【連載版】聖女なんて真っ平御免です!

照山 もみじ

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第二章

04-1.今世は大分大人に恵まれていると思う(Side.アルフレッド)

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 結果的に、俺は首の皮一枚繋がっている状態な事を突き付けられてその場は終わった。

『本気のお主には悪かったが、実を言えば儂も兄上も、お主を間者だとは爪の先ほども疑ってはおらんのよ』
『前世の記憶、というより人格かのぉ。それの影響で以前よりはやる気も起き賢くもなったが、他者を惑わす術はまだ未習得であろう? そんな半人前に、間者が務まる訳なかろうよ』
『それはそうと! お主、フィンだけでのうて、側近候補の小童どもまで巻き込んでおるな? フィンはまだしも、小童どもはお主の側近ではなく貴族令息でしかない故、ただの王子があれこれ使って良い相手ではないのじゃ』
『そもそも未熟過ぎて王太子候補としてもどうかと兄上は考えておる。己の立場を今一度自覚し、自重せよ』
『何やら裏で面白……コソコソ動き回っておる事に関しては、先程言った通り不問じゃ。だがの、何を企んでおるのか内容だけはハッキリさせねばならん』
『まぁ、お主に対しては本当にそれだけ聞ければ良かったんじゃがの! ちとからかい過ぎて白けてしもうたわ。聖女の乙女はまた別案件じゃ』

 怒濤の指摘の山々に、聞いている事でいっぱいいっぱいだった。

(本当に、ずっと掌でコロコロされてたんだなぁ)

 この時の俺の心境、わかる? ボッコボコですよ。
 間者の嫌疑云々は、もう完全に叔父上が遊んでいただけ。俺が焦りながらどう突破するのかを、内心ニヤニヤしながら見ていたという。
 泣けば良いのか、笑えば良いのか。村を出て二日目の冒険者に、魔王の攻撃は痛いなんてもんじゃない。

(だって、滅茶苦茶疲れたんだもの。HPとMP、両方ゴリゴリ削られたわ)

 ショウの記憶を得てから今日までの間、面倒な大人に絡まれる機会は何度もあった。
『決められた婚約者と上手くいっていないのでしょう? 私の娘は大人しく気立ての良い子でしてな、試しに会ってみませんか?』とか、『そんなに根詰めて勉強すると疲れますよ? 今の教師、あまり良い方ではないみたいですね。私の知り合いに素晴らしい教師がいるのですが、今度紹介致しましょうか?』と、明らかに馬鹿にした態度でネチネチ云っては押し付けてくる。
 彼らは、どうにかして俺を以前の傀儡アルフレッドに戻そうと躍起になっているらしい。非常に面倒で鬱陶しかった。
 そんな奴らより厄介で面倒な相手が叔父上とか、嫌にも程がある。

(でも叔父上や国王の内情が知れた事を考慮すれば、今回の件は良かったのかもしれない……いや、遊ばれたのは嫌だけど)

 前世の記憶が蘇らず、周囲の汚い貴族に良いように使われるままであったなら、そう遠くない未来で処分される事が確定していた。それが回避出来たのは嬉しいし、良い報せだ。駄目出しも盛大にされたけれど、今後の改善箇所だと思えばマイナスにはならない。今までがむしゃらに勉強やら修行やらを熟してきたけれど
、ここら辺で見直す時が来たのだと前向きに捉えれば、良い収穫だった。

(よし、まだまだこれからだ!)

 そう気合いを入れた時もありました。

 星古学の研究室から出てから、恐らく三時間あまりが経った今。

『ほれ甥よ! ペースが落ちておるぞっ。日暮れ前には戻らねばならぬのじゃ。もっとキビキビ歩かんか!』

 服も汚すでないぞ~! という叔父上の言葉が、森の中に響いては消えていく。

(いや、ちょっと……さ、流石に、準備なしはキツいって!!)

 俺は今、王宮敷地内の奥の奥に存在する森の中を突き進んでいた。

 星古学研究室でケチョンケチョンにされた後、『では、お主が求める、闇に葬られた歴史を教えるとするかの。着いて参れ』と云われて、さっさと歩き出す叔父上の背を追いかけた。
 それまでは良かった。問題は森に入る少し前から起きた。

『あの……お、叔父上?』
『良いから良いから』

 全然良くない。
 王宮からはどんどん離れるし、そのままの勢いで鬱蒼と茂る森の中に入っていくし、足が遅いだの服や靴は汚すなだの指摘は飛んでくるし、何が良いのか全くわからない。

(舗装も整備もされてない自然の中を歩いてるのに、汚すなって方が無理じゃない!? 靴だって登山靴とかではないし……何で叔父上は汚れてないの?)

 俺自身は、既に靴は泥だらけだし、服もヨレヨレで薄汚れている。道のない場所を草木をかき分けて歩いているのだから当たり前だ。それなのに、目の前を歩く叔父上は靴も綺麗なままだし、服も乱れたりしていない。このまま夕食の場に出ても大丈夫なレベルだ。
 叔父上が騎士団や魔道士団と渡り合える、いやそれ以上の力を持っている事は、話で聞いただけだが知っている。けれど、それでも森の中を一糸乱れず歩き続ける事なんて可能なのか?

(もしかして、魔法?)
『そんなこれしきの事で魔法なんぞ使わんわ』

 また心を読まれたのと同時に否定された。

『そんな……も、森の中歩いても、汚れない練習、とか……』
『なんじゃその訓練、初めて聞いたわ! じゃがまぁ、似たようなもんよ。何事も経験じゃ。舗装された貴族街の道であれ、荒れた田舎道、獣道山道全て、歩き方、身の運び方一つで疲労度も着崩れ具合も変わってくる。日々身体を鍛えていようとも、状況が違えば使う筋肉も違い、精神の削られ方もまた変わる。魔法であっても同じ事じゃ。練習で上手くいこうとも、土壇場の実践になった際に何も生かせなかったという事は珍しくない。学ぶという事はな、机の上、本の中だけではないぞ? お主は、実践と経験が圧倒的に不足しておる』

 叔父上は振り返えりすらしないけれど、その放たれた指摘は重く鋭く、飛んできた言葉一つ一つが、先程以上に俺に突き刺さった。

 確かに、俺は戦えるようになるためビルの訓練を受けていた。けれど、行っている事は身体作りと体力向上、その他は素振りを繰り返すだけで、実際に戦った事はない。
 魔法の練習も、不在になりがちなディルクからビルに変更後はまだ受けていない。ディルクが教えてくれた基本的な事を繰り返しているだけだ。
 勉学もそう、知識として頭に詰め込んではいるものの、それを生かす場面はまだ訪れていないし、機会もない……何処かで見ていたのかと思うほど、叔父上の言葉は的確だった。

(実践、か)

 前を歩く叔父上を観察する。
 彼の足を置く場所、タイミング、負担にならない体重移動。そんなの、今見たからといって真似が出来るものじゃない。けれど、経験して実践していかなくては、使い物にならない。それに叔父上は、今この瞬間にも己の身に付き生かせるよう学べと云っている。
 やらなくてはならない。他の選択肢は、今この場に存在しないのだ。

(……きっと応えてみせます)

 そう決意して、叔父上の後に付いていく。
 一瞬、叔父上の雰囲気が和らいだ気がした。

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