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番外編(web版)
メディの恋~いつも見守ってくれていた私の騎士様~6
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「あの……やっぱりまた後に……」
「待ってください。ここで帰らないでくださいっ! 本当にお願いします。帰らないで! 団長、メディ様が来ていたのを後で知ったら、めっちゃがっかりしちゃいますから」
「そうですよ、いま団長のところにご案内しますので。さぁ、どうぞ中へ。男ばかりでむさ苦しいところですが」
「ですが、お仕事中だと聞いたので……」
「団長の仕事はそろそろ終わるので大丈夫ですよ。それに、慣れない書類処理で疲れていると思いますし。あの人、見たまんま頭より体を動かす派ですから」
「そうですよ、ぜひ会って行ってください。おいしいお茶も入れますから」
つい先ほど薬草作りを終えたので帰宅することにしたんだけど、その前にコルタに報告しようと騎士団の建物へ立ち寄ったら、戻ってきた騎士達とばったり遭遇。
コルタの姿が見えなかったので彼らに尋ねれば、どうやら今日は室内で一日中書類処理だったみたい。
仕事はまだ終わっていないようだったので邪魔したら悪いとまた出直すことにすれば、みんなに全力で止められてしまっている……
「さぁ、どうぞ。団長室は二階です。今、ご案内しますね」
騎士団の副団長・シェアさんに促され、「ありがとうございます」とお礼を言って足を踏み出した。
コルタに報告したら邪魔にならないようにすぐに帰ろう。
階段を上って一番奥にあるのが団長室らしく、扉に団長執務室と掘られたシルバーのプレートが掲げられている。
中で物音が聞こえ、私はやっぱり仕事の邪魔になるよね……? と不安が過ぎってしまう。
シェアさんは私に大丈夫ですよと微笑むと、「団長、いいですかー?」と言いながら扉をノックする。
すると、「シェアか。勝手に入れ」というコルタの声が。
私はその声を聞き、ほっとした。
最近、なぜか不思議な事にコルタの声を聞くと落ち着くようになっている。
いつも傍でコルタが守ってくれているから、彼の傍にいれば大丈夫なのかも? という感覚になっているのかな。
「メディ様、どうぞ。俺、あいつらがお茶の準備をちゃんとしているから見てきますので」
そう言ってシェアさんが端に避けたため、私は頷いて扉を開く。
すると、開けきった視界に入ってきたのはコルタの姿だった。
執務机の上に置いている書類にペンを走らせている。
視線はずっと紙面上に注がれ、私の存在に気づいていない。
難しい仕事なのかな? なんか表情が曇っているわ。
やっぱり日を改めた方が良いのかもしれない。
でも、ここまで来たので挨拶だけでも……と思った私は、コルタに声をかけた。
「あの……コルタ。仕事中ごめんね」
「え、メディ!?」
裏がえった声を上げながらコルタが立ち上がったせいで、彼の手中から書類がするりとすり抜けていく。
はらりと花びらのように床に落ちた紙を見て、私はあわてて駆け寄り拾う。
「あぁ、いい。俺が拾うから。メディだったのか。シェアの声だと思ったんだが……」
「シェアさんは、今お茶を取りに向かったわ。さっき、ここまで案内してくれたの」
「そうか」
私とコルタは書類を拾いながら話を続けていく。
「どうしてここに……?」
「レイと会ったの」
私の言葉にコルタは書類へ伸ばした手をぴたりと止めてしまう。
瞳を泳がせるとわずかに俯き、「そうか」と告げた。
「レイにちゃんとおめでとうって言ったの。だから、もう大丈夫。心配かけてごめんね。まだ完全ではないけれども区切りがついたわ。コルタのおかげだよ。ありがとう」
私は微笑みながら、立ち上がると拾った書類を彼に返却した。
すると、コルタも立ち上がり私へ腕を伸ばし、大きな手で何度か髪をなでるように梳いていく。
「いや、俺はなにもしてない。メディの力だ」
「ううん。気分転換にコルタはいろいろな所に連れていってくれたわ。私ね、休日が楽しくなったの。今日はどこに連れていってくれるのかなって」
最初は無理矢理部屋から連れ出されたけど、最終的にはコルタと外出するのが楽しくなっていた。
だから、彼のおかげだ。
みんなそっと遠くから見守ってくれたけど、彼は傍で見守ってくれた。
私の隣で。
本当にコルタにはいろいろお世話になった。
コルタも騎士の仕事で疲れているのに、休日や仕事が終わった後に私の所に来てくれたり……
いろいろな所に連れて行ってくれ、この国・エタセルがもっと好きになった。
――精神的にレイの事は落ち着いたから、コルタと二人でどこかに行くことはなくなるのかな?
