命の犠牲と報酬

ハーマ

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失った命

指導者の死と指導者としての覚悟

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瑠依視点

「ピンポーン」

辰城が処刑され組織で火葬が行われた日……瑠依はとある家に土砂降りの雨の中傘もささずに趣きインターホンを押した……

???「兄さん?」

その家は辰城が住んでいた家……瑠依は双子の妹の辰城の妻である瑠樺と翔の居る場所……

瑠依「………瑠樺(るか)……済まない……辰城を助け出せなかった」

瑠樺「……中に入って兄さん  頭の怪我を治療しないと」

瑠依は頭から流れていた血を放置していた……それによってかなりの出血をし目の焦点が合っていない

瑠依「すぐに戻るから……ここでいい  翔君に伝言があるんだ」

瑠樺「兄さん………」

瑠樺は分かっていたのだ……傷だらけのその体に血の流れる頭……そして沈んだ声……兄が辰城の死ぬ所を間近で見ていたのだと……

瑠樺「翔  少し来て」

瑠依の身体を気遣った瑠樺が翔を呼び翔が瑠依の存在を確認すると玄関から出て瑠依の目の前に立つ

瑠依「すまない……辰城を助け出せなかった……」

瑠樺と同じ事を言いながら瑠依は翔に土下座した……約束していたのだ……辰城を助け出すと……

翔「謝らないで  確かにお父さんが死んだのは悲しいし辛いけど……一番辛いのは瑠依さんでしょ?お父さんの死ぬ所を目の前で見て僕達に謝りに来た……こんなに血も流して目の焦点が合っていないのに……瑠依さんはここに来てくれた……だからもう頭を上げて?前を見て歩いて?」

翔にそう言われて瑠依は頭を上げ立ち上がって翔を抱きしめる

瑠依「辰城からの伝言……  お前は俺の息子だ……堂々と胸を張れ……と……」

翔「有難う……瑠依さん」

翔への伝言を終え瑠依はフラフラと歩いて基地へ戻る

翔「全隊員に告ぐ辰城が処刑される直前に残した言葉を皆に伝える……2度は言わないからよく聞け  「政府軍は我ら革命軍の手によって敗北へと導かれる……この国の未来は必ずしも革命軍が導き出す……命の犠牲はいずれ命の報酬となる」……これを聞いた上で俺の指揮の元動く事を拒む者はここから去れ……誰も咎めん」

基地に戻り全放送でそう言った瞬間瑠依は放送を切るより先に血を吐いて失神し、異変に気がついた仲間達がその場に急ぎ出血多量と重症並びに重体の瑠依は即入院した……

???「…………」

???「拓海(たくみ)……瑠依君……」

拓海「澪城(れいぎ)も来たのか………今手術中だ……見るからに出血多量だったがそれ以外にもある」

余りにも身体がボロボロになっていた瑠依は手術にまで発展してしまい、話を聞きつけた「飛来(ひらい)」の首領の拓海とフリーの殺し屋の澪城が駆けつけたのだが……澪城は辰城の死を知っており悲しそうな瞳で拓海の隣に座る

仲間「瑠依さん  最後の最後迄抵抗してたんです……辰城さんが亡くなってからもどうやって遺体を持ってきたのかさえ不明ですが……相当な血を流していて……その状態のまま放置していたらしいんです」

不意に体に包帯を巻いた部下が飲み物と軽食を持ってきてくれて、気が付かぬ内に時間がかなり経っていたのだと拓海と澪城は実感するが……手術はまだ暫く終わりそうにない

拓海「何人の者が戦っていたんだ?」

部下「援護部隊隊員以外は全員です  その中で一番辰城さんに近かかったのが瑠依さん」

澪城「お前の息子らしい行動力だな  拓海」

慰める為に澪城はそう言ったのだろうが……拓海にとって1人息子を亡くした澪城のその言葉は辛さしか感じない

拓海「無理をするな澪城……お前もかなり辛いだろ」

澪城「俺のこれは親としてのものだ……瑠依君のはそれを遥かに超えていた……違うか?」

そう……瑠依は辰城の事に関して親友以上の愛を隠していた……

拓海「いつから知ってた」

澪城「情報屋を舐めるなよ  ……瑠樺ちゃんと辰城が結婚する前……まだ2人が汚れを知らなかった頃からだ」

拓海「随分と前から知ってたんだな」

澪城「拓海は辰城が無口なの知ってるだろ  辰城は昔から仕事だろうとなんだろうと多くは口にしない」

「だけど瑠依君相手では勝手が違う」と澪城は言う

澪城「瑠依君相手だと辰城はよく喋るしよく笑う……瑠樺でさえ辰城の笑った姿を見たのは数度だけ……つまり言えば辰城も瑠依君にしか見せない顔があった」

拓海「…………」

今の日本では同性愛が認められていない……その事を言うことが出来るのは家族だけで……辰城と瑠依は両片思いだったのだ……

澪城「拓海  お前は己の魂で契約する「魂の契約」と言うモノを知っているか?」

拓海「名前だけなら……」

澪城「魂の契約ってやつはな……その名の通り魂で契約を結ぶ事だ……辰城はそれを行なっていた……どう言う契約だったのかは俺も知らないが……片方の成約を果たせば時期が来ればもう片方の成約も果たされる……そして願いを叶えるためにはそれ相応の犠牲が付き物……辰城はその犠牲を払った……いずれ報酬が来る」

