追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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VS公爵令嬢2-2

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 「ハーブはハーブでしょう。その辺に生えているじゃない。ただの草や花がそんなに高いなんてぼったくりよ。それに、ハーブの仲介業者をなくしたからって別に何も変わらないじゃない」
「変わりましたよ。一番は生産者にお金が入るようになり、安定して生活を営めるようになりました。消費者側としては、値段がかなり下がったことです。充分恩恵があると断言出来ますわ」
「ファルマはお金があるから別に困っていなかったわ。貧乏な国が困っていたんでしょう。ハーブなんてなくても生活できるし」
「じゃあ、戻しますか。グロム様の取引だけ。うちは別にかまいませんよ。あぁ、そうそう。さっき、たかがハーブっておっしゃいましたよね?」
「言ったわ」
「グロム様がうちと取引しているハーブは八割がエタセルでしか採取されないハーブです。エタセルのハーブはうちを通さないと手に入れることは不可能。うちと取引しないとグロム様の会社はどうなるかわかりませんよ?」
 形勢逆転。
 私の言葉にエスカ様の綺麗な顔が歪み、怒りで真っ赤に染め上がった。

 ここからは予想通り。
 彼女は右手を大きく振り上げるとそのまま私に向かって振り下ろす。


「ティア……っ!」
 メディの悲鳴交じりの声が届いたが、私は至って冷静だった。


 引っ叩かれるのは初めてではない。
 王女の時で学習した。


 簡単に引っ叩かれるわけにはいかないので、私はすかさず扇子で頬をガードすれば、扇子のお蔭でエスカ様の華奢な手が私の頬に触れることはなかった。
 バシッと音を立て、彼女の手が私の扇子にぶつかってしまう。
 普通の扇子と思っただろうが、実は骨が鉄の扇子。

 しかも、骨が太めで頑丈なのを買ったから、彼女は痛みですぐに手を押さえる。


「悪いけど、そう易々と私を引っ叩けると覆わないで欲しいわ」
「痛いじゃないの!」
 エスカ様が痛みで涙目になっているのを見て、取り巻きが悲鳴を上げてしまう。


「なんて事を……! エスカ様が怪我をしたらどうするのよ。あなた、エスカ様に対して生意気すぎ。口ばっかり達者で。エスカ様の血筋はファルマでも高貴なのよ。貴女、伯爵家の娘なんでしょう? 態度に気をつけなさい。貴女と違ってエスカ様は王妃に一番近い方なのよ」
「お母様も大国の姫君。貴女達とは全く違う天上人なんだからね。そもそもライナス様とどういう関係なのよ。王妃はエスカ様なんだからね!」
「――いや、違うな」
 突然、第三者の声が聞こえてきたため私が振り返れば、大広間へと通じている窓が開かれ、現れたのはライとお兄様だった。
 お兄様は顔を真っ青にして、「扇子が本当に防具になった」と小さく呟いている。


「メディ、大丈夫か?」
 ライはメディを気遣い、優しく肩をさすっている。

「エスカ。王妃に一番近いのは君じゃない。ティアだ」
「どうしてその女が……! ただの伯爵令嬢のくせに」
「ティアの功績はファルマの貴族達からも認められている。第一、俺が――」
 ライは言葉じりを弱めたかと思えば腰を曲げてかがみ込むと、私の頬に顔を近づけていく。


 なんだろう? と思った瞬間だった。
 頬に柔らかい感触を感じてしまったのは。


「お、お兄様っ!?」
「えっ、ちょっ、ライっ!?」
 当事者である私よりも、メディとお兄様の絶叫交じりの声が辺りに響き渡ったため、私は逆にリアクションが出来ず。
 二人とも幽霊でも見たように驚愕を前面に押し出してライを見ている。


「俺がティア以外を認めない。そもそも妹をいじめた奴と結婚なんて冗談じゃない。誰にそそのかされたのかは知らないが、エスカを王妃に認める者はいないだろう。議会でも全員一致で反対する。だが、ティアのことは賛成するだろう。ティアは西大陸にもコネがあるし、ハーブの件でファルマの民にも人気がある」
「たかが母親が西大陸出身なだけでしょう。私のお母様なんてファルマと並ぶ大国の出身よ」
「知らないようだな。ティアの母上の生家は、西大陸では由緒ある『精霊王の守護師』だ。西大陸は精霊を信仰しているから彼の国では絶大なる人気を誇っている」
 精霊王の守護師とは、神話の世界から説明しなければならない。

 昔々、大陸が一つだった頃、精霊王が大陸を分けて人間の王達に統治させることにした。
 そのお目付け役として選ばれたのが、精霊王を守護していた側近である精霊王の守護師。

 二十人いた精霊の一人がうちの先祖だったという話だ。


 ちなみに私もお兄様も先祖が精霊だと言われているけど精霊は見えないし、お祖父様達も精霊は見えず。
 お祖父様は先祖の名を使わず、自分達の力で家や領地を繁栄させようがモットーの方だったから、伯爵家の人間達は守護師の件についてはとても関心が薄い。
言われて、あぁそう言えばそうだったと思うレベルだ。


「エスカ様。今、保護者を……グロム様を呼びに行って貰っています。あぁ、来たようだね」
 お兄様が窓の方へと視線を向ければ、ちょうどレイガルド様とラベンダー色の髪を持つ男性が扉を開けようとしている所だった。







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