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3章 ルダマン帝国編
第263話 命の駆け引き
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邪精霊がレバーを引いたことで発生した歪んだ空間の場所には円形の空洞が作りだされる。
空洞の中がどうなっているかはわからない。
ただ、琉海には逃げ道に見えた。
期せずして邪精霊のいる場所はエアリスよりも琉海のほうが近かった。
周囲の機械や装置のことを唯一知る情報源だ。
このまま邪精霊を放置してしまったら、逃がしてしまう。
琉海は邪精霊を捕まえるために駆けだした。
それを邪精霊も気づいたのだろう。
フードを被っているから邪精霊の顔を見ることはできないが、視線が合ったように思えた。
「私を追っていていいんですか?」
邪精霊から意味深な言葉が聞こえてくる。
一瞬、邪精霊が機械に視線を向けたように感じた。
その視線を追って琉海も機械が目に入る。
これは脅しなのだろうか。
救出したい者たちの生殺与奪権は相手が握っている。
下手な動きはできない。
守りたい者たちが捕らわれている現状、琉海は足を止めざるを得なかった。
遅れてエアリスもやってくる。
「エアリス! 止まれ!」
「どうして!?」
「あいつの手元を見ろ」
「くッ!?」
エアリスも邪精霊が装置に手をかけているのが見えたのだろう。
あの装置がアンリたちにどんな影響を与えるかわからない。
まずは相手の話を聞く。
「それでさっきの意味はどういうことだ」
「私が欲しかったのは魔力なんですが、もう、魔力は十分集まりました。彼らももう不要ですから、どうぞお返しします。ただ、魔力を吸収する出力を上げたので急がないと全員廃人になりますけどね」
「なッ!」
邪精霊の言っていることが本当なら、戦っている場合ではない。
だが、邪精霊が逃げるための虚言の可能性もある。
さらに、装置を外した瞬間、死ぬなんてことも起こり得る。
邪精霊の言っていることが本当である確証が琉海にはなかった。
そうなると、確証を得るには試すしかない。
「なら、取り外し方を教えろ」
「警戒心が高いですね。いいでしょう。その代わり、見逃してもらいますよ」
邪精霊はそう言って装置の取り外し方を教えてくれた。
邪精霊が言うには頭部に付けている装置から管を通して魔力を吸収しているそうだ。
だから、その頭部の装置を外せば魔力の吸収は防げるとのことだった。
ただ、逃げられないようにするため、頭部の装置から麻酔針を定期的に打たれているため、すぐに目を覚ますことはないとのことだった。
(すぐに目を覚まさないってのは厄介だな)
さっき見ただけでもかなりの数がいた。
全員助けたいが神様でも何でもないのだ。
助けたい者たちを優先して助ける。
とはいえ、助けられる命を見捨てるのも目覚めが悪い。
「考えている時間はないですよ」
邪精霊が琉海に揺さぶりをかけてくる。
琉海が邪精霊から視線を離すのを待っているのだろう。
(お前の思い通りになるつもりはない)
「リーリア、スミリア!」
「何?」
「今から俺が言うやり方で捕らわれている奴の装置を外してみてくれ。問題なく取り外せたら大声で教えてくれ」
琉海はリーリアとスミリアに邪精霊から聞いた装置の取り外し方を説明する。
その間も琉海は邪精霊から視線を外さない。
「わかったわ。任せて」
リーリアとスミリアの足音が遠ざかっていく。
二人は近くで拘束されている者の装置を外しに行ってくれているのだろう。
少し待っていると――
「問題ないみたい!」
リーリアから無事装置を外せた報告がくる。
「では、見逃してもらいましょうか」
「そんな約束をした覚えはないな」
邪精霊はやれやれと首を横に振った。
「まあ、そうでしょうね。でも、私に構っていたら、取返しのつかないことになりますよ」
邪精霊が不穏なことを言ってくる。
「装置が吸収している魔力はどんどん加速していきます。どんなに魔力が多くても10分持つかどうかですよ。助けられる命を捨てて私と鬼ごっこをやりますか?」
琉海の中で邪精霊と捕らわれている命を天秤にかける。
エアリスも琉海に視線を向ける。
「くそっ! エアリス、あいつは放っておいて救助を優先するぞ」
「仕方ないわね」
エアリスは琉海の言葉に頷き、邪精霊に視線を向けた。
「見逃してあげるのは今回限りよ」
エアリスはそう言い残して琉海の後を追う。
「そうですか。ありがとうございます」
