追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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彼を好きにならないでと何度も言いたくなった(ティア視点1)

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「はぁ……」
 私は本日何度目になるかわからない嘆息をこぼしていた。
 商会の仕事で神殿裏へとやって来たのだが、私は頭を抱えてしまっている。
 目の前にある湖では湖面に反射する光と優雅に泳ぐ鳥という美しい風景が広がっているというのに。

 どうして良いかわからない。

 まさか、メディの好きな人・レイガルド様から告白されてしまうなんて。
 メディのことを友人と思っているし、彼女はライの大切な妹。


 しかも、私は彼女に対してある疑惑を抱いてしまっている。
 パーティーでエスカ様と対峙した後、メディはレイから部屋に運ばれたんだけど、それ以来彼女の様子がおかしいのだ。


 何か言いたそうに私の方をみたり、ぼーっとしている時がある。
 もしかしたら、レイガルド様から頬にキスされた時にメディから見られてしまったのではないか? 
 そう思って仕方がない。

 最近、胃が痛い。


 元婚約者にズタボロにされた時は、メンタル弱ったけど怒りに方向転換しちゃったし。
 今回は珍しく自分がブレブレになっていた。


 ライのこと、レイのこと、メディのこと……他にも、神殿裏の開発について考えなければならないから、頭がいっぱいで容量オーバーになってしまっている。


「ティア様。悩み事ですか?」
 聞き慣れた声が背に届き、私ははじかれたように振り返る。
 すると、そこにはセス様の姿が。

 清潔感の溢れる神官服を風に靡かせながら、彼は慈悲深い笑みを浮かべていた。


「セス様」
「悩み事ですか? 僕でよかったら相談に乗りますよ」
 彼は私の元へと足を進めると、隣へ立った。


「誰かにお話して、心が楽になれるかもしれません」
「ありがとうございます。実は誰かに相談したくても、みんな関係者でして……私、友達の好きな人に告白されてしまったんです。友達の様子もおかしくて……」
「友達とはメディ様ですか?」
 セス様の口からメディの名を聞かされたので、私は目を大きく見開いてしまう。


 なぜわかったのだろうか? とも思ったがエタセル内で私の友人と言えば、メディかコルタの妹・サーサちゃんしかいなかったのを思い出す。


「はい、メディです」
「やっぱりそうなんですね」
「考えなきゃいけないんです。告白してくれた二人のこと、メディのこと、エタセルのこと。神殿裏の開発も始まるから、ブレてしまっては駄目なんです。しっかりしなきゃいけないのに」
「ティア様、いっぺんに物事を考えるとますます混乱しますよ。少しずつ考えましょう。ティア様が今一番気になるのはなんですか?」
「メディが……見てしまったのかが気になります」
「でしたら、メディ様に伺ってみては? きっとティア様と向き合ってくださると思いますよ」
 屈託無く微笑んだ神官様を見て、私は目を大きく見開く。

 確かに神官様のおっしゃる通りだ。


「ありがとうございます。聞いてくださって。戻ったら、メディと話をしてみますね」
「えぇ、それが良いです。お二人がより良い方向に進むように願っています」
 やっぱり神官様だなぁと思った。
 誰かに聞いて欲しかったんだけど誰に話をして良いかわからなかったため、ずっと悶々としてしまっていたのだ。

 お兄様には、「ティア、ごめん。僕はライナス推しだから中立の立場ではいられない!」と宣言された上に、お兄様は最近胃が弱っているようでライに胃に優しいハーブとお兄様の大好きな蜂蜜キャンディーをプレゼントして貰ったようだ。

 実は最近、私は夢見が悪い。
 黒い固まりに追いかけられる夢を見てしまい、あまりよく眠れていない。

 きっと、色々考えすぎているせいかも。
 メディに聞いて、少しずつ解決していこう!

「ティア様。つかぬことをお伺いしますが、ティア様って精霊王の守護師・フーザー様の子孫ですか?」
「あっ、そうです。でも私もそうですが、お兄様や祖父達もあまり気にしてないんですよ。言われてみてあぁそうだったなぁと実感する感じですかねぇ」
 私の返事に対して、セス様は遠い目をすると、

「……時々、頼ってあげてくださいね」
 と呟いた。








 
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