僕と彼女と彼女の嫁と

日常1 ～彼女と僕と彼女の嫁と～

「なあ、啓太！見てくれ！嫁が尊い！」

「啓太」というのは僕の名前だ。
 そして、目の前で漫画の新刊を握りしめ、熱く好きなキャラを語っているこの人は「京子さん」。
 僕は少し投げやりにそちらを見た。
ああ、第2夫人か。
 京子さんと付き合い始めてから知ったことだが、自分が好きなキャラを「嫁」と呼ぶ文化が、オタク道にはあるらしい。
 今彼女が語っているのは、彼女が気に入っているキャラの中でも2番目に好きなキャラ、つまりは第2夫人だ。

「聞いてくれ、すごいんだ－－－」
  こうして自分の好きなものを語るときの京子さんは、いつものキリッとした雰囲気とは違って少し幼くなる。
 そんな姿に思わず頬を緩めながら、僕も
「僕も新刊読みたいです。」と返す。

 だが一方で、彼氏である〝僕〟と〝嫁〟との待遇の差が全く気にならない訳ではない。
 我ながら意地悪だと思いつつ聞く。
「京子さん、嫁への愛は充分伝わったけど僕には？」

「君は勿論殿堂入りだ。〝嫁〟は第5までいるが、〝旦那〟は君だけだ。」
 こういう瞬間に、やはり僕は京子さんのことが大好きなのだと痛感させられる。
 緩みきった僕の顔を見て、京子さんが今更ながら自分の言ったことに赤くなる。

ああ、なんて幸せなんだろう。