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二人目の訪問者

あっけない決着

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 「よーし。行くぞー」
 そう言うと彼女は、タイムマシンに乗り込んだ。
「全く…セオ君ったら、江戸時代に行くとか言っといて…嘘つき。配属のドライバーもどうかしてるよ」
溜息を吐きながらも、モニターとレバーを操作し、行き先を戦国時代に設定する。
『まぁでも大分ケガしてるみたいだし、手当くらいはしてあげなきゃ!他は何も出来ないし』
彼女はそう思い、飛び立った。すると、速度を調節するための機器が、壊れている事に気付いた。
「ありゃ」
そして、壁を見ると―。
【故障中】【使用禁止】の文字が。
「ありゃりゃ。やべ」
そのままタイムマシンは、もの凄い速度で飛んでいった。


 「なかなかね」
 牡丹と山賊は、未だに激しい戦いを繰り広げていた。牡丹はまだ余裕だ。相手に笑みさえ見せる程。
そんな中、セオはただ一人全く違う事を考えていた。
『早く来ないかな…』
とはいえ、タイムマシンで移動するには時間が掛かる。実際“彼女”も来るのに何分掛かるか分からない。つまり、“彼女”が来るまでは消耗戦となる。まぁそれでも、牡丹が不利になることはない…筈である。

 その時!!
なんと、牡丹がコケた。このままでは、敵に背を向けることとなる。
「!!」
セオは突然の不利な状況に、焦りを隠せなかった。
『マジでヤバいぞ!!何してるんだ!!』
セオは瞬く間に果てしない焦燥感に駆られていた。

「お。何で寝てんの?じゃあ、お構いなく」
山賊が刀を振り下ろそうとした―その時!!

「ちょっとー!!誰かー!!止めてぇー!!」という叫び声が聞こえた。
セオは、その声に聞き覚えがあった。

山賊も、思わず声のする方を振り向いた。その時。
突然タイムマシンが飛んできて、山賊は思いっきりハネられた。そしてタイムマシンは木々に衝突し、もの凄い音を立てて停止した。牡丹は何とかハネられなかった。

「「……」」
セオと牡丹は、両者どちらも何も言葉が出なかった。ただただ現時点の状況を理解しようと必死である。
山賊は、気絶してピクリとも動かなかった。
するとタイムマシンの中から、ある人物が現れた。
「いたたた…」
その人物は、牡丹には到底理解の出来ない見た目をしていた。淡い紫色の長髪をツインテールにしており、瞳は溟海の様な群青色だったからである。しかも、当時には絶対無いであろう菫色のドレスに、これまた白衣を着ているし。

 その様子を見るなり、牡丹は思った。
『…またよく分からん格好した人出てきた』
そう思いながらも、牡丹はその人物に訊いた。
「誰?」
その答えは、セオは勿論知っていた。
「…ヘレ」

「『“さん”を付けろ』って、いつも言ってるじゃない。あたしの方が1歳年上なんだから。やり直し!!」
「……ヘレ…さん」
セオは呆れる事しか出来ない。
そう、この人物の名前は“ヘレ”だ。セオと同じ、未来人の。
まず、兎に角可愛いのだ。背はセオより、多少低い。だが、彼女の言う通りセオよりも一つ年上の先輩。見た目、言動、癖、好物、怒り方…その他諸々、というか全てに於いて先輩っぽくない。
 すると、牡丹は“ヘレ”に訊いた。
「あんたも未来から来た人?」
“ヘレ”は「ご明察~♪」と言いながら牡丹を指差した。大分機嫌が良さそうだ。
牡丹は「フーン…」という感じで引き下がったが、セオは一人緊張しまくっていた。
「その…ヘレ」
セオが呟くと、ヘレは表情を一変させた。それはまさに、『女子がブチ切れた時の顔』そのものだった。喩えが悪い。
セオは冷や汗が止まらなかった。するとヘレは、こう切り出した。
「セオ君さ…江戸時代に行くって言ってたよね?(怒)」
セオは最早怖すぎて、何も喋ることが出来ない。
「ドライバーに、行き先ちゃんと伝えた?(怒)」
「そそそ…そりゃ勿論」
セオの言動は、嘘をついているように感じられるが、実際はヘレが怖いだけである。
「じゃあ、何で戦国時代にいるの?(怒)」
「……」
「…まあいいや」
するとヘレはタイムマシンに戻り、救急箱を持ってセオのもとに戻ってきた。
ヘレは救急箱を開け、何かを探し始めた。
「え~っと…こっちだったかな…?」
「あ!!あった!!」
取り出したのは、スプレー缶だった。

 勿論、この時代にスプレー缶など存在しない。なので、牡丹の反応は以下の通りである。

「???」
『何あれ…武器…じゃないよね。丸薬…はあんなのに入れないし…水…は竹とかに入れて保管しとくでしょ?う~む…』

 そんな感じで、牡丹・セオ・ヘレが少し休憩しているときの事。
牡丹の故郷である、忍者の里にて。
「おい…なんだよこれ…」
その様子を見るなり、伊賀埼 道円は言った。まさか昼寝をしている間にこんな…。
道円は息をのんだ。

そこには―地獄絵図が待ち受けていた。






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