103 / 134
連載
保養施設オープン! 2
しおりを挟む
振り返れば、髪を一つに結い、白いブラウスの上に黒いワンピースを重ねて着ている女性が駆け寄って来ている所だった。
彼女は本館で働いてくれている職員さんで、私達の前に到着すると深々と一礼をする。
「どうなさったのですか?」
「新聞社の方達から取材をしたいと申し出があったのです」
「夕方から会見という形で……でしたよね……」
「えぇ、そうなんです。実はメラブレ様とチュール様にも取材を申し込みたいと。夕方からの会見はティアナ様、メディ様、国王様の三人ですので」
ちらりと彼女はメラブレ様達へと視線を向ける。
「俺達?」
「はい」
「折角うちを宣伝するチャンスなんだが、夕方はちょっと厳しいな。俺、隣国と会談が入っていてさ」
「レライ国の宣伝になるなら、私も是非受けたいのです。でも用事があるため、夕方までには出国しなければならないんです。あと二・三時間はおりますので、その間でしたら……」
「二・三時間ですか」
今から会場の設置や段取りなどを行なえば、なんとかぎりぎり取材が出来るだろう。
ただ、確実にライの出迎えはできないし、かなり待たせてしまうことになる。
彼の顔が頭に浮かび心が痛むが、今は協力してくれた二カ国を優先しなければならない。
――商会に連絡して、ライに事情を話して貰おう。
+
+
+
私は商会へと通じている道を全力疾走をしていた。
メラブレ様達の取材準備からお二人の見送りまでしてきたため、ライとの約束の時間から三時間くらい押してしまっている。
ちゃんと連絡はしておいたけれども……
商会へと到着すると真っ直ぐ事務室へと向かい扉を開ければ、室内にいた人達が「えっ!?」と驚愕の声を上げ固まってしまった。
「テ、ティア様……?」
「驚かせて申し訳ありません。ライは……ライナス様はもう帰りましたか?」
久しぶりに走ったせいだろうか。
脇腹が痛いし、呼吸が荒いため肩で大きく息をしている。
「お約束の時間にいらっしゃったのですが、ティア様からの伝言を聞き、一端外出を。リスト様達のところに行ってくると……」
「お兄様の所ですか?」
「えぇ。ですが、ちょうどさっきお戻りになられましたよ。今、調理場の方にいらっしゃいます」
「え、調理場?」
私は全く想像していなかった場所を言われてしまったため、首を傾げた。
商会があるこの建物は、元々貴族が住んでいた建物だったため、浴室や調理場等もある。
でも、働いている人達はお弁当だったり、外に食べに行ったりするため、調理場はお湯を沸かしてお茶を入れるのがメインとなっていた。
調理場と名がついているが、全く料理には使われていないのだ。
「ありがとうございます。行ってみますね!」
私はお礼を告げ、調理場へと向かった。
一階の奥にある調理場は、元貴族用だということもあって広々。
昔ここでは様々な調理器具を駆使して豪華な料理が作られたのだろうけど、今は調理器具が無くがらんとしている。
中央にある大きなステンレスの台の上には、小麦粉などの材料の他にボウルなどが置かれているのが見えた。
私の探し人は、オーブン前に。
エプロン姿のライは、私を視界に入れるやいなや、温かな笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「ティア、お帰り」
「ただいま」
なんだろう。ライにおかえりって言われると、ほっとする。
そのため、自然と顔が緩んでいく。
「ごめんなさい! かなり遅れてしまって……」
私が深く腰を折れば、優しく頭を撫でられる。
「ねぇ、ティア。顔を上げて。久しぶりにティアの顔を俺に見せてよ」
私が顔を上げれば、ライはふわりと笑う。
「本当にごめんね……」
「気にしないで。それに、ティアはちゃんと連絡くれたじゃないか。オープン初日だから、色々あるだろうし。お菓子作ったりして過ごしていたから大丈夫だよ」
「お菓子?」
そういえば、オーブンが動いている。
初めてここのオーブンが使われているのを見た。
「ケーキを作っているんだよ。リストのところに行ったら、蜂蜜ケーキが食べたいから作って欲しいってリクエストを受けたんだ」
お兄様がライにおねだりしたのか。本当に仲が良いなぁ。
「ここに来る途中に、気になって保養施設を覗いてきたが凄く賑わっていたな。ティア達の努力が形になって良かった」
「ライのお蔭もあるよ。資金援助してくれたから出来たんだもん」
「色々動いて形にしたのはティア達だよ。保養施設オープンのお祝い何が欲しい? なんでもいいよ」
「本当になんでもいい?」
「いいよ」
私はライの言葉を聞くと、腕を伸ばして彼に抱きつく。
自分の体とは違い、筋肉質で引き締まった体は大きくてしっかりしている。
「ティア?」
私の突拍子もない行動に、ライから不思議がる声が届く。
「……ちょっと疲れちゃった。だから、ライの作ったご飯が食べたい。少しゆっくりしたいの」
「お安い御用だ。今日はゆっくり過ごそう」