拓海「…………」

澪城の言葉に拓海は何も言わなかったが……その魂の契約の内容をなんとなく察す

澪城「手術終わったみたいだな」

拓海「瑠依……」

時間にして16時間にも及ぶ手術が終わり微かに意識のあった瑠依の名を拓海は呼ぶ

瑠依「親父……?」

なんとか誰なのかを理解した瑠依の目は焦点が会っていないが……確かに生きている

医者「病室に移しますのでご同行を」

拓海「はい」

医者の案内で拓海と澪城は瑠依と一緒に病室に入り瑠依は放心状態が続く

拓海「瑠依  瑠依……」

放心状態の瑠依に拓海は手を握って何度も名前を呼び応答を待つ……すると……

瑠依「そんなに呼ばずとも……生きてるよ」

とちゃんとした返事が返ってくる

瑠依「親父……俺さ……手術中夢を見てたんだ」

拓海「夢?」

弱々しく瑠依は言う……「夢を見た」と……

拓海「辰城と出会った日の記憶……他には一緒に飯くいに行った日とか……花見したりとか……お袋も出てきたと思う……」

拓海「そうか……」

瑠依「楽しかった……お袋が生きていて……親父もよく笑って……辰城も瑠樺も笑って皆で一緒に飯食えたあの日が……」

瑠依がそんな話をするのは何時だって弱りきっている時で……辰城の死が精神的に大分ダメージを与えていたのだろう……

瑠依「誰か革命軍の者は居る?」

ふと瑠依がそんなことを言い出したまたま様子を見に来ていた部下が瑠依の方に寄る

部下「ここにいます」

瑠依「人員は?」

部下「変わりありません  皆「副キャプテンに付いていく」と言っています」

部下の言葉に微かに笑みを見せた瑠依

瑠依「皆に……「無駄死には許さない  辰城が護ろうとしたこの国と人々を護り抜く……その為に使う命だと思え」と伝えてくれ」

部下「御意」

瑠依の言葉に敬意を称しつつも部下は部屋を出ていき瑠依は一息つく……やはり内部の怪我が痛いのか熱も出て少し汗をかいている

瑠依「………親父」

拓海「ん?」

瑠依「頭……撫でて……」

拓海「ああ……」

瑠依は人の温もりを欲した……辰城を失った悲しみと革命軍を指揮しなければならないプレッシャー……その二つが瑠依を苦しめ……少しでも苦しみを和らげてやろうと拓海は瑠依の願いを聞く

澪城「拓海  俺 瑠樺ちゃんに連絡してくるわ」

拓海「頼む」

流石にずっと立っているのも辛く椅子を持ってきて座りながら拓海は瑠依が眠りにつくまで頭を撫で続ける

~5分後~

瑠依「すーっ……」

澪城「寝たのか?」

拓海「ああ」

澪城「こうやって見ると拓海に酷く似ているな」

眠っている瑠依の表情は眠っている時の拓海によく似ていて本当に親子なんだなぁと澪城は思う

澪城「(まぁ……俺にはもう……寝顔を見て癒しを得られる人はいないけど……)」

辰城を失った瑠依と同様澪城もまた……孤独との戦いなのだ……

~数週間後~

拓海「くぉら!!!!!瑠依!!!!!!!!!」

瑠依「Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッ!!」

拓海「あのなぁ……まだ訓練するなって何度言えばわかるんだお前は!!!!!!!!!」

拓海の目を盗んで部下と訓練をしていた瑠依は鬼の形相の拓海に見つかり説教

拓海「革命軍を指揮しなければならないのは分かるが  まだ怪我が治ってないんだから訓練するな!!!!!!!!!」

瑠依「でも……」

拓海「でもじゃない!!!!!!!!!(`Δ´)!」

流石は組織の首領……説教にプレッシャーがある

部下「あまり責めないであげてください……俺が頼んだんです」

拓海「瑠依はまだ怪我が治ってないんだから訓練の申し込みも禁止!!!!分かったか!!!???」

2人「はい…………」

拓海「ったく……瑠依  見舞いのぶどう持ってきたから風呂入れるようなら入ってこい」

既に退院し自室に戻っていた瑠依だが拓海は親として心配なので組織を放置して見舞いによく来る

瑠依  親父って過保護っぽいけどああ見えても組織の首領なんだよなぁ……組織を放置して平気なのかよ……

などと思いながらも瑠依は自室の浴槽の中に入りシャワーを浴びる

~20分後~

瑠依「何か甘い匂いするなと思ったらやっぱりホットケーキ作ってた」

拓海「良いシロップが手に入ってな  葡萄(ぶどう)とラズベリー、メロン、苺(いちご)、チェリーのどれがいい?」

瑠依「俺葡萄がいい」

拓海「ほいよ…………タトゥー入れたのか?」

瑠依の背中には革命軍の象徴である鳳凰(ほうおう)が刻まれておりそれは「指導者」のみが許されるモノ……

瑠依「これからは指導者として生きていくからそれなりの覚悟がないと仲間はついてきてくれない  だからこれを入れてきを引き締めようと思ってさ」

拓海「そうか」

出来立てで熱々のホットケーキに葡萄を乗せてシロップをかけたのを瑠依に渡しながら、拓海は確かに瑠依の中に芽生えた指導者としての意識と覚悟をその目で見た

師匠『次世代の世界を動かすのは彼らだ』

と言う拓海の師匠の言葉は実現されたのだ……
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