリアに会いに行ったって事だよね? 甥の婚約者だからってノエルに会いに行く必要性はないし、ランベール伯爵が手がける下水道事業の話をしに行ったとも思えない)
とするならば、叔父上は本当にマリアに会いに行ったのだろう。
俺の秘密を吐かせるためだけに? もし叔父上の気まぐれではなく誰かの命令とするなら、何の力もない少女の相手は叔父上でなくてもよかった筈だ。わざわざ叔父上が会いに行った理由がわからない。
『他に……マリアに何か聞きました?』
『聞く用は先程のものだけじゃ』
『聞いてはないけど何かはしたんですね? 何したんですか?』
『なに、あの女子が聖女であるか確認しただけじゃ』
だから何でそんな当たり前みたいな態度してるの?
そんな事してもしバレちゃったら早々に教会に連れて行かれちゃうじゃないか!! ノエルが必死になって隠してたのに、一体何てことをしてくれたんだ。ノエルに嫌われたらどうしてくれるんだ!!……じゃなかった。イベント回避出来なくなったらどうしてくれるんですかね??
(ていうか、聖女を見つけ出すって、何? そんな神器みたいな事出来ちゃうの? 何その設定。叔父上一人で色々詰め込み過ぎじゃない? 見た目も良くてチート能力有りって羨まし過ぎるんですが??……じゃなかった。また脱線しそうになった。そうじゃなくて、問題は――)
『それはそうと……お主、いつまで話を逸らすつもりじゃ?』
雰囲気がまた物騒なものに変わった。
いや、話を逸らした訳じゃないんですよ。本当にただ疑問をぶつけただけなんですよ。
『……俺が話したら、ちゃんと事情を説明して下さいね』
『それはお主次第じゃな~』
『人でなしっ』
『先ずは儂の問いに答えるのが筋じゃろ。一応、お主は間者の嫌疑がかかっておるのじゃからなぁ』
嫌疑が掛かってる……犯罪者扱いか。いや、それでもまだマシな方か。断定されて問答無用で拘束されなかっただけマシなのだろう。
(背後で誰が動いているのかも気になるし……仕方ない、さっさと説明するか)
隙を見て飛んできた猫姿のアンジェリカを膝に乗せながら、俺は前世を思い出したところから説明し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜
りい
恋愛
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜
「もっとゲームがしたかった……!」 そんな切実な未練を残し、山積みの積ゲーと重量級の設定資料集に埋もれて物理的に「尊死」した限界オタクの私。
目が覚めると、そこは大好きな乙女ゲーム『幻想のルミナス』の世界。しかも、推しカプ(王子×聖女)を邪魔して最後には無残に断罪される悪役令嬢・リリアーナに転生していた!
普通なら破滅フラグ回避に走るところだけど、オタクの私は一味違う。 「断罪イベントを特等席(悪役席)で見られるなんて……これって最高のご褒美じゃない!?」
完璧な婚約破棄を勝ち取り、二人の愛の軌跡を「生」で拝むため、私は悪役として嫌われる努力を開始する。さらに、転生特典(?)で手に入れた**『好感度モニター』**を駆使して、二人の愛の数値をニヤニヤ見守るはずだった。
――なのに、視界に映る現実はバグだらけ。
「嫌われようと冷たくしたのに、王子の好感度が**【100(カンスト)】を超えてエラーを吐き出してるんですけど!? というか、肝心のヒロインまで私を姉様と慕って【200(唯一無二)】**ってどういうこと!?」
推しカプの二人は私を見るばかりで、お互いへの好感度は一向に上がらない。 果たしてリリアーナは、重すぎる全方位からの溺愛をはねのけ、理想の「婚約破棄」に辿り着けるのか?
勘違いとバグが加速する、異色の溺愛(?)ファンタジー開幕!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる