68 / 134
連載
VS公爵令嬢2-2
しおりを挟む
「ハーブはハーブでしょう。その辺に生えているじゃない。ただの草や花がそんなに高いなんてぼったくりよ。それに、ハーブの仲介業者をなくしたからって別に何も変わらないじゃない」
「変わりましたよ。一番は生産者にお金が入るようになり、安定して生活を営めるようになりました。消費者側としては、値段がかなり下がったことです。充分恩恵があると断言出来ますわ」
「ファルマはお金があるから別に困っていなかったわ。貧乏な国が困っていたんでしょう。ハーブなんてなくても生活できるし」
「じゃあ、戻しますか。グロム様の取引だけ。うちは別にかまいませんよ。あぁ、そうそう。さっき、たかがハーブっておっしゃいましたよね?」
「言ったわ」
「グロム様がうちと取引しているハーブは八割がエタセルでしか採取されないハーブです。エタセルのハーブはうちを通さないと手に入れることは不可能。うちと取引しないとグロム様の会社はどうなるかわかりませんよ?」
形勢逆転。
私の言葉にエスカ様の綺麗な顔が歪み、怒りで真っ赤に染め上がった。
ここからは予想通り。
彼女は右手を大きく振り上げるとそのまま私に向かって振り下ろす。
「ティア……っ!」
メディの悲鳴交じりの声が届いたが、私は至って冷静だった。
引っ叩かれるのは初めてではない。
王女の時で学習した。
簡単に引っ叩かれるわけにはいかないので、私はすかさず扇子で頬をガードすれば、扇子のお蔭でエスカ様の華奢な手が私の頬に触れることはなかった。
バシッと音を立て、彼女の手が私の扇子にぶつかってしまう。
普通の扇子と思っただろうが、実は骨が鉄の扇子。
しかも、骨が太めで頑丈なのを買ったから、彼女は痛みですぐに手を押さえる。
「悪いけど、そう易々と私を引っ叩けると覆わないで欲しいわ」
「痛いじゃないの!」
エスカ様が痛みで涙目になっているのを見て、取り巻きが悲鳴を上げてしまう。
「なんて事を……! エスカ様が怪我をしたらどうするのよ。あなた、エスカ様に対して生意気すぎ。口ばっかり達者で。エスカ様の血筋はファルマでも高貴なのよ。貴女、伯爵家の娘なんでしょう? 態度に気をつけなさい。貴女と違ってエスカ様は王妃に一番近い方なのよ」
「お母様も大国の姫君。貴女達とは全く違う天上人なんだからね。そもそもライナス様とどういう関係なのよ。王妃はエスカ様なんだからね!」
「――いや、違うな」
突然、第三者の声が聞こえてきたため私が振り返れば、大広間へと通じている窓が開かれ、現れたのはライとお兄様だった。
お兄様は顔を真っ青にして、「扇子が本当に防具になった」と小さく呟いている。
「メディ、大丈夫か?」
ライはメディを気遣い、優しく肩をさすっている。
「エスカ。王妃に一番近いのは君じゃない。ティアだ」
「どうしてその女が……! ただの伯爵令嬢のくせに」
「ティアの功績はファルマの貴族達からも認められている。第一、俺が――」
ライは言葉じりを弱めたかと思えば腰を曲げてかがみ込むと、私の頬に顔を近づけていく。
なんだろう? と思った瞬間だった。
頬に柔らかい感触を感じてしまったのは。
「お、お兄様っ!?」
「えっ、ちょっ、ライっ!?」
当事者である私よりも、メディとお兄様の絶叫交じりの声が辺りに響き渡ったため、私は逆にリアクションが出来ず。
二人とも幽霊でも見たように驚愕を前面に押し出してライを見ている。
「俺がティア以外を認めない。そもそも妹をいじめた奴と結婚なんて冗談じゃない。誰にそそのかされたのかは知らないが、エスカを王妃に認める者はいないだろう。議会でも全員一致で反対する。だが、ティアのことは賛成するだろう。ティアは西大陸にもコネがあるし、ハーブの件でファルマの民にも人気がある」
「たかが母親が西大陸出身なだけでしょう。私のお母様なんてファルマと並ぶ大国の出身よ」
「知らないようだな。ティアの母上の生家は、西大陸では由緒ある『精霊王の守護師』だ。西大陸は精霊を信仰しているから彼の国では絶大なる人気を誇っている」
精霊王の守護師とは、神話の世界から説明しなければならない。
昔々、大陸が一つだった頃、精霊王が大陸を分けて人間の王達に統治させることにした。
そのお目付け役として選ばれたのが、精霊王を守護していた側近である精霊王の守護師。
二十人いた精霊の一人がうちの先祖だったという話だ。
ちなみに私もお兄様も先祖が精霊だと言われているけど精霊は見えないし、お祖父様達も精霊は見えず。
お祖父様は先祖の名を使わず、自分達の力で家や領地を繁栄させようがモットーの方だったから、伯爵家の人間達は守護師の件についてはとても関心が薄い。
言われて、あぁそう言えばそうだったと思うレベルだ。
「エスカ様。今、保護者を……グロム様を呼びに行って貰っています。あぁ、来たようだね」
