何でも屋

ポテトバサー

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第五章:拝啓万屋御一同様

馬を持て!

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知哉「入札してたファンと成金共が全員捕まってよかったな」

修「あぁそうだな、にしてもあれだな、俺達がいなくても大丈夫そうだったよな」

 何でも屋の事務所では、五人が事件の事を振り返っていた。それぞれの事務イスに腰を掛け、煎餅をパリポリやりながら。

重「でもさ、大岡さんが言ってたじゃない、『皆さんがいなければ大変なことになっていたかもしれません』ってさ」

渡「お世辞だよ、お世辞」

椎名「それにしても重君には驚かされたよぉ、すごく強いし……」

重「いやぁ、そんなぁ……」

椎名「いつもより変だったしさぁ」

重「………………」

 重は何も言わず、目を細めたまま椎名の事を見つめ続ける。椎名はお茶を口にしようとしていたが、重の視線に気がつき、慌てて発言を訂正した。

椎名「あ、ゴメンゴメン、『いつもより変』じゃなかった』

重「そうですよ」

椎名「いつもとかわらず変…」

重「オイ修! 硬水をもってこい! いまこのオトボケピエロを成敗してやるから!」

 その時、引き戸が音を立てた。

健一「こんにちは……」

 健一が申し訳なさそうな声で挨拶をしながら入ってきた。

知哉「おう、健一君、早く中に入って温まりなよ」

健一「ありがとうございます」

 知哉が健一を招き入れていると、もう一人の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

進之助「どうもこんにちは……」

修「おう、進之助、中に入って温まろうなんて思わないで、外にいたまま風邪ひきな?」

進之助「どうも、ありがとうございます。いやぁ、外は寒くて心持がいい…… この野郎!」

 進之助は中に入り、引き戸をピシャッと閉めると修に詰め寄った。

進之助「オイなんだ!? 俺に恨みでもあんのか!」

修「あれぇ?」

進之助「あれぇじゃねぇんだよ!」

 進之助は優しくトランクを置いてからソファーにふんぞり返った。

進之助「まったく、おまいらときたらよ! んで? 何の話だよ?」

知哉「お二人さんがウチに来たんだろ!」

進之助「そうだった、そいじゃ青年」

健一「はい」

 健一は促され座っていたソファーから立ち上がると、姿勢を正した。また、それを見ていた進之助と何でも屋達も姿勢を正した。

健一「この度は、千代子を無事に救出でき、そして他の女性の皆さんも救出でき、さらには雨宮の悪徳事務所も壊滅と、皆さんには感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございました!」

 健一は感謝の言葉をのべると頭を垂れた。

渡「これはご丁寧に……」
椎名「事なきを得られまして……」
修「いやぁ、まぁ、どういたしまして……」
知哉「あ、いや、こりゃどうも……」
重「これが、なかなか、どうして……」
進之助「こりは、どうも、すったもんだで……」

 訳の分からない進之助の言葉に、知哉は思わず吹き出してしまった。

知哉「何なんだよそりゃ? ったく、すったもんだなのはお前のツラだろ!」

進之助「知哉に言われたかねぇや」

重「そりゃそうだ」

知哉「何だってんだ!」

 騒ぎ出す三人を渡が注意する。

渡「ちょっといい加減にしなさいよ修!」

修「そうだ静か‥ 何で俺なんだよ! 俺は黙ってたろ!」

 うるさい五人を無視した椎名は健一に話しかけた。

椎名「それで…… 千代子ちゃんはモチロンなんだけど、他のメンバーやアイドルの人とか、あと練習生の人たちはこれからどうするのかな?」

 椎名の質問に、騒いでいた五人は自然と大人しくなった。

健一「それについては進之助さんから説明があります。お願いします進之助さん」

進之助「よし、そいじゃ説明するかな…… まず、今後の身の振り方なんだけどよ。とりあえずアイドル、まぁ芸能界に居続けるかどうかを聞いてな? 続けるってお嬢さんは俺が、他の仕事をってお嬢さんは麻衣お姉様が担当して職探しを手伝ってるって状況だ。まぁ‥」

