猫と異世界 〜猫が絶滅したこの世界で、ウチのペットは神となる〜

CHAtoLA

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第一章 冒険の始まり編

第28話 リザルト

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 目の前には全長三メートルは有ろう巨大な獣の死骸。
 その体には刃が突き刺さった跡が有り、そこからドクドクと赤い血が噴出している。

 ヨシタカの刺した光るナイフは、ホーンボアの腿(もも)の裏付近に突き刺さっただけだが、突き刺したと同時、内部でその刃を伸ばす。
 伸ばした刃はそのまま心臓へと到達し、ホーンボアの鼓動を断っていた。

 ナイフが伸びたといったら語弊があるだろうか。ナイフから伸びたのはその鋼の刃ではなく、光のオーラだけだ。
 纏っていた光のオーラが刃と成し、刃渡り三十センチメートル程だったナイフが、二メートル近い長い剣へと変貌していたのだ。


「ヨシタカ……? これは一体……」


 目の前の光景にサティナが呆然としながら疑問を投げた。


「なんか……驚いてばっかりだ……イベント起こりすぎでしょ」
(異世界に来て数日で何回イベント発生すんだよ)


「聞こえているか? ヨシタカ」

「あ、うん。……ごめん。俺もよくわかんない」

「……そうだな。顔を見ればわかる」

「これなに? 光の剣? 訳わかんないけど……でも……ワタクシ、ワクワクが止まりません!」

「だから誰なんだお前は……」


 ヨシタカの鑑定によると、自分はスキル無し。
 スキル無しなのだ。
 にも関わらず、鑑定や魔力譲渡、次いで光の剣と来た。
 この『スキル無し』の意味を、考え直さなくてはならないだろう。


「サティを鑑定したときに『スキル:王級魔法』って出たのは話したよね」

「そうだな。――今でも思い出すだけで喜びが顔に出てしまいそうだ」

「考えるに……俺がいた世界の言葉で『スキル』というのは技能や技術の事だと思うんだけど……簡単に言うと『技』だね」

「ふむ……技か……剣や弓などで使われる動きの事だな。私がワイバーンの首を落としたのも『一閃』という技だ。――勢いをつけないと出せないからな。接近した後だったコイツ相手には出しにくかったが……」


 そう言いながら、サティナは目の前の獣へ目を向ける。


「うん。でも、サティを鑑定した時に表示された内容に、剣や弓の事は一切載ってなかった。習得しているにも関わらず、だ」

「なるほど……?」

「俺のスキルは『無し』なんだ。……だから魔法は諦めてたけど、でもこの世界では出来ないはずの魔力譲渡が出来たり、今の光の剣だったり、そもそも鑑定もそう……」

「要するに、鑑定で見たスキルというものは、必ずしも持っている技能がわかる訳では無いと?」

「そうなるね。嬉しい誤算だ。俺にも戦う能力があるかもしれない。この辺は要検証だ」


 だが、今後も確実にその力を発揮させるには、明確に使い方を覚える必要が有るだろう。
 この旅の途中で、ただの魔力の循環を繰り返すのも良いが、この光をどう扱えるようになるかが、今後の展開を大きく変えていくだろう事は容易に想像出来る。
 勿論、今までの魔力の鍛錬がこの結果に結び付いたのも事実であろうが。


「了解した。私に出来ることがあれば協力する」

「いつもありがとうサティ。頼りにしてる」

「ふんっ」


 プイッとそっぽを向いたサティナに対し、ヨシタカは焦りながら、


「なんでよっ!」


 そうツッコミを入れたが、彼はサティナが染めた頬の赤さには気付かないまま。


「とりあえず、ホーンボアを解体してしまおうか、ヨシタカ。確か、そこそこ良い金になる筈だ」

「了解! 早速ナイフに魔力込めてみるよ! さっきも切れ味凄かったんだ」

「それはいいな。試してみてくれ」


 ヨシタカが首肯し、もうとっくに光を失ったナイフに改めて魔力を流すと、その刃が先程と同じように淡く光り始めた。


「お、やっぱ武器にも込められるね」

「本当に……魔力を人や物に移し……更にそれを武器にするなど……常識を覆したな」

「他に出来る人がいない方が特別感あっていいけどね」

「フフ、確かにな。だが、前にも言ったが、あまり人には見せない方がいいだろう」

「わかった。いざという時の技だね」


 サティナの指示の元、ヨシタカは彼女と協力しながらホーンボアの解体を進めた。
 光るナイフは、先程と同じように抵抗なく獣の体へと差し込まれ、次々に部位を切り離していく。