邪精霊は悠々とお辞儀をして二人が立ち去るのを見送った。
そして、邪精霊は歪んだ空間の中へと消えていった。
空洞の中がどうなっているかはわからない。
ただ、琉海には逃げ道に見えた。
期せずして邪精霊のいる場所はエアリスよりも琉海のほうが近かった。
周囲の機械や装置のことを唯一知る情報源だ。
このまま邪精霊を放置してしまったら、逃がしてしまう。
琉海は邪精霊を捕まえるために駆けだした。
それを邪精霊も気づいたのだろう。
フードを被っているから邪精霊の顔を見ることはできないが、視線が合ったように思えた。
「私を追っていていいんですか?」
邪精霊から意味深な言葉が聞こえてくる。
一瞬、邪精霊が機械に視線を向けたように感じた。
その視線を追って琉海も機械が目に入る。
これは脅しなのだろうか。
救出したい者たちの生殺与奪権は相手が握っている。
下手な動きはできない。
守りたい者たちが捕らわれている現状、琉海は足を止めざるを得なかった。
遅れてエアリスもやってくる。
「エアリス! 止まれ!」
「どうして!?」
「あいつの手元を見ろ」
「くッ!?」
エアリスも邪精霊が装置に手をかけているのが見えたのだろう。
あの装置がアンリたちにどんな影響を与えるかわからない。
まずは相手の話を聞く。
「それでさっきの意味はどういうことだ」
「私が欲しかったのは魔力なんですが、もう、魔力は十分集まりました。彼らももう不要ですから、どうぞお返しします。ただ、魔力を吸収する出力を上げたので急がないと全員廃人になりますけどね」
「なッ!」
邪精霊の言っていることが本当なら、戦っている場合ではない。
だが、邪精霊が逃げるための虚言の可能性もある。
さらに、装置を外した瞬間、死ぬなんてことも起こり得る。
邪精霊の言っていることが本当である確証が琉海にはなかった。
そうなると、確証を得るには試すしかない。
「なら、取り外し方を教えろ」
「警戒心が高いですね。いいでしょう。その代わり、見逃してもらいますよ」
邪精霊はそう言って装置の取り外し方を教えてくれた。
邪精霊が言うには頭部に付けている装置から管を通して魔力を吸収しているそうだ。
だから、その頭部の装置を外せば魔力の吸収は防げるとのことだった。
ただ、逃げられないようにするため、頭部の装置から麻酔針を定期的に打たれているため、すぐに目を覚ますことはないとのことだった。
(すぐに目を覚まさないってのは厄介だな)
さっき見ただけでもかなりの数がいた。
全員助けたいが神様でも何でもないのだ。
助けたい者たちを優先して助ける。
とはいえ、助けられる命を見捨てるのも目覚めが悪い。
「考えている時間はないですよ」
邪精霊が琉海に揺さぶりをかけてくる。
琉海が邪精霊から視線を離すのを待っているのだろう。
(お前の思い通りになるつもりはない)
「リーリア、スミリア!」
「何?」
「今から俺が言うやり方で捕らわれている奴の装置を外してみてくれ。問題なく取り外せたら大声で教えてくれ」
琉海はリーリアとスミリアに邪精霊から聞いた装置の取り外し方を説明する。
その間も琉海は邪精霊から視線を外さない。
「わかったわ。任せて」
リーリアとスミリアの足音が遠ざかっていく。
二人は近くで拘束されている者の装置を外しに行ってくれているのだろう。
少し待っていると――
「問題ないみたい!」
リーリアから無事装置を外せた報告がくる。
「では、見逃してもらいましょうか」
「そんな約束をした覚えはないな」
邪精霊はやれやれと首を横に振った。
「まあ、そうでしょうね。でも、私に構っていたら、取返しのつかないことになりますよ」
邪精霊が不穏なことを言ってくる。
「装置が吸収している魔力はどんどん加速していきます。どんなに魔力が多くても10分持つかどうかですよ。助けられる命を捨てて私と鬼ごっこをやりますか?」
琉海の中で邪精霊と捕らわれている命を天秤にかける。
エアリスも琉海に視線を向ける。
「くそっ! エアリス、あいつは放っておいて救助を優先するぞ」
「仕方ないわね」
エアリスは琉海の言葉に頷き、邪精霊に視線を向けた。
「見逃してあげるのは今回限りよ」
エアリスはそう言い残して琉海の後を追う。
「そうですか。ありがとうございます」
邪精霊は悠々とお辞儀をして二人が立ち去るのを見送った。
そして、邪精霊は歪んだ空間の中へと消えていった。
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