猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第21話 伝心

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 ――ワイバーン戦、翌日の朝。


 サティナに借りた手鏡でヨシタカは改めて自分の顔を見ていた。


「いやいや……若返り? なんで? 二十歳かそれ以下か。懐かしい顔だ……身体もちょっと、細くなってる? 今思えば少し軽い気もするけど……」


 サティナに指摘をされ初めて気付いたのが前日の夜の事。ヨシタカの見た目の年齢が、十以上も下がっていたのだ。

 異世界転移モノ特有の何かか、手持ちの女神の涙による何かしらの効果か、身体を魔力が巡る事で起きた変異か……オタクのヨシタカに考えられる可能性はこの辺が精々だろう。


(考えてもしょうがないか。今は喜んどこ)


 考えをそう落としたところで、この件については思考を放棄し、次の課題へと意識を変える。


「あとは魔力……か。そろそろ真面目に考えないとな。今後の為に少しでも役に立つように活用方法を広げなければ……サティに頼りっきりでは男が廃る!」


 今ヨシタカが居る場所は村の外だ。
 外と言ってもそこまで離れてはいない。ワイバーン戦のあった北門の先、サティナの魔法による焼け跡の有る場所だ。
 

「ニャ~」


 足元にはいつも通りひなたが居る。


「ひな、今日も一日がんばろうね」


 そう言いながら頭を撫で、その手にひなたが甘える。
 日本にいる時から変わらない、いつも通りの朝のやり取りだ。
 ひなたはその尻尾を垂直に立たせ、ヨシタカの手へ顔や身体を擦り付けている。


「よし! これからは日課を設けよう。魔力操作? と戦い方を習おう。……まずは憧れの魔力!」


 初めてサティナの魔法を見て、魔力の感じ方を教えて貰ったあの日から、ゆっくりと検証をする時間があまり無かった。
 異世界へ来てから今まで、目の前の事で精一杯だったヨシタカは、改めて憧れの魔力へと触れる。


「身体の中を巡らせる……そしてそのまま手の先へ……」


 ――瞬間、ヨシタカの手が眩しく輝き始めた。更に、ヨシタカが意識を変えると、輝く光の量が変わる。


「……うん。身体の中を巡らせたり、手から出したり、出す量の調整をすることは慣れてきてる。今度は手から出さずに身体の中を巡らせ続ける……その勢いを変える……」


 ヨシタカは目を瞑り、身体の中の熱――魔力を全身に巡らせる。今までの数少ない経験の中では、大体すぐに放出してしまったり、意識するのを辞めていたが、今は集中し続ける。

 分かりやすくする為、川の流れを想像し、穏やかな流れや激流を交互に意識する。魔力を循環させ続けていると、身体の熱に変化が起きる。


「激流だと身体がめっちゃ熱くなるけど、穏やかにすると熱も下がるな……摩擦的な……意味あるんかなこれ」


 ヨシタカは『修行』や『訓練』の様な言葉に憧れを抱き、意味が有るのかは不明だが、ひたすらにそれを続けていた。


 ………………

 …………



「あ、そういえば! ひなの情報も見れるのかな?」


 ふと思い出したヨシタカは、目を開けて実行に移す。

 魔力を感じながら対象を知りたいと思うことで表示される光の文字の羅列。仮に『鑑定』と呼ぶそれを愛猫のひなたへと使ってみる事にした。

 昨日、サティナの魔法を知る事になったものだ。


―――――――――
 名前:ヒナタ
 種族:猫
 称号:超えし者
 スキル:読心
―――――――――



「おお! ん? 俺の称号と微妙に違う? 俺の『世界を渡る者』とどう違うんだろ、人と猫の違いかな……。いやそれより……読心!? ヒナ! 心読めるの!?」


 ヨシタカが足元のヒナタを見つめながら声を掛けると


「ニャ~」


 鳴いた。


「え……本当に?」

「ニャ」

「今までずっと? それともこの世界に来てから?」

「ニャ~」

「まじで……いやどっちだよ……」


 ヒナタは鳴くだけで、特に頷いたり、首を振ったりとそういった行動はしない。ただ返事のように鳴くだけだ。


「いやまだ、わからない。本当に伝わってるのか? もし本当に心の声が聞こえるなら、急に聞こえた頭の中の声にビックリしたりとか……あったかな、今までそんな反応……ん~……」


 一度疑い出すと、この世界に来て間も無い頃にヨシタカの顔をじっと見ていた行動など、思い当たる節は幾つか有るが、ヒナタ自身が喋れない以上は彼にはわからない。


「要検証……かなぁ。でも……」


 もちろん、そんな能力など無くとも、日本にいた頃からヨシタカの気持ちはヒナタに伝わっていると、彼自身は信じていた。

 『おいで』と言えば、近寄るヒナタのその行動や仕草で、自分に何かを伝えていることも、彼は感じていた。

 百パーセントではなくとも、世の中のペットが居る家庭は、少なからずそんな気持ちは有るだろう。愛ゆえだ。
 人間側が勝手にそう思ってるだけだと、思われるかもしれないが、それでもそうやって過ごしているはずだ。

 だが、今のこの状況は、それが目に見える形として――


 そこまで言ってからヨシタカは、込み上げるものを抑えるように胸に手を当てた。


「そうだったら、嬉しいなぁ……。俺の気持ちが、ちゃんとヒナに伝わってたら……いいなぁ……。――大好きだよ、ヒナ」


 大好きを、大好きと伝えられる。その喜びに――


「ミ~」


 大好きと、伝わった喜びを――



 涙ぐみながらしゃがんだヨシタカに、ヒナタが寄り添う。

 その宝石の様な二つの瞳は、いつも通りの輝きを放っていたが、どこかいつもと違う輝きを放つように、静かにヨシタカを見据えていた。


 ――まるで、ちゃんと気持ちが伝わっていることを、漸(ようや)く分かってもらえたという、ヒナタの心の声を証明するかのように。



 

「こんな所に居たか、ヨシタカ、ヒナタ様。朝の食事の支度が――」


 見つめ合う、人と猫。

 銀髪のハイエルフもまた、何かを察するように微笑みながら、ただその一人と一匹を見つめていた。


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