追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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番外編(web版)

メディの恋~いつも見守ってくれていた私の騎士様~4

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 コルタが連れて来てくれたのは、私とお兄様が幼少期に過ごしていたアクオ地方にあるような大きな滝だった。
 川の淵を流れている水は透き通るように綺麗で、魚が泳いでいるのがはっきりとわかる。
 こんなにも綺麗な川は久しぶりに見たかもしれない。

 ――昔、お兄様とよく来ていたなぁ。

 幼少期の私とお兄様は闇の中にいたような日々だった。
 お父様が側室達の話を真に受けてお母様の不貞を疑い、その時に私とお兄様もお父様の子ではないと疑われ、お母様は私とお兄様の身の潔白を晴らすために自害。

 それだけではなく、私とお兄様は城を追放。
 アクオ地方に身を寄せた。

 突然奪われた母親と生活。
 私の衝撃は大きく塞ぎ込む日々。
 そんな私を心配したお兄様が気分転換にお弁当を持って何度も外に連れ出してくれ、私は少しずつ回復をしていった。
 お兄様も辛かったのに、そんな素振りを見せずに私の傍にいて明るく振る舞ってくれ……
 だから、お兄様には感謝しかない。

 昔聞いていたような川のせせらぎを聞いていると、不思議なことに張り詰めていたものが少しずつ落ち着いていく。
 幼少期を過ごした場所と似ているからかな?

 ぼーっと川を眺めていると、「メディ」と呼ばれ、私は弾かれたように振り返る。
 するとコルタが手にしていた籠を軽く掲げていた所だった。
 結構重量感がありそうな籠。


 中身はなんだろう?


 重そうなんだけれども、コルタは軽く持っている。
 他には、折り畳んだ布や水筒などの荷物も窺えた。

「昼飯を喰おうぜ。そろそろ昼だろ?」
「ごめん! 私、何も準備をしていなくて……」
「気にするな。俺が勝手に誘ったんだから。というか、連れ出したという方が適切か」
 コルタが苦笑いを浮かべる。

「私も手伝うよ」
「すぐ終わるから平気だ」
 コルタが言い終えると、てきぱきと厚手の布を地面に敷き準備をし始める。
 手慣れているのか、あっという間に彼は準備を終えてしまった。

 早い。手伝う隙がなかったわ。

「さぁ、座ってくれ」
「ありがとう」
 コルタに促され、私は席に座ることに。
 私達が座っている布の上にはお弁当の入った籠と水筒が乗っている。

 お弁当はハーブと塩を振りかけて焼いた白身魚とたっぷりの野菜を挟んだサンドイッチ。
 私の大好きな食べ物だ。
 サンドイッチの他に季節のフルーツもある。

「どうしてここに連れてきてくれたの……?」
「たまには外で食べるのも気分転換になるかなってさ。昔、ライナス様と時々ピクニックに行ったって前に聞いた事があったから」
 確かに前に少し話をしたような気がする。
 まさか、覚えていてくれたなんて。

 子供の頃、野生の小鳥と川のせせらぎを聞きながら、お兄様が作ってくれたお弁当を食べていたのが懐かしい。
 あのころ、お母様が亡くなって私の家族はお兄様だけ。
 よく泣いてお兄様を困らせていた。
 お兄様も寂しかったし、辛かったのに……

 そんな素振りを見せず私の面倒を見てくれた。

 だから、お兄様にはティアと幸せになって欲しい。
 なのに、私はまだお兄様に面倒をかけてしまっている。

「しっかりしなきゃならないよね……」
「あまり自分を追いつめるな」
「……うん」
 私は頷くとコルタが差し出してくれたハーブティーの入ったカップを手に取る。
 掌に伝わる暖かさとカモミールの優しい香りにほっとした。
 
 良い香り。なにがブレンドされているのかしら?
 カモミールだけではなく、他にも混ざっているみたい。
 ほんのりとちょっと癖のある甘みもあるから、リコリスも入っているのかも。

「おいしい!」
「良かった。サンドイッチも食え……って、悪い。俺、おしぼりを忘れてきたかも」
「川があるから大丈夫。ここの川はとても澄んでいるもの。昔ね、夏の暑い時にお兄様と野菜を川で冷やして食べたことがあったんだ。トマトがすごく美味しかったの」
 昔話をしながら私達は川へと向かう。

 澄んだ川を自由に泳ぎまわる魚を見て、捕まえられそうという錯覚に陥ってしまった。
 きっと素早いから無理なんだろうけど。

 掌を水に浸せば、ひんやりとした感触が伝う。

「つり道具でも持ってくれば良かったな。メディ、釣りはできるか?」
「えぇ。お兄様と昔やっていたわ」
「じゃあ、今度は釣り道具を持ってくるか」
 屈託なく笑うコルタを見て、私は胸に暖かさがじんわりと広がっていく。

 ――優しいなぁ。コルタ。お兄様みたいだわ。

「さて、今度こそ食べるか」
 手を洗った後。ハンカチで手を拭き、お弁当の元に向かうために振り返る。
 すると、目を疑う光景が広がっていた。

 目を離したのは数分。手を洗っている間のみ。
 その間に、お弁当が置かれている場所では異変が起こっていたらしい。

「猿……?」
 地面に敷かれた厚手の布の上には、私達の代わりに数匹の猿が座っている。
 しかも、お弁当籠に入っているサンドイッチやフルーツを凝視していた。

 猿がお弁当に手を伸ばしかけたので、「あっ!」と大声を上げれば、猿達が一斉にこちらに顔を向け出す。

 「やばっ」という表情を浮かべながら……

「猿って表情が豊かなのね。私、初めて見たわ」
「初めてなのか? 結構この辺りは猿がいるんだ。今度、猿が入っている温泉に行……じゃない! 俺がメディのために作った弁当がっ! いいか、おまえら食うなよ!」
 コルタが叫びながらお弁当の所に駆け出せば、猿が素早くお弁当箱からサンドイッチやフルーツをひょいひょいと取り、腕に抱えると颯爽とかけていく。

「返せよ!」
 コルタが猿達を追いかけているのだけれども、コルタよりも体が小さく小回りの効く猿達が彼を翻弄している。
 あっちに行ったり、こっちに行ったり。
 時にはフェイントをかけたりもしていた。

「ちょこまかと!」と叫びながら追いかけているコルタをしり目に、猿達はキャッキャッと楽しそう。
 まるで猿達がコルタと遊んでいるかのように。

 最初はどうしたら良いのかわからずに頭が真っ白になってしまったけど、途中から吹っ切れてしまったらしく、面白くなってしまい吹き出してしまう。

「……ふふっ」
 かわいい。なんか絵本みたい。

 口元を手で隠して笑っていると、猿達とコルタがこちらを見て固まった。
 突然笑い出してびっくりしているのかも。
 コルタは、どうした? という表情を浮かべ、おろおろとしながらこちらにやってきた。

「メ、メディ?」
 私は「笑ったりしてごめんなさい」と告げた。
 久しぶりに声を出して笑った気がする。
 目尻に浮かんだ涙を手で拭うと私は微笑む。

「ありがとう。久しぶりに笑ったよ」
「なんか格好悪いところを見せただけのような気が……」
「全然そんな事ないよ。ありがとう」
「弁当はとられたけど、メディが楽しかったならいいや」
 コルタはそう言って屈託なく笑った。






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