龍の末裔

いずみ

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九条春徒

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 ふっと、机の上に影が出来る。
「珍しい組み合わせだね」
「雷、どうした。お前まで食堂なんて珍しいな」
「どうも」
 食堂のざわめきが大きくなった。そりゃそうだ、三条雷(さんじょうらい)はモデルをしているほどの美形だ。有名人だがあまりモデルの仕事で学校には来ていないと聞いている。
 一条が三条と話している。私は頭を一度下げて三条を見た。金髪碧眼のシミが一つない白い肌に高い背はスラリとしている。立っているだけで目がいってしまう、美形。流石はモデルと言っていい。
 三条は私の横の席の椅子を動かしている。
「俺も一緒に食べてもいいかな? 九条玲さん」
「構わない、ココは別に指定席ではないからな」
 私がそういうと三条は席に座って、カツ定食の乗ったおぼんを机の上に置いた。
「ねぇ、本当にモデルの仕事に興味ないの?」
「そんな昔話、いつまで言っている。私はそんな事には興味がないので」
「絶対に有名に慣れるよ! 玲ちゃんは女なのにそこら辺の男共よりもカッコいいしさ、俺ももっと一緒に居たいと思っていたから、また誘っちゃった!」
「悪いな、やる事が沢山あって無理だ」
「えー、全国模試は五位以内で、部活に入っていないのに?」
「何事も、手を抜くつもりはないからな」
「カッコいい! 玲ちゃんってば、カッコいいのにオムライス食べてて可愛いけど」
「黙って食え!」
「はーい」
 私と三条の話を一条はポカーンと口を開けてみて聞いていた。
「えっと、雷ってば玲と仲いいの?」
 九条は何故か焦った様な顔をしていた。どうしたんだ、突然。
「えーっと、俺は玲の親友だよ」
「違うだろうが、ただの親戚だろうが!」
「なんだ、ただの親戚か」
 何故かほっとしている一条。なんなんだ、一体?
「けど、俺達さ親戚同士だけど婚約の話とか来るよね~」
「私は断っている。好きな人と結婚したいからな」
「え~、俺は玲ちゃんなら結婚してもいいよ~」
 その言葉を聞いていた周りは悲鳴をあげた。「嘘っ!」とか「いやぁあああ!」とか、もう本当に煩い悲鳴が女性からも男性から聞こえた。まぁ、見た目がこんな美形なのだから中身はどんな奴か知らないのだろう。
 三条雷は三条家の次期当主となる人間だ。三条家は家族内でドロドロしている。本妻がいるが愛人が10人もいる当主で、唯一本妻との子供がこの雷なのだ。見た目は美しいが中身は人嫌いで有名だ。そんな奴が結婚というキーワードを出すだと? どうしたんだ。一体?
「私は食べたので、教室に戻るよ」
「えー、玲ちゃんとおしゃべりしたいな」
 ニコリと笑って来るので、私も笑顔を返した。
「お二人でゆっくりどうぞ。私はこれで失礼します」
 どうも、私の顔は好き嫌いがなく、ほぼ9割の人間に好かれる顔だった。
 一条も三条も顔を赤くしてこちらを見て固まっていた。
 本当に物好きばかりだ、こんな顔が好きだなんてな。
 私は父に似ている。だが、父は初代の九条家当主の顔にとても似ているらしい。
 私がその父の顔を受け継いでいる。性別が男だったら、私は自分で自害していたかもしれない。それ位に、私はこの顔が嫌いだ。
 父はいい父だ。だが、初代がした事は許しがたい!
 この国に公爵が許されているのが十条家だけなのには意味がある。
 そう、それを創りあげたのが初代九条家の当主だった男、九条春徒(くじょうはると)。
 この男の罪が自分の中にあると思うだけで、女性だったことに感謝する。
 この男の罪を知っているのは現在私だけだ。
 たまたま知ってしまったのだ。幼い頃に。今でも思い出す。あの光景と言葉を!
 廊下を歩いているのに、まるで泥沼に足をとられている様に感じる。
 足が重い。
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