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第二章

閑話7.「.........大丈夫ですよ。」

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柚切と田玖より、半年前に先に入社していた先輩がいた。

女性のその社員は柚切の教育係となり入社したての頃に様々な雑務関係の事案を一緒に行い、独り立ちした。


「よく天然って言われてますね。」


「え、貴女までそんなこと思うの!?」


凄く驚いた表情と共に早口で切り返される言葉。柚切はその態度に一瞬驚きつつも直ぐに持ち前の冷静さで切り替える。


「え、あー、はい。面白い方だなとは思ってました。」


「そんなつもり一切無いんだけどなあ。」


「でもベテランの女性の先輩にもよく言われてませんか?」


「聞こえてたの!?」


「ええ、それはバッチリと。」と言いたいところだったが柚切が関与してない話の中で会話がなされていた為、どう返答しようか悩む。女性社員、朶之たの先輩は誰が見ても天然で、たまに挙動不審な行動、態度をしているのが明らかだった。最初は緊張が勝って気にすることもできなかった柚切もよくよく見て、一緒に仕事をしていく中で気付いていったのだった。


「そこそこな声量でお話されていたので、耳に入ってきたんですよ。」


「え、ごめんね。」


「いえ、そういう意味で言った訳では。」


柚切は昔から寡黙でいることが多く行事ごとでも一緒に盛り上がることが出来なかった。そのためか少し言葉の選択を誤り後で後悔することもしばしばあった。

そんな尊敬できる朶之先輩は今月いっぱいで辞めるという。何でも家庭の都合らしい。柚切は彼女の助けもあり荒んだ仕事環境でも頑張って来れたのだがこれからどうなるのだろうと不安を覚える。


「........辞めて欲しくないな。」


「え?何か言った?」


「いえ、何も。」


ぼそっと言った柚切の声は届かなかった。いや、届かなくて良かったと安心していた。困らせる訳にはいかない。


「何かあったら直ぐに連絡していいからね。」


「っ!!」


柚切の気持ちが分かっていたのか、この仕事環境を思えば容易に想像できる未来が見えたのか。ニコッと笑った彼女に柚切は何も言えず少しの間黙り込んでしまう。


「......大丈夫ですよ。」


「そう?」という怪訝そうな表情を浮かべる彼女とは、その後殆ど連絡することは無かった。












「葬式には来てたぞ?」


「誰の?.........って、ああ。私のか。」


「悔やんでた。」


「後悔あとに立たずってなー。あの時が一番マシだったと言っても過言じゃないと思うのは私だけか?」


あの後から少しづつ環境変化を繰り返し、悪化の一途を辿って行った。誰が悪いとかそういうのでは無く黙秘されている社会全体の問題とも言えただろう。


「あー、ほんとに嫌な思い出だ。」


マリは乱暴に頭をガシガシと掻くとカツヤはキョトンとした。


「......なんだよ?」


「いいや、少しはスッキリしたかなと。」


「......ああ、まあ、多少はした.......かな。」


その先輩が今は何をしているか分からないが自分と違って幸多い人生をこれからも送って欲しいと思うマリだった。










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