そう考えると胸が痛んだ。
彼と出かけるきっかけがなくなるのが寂しい。
「メディ?」
私の異変に気づいたのか、コルタが近づき私の肩にそっと触れた。
「体調でも悪いのか?」
「ううん」
言ってもいいのだろうか。
また一緒に出かけてくれる? って。
騎士の仕事って肉体を使うから、休日は休みたいはずだ。
だから、私が誘ったら迷惑になりそう。
コルタは優しいからきっと迷惑っては言わないだろうし。
「やっぱり、レイの事が……」
コルタの辛そうな表情を見て、私は「違うの!」と言い首を左右に振る。
誤解されたくない。ちゃんと区切りをつけたから。
私はスカートをぎゅっと握りしめ、俯きながら唇を開く。
「あのね……私が大丈夫になったから、コルタと一緒に出かける日がなくなっちゃうかなって……そう思ったら寂しかったの……」
ゆっくりと言葉を紡いだ。
でも、コルタからの反応がなく、私は怖くなってそっと顔を上げる。
すると、顔を真っ赤にさせたコルタと視線が交わった。
「ちょっと、その……待ってくれ。いま、こっち見ないで……嬉しすぎて」
コルタが片手で顔を覆って私に背を向けてしまう。
ど、どうしたら……?
見ないでと言われたから見ない方が? と戸惑っていると、部屋をノックする音と共に、「お茶をお持ちしました」という元気なシェアさんの声が届く。
コルタにはシェアさんの声が届かないみたい。
いつまでも扉の前で待たせるのも悪いので、私がコルタの代わりに「どうぞ」と促せば、銀のトレイにティーポットとケーキをのせたシェアさんの姿が現れる。
「ちょうど良いタイミングで団長のお姉さんがケーキを差し入れしてくれたんです。おいしいですよ。このお店のケー――え、どういう状況?」
シェアさんが窓際でこちらに背を向けているコルタを見て首を傾げた。
「待ってください。ここで帰らないでくださいっ! 本当にお願いします。帰らないで! 団長、メディ様が来ていたのを後で知ったら、めっちゃがっかりしちゃいますから」
「そうですよ、いま団長のところにご案内しますので。さぁ、どうぞ中へ。男ばかりでむさ苦しいところですが」
「ですが、お仕事中だと聞いたので……」
「団長の仕事はそろそろ終わるので大丈夫ですよ。それに、慣れない書類処理で疲れていると思いますし。あの人、見たまんま頭より体を動かす派ですから」
「そうですよ、ぜひ会って行ってください。おいしいお茶も入れますから」
つい先ほど薬草作りを終えたので帰宅することにしたんだけど、その前にコルタに報告しようと騎士団の建物へ立ち寄ったら、戻ってきた騎士達とばったり遭遇。
コルタの姿が見えなかったので彼らに尋ねれば、どうやら今日は室内で一日中書類処理だったみたい。
仕事はまだ終わっていないようだったので邪魔したら悪いとまた出直すことにすれば、みんなに全力で止められてしまっている……
「さぁ、どうぞ。団長室は二階です。今、ご案内しますね」
騎士団の副団長・シェアさんに促され、「ありがとうございます」とお礼を言って足を踏み出した。
コルタに報告したら邪魔にならないようにすぐに帰ろう。
階段を上って一番奥にあるのが団長室らしく、扉に団長執務室と掘られたシルバーのプレートが掲げられている。
中で物音が聞こえ、私はやっぱり仕事の邪魔になるよね……? と不安が過ぎってしまう。
シェアさんは私に大丈夫ですよと微笑むと、「団長、いいですかー?」と言いながら扉をノックする。
すると、「シェアか。勝手に入れ」というコルタの声が。
私はその声を聞き、ほっとした。
最近、なぜか不思議な事にコルタの声を聞くと落ち着くようになっている。
いつも傍でコルタが守ってくれているから、彼の傍にいれば大丈夫なのかも? という感覚になっているのかな。
「メディ様、どうぞ。俺、あいつらがお茶の準備をちゃんとしているから見てきますので」
そう言ってシェアさんが端に避けたため、私は頷いて扉を開く。
すると、開けきった視界に入ってきたのはコルタの姿だった。
