追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
20 / 134
連載

メディ

しおりを挟む
(メディ視点)


 私がいる城のバルコニーには、体温を奪いそうになるくらいの風が吹いていた。
 扉によって舞踏会場とここを隔てているが、扉の奥はシャンデリアの下で絢爛豪華な金細工や天上絵などに囲まれパーティーが開かれている。

 先日建設された製薬研究所を祝うもので、ファルマの貴族や関係者が集まっていた。
 前王に代わって即位したお兄様は、色々とファルマを改革するために動いており、製薬研究所もお兄様の発案だ。


「ちょっと聞いているの!?」
 甲高く苛立ちを含んだ声音に、私の心の体温が下がっていく。
 目の前には、大粒の宝石を加工して造られた装飾品を纏った三人の貴族令嬢の姿が。
 三人とも、ファルマで流行しているドレスを着ている。


 真ん中にいるラベンダー色の緩やかに巻かれた髪をしているのが公爵家のご令嬢であり、私とは従姉にあたるエスカ様。
 そして、左右にいるのは彼女と親しくしている侯爵家のマリーナ様と伯爵家のネヴィ様だ。


「ファルマも落ちたわよね。いわくつきの王妃の息子であり、廃太子となった者が出戻って王になったなんて」
「本当にエスカ様のおっしゃるとおりだわ。お荷物メディさまも連れて来ちゃったし。宮殿内が田舎くさくなる」
「なんの役にも立たないんだから、せめてファルマのメリットになる国に嫁いでよね。まぁ、その容姿じゃ無理だろうけど。また太ったんじゃない? ドレスがキツキツじゃないの。なんて醜いのかしら」
 扇で口元を隠しながらクスクスと彼女達は笑う。


 これで何度目だろうか? 数えることすら出来ないくらいの回数だ。

 彼女達のように面と向かって直接私に告げる人や、影でこそこそと聞こえるように話している人など、ファルマに戻る時にわかっていたが私に対する風当たりは厳しい。


 私だけではない。お兄様に対してもだ。
 でも、お兄様は気にする素振りをみせず。
 がむしゃらに王としてファルマのために動いている。


 だから、私はお兄様を頼れない……慣れない政治で疲れ切っているお兄様を頼るなんて。


 みんなの役に立つように毎日遅くまで勉強し、薬草師としてノーリの称号を獲得した。
 治癒魔術師としての能力も持っていたので薬草師と二つあれば、治療に関して役に立つと思ったから。


 ――彼女達がいうように私はお荷物なのかもしれない。私がいない方がお兄様にとっては良いだろう。この国にとっても。


 心が砕けてしまった。


 今まで我慢していたことが決壊してどんどん黒い感情として流れていく。


「お兄様、ごめんなさい。私はもう限界です」
 だんだん視界が滲んでいき、私がゆっくりと瞼を閉じれば、まるで糸がキレたかのように意識が遠のいてしまう。
 だが、すぐに浮上し瞼にチカチカと光が放ったので瞼を開ければ、見知った天井が視界に入ってくる。
 意識が戻ると同時に、肩から足首にかけてふかふかの馴染んだベッドの感触が伝った。



「……またあの夢」
 二年前の出来事なのに、昨日のように鮮明に覚えている。
 そのせいだろうか? こうして時々夢にまで見てしまうのだ。


 我慢の限界を超えてしまった私は、あのパーティー以来部屋に引きこもった。
 外が怖くなってしまったから。


 きっとエスカ様達は、私の存在を気にすることなく毎日楽しく過ごしているだろう。
 私がこうして苦しんでいる間も――



 やるせない思いが苦く心から滲み出てきてしまい、私はぎゅっと手を握り締めた。



「もう、アクオに帰った方がいいのかもしれない」
 継承権を失い、私とお兄様が向かった先はファルマのアクオ地方。
 自然豊かな場所で人々も優しく、城にいた時のような豪華な暮らしは出来なかったけど楽しかった。



 今まで城では侍女などに身の回りのことをやって貰っていたから、自分達で家事をやるのも新鮮で。
 お兄様はめきめきと料理の腕がアップし、お料理もすごく上手。
 王となった今は厨房に立つことは、もうなくなってしまったけれども。


「お兄様の生誕を祝したパーティーが開催される前に戻りましょう。お祝いしたかったけど、今の私では無理だもの」
 私はベッドから起き上がると、机へと向かう。
 厚手のカーテンの敷かれた窓際前にある机の上には、恋愛小説が置かれていた。
 お兄様は時々、私へお土産を買って来て下さる。



 恋愛小説も数か月前にお兄様から頂いたもの。
 ティアナ様という女性が選んでくれたもので、リムス王国で流行している恋愛小説だとお兄様に扉越しに伺った。
 お兄様から聞く女性の名前が珍しかったので覚えている。



「ティアナ様、どのような方なのかしら?」
 私の呟きが部屋へと広がっていく。
 気にはなるけど、部屋から出ることがない私では会うことはないだろう。



「お兄様がエタセルから戻って来たら、アクオに戻ろう」
 ずっと区切りをつけなかったけど、もうきっぱりと諦めるべきだ。



 そうこの時は心に決めていた。
 だから、まさか自分がエタセルで暮らすことになった上に、恋をする未来が訪れることを知らなかった――













しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。