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たった一人の
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「アッシュさん!アッシュさんっ!!」
廉は叫ぶ。しかしアッシュの目は開かない。
取り乱す廉を宥めようとキルヴァンは声をかけるが、その声は廉には届かない。
倒れるアッシュと、野次馬の村人たち、そして少し離れた場所にも人だかりを見つけ、キルヴァンはそこへ駆け寄った。
「・・・?」
その人だかりを覗くと、そこには血を流し倒れ込む一人の女がいた。
キルヴァンはとっさに叫ぶ。
「おい!誰か一緒にこの人を診療所まで運んでくれ!転移魔法を使えるやつはいるか!?」
すると人だかりの中から一人の男が名乗りをあげた。
「あのっ・・・2キロ先までなら転移魔法が使える・・・俺、この人を診療所に連れて行くよ・・・!」
「頼む!」
キルヴァンは女を託すと、もう一度廉とアッシュの元へと駆け寄った。
「廉!アッシュを運ぶぞ!」
顔面を真っ青にした廉は、振り返ってキルヴァンを見る。
「アッシュさん・・・血だらけだよっ・・・ねぇ、助かりますよね・・・?」
「助かる、助かるからっ・・・!アッシュ背負って診療所まで行くから!お前もあとで来いよ!」
その場で立ち尽くす廉にそう言い残すと、キルヴァンはアッシュを背負いすぐさまに診療所へと走り出した。
野次馬たちは、徐々に自分の家へと帰っていく。
残された廉はしばらくその場にうずくまっていたが、何かを決意したように立ち上がった。
「今僕が能力を使わないで、何のための異世界転生なんだ・・・!」
意識を集中させる。
手首には紋章が浮かび上がり、廉の頭の中にさまざまな薬の調合方法が流れ込む。
すると、何やら胸の辺りにふいに暖かさを感じた。
廉が首元から胸を覗き込むと、そこには見たこともない新たな紋章が薄く、白く、光り輝いていた。
「・・・!これだ・・・この感覚は・・・!」
廉は走り出す。
早く薬を調合しなくては。
その想いで廉は、アッシュの家へと向かった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
廉は息を切らしてアッシュの家へ戻ると、不安そうなセインが玄関の前で今にも泣きだしそうな顔をして待っていた。
「廉おにいちゃん・・・兄ちゃんはぁ・・・?」
「はぁっ・・・セインくん・・・っ」
廉は呼吸を整えると、その場にしゃがみこみセインの肩をしっかりと掴んだ。
「アッシュさんはっ・・・この村を襲おうとしたモンスターと戦って少し怪我をしちゃったみたいで・・・っ」
そこまで言うと、セインの表情はみるみるうちに曇っていく。
そして俯くと、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。
「兄ちゃん・・・また戦った・・・また怪我しちゃった・・・」
「セインくん・・・」
”また戦った”
その言葉に廉はハッとする。
セインが泣いているのはきっと、今回の怪我の事だけではないのだろう。
セインは兄が騎士団として働いていることを知っているし、騎士団に所属するのが何を意味するのかも分かっているはずだ。
モンスターがひしめく死と隣り合わせのこの世界では、モンスターとの戦いは、死という運命を一歩ずつ自らに引き寄せる行為に他ならない。
いつ死んでもおかしくない、そんな世界でたった一人の兄を想う幼いセインの震える身体を廉は力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫。アッシュさんは大丈夫だよ、絶対に大丈夫」
自らにも言い聞かせるように、廉は力強くそう言った。
廉は叫ぶ。しかしアッシュの目は開かない。
取り乱す廉を宥めようとキルヴァンは声をかけるが、その声は廉には届かない。
倒れるアッシュと、野次馬の村人たち、そして少し離れた場所にも人だかりを見つけ、キルヴァンはそこへ駆け寄った。
「・・・?」
その人だかりを覗くと、そこには血を流し倒れ込む一人の女がいた。
キルヴァンはとっさに叫ぶ。
「おい!誰か一緒にこの人を診療所まで運んでくれ!転移魔法を使えるやつはいるか!?」
すると人だかりの中から一人の男が名乗りをあげた。
「あのっ・・・2キロ先までなら転移魔法が使える・・・俺、この人を診療所に連れて行くよ・・・!」
「頼む!」
キルヴァンは女を託すと、もう一度廉とアッシュの元へと駆け寄った。
「廉!アッシュを運ぶぞ!」
顔面を真っ青にした廉は、振り返ってキルヴァンを見る。
「アッシュさん・・・血だらけだよっ・・・ねぇ、助かりますよね・・・?」
「助かる、助かるからっ・・・!アッシュ背負って診療所まで行くから!お前もあとで来いよ!」
その場で立ち尽くす廉にそう言い残すと、キルヴァンはアッシュを背負いすぐさまに診療所へと走り出した。
野次馬たちは、徐々に自分の家へと帰っていく。
残された廉はしばらくその場にうずくまっていたが、何かを決意したように立ち上がった。
「今僕が能力を使わないで、何のための異世界転生なんだ・・・!」
意識を集中させる。
手首には紋章が浮かび上がり、廉の頭の中にさまざまな薬の調合方法が流れ込む。
すると、何やら胸の辺りにふいに暖かさを感じた。
廉が首元から胸を覗き込むと、そこには見たこともない新たな紋章が薄く、白く、光り輝いていた。
「・・・!これだ・・・この感覚は・・・!」
廉は走り出す。
早く薬を調合しなくては。
その想いで廉は、アッシュの家へと向かった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
廉は息を切らしてアッシュの家へ戻ると、不安そうなセインが玄関の前で今にも泣きだしそうな顔をして待っていた。
「廉おにいちゃん・・・兄ちゃんはぁ・・・?」
「はぁっ・・・セインくん・・・っ」
廉は呼吸を整えると、その場にしゃがみこみセインの肩をしっかりと掴んだ。
「アッシュさんはっ・・・この村を襲おうとしたモンスターと戦って少し怪我をしちゃったみたいで・・・っ」
そこまで言うと、セインの表情はみるみるうちに曇っていく。
そして俯くと、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。
「兄ちゃん・・・また戦った・・・また怪我しちゃった・・・」
「セインくん・・・」
”また戦った”
その言葉に廉はハッとする。
セインが泣いているのはきっと、今回の怪我の事だけではないのだろう。
セインは兄が騎士団として働いていることを知っているし、騎士団に所属するのが何を意味するのかも分かっているはずだ。
モンスターがひしめく死と隣り合わせのこの世界では、モンスターとの戦いは、死という運命を一歩ずつ自らに引き寄せる行為に他ならない。
いつ死んでもおかしくない、そんな世界でたった一人の兄を想う幼いセインの震える身体を廉は力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫。アッシュさんは大丈夫だよ、絶対に大丈夫」
自らにも言い聞かせるように、廉は力強くそう言った。
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