上 下
20 / 48
第一章

19.「成功だ!!」

しおりを挟む


「出来る事なら飼いたい。」

「え?」

「ツクリアも可愛いと思わないかい!? 青くてプルプルの愛くるしい姿っ! もふもふも捨てがたいが此れは此れで良いっっ!!!」

「......。」

 マリが興奮気味に捲し立てる姿に少し引き気味のツクリアだったが初めて見る様相に嬉しくつい口から言葉が出てしまった。

「可愛いですね、一匹位いても癒しになりそうですね。」

 まさか魔物を使役するなんてこと出来る訳が無いと思っているツクリアは直ぐ後に自分の言葉を猛省する。

「ツクリアもそう思ってくれたか!! それじゃあ試してみよう!!」

「マーリ様、何を....?」

「まあまあ見ててくれ。」

 そう言うとマリは『契約』の魔法を発動させる。ツクリアからは何をしているか分からないのでマリがただ両手をスライムに向けているだけの光景に見えている。

 知恵ある魔物で無いと『契約』が難しいのだがマリの異常な愛を受け取ったのか、はたまた狂喜に駆られてスライムが恐怖を感じ取ったのかは謎だが成功してしまう。

「よっしゃあー! 成功だ!!」

「.......。」

 マリは成功した喜びからガッツポーズをしてスライムに近寄っていく。スライムもプルプルと体を震わせながらマリが近づいてくるのを黙って待っていた。ツクリアはこの状況にただただ立ち尽くしていた。

「名前が付けられるのか。うーん、」

「マーリ様? 一体どういう状況なのでしょう?」

「『契約』は成功した。で、この子には名前が無いから何かつけようと思ってるんだが。何にするか。」

「あ、危なくないのですか?」

「大丈夫だろ。ツクリア、触ってみるか?」

 魔物とは怖い存在だと知っていたツクリアはマリのその言葉に対し拒否しようと思っていたがその前にマリがスライムを持ち上げツクリアに押し付けていた。軽く悲鳴をあげたもののスライムはプルプルとさせながらも大人しくしていたのでツクリアはマリから受け取り抱く。

「少しひんやりして気持ちいいです。」

「決めた、この子の名前は〝ヒョウ〟だ。ひんやりのイメージが氷だから氷の別の読み方からだ。まあスライムのイメージと言ったら水っぽいがまあ水の子は此処に居るしいいだろう。」

"......シ......。"

「「?」」

 マリもツクリアも首を傾げ互いを見るがお互い喋ってないので「誰の声だ。」とマリは呟くとスライムは再びプルプルと体を震わせる。

".....ウレ.......シ......イ....。"

「もしかしてヒョウか?」

".......ウン......."

「スライムって喋れるんですね。」

「喋るというより直接話し掛けられている感じだが。ツクリアにも聞こえているのか。」

「はい、聞こえてます。なので喋っているのかと。」

 マリは暫くの間ツクリアに抱かれているスライムを見ていたが何かを思い出したかの様にスライムをじっと見る。

「うわ、これは驚く展開だ。」

「どうされましたか?」

「ツクリアにも見せるか。」

 マリは『分析』スキルでスライムのステータスを見ていた。そして本来であれば『分析』スキルの表示は他人には見えないのだが神からの加護持ちのせいなのか、『契約』スキルによる恩恵なのかは定かでは無いがマリの『分析』スキルの結果をツクリアは見る事が出来た。

~~~~~
ヒョウ  ブルースライム
レベル5
スキル
・『水魔法』
・『吸収』
特殊スキル
・念話

~~~~~

「低ランクの魔物でも魔法は使えるんですね。」

「いや、これは異常だと思う。」

「そうなんですか?」

「だって、こんな魔物が大量にいたら新人冒険者はあっという間に潰されるぞ。意思が元からあったかどうかは不明だが、相手は仮にも魔法持ちなんだからな。こういうのは生まれつき使えると分かって使うものだろう?」

 マリは少し考え込み、ある考えが頭に過り、行動に移る。

「少し確認したい事がある。ツクリアと、後、ヒョウも此処に居てくれ。この辺は安全だから大丈夫だと思うし。」

「はい、分かりました。」

「直ぐ戻る。」

 マリは森の奥の方まで進み魔物とわざと遭遇していく。そして片っ端から『分析』スキルを発動させ魔物の詳細を調べていく。そして過った考えに確たる証拠を得て数分の後、ツクリアの元へ戻ってきた。

「やっぱり、だったか。」

「何か分かったのでしょうか?」

「ああ。」

 マリは自分の考えをツクリアに話す。

 先ず魔物は名前を持たない。それは自分がランク”Ⅴ”になったことで奥に潜る事が出来たので”Ⅴ”の付近を見てきたが其処にも名前持ちは居なかった。『契約』スキルでも基本的に知恵ある魔物を『契約』しやすいとも表記されている。可能性として考えられるのは名前持ちが知恵ある魔物に値するのではないかという事。名前を付けれるという事は喋れること、意思があることが前提条件にあるようなものだから、そうそういないのは当たり前。

 名前を付けられるという行動が魔物を強化させるのではないか。

 喋れるのは魔物の強化によって『念話』も話す為に取得したスキルではないか。多分他の人には通常聞こえない声であると考えられる。

「成程。という事はこのスライムはただのスライムではなくなったという事でしょうか。」

「そうなるな。一応ブルースライムの範疇にはまだいるみたいだが。」

「.....今後が怖いですね。」

「.....あまり考えたくないな。裏切られない様にするだけだな。」

 スライムという見た目に反し、思わぬ脅威を生んだことにマリもツクリアも戦慄するがプルプルとさせ喋らなくなった二人にスライムは、

"......ダメ......?...."

「......可愛い。」

「.....駄目じゃない。」

 脅威より素直な子供みたいな反応をするスライムにマリもツクリアも頬を緩ませたのだった。



しおりを挟む

処理中です...