虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

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五章 血脈の奪還

深夜0時

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現在時刻深夜0時

獣族国ベスティアの夜は長い。此処からが真実の夜。朝と変わらない輝かしさ
しかし、朝とは異なる淡い色

魔車が通れない細く、長い道。隣接する建物同士が限りなく近い立地
が遊郭に篭り男を引き寄せる。そして男に夢と淡い幻想を与える存在

夢を与える者は決して報われず、報われる者は一握りの限られた存在の成れの果て


———ここは娼婦街、最高級館の最上階の一室


———花魁エリーの間———


彼女は獣武祭が終わり娼館へと戻ってきていた。そして虚な瞳で何時間も暗い空を見上げている

空には三日月が姿を現し、星々が月の周りを彩る。まるで月に群がる男のように
エリーは獣武祭での光景を思い返していた‥‥‥


———私が気絶する間際に聞こえた彼の言葉‥‥‥

彼が王女と死闘を繰り広げていたとこに投げた言葉‥‥‥

その全ての情景が鮮明に思い出される

王女の魔法に呑み込まれた瞬間‥‥叫んだ。届かなくてもいいと思い叫んだけど、私の声は彼に届いたっ‥‥‥ 

そして王女の魔法に呑み込まれ彼。しかし王女の魔法を食らう新たな魔法が内部から姿を現した

私は生まれて初めて可視化できる魔力ヴィズアリタをこの双眸で捉えた

それはとてつもない魔力の圧。黒く濃密で見惚れるほど美しい魔力の嵐

不思議に恐怖はなかった‥‥彼の魔力はとても繊細で濃い‥‥
そして胸に開いた穴が埋まるかのように包み込んでくれる暖かさ‥‥あれが彼の本当の姿なのだとあの時知った‥‥‥

彼の魔力が私を満たしている、

そんな時彼は女王に、軍に包囲されてしまう
しかし、仮面を付けたローブを着込んでいる三人組が彼を守るように女王の前に立ちはだかった‥‥彼には仲間がいた‥‥

男性かしら?女性かしら‥‥?考えるだけで私の胸は苦しくなる

———1000もの魔法が彼に放たれるけど、仮面の一人が指を鳴らすと魔法が全て消滅した。10ならまだ現実味がある。しかし1000を一瞬で消滅させるなんて常軌を逸している‥‥

彼の仲間は彼に劣らず化け物揃いなのでしょうか‥‥

その後彼は光と共に何処かへと消えてしまった

私も娼婦の子らを連れ闘技場を後にする

私はどうしたらいいの‥‥

これからマイアーレ公爵が私を連れにやってくるまでそう時間はない

彼は今どこで何をしているのかしら‥‥

空を眺めていても何も分からない

黄金の瞳に涙が溢れてくる。その涙は漏れ出しゆっくりと頬を伝い地面に落ちていった———



「———迎えに来たぞっ!エリー!!」

空を見上げていると、そこにマイアーレが遂に来てしまいました

瞳に写したくない憎たらしい顔‥‥私の心が深い海の底へ沈んでいくように表情も光を失う

「ぐへへへへ!泣くほどこのワシに会いたかったか!よしよしっいい子だ。さあ、行くぞ!」

マイアーレは重い足取りで私に迫ってきて、またも手を強引にとる

そんな強引に連れられる自分の手を見つめながら心のそこで呟く‥‥‥

(私は自由になりたかった‥‥)

腕を取られながら娼館の一階まで降りて外の扉まで行こうとしたその時、 

「「「———姉さんを返せっ!」」」

「ここから先は通さないっ!お姉さまを置いて行って!」

「あんたなんかに姉貴を渡してたまるかっ!」

「通りたければうちらが相手するよっ!」

なんて事でしょう‥‥‥扉の目の前に娼婦の子達が勢揃いしていました

義妹のような存在だった彼女らが私のために立ち塞がってくれている

そう思うと泣き止んだはずの目から再び涙が流れてきてしまうっ‥‥‥

「‥‥あなた達、いいのよ。もう私は大丈夫だから。心配しないでっ」

私は頑張って笑顔を作るけれど、彼女達には通用しない‥‥すぐに見抜けてしまう

「姉さん‥‥姉さんをそんな表情にする奴は私らが殺してやるっ」

「皆、準備はいいかい?私らがどうなろうが姉貴を絶対に助け出すぞ!」

「「「おおおぉぉっ!!」」」

娼婦の子らは雄叫びを上げマイアーレと私の前に壁を作る

「皆どうして‥‥私は‥‥私は、どうすればっ‥‥」

立ち塞がる娼婦の子らを涙が流れる瞳でどうしようもなく見つめる


———その時、耳にある声が聞こえてくる

その声は懐かしく感じる、優しい声‥‥

マイアーレが何かに気づいて、背後を振り返ると、

「———な、なんだ貴様はっ!?」

そこに現れたのは紛れも無い彼だった‥‥鼻を弄ぶ彼の匂い‥‥

全身黒づくめで仮面をしているけど、匂いで彼だと分かるっ!

「———迎えに来た」
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