執務机の上に置いている書類にペンを走らせている。
視線はずっと紙面上に注がれ、私の存在に気づいていない。
難しい仕事なのかな? なんか表情が曇っているわ。
やっぱり日を改めた方が良いのかもしれない。
でも、ここまで来たので挨拶だけでも……と思った私は、コルタに声をかけた。
「あの……コルタ。仕事中ごめんね」
「え、メディ!?」
裏がえった声を上げながらコルタが立ち上がったせいで、彼の手中から書類がするりとすり抜けていく。
はらりと花びらのように床に落ちた紙を見て、私はあわてて駆け寄り拾う。
「あぁ、いい。俺が拾うから。メディだったのか。シェアの声だと思ったんだが……」
「シェアさんは、今お茶を取りに向かったわ。さっき、ここまで案内してくれたの」
「そうか」
私とコルタは書類を拾いながら話を続けていく。
「どうしてここに……?」
「レイと会ったの」
私の言葉にコルタは書類へ伸ばした手をぴたりと止めてしまう。
瞳を泳がせるとわずかに俯き、「そうか」と告げた。
「レイにちゃんとおめでとうって言ったの。だから、もう大丈夫。心配かけてごめんね。まだ完全ではないけれども区切りがついたわ。コルタのおかげだよ。ありがとう」
私は微笑みながら、立ち上がると拾った書類を彼に返却した。
すると、コルタも立ち上がり私へ腕を伸ばし、大きな手で何度か髪をなでるように梳いていく。
「いや、俺はなにもしてない。メディの力だ」
「ううん。気分転換にコルタはいろいろな所に連れていってくれたわ。私ね、休日が楽しくなったの。今日はどこに連れていってくれるのかなって」
最初は無理矢理部屋から連れ出されたけど、最終的にはコルタと外出するのが楽しくなっていた。
だから、彼のおかげだ。
みんなそっと遠くから見守ってくれたけど、彼は傍で見守ってくれた。
私の隣で。
本当にコルタにはいろいろお世話になった。
コルタも騎士の仕事で疲れているのに、休日や仕事が終わった後に私の所に来てくれたり……
いろいろな所に連れて行ってくれ、この国・エタセルがもっと好きになった。
――精神的にレイの事は落ち着いたから、コルタと二人でどこかに行くことはなくなるのかな?
そう考えると胸が痛んだ。
彼と出かけるきっかけがなくなるのが寂しい。
「メディ?」
私の異変に気づいたのか、コルタが近づき私の肩にそっと触れた。
「体調でも悪いのか?」
「ううん」
言ってもいいのだろうか。
また一緒に出かけてくれる? って。
騎士の仕事って肉体を使うから、休日は休みたいはずだ。
だから、私が誘ったら迷惑になりそう。
コルタは優しいからきっと迷惑っては言わないだろうし。
「やっぱり、レイの事が……」
コルタの辛そうな表情を見て、私は「違うの!」と言い首を左右に振る。
誤解されたくない。ちゃんと区切りをつけたから。
私はスカートをぎゅっと握りしめ、俯きながら唇を開く。
「あのね……私が大丈夫になったから、コルタと一緒に出かける日がなくなっちゃうかなって……そう思ったら寂しかったの……」
ゆっくりと言葉を紡いだ。
でも、コルタからの反応がなく、私は怖くなってそっと顔を上げる。
すると、顔を真っ赤にさせたコルタと視線が交わった。
「ちょっと、その……待ってくれ。いま、こっち見ないで……嬉しすぎて」
コルタが片手で顔を覆って私に背を向けてしまう。
ど、どうしたら……?
見ないでと言われたから見ない方が? と戸惑っていると、部屋をノックする音と共に、「お茶をお持ちしました」という元気なシェアさんの声が届く。
コルタにはシェアさんの声が届かないみたい。
いつまでも扉の前で待たせるのも悪いので、私がコルタの代わりに「どうぞ」と促せば、銀のトレイにティーポットとケーキをのせたシェアさんの姿が現れる。
「ちょうど良いタイミングで団長のお姉さんがケーキを差し入れしてくれたんです。おいしいですよ。このお店のケー――え、どういう状況?」
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