 今は刃を伸ばす必要が無い為、元々のナイフの長さのままだが、魔力を循環させ、ナイフに込めながらイメージさえすれば自由に光の刃を伸ばしたり縮めたりする事が出来ると判明した。

 膨大、濃密な魔力が有ってこその芸当なのだろう。
 空気に触れると光りながら霧散するだけの魔力が、相手を斬る程の鋭さに形を変えていることになるからだ。

 更にいえば、その膨大で濃密な魔力と、加えて魔力譲渡が可能なヨシタカだからこその能力なのだ。

 もしかしたら、世界のどこかには探せば同じ能力を扱える人はいるのかもしれないが、三十年も魔力や魔法について勉強していたサティナが知らない事でもある。可能性は低いだろう。
 
 
 そして、
 嬉々として解体を進めていたヨシタカだが、見る見るうちに顔が青ざめていく。


「………………」

「ん? どうした? 手が止まったが……」


 不審に思ったサティナが、ヨシタカの顔を下から心配そうに覗き込む。
 彼女のその仕草は、彼にとっては殺人級である。
 自分の好みドストライクな人物――推しキャラが、上目遣いで自分を見つめているからだ。
 だというのに、ヨシタカは依然として青ざめたまま正面を見据え――


「――俺、料理はする方だけど……生き物をその『姿』から解体するのは…………はじ……めて………………おぇっ!」


 光の剣に興奮したまま冷静さを失っていたヨシタカは、感覚が麻痺していただけだった。



 ………………

 …………



 地面に置かれたヨシタカのカバン。
 その蓋との間――隙間から顔だけを出したヒナタが無言で二人を見つめていた。
 どうやら目の前の『肉』に興味津々らしい。
 解体されていく獣と、それをする二人の事を交互に見つめている。

 サティナはサティナで、そんなヒナタをデレデレと見つめつつも、横目にヨシタカへと指示を出し続けていた。
 
 
 ヒナタが見守る中、吐き気を抑えながらも、「慣れるために」と必死に解体を終えたヨシタカは、サティナと共に戦利品を眺めていた。


「肉は……持てる量だけ持っていこう。ヨシタカとヒナタ様の食料だ。……牙と角は街での換金用にして、皮も持てるだけ持とう。加工すれば外套や、使わなかったとしても金にはなる。……途中でもっと上質な素材を手にしたら捨てれば良いだけだしな」

「わかった。その辺は俺よりもこの世界を知っているサティに任せるね。何かあれば遠慮なく言ってくれ」

「承知した。まぁ、私も探り探りだがな。……なんせ、私だって初めての冒険だ。どれも座学での知識に過ぎん」

「それでも、本当に助かってる」

「そ、そうか? それなら良かっ――」

「あひんっ!!」


 サティナの言葉の途中で、またも奇声をあげるヨシタカ。


「なんだ!」

「ご、ごめん! また……肩が濡れてて…………」


 奇声に驚きつつも、サティナが彼の肩を確認すると、確かに濡れている。
 コップ一杯分程の水を掛けられたような量だ。


「……確かに……濡れているな……。水滴というレベルの量じゃないな」

「ねぇ~~~~~! 本当なにこれ!? もうっ! 怖いんですけど!!」


 ヨシタカは森に入る前の光景がフラッシュバックする。
 木の影から半身を覗かせた髪の長いワンピース姿。女性だと思われるあの姿を――

(呪い? 何かの呪いなの!? 本当やめてくださいお願いします!)

 祈るように手を合わせ、摩擦で火が起こせるのではないかと言うほどに擦り合わせながら目を瞑るヨシタカ。


「落ち着けヨシタカ。その奇行をやめろ。大丈夫だ……キット、キノセイダロウ……」

「……っ! 気のせい!? 気のせいって言った!? 棒読みで!? 違う! 現に濡れてるのっ! 『なんか見えた気がする……』じゃないの! 実際濡れてるの! Oh.……no……」

「ぷっ! あはははは」

「サティそんなに笑う……!? ひどい。あたしショック……」


 ヨシタカの反応に、笑っていたサティナがスンッと真顔になり、言い返すように、


「だからそれは誰なんだ……」

「ニャ~……」


 ヨシタカの慌てっぷりに、心做しか猫のヒナタですら、少し引いたように一言、鳴いた。
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