虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

文字の大きさ
15 / 141
二章 穢れの少女

対峙

しおりを挟む
————両者構えるがどちらも動かない。
呼吸を忘れたかのように身動き一つない

両者は出方を伺っている。互いの視線が交差するほんのわずか、眼が警戒するように細められた。

先に一歩を踏み出したのは“彼”だ

「いくぞッ!————」

ファルコは怒声と共に一瞬で間合いを詰めてきた

(‥‥早い!ク‥‥っ!)

懐に飛び込んでくるファルコは軍が使用するナイフ使い、一方俺は鍛冶屋で買った普通の剣。素早く鋭い連撃が続く彼のスタイルと俺のスタイルでは全く異なる
彼のナイフは一振りで大きなダメージを与える剣ではなく、何度も素早く斬り裂く剣。一度のダメージは大きくないが、何度も斬られやがて蓄積されるダメージ

名の通り“隼だな‥‥

俺はなんとかその連撃を受け流していた。一撃一撃が重く全身に衝撃が走る

———こんな連撃でなんて威力だ!

「どうした!あんちゃん!?守ってばっかじゃつまんねーぞ!」

ファルコはまだまだ全力を出していない様子で心から戦いを楽しんでいる
俺は剣に強化魔法を瞬時に施し、対峙する。さっきまで自分が立っていた場所から随分と距離があり————

「———オラァッ!」

絶叫と共にファルコに突進する。防戦一方だった戦いが何とか攻撃に転じてきた。だがまだ擦り傷一つ相手に付けていない。ようやく攻撃に転じてきたと言うのに剣が当たらないのだ

俺は悟った。これが格上の相手なのだと。技術も経験も全てがこの男には通用しない。隼の如く身を交わし、一瞬で責める戦闘スタイルは初めての経験

俺の“あの剣を出してしまえばまだ可能性はあるが‥‥‥

いいや‥‥‥ここで、この場で目の前の男の剣術を学ぶこの上無い絶好の機会
ここで限界を超えなければこの先の戦いもきっと苦戦を強いられるだろう

「うぉぉぉおお!!!」

俺は雄叫びを挙げてファルコに剣を振り下ろす

しかし————

「はっはっは!いいぞ!あんちゃん!楽しくなってきやがったなあ!」

己の立場が有利であることを知っている余裕の声。ファルコは唖然と涼しい表情をしている。振り下ろした剣とナイフが火花を散りつかせる

握る剣に相手の重さが‥‥感情が伝わってくる。相手の経験に技量、努力そして守るべき者。あらゆる情景が剣から腕に、そして身体に流れ込んでくきた

‥‥‥‥これは?!一体なんなんだ?

俺は身を引き一度距離を取った

「なんだ今のは‥‥‥」

俺の脳に先ほどの情景が視える

ファルコの感情に生い立ち。それに幸福に喪失感そして‥‥
いや、これ以上は考えたくも無い

ファルコも俺のように何か流れ込んでいるかと視線を送るがそうでは無いらしい

俺だけが視えていた‥‥‥‥?

首を振り俺は一度考えるのをやめる

目の前の男を凝視するが付け入る隙が無い。俺はただ圧倒されていただけだ。体は擦り傷だらけ全ての攻撃を防ぐことは不可能に近い。そんな圧倒的な差を魅せられているはずなのに俺はなぜか笑っていた。湧き上がる喜びに身体が震える

まだ‥‥まだ先は遥か遠くに存在し、上には上がいると言う現実
まだ俺は成長できると言う歓喜。失敗と経験をこの身に痛感して俺は一人で笑っていた

「がっはっは!あんちゃんも戦いが好きなんだなあ!そんなになってまで笑っている奴なんて見た事がねーぞ!」

そんな俺の様子を見てファルコはとても嬉しそうに笑う。

ファルコもまた感じていたのだろう。自分と同じ人種は滅多にいないが目の前の男は自分と似ているという感覚。

そしてそんな男とは全力で殺りあいたいという葛藤

ファルコはナイフを力強く握り決心したような表情をする

「あんちゃん。これは経験の差と技量だけじゃねー。あんちゃんは見た目からしてまだ若い。これから軍が無視出来ない存在になることは俺が保証するぜ」

ファルコはナイフをもう一本懐から取り出し‥‥

「今までは遊び‥‥‥あんちゃん?今から講義をつけてやる。世界は広いと知るいい機会だ。しっかりと学べ———」

 そう俺に告げるとファルコは二刀流の構えを取る

「これこそ世界最高峰の剣速にして我が魔法」

ファルコが握る二本のナイフに魔力が集まり、緑色に輝き出した
‥‥なんだあれは?可視化ではなく輝きか‥‥また新しい知識か増えたな

そして珍しそうにみていたが、輝きが最大限に達するとファルコが口を開けた

「‥‥あんちゃん死んだら‥‥‥ごめんな?」 

「———!!」

俺は身体中の血が凍るような悪寒に襲われ震え上がった
そしてファルコの口から初めて聞く魔法の名が響き、放たれる

『斬れ——風神《ウェルトゥルヌス》——』
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...