サムライ×ドール

多晴

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~序~

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── かの島国に妖刀在り
   其は魔性の化身にして 人心惑わす禍物まがもの

   清浄なる郎月の光明のみ
   その邪気ざけ祓い清めんと言ひ継がひけり ──





楽園エデンを遠く離れ、人類が長い旅の末に行きついた東の最果て。
今この時より40年前──日出づる海に浮かぶ島国・ジパングは、未曽有の大災害に見舞われた。

突如大地が怒り狂うかの如く鳴動し、海の彼方より天を覆うばかりの水の壁が東南沿岸部に押し寄せた。この巨大な地震と津波により、広大な国土が悉く破壊し尽くされ、沿岸の多くの都市が海中に没し、そこに息づく文化や生活、そして数多の命が海の底へと攫われた。
被災した地域には当時ジパングの首都であり最大の都市であった『東京トキオ』も含まれており、国は大きく乱れることとなった。


皆が打ちひしがれる中、人々を先導したのは、かつてこの国を治めていたサムライと呼ばれる者たちだった。
黒船の来航以来、時代の流れの中で力を失い一度は表舞台から姿を消したサムライたちだったが、ある者は地方に封じられまたある者は新政府の官僚に姿を変えながらも、その魂を衰えさせること無く生き延び、力を蓄えていたのである。

サムライ達は武士道のもと強固な統率力を見せつけ、導かれた人々は失われた故郷を取り戻そうと奮起した。災厄を免れた各地から人と財を結集し、皆が手を取り合い国家再建のため立ち上がった。
そして、かつて大江戸湾と呼ばれた内海に海上巨大都市『新東京ノヴァ・トキオ』を建設し、そこを新たな首都とした。

このサムライ達の台頭に、かつての武家社会、いわば武士による軍事政権の復活ではないかと危惧する声も挙がったが、外ならぬ国民がサムライ達を支持した。
折しも、世界を二分する大国同士が諸外国を巻き込んで睨み合っており、一縷でも乱れる国あらばすかさずいずれかの侵略を受けるものと、全世界的に緊張が高まっていた時である。当時の政府にもはや混乱した国を守る力は無いと判断した国民たちは、この強く新たな指導者たちを諸手を挙げて迎え入れた。

サムライ達は新たな政府である『新東京幕府』を立ち上げ、その権力を確固たるものとしていった。
こうしてジパングは、再びサムライの手に委ねられることとなったのである。


またこの大災害は、人々の文化的意識にも大きな影響を及ぼした。
文明開化以降積極的に取り入れられてきた異国文化よりも、失われてしまったかつての自国独自の姿を取り戻そうとする気運が高まったのである。
技術の発展と伝統的な大江戸文化への回帰が同時並行的に起こり、新東京の街並みは過去と未来が入り混じり、世界に類を見ない独自の文化が形成されていった。

人々はスーツを脱いで再び帯を締めるようになり、電子煙管をふかしながらスマホをいじる。
住宅街ではIoTを導入した長屋が立ち並び、駅前では牛車のデザインを取り入れた全自動の乗合電気自動車が人々を乗せて整然と往来する。
街の中心部には屋根を唐破風で飾られた高層ビルが聳え立ち、その足元を風神をあしらった超電導列車が風切り音だけを伴って駆け抜ける。機械の島々を繋ぐ巨大な吊り橋や高架道路の上では、若者たちが夜な夜な機械の馬に跨り高らかに嘶きを響かせながら爆走する。
かつての大江戸を思わせる風景を最新技術をもって構成した、新たなジパングの街の姿がここに形作られていった。


後の世に『ジパング大破壊』と呼称されるかの大災害は、この国の永い歴史において、最も大きな爪痕にして転換点となったのである。





──そして、ジパング大破壊からちょうど40年後。

命和三年七月六日。七夕を明日に迎えようという、ある夏の夜。
新東京西部に位置する第15区『桃園谷《ももぞのだに》』のはずれで、あるサムライの屋敷から火の手が上がった。


無数に瞬く星々を挑発するかのように煌々と燃え上がる炎の中で、一筋の刃が三日月の如く煌めく。

青と金の二つの星が見つめる先で、その刃が振り下ろされ。

永い永い生命の進化の鎖が、今また戦いの火蓋と共に、静かに切られようとしていた──。





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