修学旅行のはずが突然異世界に！？

3章 ルダマン帝国編

第220話 近寄ってはならない領域

　琉海は宿の窓から飛び降りて、エアリスから聞いた場所を確認する。

「あれか……」

　琉海は精霊術で身体強化を施し、着地と同時に地面を蹴る。

「なッ！？　消えた！？」

　暴力的な膂力で地を蹴ったことで、彼らには琉海の姿が消えたように見えたのだろう。

　そして――

「ぐっ！」

「うぁっ！」

「がっ！」

　何が起きたのかわかる前に制圧された。

　隠れていた三人のうち二人は屍のように転がっている。

　そして、三人目は片手で首を掴み上げられた。

（な、なんなんだ。この力……化け物か）

　琉海の絶妙な力加減で呼吸はできるが、声が出せない。

　男が腕を引き剝がそうとするが、びくともしない。

「おい、誰の命令で来た？　皇帝か？」

「ううう……」

　声を出そうとしても出せない。

　だからといって、琉海も力を弱めるつもりもなかった。

　それを察したのか、首を持ち上げられている男は全力で頭を横に振った。

　皇帝ではないのか。

　まあ、皇帝が直接命令するなんてことはほとんどないか。

　なら、その配下たちだろうか。

　中央貴族の誰かってこともあるか。

　ルダマン帝国の政治事情はある程度レオンスたちに教えてもらっている。

「なら、中央貴族の誰かか？」

「…………ッ！」

　男の表情が一瞬変わったのを琉海は見逃さなかった。

（中央貴族か）

　現在のルダマン帝国の政権を握っているのは皇帝よりも中央貴族らしい。

　つまり、ルダマン帝国が狙ってきたということだ。

　これは計画が漏れたのだろうか。

　収容所の警備体制は薄くなっていないのか。

　様々な思考が葛藤を覚えさせる。

　琉海は心を落ち着かせるために大きく息を吐いた。

（焦っても仕方がない）

「まずはここをどうにかすることを考えろ」

　琉海は自分に言い聞かせて、首を掴んでいる右手に力を入れた。

「…………ッ！」

　沈黙させた男を地面に放り、琉海は他の隠れている者たちを探す。

『ルイ、そこから右隣の家の脇道にも三人いるわ』

　頭の中に直接聞こえてくる声。

「エアリスか」

　エアリスは宿の上から安宿の周辺を見渡しているようだ。

　琉海はエアリスのナビに従って、宿を囲っていた者たちを排除していく。

　さすがに半数が消えると、相手も危機感を覚えたのか、動きはじめた。
だが、琉海には逃がす気はなかった。