渡「ちょい待った」

 不安になる名前を聞いた渡は進之助の話をさえぎった。

進之助「なんでぇ教授さん、話の腰をボキッと折ってくれちゃって」

渡「いまさ、麻衣って言った?」

進之助「言ったよ。教授さんのお姉様のことだけど、何かあんのか?」

渡「ちょっと! 俺の姉貴にそんなこと頼んだの!? 勘弁してよぉ……」

進之助「麻衣お姉様は『彼女たちはバカな男どもにひどい目に遭わされたんだから、これからは男どもが彼女たちの前にひれ伏す番なのよ!』って言ってたな」

渡「言ってたな、じゃないよ! ……そうだ、何か見返りを要求してなかった?」

進之助「別に。ただよ修」

修「ん?」

進之助「再来週の日曜日、空けとけよ?」

修「おう、ちょっと待てよ、おい! ウソだろ?」

進之助「朝の六時には迎えをよこすってよ」

修「早い早いよ時間がぁ! 一日たっぷりご機嫌伺いかよぉ!」

渡「ふぅ、俺に関係なくてよかった」

修「関係あるだろ!」

渡「進ちゃん、話を進めて」

進之助「おう。んで芸能界には俺の師匠、ゲーリー山岡師匠に知り合いが多いから頼んでおいたし、あれだけの会社を仕切ってる麻衣お姉様なら就職先だけじゃなく、いろんなことをアドバイスしてくれるだろ。まぁ、いざって時はおまいら何でも屋もいるしな」

 修は『再来週の日曜』の件で複雑な表情のまま話を聞いている。

進之助「ん?」

 気付いた進之助はすぐさま話を変えた。

進之助「そ、それでだな! 千代子ちゃん達のことなんだけどよ。おい、青年!」

健一「はいっ! それでは皆さん、お願いしまーす!」

 健一の呼びかけに引き戸は勢いよく開かれ、千代子を先頭にふるーつミントが事務所内に入ってきた。

進之助「よっ! 待ってました!」

 ふるーつミントは横一列に並ぶとアイドル特有のあいさつを始めた。

赤「勇気リンリン真っ赤な・ぷるぱ!」

緑「急な雨にも元気な・まぁたん!」

黄「もたれた心に爽やか・りもん!」

桃「ちょ、ちょっぴり照れ屋の末っ子・すもも!」

紫「甘さ控えめ大人な・ちょこ!」

ふるミン「五人合わせて、ふるーつミントEXです!」

 あいさつが終わると、健一は何でも屋達の方へ顔を戻した。

健一「と、いうことです」

修「いや、どういうことなんだよ!」

進之助「ったく、飲み込みの悪いやつだな修も。いいか? つまり、『ふるーつミント』はご当地アイドルの『ふるーつミントEX』として生まれ変わったんだよ」

 腕を組み、偉そうにする進之助。なんかムカつく修。

進之助「えーっと、あぁそうだそうだ、続きをどうぞ」

 そう言われたふるミンEXのリーダー・ぷるぱは頷き、何でも屋達に一礼をしてから話し始めた。

ぷるぱ「この度は、私たちふるーつミントEX、その他のアイドルグループや練習生が大変お世話になり、本当にありがとうございました!」

 ぷるぱに続いて礼を言う他のメンバー。

ぷるぱ「それでは皆さんにちょこから、いえ、千代子からあいさつがあります。それじゃ……」

 ぷるぱに促された千代子は、一歩前に出て一礼してから話し始めた。

千代子「皆様、この度は本当にありがとうございました。何でも屋の皆さんは正規のお仕事でもないのにも関わらず、私たちのために命懸けで事に当たってくださり、進さんは就職先や所属先を探してくださって……」

 千代子は震えた声を振り絞り、話し続ける。

千代子「健一…… 健一君は私なんかの為に懸命に走り回って、叱ってくれて、支えてくれて。そんな皆様の温かいお気持ちを無駄にすることなく、ご当地アイドルとしてメンバー達と共に一から頑張っていきます。繰り返しになってしまいますが、本当にありがとうございました!」

ふミEX『ありがとうございました!』

 千代子たちが深々と頭を下げると、進之助は笑顔のままで何度も頷き、拍手を始めだした。そんな進之助に何でも屋達と健一は顔を見合わせた後、声援と拍手を彼女たちに送った。

健一「それじゃ、そろそろ……」

 頃合いを見計った健一は言った。

重「あれ? これから何かあるの?」

健一「はい。これから僕の店があるポンポコ商店街の年末イベントに出てもらうことが決まっていまして」

修「おう健一君、今からで間に合うのかい?」

健一「えぇ、外に車を待たせてあるので大丈夫です」

修「そうか」

 健一とふるミンEXは事務所の外へと歩き出す。もちろん、進之助と何でも屋たちも後に続いてぞろぞろと歩き出し、何でも屋たちが外に出きった時には、ふるミンEXはベンチコートを羽織って車に乗っていた。

知哉「健一君はマネージャーにでもなったのか?」

健一「ははっ、違いますよ。商店街のイベント実行委員なんです」

知哉「あぁ、そういうことか」

 二人が話していると、最後部に座っていた千代子が窓を開けた。

千代子「進さん!」

 呼ばれた進之助は素早く近づいた。

進之助「どうしたい?」

 朗らかな笑顔を見せる進之助。千代子はいろいろ話そうと思っていたが、進之助を信用するきっかけとなった笑顔を見た途端、その考えは薄らぎ消えてしまった。代わりに出てきたのは、進之助が千代子を応援するきっかけとなった笑顔と簡単な言葉だった。

