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VS公爵令嬢(終)1
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「どういうことなんだ、エスカ!」
「お父様、聞いて下さい。ティアナさんったら酷いのよ」
エスカ様はレイが連れて来てくれたグロム様の元へ駆け寄ると彼の腕にしがみ付き、私に向かって指をさす。
私は指をさすなと教えられなかったのか? と思いつつ、先ほど私がエスカ様に言った台詞を彼女が理解していないことを察する。
しかも、自分の力ではなく、父親の力を借りるつもりだし。
――さっき散々説明したのに、もう忘れたのかしら? ご自分が不利だというのを。今更グロム様を頼ってもどうにもならないのに。
「ティアナ様。これは一体どういうことでしょうか」
グロム様は瞳を大きく揺れ動かしながら、私へ説明を求めた。
無理もない。
ファルマの王とエタセルの王、それからエタセル王の右腕として名高いお兄様とライの妹君であるメディという、そうそうたる顔ぶれを目にしているのだから。
「エスカ様は実に面白い方ですわね。つい先ほど、エスカ様達に色々なことを教えて頂きましたの。由緒ある公爵家がエタセルなんて貧弱な田舎の商会と取引してあげているそうですわね。たかがハーブをうちで買ってあげているともおっしゃっておりましたわ。ハーブなんて無くても良いそうですし、仲介業者がいても変らないとおっしゃっていました。あぁそうそう。ハーブの値段が高くても買えないなんて、貧乏な国だけでしょうとも。たかがハーブだそうなので、グロム様だけ値段を元に戻そうかとお話をしていた所なんです」
グロム様は石で殴られたように頭をぐらりとさせると、大きく口を開いた。
「エスカ!」
グロム様が声を上げれば、エスカ様はばつが悪い表情を浮かべるとそっとグロム様の腕から手を離す。
庇って貰えると思っていたのかもしれないけど、グロム様だって馬鹿じゃないからどちらが悪いかを理解している。
彼だって背負っている物があるから事業を失敗するわけにはいない。
商会との取引を停止またはハーブの値上げをされれば大打撃を受けるだろう。
事業を拡大させている途中のようだし。
「商会としては無理に取引をして貰わなくても結構です。グロム様からうちとの契約を破棄することも可能ですが、商会側からも契約を破棄することも可能ですわ。契約書に記載されている第五条の双方の利益に関する事項をお読み下さい。実はグロム様にはお知らせしていなかったのですが、エスカ様が商会を訪問して下さった時の態度がとても素晴らしくて。ファルマ支店の社員一同より取引停止をするべきと意見が出たんですよ」
契約書には双方またはどちらかの利益を害する事を相手が行った場合、契約を破棄することも可能と記載されていた。
仲介業者がいた頃は契約書なんてかわしていなかったけど、今は商会が営業なども担っているためトラブル防止に契約を交わしている。
グロム様はエスカ様の日頃の暴言や態度を全く知らなかったようで、全身の血を引かせつつ、拳を強く握りしめている。
深く眉間に皺を寄せると目を鷹のように鋭くさせ、エスカ様を見下ろす。
「エスカ、なんてことをしてくれたんだ! 新規事業にどれくらいの資金を注いでいるのかわかっているのか!? 商会との取引を停止されたらうちは終わるんだぞ」
「大げさよ。たかがハーブじゃない」
「そのたかがハーブで没落エンドを迎えるんですね。綺麗なドレスも宝飾品もお屋敷も全て泡となり消えていく。これまで通りの贅沢は出来ませんね。その着飾っているドレスや宝石も差し押さえ。あぁ、でも貴方の大好きな由緒ある血筋は残りますわ。良かったですね」
私がにっこりと微笑めば、エスカ様は自分が纏っているドレスや首元に燦々と輝いている大粒のネックレスに触れ、しばらく呆然としたかと思えば涙目になってしまう。
どうやらやっと状況がわかったらしい。
