修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮

文字の大きさ
222 / 338
3章 ルダマン帝国編

第222話 雇い主

しおりを挟む
 琉海は何度も精霊術による電撃を流した。

 意識が飛ばないように威力を加減する。

 度重なる電撃に傭兵頭の目は怯えの色に染まっていた。

「もう一度聞く。どの貴族からなんて言われてきた」

「…………」

「言う気はないか。なら――」

 琉海がもう一度、電気を流そうとすると――

「わ、わかった……。い、言う。言うからもうやめてくれ……」

 完全に傭兵頭の心が折れた。

「た、たのむ……」

 頭を地面に突けて懇願する傭兵頭。

「なら、教えろ。お前らに命令しているのは誰だ?」

 装備がバラバラなところからこいつらは誰かに雇われたのだろうと琉海は推測して
いた。

「お、俺たちは傭兵だ。金で雇われたんだ。命令じゃねえ」

「なら、その雇用主は誰だ?」

「や、雇い主はハイルマン公爵家の長男――グライハルト・ハイルマンだ……」

「ハイルマン公爵家の長男……?」

 ハイルマン公爵は中央貴族を統率している人物。

 ハイルマン公爵の人相は事前にレオンスから似顔絵を見せられていたので把握していた。

 中央貴族や重要人物はすべて似顔絵が用意されていた。

 その似顔絵の中にハイルマン公爵家の長男の似顔絵はなかった。

 そこまで重要ではないという判断だったのだろう。

 しかし、琉海たちは現在狙われている。

 陽動に釣られずにこちらの目的を読まれたのだろうか。

 琉海がグライハルトのことを考えていると――

『ルイ! 西側の建物の屋根からこっちを見ている人間がいるわ』

「わかった。そこは俺が確認する。エアリスは守りを頼む」

 琉海は確認するために路地裏から一足飛びで屋根上に上った。

 整理術の身体能力強化を目に集中させる。

 視力が上がり、人影が見えた。

「あれか……」

 月明りが雲で遮られていて顔までは見えない。

「戦況を確認している監視か?」

 琉海は一気に加速させて接近する。

 死角から回り込もうとしたが、屋根の上にいるひとりが琉海の接近に気づいた。

「誰だ!?」

 相手も琉海の人影しか見えていないようだ。

 琉海は足を止めた。

 強行突破で一気に制圧することもできるが、万が一関係なかった場合、姿を見られては今後の動きに支障が出る。

 ここは会話で偶然かどうかを確認することにする。

 次第に雲が流され、月明りがお互いの姿を照らした。

「「「お前はッ!」」」

 お互いに知っている顔が目の前にいた。

(昼間に会った奴らがなんでここにいる?)

 琉海の眼前には昼間に因縁を付けてきた貴族とその護衛。

「な、なんでお前がここにいるんだ!」

 貴族の男が琉海を指さして叫ぶ。

「ここから離れてください。グライハルト様!」

 護衛の男が庇うように立った。

「グライハルト……お前がグライハルト・ハイルマンか」

 昼間に会った貴族がまさかのグライハルト・ハイルマン。

 あの時の印象から頭が良いようには思えなかった。

 そんな奴がこちらの作戦を読むことができたというのか。

 バカ貴族を演じていたならあり得るのかもしれない。

 もしくは、父親のハイルマン公爵の命令で傭兵の監視役を任されたのだろうか。

「ここで逃げろだと! ふざけるな! 俺はあいつが跪くところを見に来たんだぞ!」

「もう、それは叶わないかと……」

「はあ?」

 グライハルトは何を言っているんだという表情をする。

「あの少年がここにいるということは、用意した傭兵は全滅したと思ったほうが良いかと思います」

 ボレガスはそう言って、琉海へ視線を向ける。

 その視線には警戒と畏怖が混じっていた。

「ふざけるな! 平民があれだけの数を倒せるわけがないだろ! どうせ、逃げてきたんだ!」

 平民が自分たち、貴族より強いことを信じたくないようだ。

 そんな主人とは違い、ボレガスはそう思っていないようだ。

「その可能性はかなり低いです。じゃなかったら、この静かさの説明がつきません」

 ボレガスは辺りがあまりにも静かであることに気づいていたようだ。

 グライハルトの言い分が正しいのであれば、琉海を見失った傭兵たちが騒がしく周辺を探していなければおかしい。

 だが、琉海を探しているような人間はいない。

 人の出歩かない真夜中なら一目瞭然だった。

「くっ……」

 ボレガスの言葉に反論が浮かばないのか、グライハルトは歯を食いしばる。

 グライハルトも薄々はわかっていたのだろう。

 ただ、それを認めたくなかったのだ。

 平民よりも自分が劣っているという事実に。

「私ではほんの少ししか時間を稼ぐことができません。なので、今のうちに早くお逃げください」

 ボレガスはそう言って腰から剣を抜く。

 ボレガスの実力は、さきほど襲撃させた傭兵たちより少し上。

 そして、その少し上ぐらいでは、琉海を抑えることはできない。

 一戦交えればそこが死地になると自覚しているのだろう。

 ボレガスの覚悟が伝わったのかグライハルトは踵を返す。

「逃がすか」

 琉海は精霊術の身体強化による膂力に任せて走り出そうとした。

 その瞬間、琉海の頭上から矢が飛来してきた。

 琉海は一瞬の判断で動きを制止する。

 死角からの矢に気づいてなければ撃ち抜かれていた。

 それも普通の矢ではなさそうだ。

 琉海は矢の刺さっている足元を見る。

 そこには元々刺さっていたかと錯覚するほどぴったりと直立する矢があった。

 矢の周りには無駄な衝撃がないのかヒビすらない。

「そこまでよ!」

 女性の声が隣の家屋の屋根上から聞こえてきた。

 そこには、女性が弓に矢をつがえて構えていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...