115 / 134
連載
グローリィ1
しおりを挟む
頭の中が真っ白になってしまっている。
私の目の前に現れたのは、ライと以前神殿へ星を見に来た時に遭遇した幽霊と思われる少女。
彼女とまた出会ったしまった。しかも、私がセス様に教えて貰ったおまじないを試した後に……
あの時とは季節が変わってしまっているのに、彼女は服装は変わっていない。
「貴女、たしか前に神殿に星を見に来ていた子よね……? 時々花を持って来てくれている子だから覚えているわ。ねぇ、どうしてここにいるの? それに、どうして私の名前を?」
彼女は困惑気味な表情を浮かべて私へと矢継ぎ早に質問してきた。
「実は元婚約者とその奥さんに拉致されてここに放置されたんです……縄で縛られていたけど、さっき蝋燭の火で縄を炙り解いたので逃げようかなって」
「炙った!?」
彼女は信じられないものでも見るかのように私を見詰めている。
「セス様にもし神殿内部に入ってしまったら、『助けてグローリィ』と助けを求めれば良いっておまじないを教えて貰ったんです。神殿内部は迷路のように複雑だからって」
「セス様……貴女、彼を知っているのっ!?」
彼女は目を大きく見開くと、私の両肩を掴んで前後に揺らし始めてしまう。
てっきり彼女の正体は幽霊だと思っていたが、私に触れられているので人間だ。
幽霊なら触れないだろうし。幽霊かと思ってちょっと怖かったので、私はほっと胸をなで下ろす。
「お願い、教えて。セス様ってセス=リハード様?」
「すみません、いつもセス様としか呼んでないのでフルネームはわからないんです。あの……ちょっと視界がぐるぐるして来たので、前後に揺らしている手を緩めて頂いても良いですか……? 気分が……」
「あっ、ごめんなさい。私ったら感情的になってしまって」
彼女は慌てて私の肩から手を離したけど、「あれ? 私、触れることが出来たの?」と呟きながら自分の手を見ている。
そういえば、前にセス様も同じような仕草をしたことがあった。初めて彼に出会った時に――
「ねぇ、私はどうして貴女に触れられるの? もしかして、貴女も幽霊?」
『も』って何!? やっぱり彼女は幽霊だったの!?
何故、私が幽霊を視ることが出来ているのだろうか。もしかして、いつの間にか能力が開花?
それとも、私も幽霊なの?
「い、生きています」
私は自分の胸に手を当て、鼓動を感じながら答えた。
「貴女はもう死んでいるんですか?」
「えぇ、とっくの昔に。死後千数百年? それとも何百年かしら? 昔過ぎてわからないわ。ほら、あそこの祭壇で私はサズナ神の花嫁になったの」
「花嫁?」
花嫁と死が一瞬結びつかなかったが、もしかしたら人身供養というものかもしれない。サズナ教に詳しくないため、そのような風習があったのかはわからないけれども。
「殺されたんですか?」
そう訪ねれば、彼女は悲しそうな瞳を浮かべた。
「サズナ教が滅んだ今ならそう言えるかもしれない。でも、あの頃は違ったの。神託によりサズナ神の花嫁に選ばれた者は天界にいるサズナ神の元へ向かわねばならない。そのためには肉体は不要。昔はそれが名誉ある事だったの。たとえ、愛する人がいたとしてもね」
彼女は首元から下げているチェーンを指先で引っ掻ければ、チェーンに通してあった指輪が窺えた。
愛おしそうに指輪を見ていた彼女だが、その瞳には悲しさも宿している。
きっとあの指輪は大切な人からの贈り物なのかもしれない。
「お相手の方は?」
「ここの神官様なの。博識でとても素敵な方だった。将来を誓い合っていたのに、私が花嫁に選ばれてしまったばかりに……」
彼女は瞳を潤ませると、手で覆い始める。
「私のせいで彼は殺されてしまった。彼は私がサズナ神の花嫁に選ばれた件を反対したから。二人で駆け落ちするはずだったのに捕まってしまって……死んだら冥府にいるセス様に会って謝れると思っていたのに、私の魂はこの神殿内から動けない。だから、さっき貴女の口からセス様の名を聞き、感情的になってしまったの」
「……」
え、まさかセス様も幽霊じゃないよね?