千代子「私、頑張る!」

進之助「うん、無理だけはしちゃいけないよ?」

千代子「はい!」

 別れのあいさつが終わると、進之助は健一に目で合図を出した。出された健一は小さく頷いた。

健一「それじゃ…」

修「おう」

 健一は何でも屋達に頭を下げると助手席に乗りこみ、運転手に車をゆっくり出すように頼んだ。

健一「お願いします」

 その言葉をきっかけにワゴン車は静かに走り出す。後部の窓から手を振り続けるアイドル達が少しずつ遠くなっていく。何でも屋達と一緒に手を振り声援を送る進之助は、アイドルとはそういうものなんだ、と妙に納得していた。

渡「さあて!」

 ワゴン車が見えなくなり、少しの余韻を爽やかに切り替えるかのように渡は声を出した。

渡「本来の仕事に戻るとしますか!」

 大きく伸びをしながらの発言に、修と知哉は目を細くさせて渡を見た。しかし重は素直に声に出した。

重「いやぁ、そりゃちょっとねぇ」

渡「なに?」

重「聞いてるコッチが恥ずかしいよね」

渡「だから何が?」

重「なーにが『戻るとしますか!』なんだ! ドラマの主人公みたいな言い方してさ、どこぞの演技派俳優ですみたいな顔して!」

渡「べつに‥」

重「だいたいねぇ、演技派って何よ? 俳優なんだから演技して当たり前だろ! 事務所のゴリ押しでテレビ出てるくせに勘違いしてイキがるな!」

修「何の話だよ!」

 見かねた修が間に入る。

知哉「ったく大先生はすぐに話が膨れていくんだからよ」

修「ホントだよ。あのまま喋っててみろ、宇宙の話はじめるぞ?」

 二人はグチグチ言いながら事務所の中へ戻っていく。

重「誰がお話風船野郎だって!? ほら、黙ってないで大根役者もなんか言ってやれ!」

渡「よーし、言ってや、誰が大根役者だ!」

 そう言って二人も事務所に入っていく。四人のやり取りをケタケタ笑いながら見ていた椎名も事務所に戻ろうとした。が、夢に向かう若者たちが去っていった道を感慨深そうに見つめ続ける進之助に気がついた。

椎名「……進之助君?」

進之助「………」

椎名「進之助君!」

進之助「あ、はい?」

椎名「良かったね」

進之助「……はい、本当に良かったです」

椎名「それで、進之助君も本来の仕事に戻るの?」

進之助「本来の仕事?」

椎名「うん、そう」

 進之助の脳内カレンダーと脳内手帳が急に動き出した。パラパラペラペラと音を立てたカレンダーと手帳は、進之助に驚きの報告をしたのだった。

進之助「ギャー!」

 空に向かってバカデカい大声を上げた進之助は、椎名の両肩を掴むと揺らし続ける。そしてまた大声を上げようと大きく息を吸い込んだ。

進之助「ギャー!」

 ただ単にもう一度同じように叫ぶと、進之助は慌ただしく事務所の中に入っていった。

修「ギャーギャーうるせぇな」

進之助「おい、おまいら! 何をのんきにしてんだよ! 急いで出かける支度をしろよ!」

知哉「なんだっつーんだよ」

 進之助はイスやソファーに座っていた何でも屋達の腕を引っ張り、次々と立たせていく。

渡「だからどうしたの!」

進之助「どうしたもこうしたもねぇって! 俺は今日、出発の日なんだよ! しかもその前にはきよしのとこにも顔を出さなきゃいけねぇんだから!」

 今度は、立たせた何でも屋達を椎名のいる外へと押し出そうとする進之助。

修「ちょっと待てって!」

知哉「押すなよ!」

進之助「口をきいてないでさっさと出る!」

渡「わかったから落ち着きなさいよ!」

進之助「いいから出る! おい大先生! そんなとこで逆立ちしてる場合か!」

重「それはモップだよ!」

 モップと間違えられた重も、進之助によって外へと押し出された。

進之助「早くしろよ!」

修「わかってるよ! だからいま戸締りしてんだろ!」

渡「あっ、窓空いてる!」

進之助「何を‥ 早くしろって!」

知哉「お前がかすからだバカ!」

 鍵を開け、渡が窓を閉めて戻ってくると、修は再び鍵を閉めた。

進之助「終わったな? 準備は良いな?」

修「出来たよ!」

進之助「よし、馬を持て!」

 と、進之助が言った瞬間に、椎名以外の四人から軽くモミクチャにされたのは言うまでもない。
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