猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第11話 女神の涙

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「………………おまっ」


 サティナが固まっている。
 その正面でヨシタカは身体をガタガタと震わせており、ひなたは座りながら自分のお腹辺りの毛繕いをしていた。


「と、とりあえず仕舞っておこう……。あっ、サティ何か入れ物って無いかな」


 心做しか声は震えたまま。


 固まっていた表情をゆっくり解かしながらサティナは、肩から下げているカバンの横から小さな布を取り出し、ヨシタカに無言で差し出した。


「あ、ありがとう。ねぇ、何か喋ってくれる?」


 汗を垂らしながら、心配したヨシタカがそう懇願する。


「いいから、まずはそれを仕舞え。気になって何も考えられん。絶対に零(こぼ)すなよ!!」

「あ、ああ。そうさせてもらうね」


 受け取った布は先端に紐が通しており、小物が入る布袋だった。小物を入れた後に通してある紐で口を縛れるようになっている形状だ。
 ヨシタカはそれを受け取ると、丁寧に女神の涙を袋の中へと移す。更にポケットの中へ手を入れて、その中の物も袋へと入れる。


「ぐっ……。まだ有ったのか……一体どういうことだ」


 ポケットから更に青い石を出したヨシタカに驚愕の目を向ける。


「とりあえず説明してもらってもいいか? ヨシタカはそんなに沢山の女神の涙をどうやって手に入れた?」


 問われたヨシタカは、事実をそのまま伝えた。
 森に入ってすぐの場所でひなたが爪研ぎを始め、その際に取れた事。まだ樹にはビッシリと残っていた事。
 それを聞いたサティナは、未だ動揺が治まりきっていない表情で、


「そ、そうか……ひなた様が……やはり神獣……。それとも似ているだけで女神の涙では無いのか? 女神の涙が発見されたという情報は数年に一度上がるか上がらないかだ……それをそんなに沢山……」


 ただし、発見されたからといって必ずその情報が出回るとは限らない。
 病気の家族へすぐに飲ませたりと、すぐに使用した場合があるからだ。
 その為、知られている数よりも多少は多く存在した可能性は有るが、それでも今目の前に有る量は有り得ない。

 ちなみに、女神の涙の伝説も各国で伝承されているそうだ。
 勇者と魔王の戦いの後から発見されるようになった事から、勇者と三匹の猫の死に悲しんだ女神様の涙だと。

 それを聞いたヨシタカは


「す、すごいな~! サティってば、博識! なんでも知ってる~! ……さ、行こうか」

「おい待て」


 ガッ、と再度サティナが、歩き出した彼の腕を掴む。


「どしたん?」

「どしたん? ……じゃないだろ。無かった事にするな! あぁいや、声を荒らげてすまない。別にお前をどうこうしようと言う訳じゃなく、扱いには気を付けろと言いたい。本当に女神の涙かどうかはわからんが、本物として扱っておいた方が良いだろう」

「お、おう……わかった! じゃ、じゃあこれ……」


 そう彼女の言葉に納得しながら、布袋から女神の涙をひとつまみ、五粒程を取り出し、サティナに差し出す。
 

「ん? なんだ。早く仕舞え! 怖いわ!」

「あげる」


 先程の彼女の反応を見るに、「半分こしよ!」 と言っても受け取らないだろう。
 この短い時間だが、ヨシタカも彼女の人となりはある程度は理解しているつもりだ。
 サティナは優しくて真面目なハイエルフの女の子。だから、そう考えての数を。


「はぇ!? いや、お前それがどういう……」

「ここまでのお礼と、これから宜しくって事で、受け取って欲しい。どうせ本物かどうかわからないんだろ? ならとりあえず貰ってくれ!」


 真面目な顔でそう話す。


「本当にいいのか? 私にはそんな国宝の様に貴重な物を頂くような資格は……」


 ヨシタカの手を見ているが、一向にサティナは受け取ろうとしない。


「資格ってなんだよ。今の俺には何も返せるものが無い。でもどうやら価値のある物を持っていたらしい。じゃあこれをお世話になったサティにあげたい」


 それだけだよ。と笑いながら付け加えて、ヨシタカが石を摘んだ手を差し出す。


「うっ……。それでは……頂いて、いいのか?」

「おう!」

「あ、ありがとう! 大切にする!」


 そう言って手のひらを差し出してきたサティナに、摘んだ女神の涙を渡す。


「大切にしてくれるのもいいけど、まだ沢山あるし。本物かどうかもわからない。それに、もし本物だとしたら自分の為に使ってくれ」


「こ、これが……あの……女神の涙……。綺麗だ……」


 彼女にヨシタカの言葉が聞こえているのかいないのか。
 それはヨシタカにはわからなかったが、女神の涙を空に透かしながら、顔を赤くして喜んでいる姿を見たら、そんな事はどうでも良くなるのであった。