私の脳裏にセス様幽霊説が浮かんだ。
いろいろ考えてみれば、セス様は不思議な方だなぁと何度か思ったことがある。
つき合いは一年と少し経つのに、彼が食べ物や飲み物も口にしたところを一度も見たことがない。
お給料の代わりに神殿に花を飾って欲しいってお願いだったし。
確かに幽霊ならお金は必要ないものなので、セス様の台詞の意味もわかる。
「セス様にグローリィさんの事を聞いてみます」
私は彼女の背に手を添えて優しく撫でる。
「彼に聞くにしてもここから出なくては。王女達も捕えなきゃならないし」
「そうでした。犯罪者がこの神殿内に侵入していたんでしたよね」
グローリィさんは涙を拭うと、表情を引き締めた。
「出口までご案内いたします。サズナ教の信者以外は、ここから出ることは絶対にできません。盗賊除けもかねて迷路のようになっているんです。さぁ、行きましょう」
彼女が促してくれたので、私は「お願いします」と頼み足を進めた。
私の目の前に現れたのは、ライと以前神殿へ星を見に来た時に遭遇した幽霊と思われる少女。
彼女とまた出会ったしまった。しかも、私がセス様に教えて貰ったおまじないを試した後に……
あの時とは季節が変わってしまっているのに、彼女は服装は変わっていない。
「貴女、たしか前に神殿に星を見に来ていた子よね……? 時々花を持って来てくれている子だから覚えているわ。ねぇ、どうしてここにいるの? それに、どうして私の名前を?」
彼女は困惑気味な表情を浮かべて私へと矢継ぎ早に質問してきた。
「実は元婚約者とその奥さんに拉致されてここに放置されたんです……縄で縛られていたけど、さっき蝋燭の火で縄を炙り解いたので逃げようかなって」
「炙った!?」
彼女は信じられないものでも見るかのように私を見詰めている。
「セス様にもし神殿内部に入ってしまったら、『助けてグローリィ』と助けを求めれば良いっておまじないを教えて貰ったんです。神殿内部は迷路のように複雑だからって」
「セス様……貴女、彼を知っているのっ!?」
彼女は目を大きく見開くと、私の両肩を掴んで前後に揺らし始めてしまう。
てっきり彼女の正体は幽霊だと思っていたが、私に触れられているので人間だ。
幽霊なら触れないだろうし。幽霊かと思ってちょっと怖かったので、私はほっと胸をなで下ろす。
「お願い、教えて。セス様ってセス=リハード様?」
「すみません、いつもセス様としか呼んでないのでフルネームはわからないんです。あの……ちょっと視界がぐるぐるして来たので、前後に揺らしている手を緩めて頂いても良いですか……? 気分が……」
「あっ、ごめんなさい。私ったら感情的になってしまって」
彼女は慌てて私の肩から手を離したけど、「あれ? 私、触れることが出来たの?」と呟きながら自分の手を見ている。
そういえば、前にセス様も同じような仕草をしたことがあった。初めて彼に出会った時に――
「ねぇ、私はどうして貴女に触れられるの? もしかして、貴女も幽霊?」
『も』って何!? やっぱり彼女は幽霊だったの!?
何故、私が幽霊を視ることが出来ているのだろうか。もしかして、いつの間にか能力が開花?
それとも、私も幽霊なの?
「い、生きています」
私は自分の胸に手を当て、鼓動を感じながら答えた。
「貴女はもう死んでいるんですか?」
「えぇ、とっくの昔に。死後千数百年? それとも何百年かしら? 昔過ぎてわからないわ。ほら、あそこの祭壇で私はサズナ神の花嫁になったの」
「花嫁?」
花嫁と死が一瞬結びつかなかったが、もしかしたら人身供養というものかもしれない。サズナ教に詳しくないため、そのような風習があったのかはわからないけれども。
「殺されたんですか?」
そう訪ねれば、彼女は悲しそうな瞳を浮かべた。
「サズナ教が滅んだ今ならそう言えるかもしれない。でも、あの頃は違ったの。神託によりサズナ神の花嫁に選ばれた者は天界にいるサズナ神の元へ向かわねばならない。そのためには肉体は不要。昔はそれが名誉ある事だったの。たとえ、愛する人がいたとしてもね」
彼女は首元から下げているチェーンを指先で引っ掻ければ、チェーンに通してあった指輪が窺えた。
愛おしそうに指輪を見ていた彼女だが、その瞳には悲しさも宿している。
きっとあの指輪は大切な人からの贈り物なのかもしれない。
「お相手の方は?」
「ここの神官様なの。博識でとても素敵な方だった。将来を誓い合っていたのに、私が花嫁に選ばれてしまったばかりに……」
彼女は瞳を潤ませると、手で覆い始める。
「私のせいで彼は殺されてしまった。彼は私がサズナ神の花嫁に選ばれた件を反対したから。二人で駆け落ちするはずだったのに捕まってしまって……死んだら冥府にいるセス様に会って謝れると思っていたのに、私の魂はこの神殿内から動けない。だから、さっき貴女の口からセス様の名を聞き、感情的になってしまったの」
「……」
え、まさかセス様も幽霊じゃないよね?
私の脳裏にセス様幽霊説が浮かんだ。
いろいろ考えてみれば、セス様は不思議な方だなぁと何度か思ったことがある。
つき合いは一年と少し経つのに、彼が食べ物や飲み物も口にしたところを一度も見たことがない。
お給料の代わりに神殿に花を飾って欲しいってお願いだったし。
確かに幽霊ならお金は必要ないものなので、セス様の台詞の意味もわかる。
「セス様にグローリィさんの事を聞いてみます」
私は彼女の背に手を添えて優しく撫でる。
「彼に聞くにしてもここから出なくては。王女達も捕えなきゃならないし」
「そうでした。犯罪者がこの神殿内に侵入していたんでしたよね」
グローリィさんは涙を拭うと、表情を引き締めた。
「出口までご案内いたします。サズナ教の信者以外は、ここから出ることは絶対にできません。盗賊除けもかねて迷路のようになっているんです。さぁ、行きましょう」
彼女が促してくれたので、私は「お願いします」と頼み足を進めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。