追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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保養施設オープン! 2

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 振り返れば、髪を一つに結い、白いブラウスの上に黒いワンピースを重ねて着ている女性が駆け寄って来ている所だった。
 彼女は本館で働いてくれている職員さんで、私達の前に到着すると深々と一礼をする。

「どうなさったのですか?」
「新聞社の方達から取材をしたいと申し出があったのです」
「夕方から会見という形で……でしたよね……」
「えぇ、そうなんです。実はメラブレ様とチュール様にも取材を申し込みたいと。夕方からの会見はティアナ様、メディ様、国王様の三人ですので」
 ちらりと彼女はメラブレ様達へと視線を向ける。

「俺達?」
「はい」
「折角うちを宣伝するチャンスなんだが、夕方はちょっと厳しいな。俺、隣国と会談が入っていてさ」
「レライ国の宣伝になるなら、私も是非受けたいのです。でも用事があるため、夕方までには出国しなければならないんです。あと二・三時間はおりますので、その間でしたら……」
「二・三時間ですか」
 今から会場の設置や段取りなどを行なえば、なんとかぎりぎり取材が出来るだろう。
 ただ、確実にライの出迎えはできないし、かなり待たせてしまうことになる。
 彼の顔が頭に浮かび心が痛むが、今は協力してくれた二カ国を優先しなければならない。

 ――商会に連絡して、ライに事情を話して貰おう。




 









 私は商会へと通じている道を全力疾走をしていた。
 メラブレ様達の取材準備からお二人の見送りまでしてきたため、ライとの約束の時間から三時間くらい押してしまっている。

 ちゃんと連絡はしておいたけれども……

 商会へと到着すると真っ直ぐ事務室へと向かい扉を開ければ、室内にいた人達が「えっ!?」と驚愕の声を上げ固まってしまった。

「テ、ティア様……?」
「驚かせて申し訳ありません。ライは……ライナス様はもう帰りましたか?」
 久しぶりに走ったせいだろうか。
 脇腹が痛いし、呼吸が荒いため肩で大きく息をしている。

「お約束の時間にいらっしゃったのですが、ティア様からの伝言を聞き、一端外出を。リスト様達のところに行ってくると……」
「お兄様の所ですか?」
「えぇ。ですが、ちょうどさっきお戻りになられましたよ。今、調理場の方にいらっしゃいます」
「え、調理場?」
 私は全く想像していなかった場所を言われてしまったため、首を傾げた。

 商会があるこの建物は、元々貴族が住んでいた建物だったため、浴室や調理場等もある。
 でも、働いている人達はお弁当だったり、外に食べに行ったりするため、調理場はお湯を沸かしてお茶を入れるのがメインとなっていた。
 調理場と名がついているが、全く料理には使われていないのだ。

「ありがとうございます。行ってみますね!」
 私はお礼を告げ、調理場へと向かった。






 一階の奥にある調理場は、元貴族用だということもあって広々。
 昔ここでは様々な調理器具を駆使して豪華な料理が作られたのだろうけど、今は調理器具が無くがらんとしている。
 中央にある大きなステンレスの台の上には、小麦粉などの材料の他にボウルなどが置かれているのが見えた。

 私の探し人は、オーブン前に。
 エプロン姿のライは、私を視界に入れるやいなや、温かな笑みを浮かべて出迎えてくれた。

「ティア、お帰り」
「ただいま」
 なんだろう。ライにおかえりって言われると、ほっとする。
 そのため、自然と顔が緩んでいく。

「ごめんなさい! かなり遅れてしまって……」
 私が深く腰を折れば、優しく頭を撫でられる。

「ねぇ、ティア。顔を上げて。久しぶりにティアの顔を俺に見せてよ」
 私が顔を上げれば、ライはふわりと笑う。

「本当にごめんね……」
「気にしないで。それに、ティアはちゃんと連絡くれたじゃないか。オープン初日だから、色々あるだろうし。お菓子作ったりして過ごしていたから大丈夫だよ」
「お菓子?」
 そういえば、オーブンが動いている。
 初めてここのオーブンが使われているのを見た。

「ケーキを作っているんだよ。リストのところに行ったら、蜂蜜ケーキが食べたいから作って欲しいってリクエストを受けたんだ」
 お兄様がライにおねだりしたのか。本当に仲が良いなぁ。

「ここに来る途中に、気になって保養施設を覗いてきたが凄く賑わっていたな。ティア達の努力が形になって良かった」
「ライのお蔭もあるよ。資金援助してくれたから出来たんだもん」
「色々動いて形にしたのはティア達だよ。保養施設オープンのお祝い何が欲しい? なんでもいいよ」
「本当になんでもいい?」
「いいよ」
 私はライの言葉を聞くと、腕を伸ばして彼に抱きつく。
 自分の体とは違い、筋肉質で引き締まった体は大きくてしっかりしている。

「ティア?」
 私の突拍子もない行動に、ライから不思議がる声が届く。

「……ちょっと疲れちゃった。だから、ライの作ったご飯が食べたい。少しゆっくりしたいの」
「お安い御用だ。今日はゆっくり過ごそう」
 ライは喉で笑うと、腕を私へと回してぎゅっと抱きしめてくれた。





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