「まぁ~……手に入ったのは、ひなのお陰なんだけどね」

「ニャ~」


 言いながら、ヨシタカは足元のひなたの頭を優しく撫でる。それに気付いたサティナが焦った様子で


「はっ! そうでした! ひなた様、本当にありがとうございます。頂戴いたします!」

(猫にめっちゃ頭下げてる)


「あ~そうだ、もし本物だったら、売ろうとしても高すぎて売れなそうだし、やっぱり身の安全が第一だから、アクセサリーにでも加工出来たらいいな」


 そもそも、やたらと人に見せる訳にもいかなそうだしね、と。


 頭を下げたサティナに向かって提案をすると、彼女は手にしたその数粒の青い石を強く握りしめた。
 そのままヨシタカに向き直り、銀髪のポニーテールを揺らしながら、満面の笑顔で


「――わかった!」


 そう答えた。



……………………

………………

…………

……



 二人と一匹は草原を歩いている。


(……ふぅ。動悸を超えて心臓が止まるかと思った……あの笑顔は無理だ。反則だ)


「と、とりあえず。人の村へ向かう感じになるんだよね? どれくらい掛かるかな?」
 

 ヨシタカ一行は、先にサティナが話した通り人族の村へと向かっている。
 現在のヨシタカは服はまだ良いとしても、足元は葉っぱを蔦で巻いただけの粗末なものだ。
 これからどうしていくかは決まっていなくとも、何れにしても色々と準備が必要だ。


「そうだな。このペースで歩いて明日には着くだろう。ヨシタカの格好も整えた方が良いだろうし、ひなた様の準備も何かと必要だしな」

(うはぁ……丸一日歩くのか。そんな経験無いけど、しょうがない。よく「馬車で何日」とかアニメでは言うしな)


 ひなたの事も優先事項である。
 この世界では猫は絶滅しているらしく、神獣様として各地に像が建てられている程だ。
 初見で本物の猫だと気付く者は居ないかもしれないが、
それでも騒ぎになる可能性は高い。


「すまないな。里から何か予備でも持って来れれば良かったのだが、ちょっと色々有ってな。少ない荷物しか持って来れなかった」

「いやいや! 大丈夫だよ! う~ん……村か……ひなが入るためのカバン的なものはどちらにしても欲しいけど……いっそオープンに猫ですと挨拶するか? いやリスクが高すぎるか……?」

「とりあえず、恐れ多いがひなた様には私のカバンに入ってもらうとして、村に入った後にまずはお前のカバンと靴だな。確かあの村には一軒だけ、織物を生業にしている家があったはずだ。靴屋は無いが、履物もそこで手に入るかもしれん」

 
 どうやらサティナは何度も村に行った事があるらしい。エルフ族も人と交流すると言っていたのはそういう事だろうとヨシタカは納得する。


「一旦、俺とひなは村の外で待っておいて、悪いけどその二つだけはサティに持ってきてもらうというのは?」

「あぁ、それも考えたのだがな。村から少し離れると、あの辺には凶暴な野犬が群れで居る事がある。ヨシタカが戦えるのならいいが……」

「あ、一緒に入ります」


 金銭を何一つ持っていないヨシタカは、暫くはサティナに頼るしかない。
 手元の女神の涙が本物であれば資産としては十分と言えるだろうが、換金出来ない以上は無一文に変わりない。


(せめて、この女神の涙が本物かどうかだけでもわからないかなぁ。そうだ! 自分のステータスの様なものを見た時みたいな事を、物にも出来ないかな?)


 ヨシタカはそう考えて、布袋から一粒、青い石を取り出す。
 そのままサティナに教えて貰った魔力の込め方を改めて試す。


(手から放つ必要は無さそうだから、魔力を体に巡らせるだけにして……)


 じわりと、ヨシタカの体が暖かくなっていく。


「む? 魔力の流れを感じるな。おいヨシタカ、何かし……」


 サティナがヨシタカの方を見ようと横を向いた瞬間、彼が手に持つ青い石が輝いている事に気付いた。


「お、おいヨシタカ! 何をしている!」

「………………」


 サティナの声はヨシタカに聞こえているが、一先ず今は魔力の扱いに集中する。
 そのまま手のひらに乗る青い石に向かって……


(これが何か知りたい)


 同時、ヨシタカの視界に光の文字の羅列が浮かぶ。


―――――――――――――――
 名前:女神の涙
 説明:服用した場合、その者の病や傷を完全に治癒する。
    魔力を流すと青く発光し、そのまま武具やアクセサリーに混ぜ込み加工出来る。
    加工された対象の形状により効果は異なる。
―――――――――――――――


(……よし! 出来た! やっぱりこれあれだ! ゛鑑定  ゛みたいなやつだ!)
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