猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第12話 テイルワール

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「何をしている! おい返事をしろ!」


 サティナがヨシタカを見て慌てた表情で叫んでいる。


「あぁ、ごめんサティ。この女神の涙は魔力を流すと発光するらしい」


 ヨシタカは ゛鑑定 ゛の様な事が出来た、その手のひらにある青い石を見つめたまま返事をする。


「唐突に試すな……。ふむ、そうなのか? 伝説は私も知っているが、飲むとすごく回復するとか武具に加工出来る、くらいにしか聞いた事が無い。まさか自分が手に入れる事になるとは思いもしなかったからな……」


 その綺麗な指を顎に当ててサティナが思案する。
 同時、彼女のその金色の瞳が見開かれ、何かに気付いた様子でヨシタカへと声を掛ける。


「おい。という事は本物なのか? いや、本物が青く光るかどうかもわからないが……というか何故そんな事がわかった?」

「うん、どうやら本物の女神の涙らしい……。なんかね、魔力を感じながら、知りたい、と考えるとわかるっぽい」

「は? なんだそれは」

「正直、話すかは悩んだけどね。でもやっぱり、俺はサティにはちゃんと話したいと思ったから言うけど……そんな感じ! 物の名前と効果がわかる能力と思ってくれれば……」



 苦笑を浮かべながらそう話すヨシタカに、顔を赤くし始めたサティナは悔しそうに告げる。


「そんな便利な魔法が有るとかズルい! ズルいぞ! 私の唯一の魔法より便利ではないか!」


「いやいや! 回復魔法すごいだろ! 確かにこれも便利だけど……というか俺も今初めて使ったんだよ!」


 どういうことだ? と訊いてくるサティナにヨシタカが続ける。


「魔法の事を教えてもらった時に、自分がどんな魔法が使えるか知りたいって考えたら、自分の情報が出たんだ」

「あぁ、あの時か。だから惚けてたのか」

「うん、で今同じ事を物にも出来ないかな~って試したら出来た」

「なるほどな……ということは私も出来るかどうか試す価値は有るか……」


 そう言いながらサティナは集中し、自分の手のひらを見つめている。


「うぅ……できない……」


 眦(まなじり)に涙を浮かべ悲しそうにそう告げるサティナに、焦ったヨシタカが手を振りながら答える。


「だ、大丈夫。逆にそれだけだから! 他には何も無いし。寧ろそれで自分を見た時に、スキル無しって書いてあってさ。もしかしたら魔法が使えないかもって思ってたんだ」

「それだけ……って、十分便利だと思うがな……。それにスキル……か。わからないことだらけだな。まぁ、散々魔法の事を調べた私が聞いた事のない魔法だからな。あまり他言はしない方が良いだろう」


「わ、わかった! サティだけにする!」

「あ、う、うむ……」

「「 …………… 」」


(何だろう。なんか気まずさとは違う、いいな、この感じ。まるでヒロインと照れながら話す主人公みたいだ)


「サティも何か調べて欲しい物が有ったらいつでも言ってね! いくらでも調べるよ!」


 沈黙の空気を破るようにヨシタカが声を発する。


「いいのか? それなら頼む! フフ、それなら私が使えなくても、何か知りたい時はヨシタカに頼めばいいな!」


(あ、良かった。笑ってくれた! かわいいなチクショウ)



……………………

………………

…………

……



 広大な草原を歩き続けて三時間程が経っただろうか。太陽が自分達の真上に有る事が確認出来る。
 その間、歩きながら話した内容といえば、サティナはこの世界の事を、ヨシタカはひなたとの出会いと生活を話していた。

 この世界の名前はテイルワール。今いるのは中央大陸の南東あたりだそうだ。

 サティナと出会った森の名前はそのまま『エルフの森』、九百年前の魔王軍侵攻でエルフ族も少なからず被害を受けた為に、当時のハイエルフ含めたエルフ達が総出で強力な結界を張ったそう。
 そして今向かっているのは、森から北西方向に徒歩一日の人族の村『ジッポ村』との事。百人程の村人が互いに協力して暮らしているらしい。狩りや農業が主だそうだ。
 人族の村といっても亜人が嫌いな訳ではなく、たまたま人族だけが集まったとか。


(徒歩一日というパワーワード……駅まで徒歩十分とは訳が違う)


