追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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グローリィ1

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 頭の中が真っ白になってしまっている。
 私の目の前に現れたのは、ライと以前神殿へ星を見に来た時に遭遇した幽霊と思われる少女。
 彼女とまた出会ったしまった。しかも、私がセス様に教えて貰ったおまじないを試した後に……
 あの時とは季節が変わってしまっているのに、彼女は服装は変わっていない。

「貴女、たしか前に神殿に星を見に来ていた子よね……? 時々花を持って来てくれている子だから覚えているわ。ねぇ、どうしてここにいるの? それに、どうして私の名前を?」
 彼女は困惑気味な表情を浮かべて私へと矢継ぎ早に質問してきた。

「実は元婚約者とその奥さんに拉致されてここに放置されたんです……縄で縛られていたけど、さっき蝋燭の火で縄を炙り解いたので逃げようかなって」
「炙った!?」
 彼女は信じられないものでも見るかのように私を見詰めている。

「セス様にもし神殿内部に入ってしまったら、『助けてグローリィ』と助けを求めれば良いっておまじないを教えて貰ったんです。神殿内部は迷路のように複雑だからって」
「セス様……貴女、彼を知っているのっ!?」
 彼女は目を大きく見開くと、私の両肩を掴んで前後に揺らし始めてしまう。

 てっきり彼女の正体は幽霊だと思っていたが、私に触れられているので人間だ。
 幽霊なら触れないだろうし。幽霊かと思ってちょっと怖かったので、私はほっと胸をなで下ろす。

「お願い、教えて。セス様ってセス=リハード様?」
「すみません、いつもセス様としか呼んでないのでフルネームはわからないんです。あの……ちょっと視界がぐるぐるして来たので、前後に揺らしている手を緩めて頂いても良いですか……? 気分が……」
「あっ、ごめんなさい。私ったら感情的になってしまって」
 彼女は慌てて私の肩から手を離したけど、「あれ? 私、触れることが出来たの?」と呟きながら自分の手を見ている。
 そういえば、前にセス様も同じような仕草をしたことがあった。初めて彼に出会った時に――

「ねぇ、私はどうして貴女に触れられるの? もしかして、貴女も幽霊?」
『も』って何!? やっぱり彼女は幽霊だったの!?
 何故、私が幽霊を視ることが出来ているのだろうか。もしかして、いつの間にか能力が開花?
 それとも、私も幽霊なの?

「い、生きています」
 私は自分の胸に手を当て、鼓動を感じながら答えた。

「貴女はもう死んでいるんですか?」
「えぇ、とっくの昔に。死後千数百年? それとも何百年かしら? 昔過ぎてわからないわ。ほら、あそこの祭壇で私はサズナ神の花嫁になったの」
「花嫁?」
 花嫁と死が一瞬結びつかなかったが、もしかしたら人身供養というものかもしれない。サズナ教に詳しくないため、そのような風習があったのかはわからないけれども。

「殺されたんですか?」
 そう訪ねれば、彼女は悲しそうな瞳を浮かべた。

「サズナ教が滅んだ今ならそう言えるかもしれない。でも、あの頃は違ったの。神託によりサズナ神の花嫁に選ばれた者は天界にいるサズナ神の元へ向かわねばならない。そのためには肉体は不要。昔はそれが名誉ある事だったの。たとえ、愛する人がいたとしてもね」
 彼女は首元から下げているチェーンを指先で引っ掻ければ、チェーンに通してあった指輪が窺えた。

 愛おしそうに指輪を見ていた彼女だが、その瞳には悲しさも宿している。
 きっとあの指輪は大切な人からの贈り物なのかもしれない。

「お相手の方は?」
「ここの神官様なの。博識でとても素敵な方だった。将来を誓い合っていたのに、私が花嫁に選ばれてしまったばかりに……」
 彼女は瞳を潤ませると、手で覆い始める。

「私のせいで彼は殺されてしまった。彼は私がサズナ神の花嫁に選ばれた件を反対したから。二人で駆け落ちするはずだったのに捕まってしまって……死んだら冥府にいるセス様に会って謝れると思っていたのに、私の魂はこの神殿内から動けない。だから、さっき貴女の口からセス様の名を聞き、感情的になってしまったの」
「……」
 え、まさかセス様も幽霊じゃないよね?
 私の脳裏にセス様幽霊説が浮かんだ。

 いろいろ考えてみれば、セス様は不思議な方だなぁと何度か思ったことがある。
 つき合いは一年と少し経つのに、彼が食べ物や飲み物も口にしたところを一度も見たことがない。
 お給料の代わりに神殿に花を飾って欲しいってお願いだったし。
 確かに幽霊ならお金は必要ないものなので、セス様の台詞の意味もわかる。

「セス様にグローリィさんの事を聞いてみます」
 私は彼女の背に手を添えて優しく撫でる。

「彼に聞くにしてもここから出なくては。王女達も捕えなきゃならないし」
「そうでした。犯罪者がこの神殿内に侵入していたんでしたよね」
 グローリィさんは涙を拭うと、表情を引き締めた。

「出口までご案内いたします。サズナ教の信者以外は、ここから出ることは絶対にできません。盗賊除けもかねて迷路のようになっているんです。さぁ、行きましょう」
 彼女が促してくれたので、私は「お願いします」と頼み足を進めた。



 


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