ライは喉で笑うと、腕を私へと回してぎゅっと抱きしめてくれた。
彼女は本館で働いてくれている職員さんで、私達の前に到着すると深々と一礼をする。
「どうなさったのですか?」
「新聞社の方達から取材をしたいと申し出があったのです」
「夕方から会見という形で……でしたよね……」
「えぇ、そうなんです。実はメラブレ様とチュール様にも取材を申し込みたいと。夕方からの会見はティアナ様、メディ様、国王様の三人ですので」
ちらりと彼女はメラブレ様達へと視線を向ける。
「俺達?」
「はい」
「折角うちを宣伝するチャンスなんだが、夕方はちょっと厳しいな。俺、隣国と会談が入っていてさ」
「レライ国の宣伝になるなら、私も是非受けたいのです。でも用事があるため、夕方までには出国しなければならないんです。あと二・三時間はおりますので、その間でしたら……」
「二・三時間ですか」
今から会場の設置や段取りなどを行なえば、なんとかぎりぎり取材が出来るだろう。
ただ、確実にライの出迎えはできないし、かなり待たせてしまうことになる。
彼の顔が頭に浮かび心が痛むが、今は協力してくれた二カ国を優先しなければならない。
――商会に連絡して、ライに事情を話して貰おう。
+
+
+
私は商会へと通じている道を全力疾走をしていた。
メラブレ様達の取材準備からお二人の見送りまでしてきたため、ライとの約束の時間から三時間くらい押してしまっている。
ちゃんと連絡はしておいたけれども……
商会へと到着すると真っ直ぐ事務室へと向かい扉を開ければ、室内にいた人達が「えっ!?」と驚愕の声を上げ固まってしまった。
「テ、ティア様……?」
「驚かせて申し訳ありません。ライは……ライナス様はもう帰りましたか?」
久しぶりに走ったせいだろうか。
脇腹が痛いし、呼吸が荒いため肩で大きく息をしている。
「お約束の時間にいらっしゃったのですが、ティア様からの伝言を聞き、一端外出を。リスト様達のところに行ってくると……」
「お兄様の所ですか?」
「えぇ。ですが、ちょうどさっきお戻りになられましたよ。今、調理場の方にいらっしゃいます」
「え、調理場?」
私は全く想像していなかった場所を言われてしまったため、首を傾げた。
商会があるこの建物は、元々貴族が住んでいた建物だったため、浴室や調理場等もある。
でも、働いている人達はお弁当だったり、外に食べに行ったりするため、調理場はお湯を沸かしてお茶を入れるのがメインとなっていた。
調理場と名がついているが、全く料理には使われていないのだ。
「ありがとうございます。行ってみますね!」
私はお礼を告げ、調理場へと向かった。
一階の奥にある調理場は、元貴族用だということもあって広々。
昔ここでは様々な調理器具を駆使して豪華な料理が作られたのだろうけど、今は調理器具が無くがらんとしている。
中央にある大きなステンレスの台の上には、小麦粉などの材料の他にボウルなどが置かれているのが見えた。
私の探し人は、オーブン前に。
エプロン姿のライは、私を視界に入れるやいなや、温かな笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「ティア、お帰り」
「ただいま」
なんだろう。ライにおかえりって言われると、ほっとする。
そのため、自然と顔が緩んでいく。
「ごめんなさい! かなり遅れてしまって……」
私が深く腰を折れば、優しく頭を撫でられる。
「ねぇ、ティア。顔を上げて。久しぶりにティアの顔を俺に見せてよ」
私が顔を上げれば、ライはふわりと笑う。
「本当にごめんね……」
「気にしないで。それに、ティアはちゃんと連絡くれたじゃないか。オープン初日だから、色々あるだろうし。お菓子作ったりして過ごしていたから大丈夫だよ」
「お菓子?」
そういえば、オーブンが動いている。
初めてここのオーブンが使われているのを見た。
「ケーキを作っているんだよ。リストのところに行ったら、蜂蜜ケーキが食べたいから作って欲しいってリクエストを受けたんだ」
お兄様がライにおねだりしたのか。本当に仲が良いなぁ。
「ここに来る途中に、気になって保養施設を覗いてきたが凄く賑わっていたな。ティア達の努力が形になって良かった」
「ライのお蔭もあるよ。資金援助してくれたから出来たんだもん」
「色々動いて形にしたのはティア達だよ。保養施設オープンのお祝い何が欲しい? なんでもいいよ」
「本当になんでもいい?」
「いいよ」
私はライの言葉を聞くと、腕を伸ばして彼に抱きつく。
自分の体とは違い、筋肉質で引き締まった体は大きくてしっかりしている。
「ティア?」
私の突拍子もない行動に、ライから不思議がる声が届く。
「……ちょっと疲れちゃった。だから、ライの作ったご飯が食べたい。少しゆっくりしたいの」
「お安い御用だ。今日はゆっくり過ごそう」
ライは喉で笑うと、腕を私へと回してぎゅっと抱きしめてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。