 一日は二十四時間。一年は三百六十五日。
 一週間や一ヶ月などは全て地球と同じであった。
 ちなみに、季節も四つあるみたいだが北の……魔の大陸だけは何故か常に吹雪いている。

 そして、ヨシタカとひなたがサティナと出会ったのは、恐らく朝七時くらいとの事。朝の水浴びだったそうだ。
 ただ、エルフの里にも泉が数箇所有るが、離れたあの湖まで来ていた理由は話さなかった。

 ヨシタカが日本から転移する直前は仕事終わりの夜だった。それからここ――テイルワールの朝に来たのである。
 

 そして、ひなたの話が終わったところで、

「うっ、うぅぅ……ひなた様とは、そんな……出会いを……ヒック……うぅ……」

 隣でサティナが号泣している。
 ヨシタカの胸にはひなたが抱かれている。ひなたは歩き疲れたのか、彼の胸へと跳んで来た為だ。

「そ、そんな泣く? 確かに今思い出しても、生きててくれて良かったと思うけど」

(なんか、ひなの事がきっかけだけど、別の事で泣いているように見える……気のせいかな)


 胸のひなたを撫でながら、ヨシタカが答える。

「ニャ~ン」

「だってぇ……ヒック……いっぽ……まちがえたら……ひなた様はぁぁ……うわあぁん……」


 ガチ泣きである。


(優しい子なんだなぁ。キャラ崩壊起こしてるけど、泣いてる姿も可愛いな。声に出して言ったら怒られそうだけど)


――それから五分ほどサティナは泣き続けた。



「……ヒック……すまない。それにしても、ニホンという所は不思議な場所なんだな……グスッ。猫様が当たり前の様にいて、外を出歩いていても凶悪な野獣に会うことが無いのは、素直に羨ましいと思う」


「う~ん、そうだね。俺の居た国は平和だったよ。でも犯罪は有ったし、もちろん野生動物が居る危険な場所も有ったし、国の事も細かいこと言うと色々有るけどね。たぶん、このテイルワールとは別の世界なんじゃないかな、と思う」


「正直信じられないが、ヨシタカが嘘を吐いてる様には見えないし、一先ずは信じる事にする。実際、ただのおとぎ話の類だが、そういった話を聞いた事も有るには有るからな」


 サティナの話は、殆どオカルト話だった。
 昔、中央大陸の王都近郊の森から小さな男の子が現れた。
 その男の子は王都の門で門番に止められたが、泣きじゃくるばかりで話にならず、服装も変わった格好をしていたという。
 入国待ちをしていた商人がその男の子を不憫に思い、一緒に入国し家に招き入れたが、次の日には忽然と姿を消していた。


「こっわ! 霊的にこっわ! でも確かに、事実ならその子も世界を渡ったのかな。でも、それなら戻る方法もあるのか……。一応覚えておこう」


 ヨシタカの返事を聞き、少し表情を曇らせたサティナは立ち止まり、

「そう……だな。もし調べることがあれば、私で良ければ協力する」


 ヨシタカは元の世界に戻るかもしれないし、戻れないかもしれない。
 ヨシタカにとってはひなたさえ居ればどちらでも良かった。だが、あまり会わないとはいえ、日本には家族がいる。
 戻れるなら戻るべきなのだろうが、異世界を楽しみたい気持ちや、何より……サティナと出会ってしまった。


(まぁ、その内考えればいいか。ただ現段階で勝手な事は言えないから、サティには帰るとも帰らないとも何とも言えないな……)


「心強いなぁ。ありがと! もしそうなったら調べ物とか協力してもらうかもしれない」

 と、当たり障りの無い返事をしたが。


「あぁ……わかった。私も……時間なら有るしな」


 笑顔を繕ってはいるが、少し落ち込んだ様子のサティナ。

(やっぱサティは作り笑いが下手くそだなぁ。少しは名残惜しいとか感じてくれてるのだろうか……)
 

「まぁ、まだまだ先の話だよ。まずはこの世界で生きなくちゃな」


 そうなった時。その頃もサティナがヨシタカの近くに居てくれているとは限らないが、そんな事はまたその時に考えればいい。
 そもそも、ヨシタカはこの縁を手放すつもりは毛頭無い。
 あの時、一緒に来ないかと誘った以上、サティナに飽きられるまでは、一緒にいたいとは思っているのだ。


「……無事に帰れるといいな」


 最後にそう呟いたサティナの顔は、より一層下手くそな笑顔だった。

 
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