分が悪いことを悟ったのか、取り巻きのご令嬢達がエスカ様を置いてそっと逃げようと後退っていく。
――逃がすか。
「お父様、聞いて下さい。ティアナさんったら酷いのよ」
エスカ様はレイが連れて来てくれたグロム様の元へ駆け寄ると彼の腕にしがみ付き、私に向かって指をさす。
私は指をさすなと教えられなかったのか? と思いつつ、先ほど私がエスカ様に言った台詞を彼女が理解していないことを察する。
しかも、自分の力ではなく、父親の力を借りるつもりだし。
――さっき散々説明したのに、もう忘れたのかしら? ご自分が不利だというのを。今更グロム様を頼ってもどうにもならないのに。
「ティアナ様。これは一体どういうことでしょうか」
グロム様は瞳を大きく揺れ動かしながら、私へ説明を求めた。
無理もない。
ファルマの王とエタセルの王、それからエタセル王の右腕として名高いお兄様とライの妹君であるメディという、そうそうたる顔ぶれを目にしているのだから。
「エスカ様は実に面白い方ですわね。つい先ほど、エスカ様達に色々なことを教えて頂きましたの。由緒ある公爵家がエタセルなんて貧弱な田舎の商会と取引してあげているそうですわね。たかがハーブをうちで買ってあげているともおっしゃっておりましたわ。ハーブなんて無くても良いそうですし、仲介業者がいても変らないとおっしゃっていました。あぁそうそう。ハーブの値段が高くても買えないなんて、貧乏な国だけでしょうとも。たかがハーブだそうなので、グロム様だけ値段を元に戻そうかとお話をしていた所なんです」
グロム様は石で殴られたように頭をぐらりとさせると、大きく口を開いた。
「エスカ!」
グロム様が声を上げれば、エスカ様はばつが悪い表情を浮かべるとそっとグロム様の腕から手を離す。
庇って貰えると思っていたのかもしれないけど、グロム様だって馬鹿じゃないからどちらが悪いかを理解している。
彼だって背負っている物があるから事業を失敗するわけにはいない。
商会との取引を停止またはハーブの値上げをされれば大打撃を受けるだろう。
事業を拡大させている途中のようだし。
「商会としては無理に取引をして貰わなくても結構です。グロム様からうちとの契約を破棄することも可能ですが、商会側からも契約を破棄することも可能ですわ。契約書に記載されている第五条の双方の利益に関する事項をお読み下さい。実はグロム様にはお知らせしていなかったのですが、エスカ様が商会を訪問して下さった時の態度がとても素晴らしくて。ファルマ支店の社員一同より取引停止をするべきと意見が出たんですよ」
契約書には双方またはどちらかの利益を害する事を相手が行った場合、契約を破棄することも可能と記載されていた。
仲介業者がいた頃は契約書なんてかわしていなかったけど、今は商会が営業なども担っているためトラブル防止に契約を交わしている。
グロム様はエスカ様の日頃の暴言や態度を全く知らなかったようで、全身の血を引かせつつ、拳を強く握りしめている。
深く眉間に皺を寄せると目を鷹のように鋭くさせ、エスカ様を見下ろす。
「エスカ、なんてことをしてくれたんだ! 新規事業にどれくらいの資金を注いでいるのかわかっているのか!? 商会との取引を停止されたらうちは終わるんだぞ」
「大げさよ。たかがハーブじゃない」
「そのたかがハーブで没落エンドを迎えるんですね。綺麗なドレスも宝飾品もお屋敷も全て泡となり消えていく。これまで通りの贅沢は出来ませんね。その着飾っているドレスや宝石も差し押さえ。あぁ、でも貴方の大好きな由緒ある血筋は残りますわ。良かったですね」
私がにっこりと微笑めば、エスカ様は自分が纏っているドレスや首元に燦々と輝いている大粒のネックレスに触れ、しばらく呆然としたかと思えば涙目になってしまう。
どうやらやっと状況がわかったらしい。
分が悪いことを悟ったのか、取り巻きのご令嬢達がエスカ様を置いてそっと逃げようと後退っていく。
――逃がすか。
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