上 下
130 / 249
第三幕 学生期

128.マナーの授業3

しおりを挟む
 リアナとユーリが入って来る。

ウェリントン
「なんですか? 貴方達は。ノックもしないで部屋に入るとは何事ですか? やり直しなさい。」

 慌ててリアナとユーリは部屋を出てやり直す。

 ノックをして再び扉を開ける。

ウェリントン
「まだ、許可をしておりませんよ! 貴方方は勝手に女性の部屋に入るのですか? やり直し!」

 2人はもう一度出て、ノックする。

ナンシー
「どなたですか?」

ユーリ
「ユーリ・ブラウエルです。」

リアナ
「リアナ・ジャニエスです。」

ナンシー
「どうぞ、お入り下さい。」

 ミス・ウェリントンは挨拶を交わす途中で、2人が汚れていることに気が付いた。ユーリのズボンも土で汚れているし、リアナの靴にいたっては泥がこびり付いている。

 リアナは休み時間の間、泥で汚れた服を水道の水で洗い流し、火の魔法で乾燥させるところまではしたが、靴のことまでは頭が回らなかったのだ。

ウェリントン
「ミス・スタイルズ(助手のナンシー)...」

 毎年、マナーの悪い学生ばかりですが、このクラスは特に酷い! 能力測定後、汗臭いままやってくるのは他の学生も同じではありますが、ズボンが土で汚れている学生、上着が破れたままやって来る学生、女子生徒なのに泥のついた靴で入ってくる学生までいるなんて! 何て低レベルなの! ここは田舎の子供学校ではないのですよ!?

 ナンシーが再び粘着クリーナーと靴のブラシを貸し出した。

 ちょうど、社交室の扉が開いているタイミングで、ルーカスとラドミールもやってきた。

ナンシー
「どなたですか?」

ラドミール 
「ラドミール ・ベナークでございます。」

ルーカス
「ルーカス・ミラーでございます!」

ナンシー
「どうぞ、お入りになって。」

 新たに入って来た2人からは、やはり汗の匂いがするし、靴が土埃で汚れている。

 ルーカスのズボンにも土が付いている。

 ミス・ウェリントンは天を仰いだ。

 この国のマナーは滅んでしまったのだろうか?

 ルーカスは、部屋に入るなり、挨拶も済まさずソファーへ向かおうとした。

ウェリントン
「どちらへ行かれるのです?」

ルーカス
「へ? あの、席へ...」

ウェリントン
「まだ、挨拶も済んでいないのに? 貴方は今日まで、マナーを何一つ学ばずに生きてきたのですか?

貴方は、まだ、私と知り合いではありません。私のお部屋でくつろぐ資格がないのですよ! なんてことでしょう! 天下の王立学校の学生だというのに!

私が差し上げた招待状は持って来られたのですか?」

 慌ててルーカスとラドミールは招待状を鞄から取り出し、ミス・ウェリントンに差し出した。

 ミス・ウェリントンは招待状を受け取りナンシーに渡した。ナンシーが確認して2人に招待状を返す。

ウェリントン
「私がパトリシア・ウェリントンでございます。」

ラドミール
「ラドミール ・ベナークでございます。ベナーク伯爵家の次男です。」

ナンシー
「助手のナンシー・スタイルズ、男爵家長女でございます。

ルーカス
「ルーカス・ミラーでございます。ベナーク伯爵家にお仕えする騎士家の者でございます!」

ラドミール 
「本日はこのようにマナーを学ばせて頂ける事を大変嬉しく思います! どうぞ宜しくお願い致します。」

 ラドミールは頭を下げた。

 慌ててルーカスも頭を下げる。

ルーカス
「宜しくお願い致します。」

ウェリントン
「宜しい。表をあげて下さい。貴方方も靴やズボンの埃を落として下さい。

皆さん、良いですか? 身だしなみもマナーのうちです。マナーの授業に出席されたいのでしたら、以降は気をつけて下さい。次回からは、不適切な身なりでいらした方は入室させませんので、お気を付けなさい。」

 奥の上座にあたるテーブルにラドミールとルーカスは座った。

 手前の下座の空いた席に、リアナとユーリが座った。

 リアナとユーリは、本当は上座の席に座りたいと思ったが、リアナは持久走の時にラドミールに嫌味を言われたし、赤毛を含む庶民ばかりのテーブルにはつきたくなかった。ユーリも持久走で魔法妨害し、ルーカスやマークを転ばせた経緯があるので、仕方なく下座の席に座った。

 ノックが響いて次の学生がやって来る。

フィオナ
「フィオナ・グリーンウェルです。」

ナンシー
「どうぞ、お入り下さい。」

 フィオナが入室してくると、フローラルな香水の香りが漂って来た。

 フィオナは招待状を封筒のまま差し出した。

ウェリントン
「招待状を封筒に入れたまま差し出すのは、無作法ですよ。やり直し! しかも、少し香水の匂いが強過ぎますよ。次回から気を付けるように!」

フィオナ
「も 、申し訳ありません!」

 フィオナが必死に頭を下げて、招待状を提示し直していると、リアナがクスクスと笑った。

 フィオナはリアナを睨みつけるが、リアナは気にするそぶりを見せない。

 ウェリントンは冷ややかな目をリアナに向け、話しかけた。

ウェリントン
「ミス・ジャニエス、人の失敗を笑うのは無作法ですよ! それに、靴や衣服の汚れや汗臭さに気を使わないでいらっしゃった方よりは、ずっと好感が持てます。」

 リアナは真っ赤になって俯いた。

 ウェリントンはフィオナに向き直る。

ウェリントン
「ようこそ社交室へ。私がパトリシア・ウェリントンでございます。」

フィオナ
「私はフィオナ・グリーンウェル。グリーンウェル伯爵の長女でございます。本日は、ウェリントン公爵にお会い出来て、誠に光栄でございます。ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。」

ウェリントン
「宜しい。ミス・スタイルズ、おしぼりを貸してあげなさい。」

 フィオナは、ナンシーに案内され、奥の教授室に通された。おしぼりを借りて、つけ過ぎた香水を軽く拭った。

 社交室に戻ると、席に座るように促されたので、ラドミールとルーカスのいるテーブルについた。

 庶民ばかりが座っているテーブルや、自分を陥れようとしたリアナがいるテーブルには座りたくなかったからだ。

 ラドミールは、ほぼ身分ごとに分かれたテーブルをみてルーカスに話しかけた。

ラドミール 
「お前はあっちのテーブルじゃないのか?」

 そう言って、クリスタ達の座るテーブルをみる。

ルーカス
「お望みなら、そうしますが、ラドミール様は女性と2人きりになって、お話し出来るのですか?」

 ルーカスはそう言うと、目があったクリスタに手を振る。

 クリスタは、思いっきり顔を逸らした。

ラドミール
「お前な...」


 ラドミールが嫌味の1つでも言おうと口を開くと、扉の方からノックする音が聞こえた。

ナンシー
「どなたですか?」

アントニオ
「アントニオ・ジーンシャンでございます。」
しおりを挟む

処理中です...