追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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俺だって余裕じゃないよ1(ティア視点)

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 ファルマ城の一角にある国王の執務室は、私が知っている執務室よりも遥かに大きく絢爛豪華だ。
 クリーム色の壁の四隅は黄金の金具で縁取られ、天井にはファルマを創造した女神が描かれている。
 瑞々しい草原に座り、楽しそうにおしゃべりをしている美しく気高い三人の女神。

 繊細なタッチで描かれているため執務室というよりは、神殿のように神々しさを感じてしまう。
 天上画の邪魔にならないようにシャンデリアがぶら下がり、室内を照らしてくれている。

 王都が一望できるバルコニーへと通じる窓前に設置されている執務机の前に私はライと対面するように立っていた。


「……エスカに会った?」
 ライは書類へ走らせていたペンを止めると、顔を上げて私を見る。


「支店に来たの。ライの従妹かもしれないけど、はっきり言ってなかなか個性的な性格をしているよね」
「オブラートに包まなくても良いよ。性格悪かっただろ」
 はっきりときっぱり言ったライに、私は彼に対してもあの態度なのかと頭に過ぎった。
 ライやメディの親戚かもしれないが、私とは絶対に合わない。
 王女とならば似たような性格だから合いそうだけれども。


「グロム様から私をお茶会に誘うように言われたらしいわ。年が近いから交流をってことなのかも。まぁ、予定あったから断ったけど」
「よくエスカが納得したな」
「最初は納得しなかったよ。でも、レイツ様との食事会だって言ったら、来なくても良いって」
「ちょっと待って。レイツ様って、隣国の王太子だろ。ティア、食事会するのか!?」
 ライは手にしていたペンを机の上に落とすと、目を大きく見開く。


「うん。お誘いのお手紙を頂いて……商会の話とかエタセルの話を聞きたいんだって」
「あー! もう、なんでそう警戒心が……」
 ライは頭を抱えると深い溜息を吐き出したので、私は首を傾げてしまう。


「普通に食事をしながら仕事の話をするだけだよ」
「それは立て前。本音はティアと親密になりたいからだ。ティア、自分の状況がわかってないだろ。ティア人気は凄いんだって。俺以外にもティアが欲しいっていう男がいっぱいなんだ。伯爵の元にティア宛の招待状がたくさん来ているんだけど、その中にレイツ様も入っていたはずだ。招待状の管理はリストがしているから、リストに聞いた」
「ライ、お兄様とほんと仲が良いよね」
「俺も一緒に着いて行きたいが、謁見が入っているし」
「大丈夫だよ。それよりも、エスカ様ってパーティーにも来るんだよね?」
「来るだろうな。メディのことか?」
「うん」
 私が頷けば、ライは心配そうな表情を浮かべる。


「あまり無理はさせたくないが、兄としては本人の意志を尊重してやりたい」
「……そうなんだよね。私もそう思う」
 メディが強くなりたいって言っていたけど、強さを求める気持ちは十分理解出来る。私も王女と対立した時に強くなりたい。力が欲しいって思っていたから。


「メディのことは任せて。エスカ様達がメディに何かしたら、全力で相手になってやるから!」
「もしかして、ティアがドレスをファルマの最先端にしたいって言ったのに関係ある?」
「あると言えばある。戦闘服だもん」
「ここにリストがいたら半泣きになりそうな言葉だな。まぁ、ティアのそういうところも好きだけど」
「す、好きってそんなはっきりと……」
 ライに告白された時のことが頭の中に浮かび、私の体感温度は一気に上昇。
 彼の瞳を正面から受けるのが気恥ずかしくなり、私は顔を俯かせてしまう。


「はっきりと言えるよ。俺はティアが好きだから。だから、ティアが他の男と食事に行くのも嫉妬するし心配になる」
「ライ、待って! ちょっと待って!」
 私はきっと真っ赤になっているであろう顔を見せないように、両手で覆い隠して首を左右に振る。


「ティアって恋愛に関して免疫ないのも可愛いよな」
「ライみたいに余裕じゃないもん……」
「余裕じゃないんだが」
 ライは立ち上がると、私の元へと向かってくる。
 そして私の手を掴むと、彼の胸へと手を添えるように当てた。

 掌から伝わってくる彼の鼓動。
 自分のよりも早くて、絶対に平常時の鼓動ではないというくらいに早鐘だった。


「俺だって余裕じゃないよ。ティアに好きだって言う時は、こんなに鼓動が早くなるんだ。ティアの反応が気になって」
 私はライのことを余裕があると思っていたけど、彼も余裕じゃないという事にちょっと安心する。
 私と一緒なんだなぁって。






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