虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

文字の大きさ
129 / 141
学園都市編 青年期 一章 学園

職員会議

しおりを挟む
———ある講堂にて大勢の大人が円卓の机を囲むようにして席に座っていた。
その一人一人は凄まじい魔力を秘めており、講堂内全域が緊張感で張り詰めていた。誰もが口を閉じている中、ある一人の女性がこの場の沈黙を破ろうとする。

その沈黙を破る女性とはこの学園都市を統べ、テオドーラ魔法剣士学園の学園長である調停者《アルビト》の本人だった


「———それでは皆さん、今年もこの時期が訪れました。新年度の最初の職員会議を始めます。勿論、今年の新入生についての報告をお願い致します」

調停者《アルビト》の最初の発言により緊張感で張り詰めていた講堂に新たな風が通る事となる。神妙な面持ちだった教師達の表情が若干緩まり、そして職員会議が始まった———


そして次々に話題に上がる新入生達の情報。その話題の中心となるのは六幻楼《アルターナ》や王族、姫君と言った言葉が教師陣の間で頻繁に繰り出されていた。話題に尽きないその人物全員がSクラスの特待生であり、新入生とは到底思えぬ程の実力を秘めている異常性。

そして入学試験魔力測定での結果では教師陣を驚愕の渦に巻き込んだ8000台に到達する魔力を持つ者達の出現。そのほとんどが若干18歳という脅威性は教師陣ですらも恐れる才能だった。

「我々教師陣も油断できませんな。数十年に‥‥いいや数百年に一度の天才達がこうも同じ時代に出現するとは‥‥」

円卓を囲む教師陣の内一人。魔族の老男性はヒゲを摩りながら神妙な顔で発言した。その老男性の発言の後を追うようにエルフの女性も資料を片手に口を開く。

「これが偶然‥‥とは信じ難い事です。このまま行けばいずれ彼らは時代の先駆者になる事は間違いないでしょう‥‥」

そう言うエルフの女性の言葉は何処か少し怯えていた。またエルフの女性から発せられた“時代の先駆者”という言葉はこの場にいる教師陣にも同感を誘うものだった。誰もがその言葉に疑問を持たず、誰もが疑いの余地はない事実と認識していたからである。

「世界とは広いと改めて認識させられましたな。我々教師もまた魔法の境地を志す者として精進せねばなりません———‥‥‥ん?これは———」

教師陣の間で騒めきが生じる最中、一人の男性教師がある新入生の資料に目を付けた。その資料に記載されていた“ある新入生の情報に男性教師は疑問を呈す。

「この新入生‥‥魔力測定で1000という過去最低値を叩き出したにも関わらずAクラスとは何かの間違いか‥‥?」

無意識に声を漏らしてしまう程、余りにも低すぎる魔力値。その数値を側から聞いていた教師陣もある意味驚きを隠せなかった。

「何だと‥‥どれほど魔力が無かろうと魔力値の最低は2000が限度。それを更に下回るとはある意味、目が離せないな。一体どんな工作をして入学したんだ?」

教師達の間でまたも疑問が蔓延る。工作や教師達の包囲網を掻い潜り入学したのではないか、という至極真っ当な意見が飛び交う。
そしてその資料を初めに読み進めていた男性教師の疑問はより一層不可解なものに変わっていった

「ほう‥‥何と人族三大貴族のダッチ家を負かしたと‥‥模擬試合とは言え実に興味深い。しかし、一体どの様にして‥‥魔法か?剣技か?」

男性教師は食い付くように何度もその新入生の資料を読み返すが何処にも記載されておらず、あろう事か他の新入生よりも情報が極端に少ないことに気付き始める。

そんな男性教師の態度と表情を見ては次々に資料を片手に目を通す教師陣。学園教師陣の中でも群を抜いての猛者である円卓を囲む彼らの瞳に映し出される。

その資料は魔力測定値1000という極めて低い魔力と三大貴族に勝利したという事実が記載されているだけだった。そして必ず記載されているはずの出生が“不明”と記載されており、そこに視線を置いた教師陣は不審がる。

「この新入生はただのスラム上がりでしょうか‥‥?それとも情報を操作する程の人物‥‥」

「もし、そうだとしたらこのガキを警戒する必要がありそうだ。まあ、俺は前者に賭けるぜ」

そんな一人の教師が口走った事から教師陣の間では前者と後者にそれぞれ別れる。無論圧倒的に多いのは前者であり、後者の意見を鵜呑みにしている教師はこの場に一人も存在していなかった。

教師陣全員が一介の新入生にこれ程の情報操作と隠蔽は不可能と読んでの決断。たった一人の新入生がまぐれ、または運で来たのだろうと誰もがそう思い込んでいた。

「まあこいつに構っている暇なんてねーな。それよりSクラスの化け物共の方を警戒したいぜ。あの年で俺らと同じ領域まで来てんだからな‥‥タクっ」

謎の新入生の話を早々に切り上げSクラス特待生に話題が再び戻る。その後様々な議論を交わした教師陣は席を立ち、円卓を背に出口へと足を進めた。会議は何事もなく終えたかのように見える中、一人だけが席を立たずして円卓に広がる資料の一つに目を細めていた。

そんな“彼女はある一人の資料を眺めながらこう呟く

「———レオン=ジャルディーノ。一体何者でしょうか」

誰もいない講堂に響く麗しい声。その声から発せられた名前を彼女だけは怪しんでいた。杞憂に終わるかもしれない思考を捨てる事が出来ず、彼女は行動に移す。

「少し試してみましょうか‥‥吉と出るか凶と出るか楽しみですね」

最後に呟いた言葉の真意は敵意なのかそれとも逆なのかは彼女にしかわからない事。彼女は資料を片手に席を立ち出口へと向かうのだった。

彼女もそして教師達はまだ気付いていない。資料に記載されている情報自体が偽りである事を。入学試験も学園も“彼にはどうでもよく、ただ仲間を守る為に行動しているに過ぎない。

世界を守る為に一人を犠牲にする英雄と一人を守る為に世界を犠牲にする彼はどちらが正しいのか。

いずれ迫り来る彼の真の力を目の当たりにした瞬間、彼らは戦慄し、そして欲するだろう。

世界の常識も理も全てを無に帰す“頂の魔法”という存在を———

そして世界がひっくり返る大きな戦渦はもう遠くは無い
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...