追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
128 / 134
番外編(web版)

メディの恋~いつも見守ってくれていた私の騎士様~6

しおりを挟む
「あの……やっぱりまた後に……」
「待ってください。ここで帰らないでくださいっ! 本当にお願いします。帰らないで! 団長、メディ様が来ていたのを後で知ったら、めっちゃがっかりしちゃいますから」
「そうですよ、いま団長のところにご案内しますので。さぁ、どうぞ中へ。男ばかりでむさ苦しいところですが」
「ですが、お仕事中だと聞いたので……」
「団長の仕事はそろそろ終わるので大丈夫ですよ。それに、慣れない書類処理で疲れていると思いますし。あの人、見たまんま頭より体を動かす派ですから」
「そうですよ、ぜひ会って行ってください。おいしいお茶も入れますから」
 つい先ほど薬草作りを終えたので帰宅することにしたんだけど、その前にコルタに報告しようと騎士団の建物へ立ち寄ったら、戻ってきた騎士達とばったり遭遇。

 
 コルタの姿が見えなかったので彼らに尋ねれば、どうやら今日は室内で一日中書類処理だったみたい。
 仕事はまだ終わっていないようだったので邪魔したら悪いとまた出直すことにすれば、みんなに全力で止められてしまっている……


「さぁ、どうぞ。団長室は二階です。今、ご案内しますね」
 騎士団の副団長・シェアさんに促され、「ありがとうございます」とお礼を言って足を踏み出した。

 コルタに報告したら邪魔にならないようにすぐに帰ろう。

 階段を上って一番奥にあるのが団長室らしく、扉に団長執務室と掘られたシルバーのプレートが掲げられている。
 中で物音が聞こえ、私はやっぱり仕事の邪魔になるよね……? と不安が過ぎってしまう。

 シェアさんは私に大丈夫ですよと微笑むと、「団長、いいですかー?」と言いながら扉をノックする。
 すると、「シェアか。勝手に入れ」というコルタの声が。

 私はその声を聞き、ほっとした。
 最近、なぜか不思議な事にコルタの声を聞くと落ち着くようになっている。

 いつも傍でコルタが守ってくれているから、彼の傍にいれば大丈夫なのかも? という感覚になっているのかな。

「メディ様、どうぞ。俺、あいつらがお茶の準備をちゃんとしているから見てきますので」
 そう言ってシェアさんが端に避けたため、私は頷いて扉を開く。
 すると、開けきった視界に入ってきたのはコルタの姿だった。

 執務机の上に置いている書類にペンを走らせている。
 視線はずっと紙面上に注がれ、私の存在に気づいていない。

 難しい仕事なのかな? なんか表情が曇っているわ。
 やっぱり日を改めた方が良いのかもしれない。
 でも、ここまで来たので挨拶だけでも……と思った私は、コルタに声をかけた。

「あの……コルタ。仕事中ごめんね」
「え、メディ!?」
 裏がえった声を上げながらコルタが立ち上がったせいで、彼の手中から書類がするりとすり抜けていく。
 はらりと花びらのように床に落ちた紙を見て、私はあわてて駆け寄り拾う。

「あぁ、いい。俺が拾うから。メディだったのか。シェアの声だと思ったんだが……」
「シェアさんは、今お茶を取りに向かったわ。さっき、ここまで案内してくれたの」
「そうか」
 私とコルタは書類を拾いながら話を続けていく。

「どうしてここに……?」
「レイと会ったの」
 私の言葉にコルタは書類へ伸ばした手をぴたりと止めてしまう。
 瞳を泳がせるとわずかに俯き、「そうか」と告げた。

「レイにちゃんとおめでとうって言ったの。だから、もう大丈夫。心配かけてごめんね。まだ完全ではないけれども区切りがついたわ。コルタのおかげだよ。ありがとう」
 私は微笑みながら、立ち上がると拾った書類を彼に返却した。
 すると、コルタも立ち上がり私へ腕を伸ばし、大きな手で何度か髪をなでるように梳いていく。

「いや、俺はなにもしてない。メディの力だ」
「ううん。気分転換にコルタはいろいろな所に連れていってくれたわ。私ね、休日が楽しくなったの。今日はどこに連れていってくれるのかなって」
 最初は無理矢理部屋から連れ出されたけど、最終的にはコルタと外出するのが楽しくなっていた。

 だから、彼のおかげだ。

 みんなそっと遠くから見守ってくれたけど、彼は傍で見守ってくれた。
 私の隣で。

 本当にコルタにはいろいろお世話になった。

 コルタも騎士の仕事で疲れているのに、休日や仕事が終わった後に私の所に来てくれたり……
 いろいろな所に連れて行ってくれ、この国・エタセルがもっと好きになった。


 ――精神的にレイの事は落ち着いたから、コルタと二人でどこかに行くことはなくなるのかな?


 そう考えると胸が痛んだ。
 彼と出かけるきっかけがなくなるのが寂しい。

「メディ?」
 私の異変に気づいたのか、コルタが近づき私の肩にそっと触れた。

「体調でも悪いのか?」
「ううん」
 言ってもいいのだろうか。
 また一緒に出かけてくれる? って。

 騎士の仕事って肉体を使うから、休日は休みたいはずだ。
 だから、私が誘ったら迷惑になりそう。
 コルタは優しいからきっと迷惑っては言わないだろうし。

「やっぱり、レイの事が……」
 コルタの辛そうな表情を見て、私は「違うの!」と言い首を左右に振る。
 誤解されたくない。ちゃんと区切りをつけたから。

 私はスカートをぎゅっと握りしめ、俯きながら唇を開く。

「あのね……私が大丈夫になったから、コルタと一緒に出かける日がなくなっちゃうかなって……そう思ったら寂しかったの……」
 ゆっくりと言葉を紡いだ。

 でも、コルタからの反応がなく、私は怖くなってそっと顔を上げる。
 すると、顔を真っ赤にさせたコルタと視線が交わった。

「ちょっと、その……待ってくれ。いま、こっち見ないで……嬉しすぎて」
 コルタが片手で顔を覆って私に背を向けてしまう。

 ど、どうしたら……?

 見ないでと言われたから見ない方が? と戸惑っていると、部屋をノックする音と共に、「お茶をお持ちしました」という元気なシェアさんの声が届く。
 コルタにはシェアさんの声が届かないみたい。

 いつまでも扉の前で待たせるのも悪いので、私がコルタの代わりに「どうぞ」と促せば、銀のトレイにティーポットとケーキをのせたシェアさんの姿が現れる。

「ちょうど良いタイミングで団長のお姉さんがケーキを差し入れしてくれたんです。おいしいですよ。このお店のケー――え、どういう状況?」
 シェアさんが窓際でこちらに背を向けているコルタを見て首を傾げた。







しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。