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第二幕 幼少期

18.風邪をひいた人族の子供の扱い方

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 ポツンと1人になるアントニオ。1人っきりは久し振りである。いつも両親か、ジュゼッペか、リュシアンか、ルドが、一緒にいてくれたのである。

 1人で山頂にいると、寒いし、心細い。5分位たって、震えが止まらなくなってしまった。

 あれ? ちょっと、ヤヴァイかも?

アントニオ
「ルド! リン!」

 声に出して呼んだが、2人は帰って来ない。目の前がクラっとして、立っていられず、しゃがみ込む。

 寒い...寒い...このままだとヤヴァイ...

 そこへ2人が戻って来る。

リン
「おおぉ! なるほどな! そういう仕組みか!」

バルド
「な、良いところだろう?」

 バルドも自慢気に話していたが、アントニオの異変に気が付いて、顔色が変わる。

バルド
「エスト!」

 バルドがアントニオを抱き上げると、アントニオが冷たくなっていることに気が付いた。

バルド
「リン、悪いがローレライ探しはまた明日だ。エストを温めないと死んでしまう」

リン
「わかった。絶対、明日も来いよ! いつくらいに来る?」

アントニオ
「御免ね。リン。せっかくショールをくれたのに。13:00から14:00までなら遊べるよ」

リン
「わかった。明日の13:00な!」

バルド
「また来る!」

 バルドは空間移動魔法で、アントニオを連れ帰った。

______

 部屋に帰って、アントニオをベッドに寝かせ、布団をかけてやるが、アントニオはガタガタ震えて息が荒くなっている。

アントニオ
「ルド有難う。今日は大人しく寝てる。また明日ね」

 そう言ってアントニオは目を瞑ったが、バルドは封印の間へは帰らなかった。

 人族の子供は簡単に死ぬ。他の魔族の連中が話していた言葉を思い出す。

 僅かな時間、部屋に放置した、母親から引き離した、ご飯をあげ忘れただけで、何にもしていないのに死んでしまった。そういうような話を何度も聞いた。

 このままでは、死んでしまうかもしれない。

 バルドは回復魔法を少しは使えるが、小さな傷を塞ぐくらいのことしか出来ない。状態異常を治す魔法は使えないのだ。

 うんうんと唸っているアントニオを見て、バルドの胸には不安と焦りが広がった。

 状態異常の回復魔法を使える奴を連れて来なくては、エストが危ない!

 バルドは鎧を脱いで、封印の間に鎧と剣だけをしまうと、生成り生地のシャツとズボン姿になった。

 気配を探り、近くに居る人間の位置を確認する。

 部屋の扉の前に2人の人間の気配を感じる。エストが話していた執事と護衛騎士か...まぁ、いいだろう。

 部屋の扉を開けた。

______

 突然、扉が開き、中から2m超えの巨大な男が現れたので、ジュゼッペとリュシアンは目を見開いた。白い髪に白い肌、ラフな生成り生地の服を着ているが、育ちの良さそうな男だ。

 ジュゼッペは、その白い巨人を見上げると、真っ赤な瞳と目があって、固まってしまった。

 何処かの神話に出てきそうな男が、何故、トニー様の部屋から!?

 リュシアンは、直ぐに剣に手をかけて間合いを取った。

リュシアン
「誰だ!?」

 だが、白い巨人は、質問には答えず、2人の反応を気に留めるそぶりもない。

バルド
「状態異常の回復魔法が使える者はいるか?」


 ジュゼッペは、以前、アントニオに秘密の友人について質問したことがあった。

ジュゼッペ
『ご友人とはどんな方なのですか?』

アントニオ
『うんとね。白くて、大っきくて、カッコいいんだよ。それで、優しい!』

ジュゼッペ
『いつも、何をして過ごしているんですか?』

アントニオ
『一緒に歌ったり、お喋りしたりしてるかな?』

 そんなような事を話していたのだ。


ジュゼッペ
「あの...トニー様のご友人ですね? トニー様に何かあったのですか? 回復魔法でしたら、メアリー様が得意かと...」

バルド
「そうだ。俺はあいつの友人だ。具合が悪いようなんだ。治せる奴をすぐに連れて来てくれ」

ジュゼッペ
「リュシアン、メアリー様を! 私がトニー様の様子を見る」

 ジュゼッペの言葉にリュシアンは頷き、メアリーの部屋へ向かう。ジュゼッペは、バルドに続いてアントニオの部屋に入り、ベッドへ駆けつけた。

 アントニオは呼吸が少し荒く、触ると、少し発熱していることがわかった。

ジュゼッペ
「熱があるみたいですね。今朝は元気でいらしたのに...急に具合が悪くなったのですか?」

バルド
「霊峰山の山頂へ行った。寒いと言っていたから、そのせいかもしれない」

ジュゼッペ
「霊峰山の山頂!?」

 サラッと凄い事を言われてジュゼッペは驚いた。霊峰山は山頂に近付けば近付くほど、強い魔物が出るし、自然も厳しい。そして、山の向こう側は魔族領だ。霊峰山は、その山頂に登って帰って来たものはいないと言われている。ジーンシャン領から魔族領に入る際は頂きを通らず、標高の低い位置から入るのだ。山頂近くの気流が安定しないこともあって、飛竜ですら近付くことは出来ないと、竜騎士達は言っていた。

 驚いている場合ではない。トニー様を回復する手立てを考えなくては!

 ジュゼッペがアントニオの様子を観察していると、アントニオの首に見たことのない白いショールが巻かれていることに気が付いた。

 ご友人はトニー様を温めようとしてくれたらしい。

ジュゼッペ
「身体を冷やしてしまったのですね...」

 発熱は体を温めようとする生存本能だろうか?

バルド
「あぁ。魔素が多少濃い場所だったが、こいつは魔力が高いから、それは影響していないと思う」

ジュゼッペ
「とりあえず、今は暖かくしましょう。お湯を沸かしてきます」

 ジュゼッペが部屋を出るのと入れ違いに、メアリーが入ってくる。

メアリー
「トニーは!?」

 メアリーは一瞬、バルドに目をやったが、すぐにアントニオに目線を戻し駆け寄る。

ジュゼッペ
「トニー様は発熱しているみたいです。身体を冷やしたそうで。私は湯を沸かしてきます!」

 ジュゼッペは入り口の外から叫ぶと、去って行った。
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