お兄様が窓の方へと視線を向ければ、ちょうどレイガルド様とラベンダー色の髪を持つ男性が扉を開けようとしている所だった。
「変わりましたよ。一番は生産者にお金が入るようになり、安定して生活を営めるようになりました。消費者側としては、値段がかなり下がったことです。充分恩恵があると断言出来ますわ」
「ファルマはお金があるから別に困っていなかったわ。貧乏な国が困っていたんでしょう。ハーブなんてなくても生活できるし」
「じゃあ、戻しますか。グロム様の取引だけ。うちは別にかまいませんよ。あぁ、そうそう。さっき、たかがハーブっておっしゃいましたよね?」
「言ったわ」
「グロム様がうちと取引しているハーブは八割がエタセルでしか採取されないハーブです。エタセルのハーブはうちを通さないと手に入れることは不可能。うちと取引しないとグロム様の会社はどうなるかわかりませんよ?」
形勢逆転。
私の言葉にエスカ様の綺麗な顔が歪み、怒りで真っ赤に染め上がった。
ここからは予想通り。
彼女は右手を大きく振り上げるとそのまま私に向かって振り下ろす。
「ティア……っ!」
メディの悲鳴交じりの声が届いたが、私は至って冷静だった。
引っ叩かれるのは初めてではない。
王女の時で学習した。
簡単に引っ叩かれるわけにはいかないので、私はすかさず扇子で頬をガードすれば、扇子のお蔭でエスカ様の華奢な手が私の頬に触れることはなかった。
バシッと音を立て、彼女の手が私の扇子にぶつかってしまう。
普通の扇子と思っただろうが、実は骨が鉄の扇子。
しかも、骨が太めで頑丈なのを買ったから、彼女は痛みですぐに手を押さえる。
「悪いけど、そう易々と私を引っ叩けると覆わないで欲しいわ」
「痛いじゃないの!」
エスカ様が痛みで涙目になっているのを見て、取り巻きが悲鳴を上げてしまう。
「なんて事を……! エスカ様が怪我をしたらどうするのよ。あなた、エスカ様に対して生意気すぎ。口ばっかり達者で。エスカ様の血筋はファルマでも高貴なのよ。貴女、伯爵家の娘なんでしょう? 態度に気をつけなさい。貴女と違ってエスカ様は王妃に一番近い方なのよ」
「お母様も大国の姫君。貴女達とは全く違う天上人なんだからね。そもそもライナス様とどういう関係なのよ。王妃はエスカ様なんだからね!」
「――いや、違うな」
突然、第三者の声が聞こえてきたため私が振り返れば、大広間へと通じている窓が開かれ、現れたのはライとお兄様だった。
お兄様は顔を真っ青にして、「扇子が本当に防具になった」と小さく呟いている。
「メディ、大丈夫か?」
ライはメディを気遣い、優しく肩をさすっている。
「エスカ。王妃に一番近いのは君じゃない。ティアだ」
「どうしてその女が……! ただの伯爵令嬢のくせに」
「ティアの功績はファルマの貴族達からも認められている。第一、俺が――」
ライは言葉じりを弱めたかと思えば腰を曲げてかがみ込むと、私の頬に顔を近づけていく。
なんだろう? と思った瞬間だった。
頬に柔らかい感触を感じてしまったのは。
「お、お兄様っ!?」
「えっ、ちょっ、ライっ!?」
当事者である私よりも、メディとお兄様の絶叫交じりの声が辺りに響き渡ったため、私は逆にリアクションが出来ず。
二人とも幽霊でも見たように驚愕を前面に押し出してライを見ている。
「俺がティア以外を認めない。そもそも妹をいじめた奴と結婚なんて冗談じゃない。誰にそそのかされたのかは知らないが、エスカを王妃に認める者はいないだろう。議会でも全員一致で反対する。だが、ティアのことは賛成するだろう。ティアは西大陸にもコネがあるし、ハーブの件でファルマの民にも人気がある」
「たかが母親が西大陸出身なだけでしょう。私のお母様なんてファルマと並ぶ大国の出身よ」
「知らないようだな。ティアの母上の生家は、西大陸では由緒ある『精霊王の守護師』だ。西大陸は精霊を信仰しているから彼の国では絶大なる人気を誇っている」
精霊王の守護師とは、神話の世界から説明しなければならない。
昔々、大陸が一つだった頃、精霊王が大陸を分けて人間の王達に統治させることにした。
そのお目付け役として選ばれたのが、精霊王を守護していた側近である精霊王の守護師。
二十人いた精霊の一人がうちの先祖だったという話だ。
ちなみに私もお兄様も先祖が精霊だと言われているけど精霊は見えないし、お祖父様達も精霊は見えず。
お祖父様は先祖の名を使わず、自分達の力で家や領地を繁栄させようがモットーの方だったから、伯爵家の人間達は守護師の件についてはとても関心が薄い。
言われて、あぁそう言えばそうだったと思うレベルだ。
「エスカ様。今、保護者を……グロム様を呼びに行って貰っています。あぁ、来たようだね」
お兄様が窓の方へと視線を向ければ、ちょうどレイガルド様とラベンダー色の髪を持つ男性が扉を開けようとしている所だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。