元現代人はそれでも安定を切望する

眼鏡から鱗

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3の章

73.奥様

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寮に戻って、安心したかと思えば違った。

寮へ私宛にお客様が来て、ホリーさんがお茶を出してもてなしてくれていた。

私は、ホリーさんにお礼を言った。ホリーさんは、気にしないでと言いながら自室へと戻って行った。

それにしてもお客様は、白いフサフサの素敵な耳と尾っぽを持った綺麗で艶やかな女性だ。

しかしながら私は、この系統のお姉さまたちによく会うけど、お客様とは面識がないのであいさつしてみる。

「あの~、初めましてですよね?私に何か?」

女性は、ゆっくりとこちらに向かい答えてくれた。

「ええ、はじめまして。私、貴女の契約聖獣のフェンリルの番で、ユキミっていうの宜しくね。」

なんと!ヤマさんの奥様だった!

「いつもヤマさんには、お世話になってます!奥様とは知らずスミマセン!」

急いで頭を下げる私。

「うふふ。礼儀正しい子は好きよ。今日は、少しお願いがあって来たの。」

お願い?

「ユキミ様のお願いですか?私で叶えられますか?」

また、うふふっとされた。

「ええ。お願いというのも、もう直ぐ繁殖期に入るのに旦那が一向に、帰って来ないから困ってるの。」

なんと!由々しき事態!

「今すぐ呼びます!」

ヤマさん、カモン‼︎

『主人、何かあったか?って、ユキミ⁈何故、其方がここに居る⁉︎』

「ヤマさん!奥様が居て、もうすぐ大事な時期に入るのに、なんで奥様のもとに帰らないの!奥様が、困って態々此処に来てくれたのよ!」

うぐぐって、唸るヤマさん。

『いやしかし、我とて遊んでるわけではないのだ‥‥』

「けど、ヤマさんには家族がいてその家庭も大事にしないと!今から、有給休暇を設けます!ヤマさんは、速やかに奥様とバカンスを楽しんできて!はいコレ、ボーナスとして渡しておくから、奥様を充分に労って下さい!」

そう言って、私は取り敢えず金貨100枚を渡した。

まぁ、ヤマさんから日頃から渡されているお金を此処ぞとばかりに、返金した様な形だけど。

『なっ!主人、我はお役御免か?』

焦るヤマさん。

「違う違う!日頃、働きづめなんだから偶には休んでってこと!ましてや、一番大事な時期なんだから、奥様孝行をしなさいって話。」

ここで、ユキミ様が話し始める

「貴方、主人様がここまで言ってくれているのに、何故渋るのよ!番になるときの約束、全然果たしてくれてないじゃない!」

また、うぐぐっと唸るヤマさん

「ヤマさん、約束どれくらい果たしてないの?」

そっぽを向き、ぼっそり

『100年位‥?』

にっこり顔の奥様

「いいえ、200年です!」

「ヤマさん、アウト!すぐに、達成して休暇を始めてください!」

『急には無理だ!閑静な場所に、素敵な家を建てるなんて~』

「それなら、うちの辺境伯爵領の範囲で静かな場所に、家をどーんと建てればいいじゃない?」

パァァァァァっと、にこやか顔になる奥様

「ありがとう!嬉しいわぁ!理解ある主人で本当に良かったわぁ~!」

喜んでくれてなによりです。

「妊娠中や子育てだって、ひとりじゃ大変だもん!キチンと支援しなくちゃ!」

「あらっ!そこまで考えてくれるなんて、素晴らしいわぁ!」

「いえいえ、実は前世に少し育児をしてましたから。多少の違いはあるかも知れませんが、力にはなりたいので。」

気が早い話をして盛り上がっている私たちへ、焦ったヤマさんが割って入ってきた。

『おいおい、まだまだ先の話をするのは辞めてくれ。』

「先ではないでしょ?家は、確かに時間がかかるかもしれないけど、子供は早い方がいいんだから。歳を重ねると、色々大変なんだよ。」

思わず、しみじみと言ってしまう私。

「私は、契約獣の未来を明るくしたい!使いっ走りみたいな役にはしない!待遇改善は、必須だし前例はバンバン作らないと!」

まるで選挙演説の様に話す私へ、パチパチと拍手をする奥様と、なぜか肩身が狭くするヤマさんだった。
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