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プロローグ
川乃瑞希は真っ暗廊下でこの後どうするっ?
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「ちょっと待って。なんか音聞こえない?」
「………。」
「ちょっと、なんで急に黙るのっ。なんか喋ってよっ。」
「音聞こえるって言うから聞こうと思って…。」
「いいよ、聞かなくてっ。絶対落としてるからっ。」
「わがままだなぁ。そりゃー音ぐらい聞こえるって。パトカーだって救急車だって場合によっては消防車だって町中走ってるんだから。」
「なんでそんな…、他人事みたいなこと言ってるのっ。というか、外からの音じゃなくて今目の前から音が聞こえるのっ。というか、サイレンの音なんて聞こえないしっ。」
想像以上に真っ暗闇な学校の廊下。門を飛び出し一歩歩めば太陽の光こそないけれど、街路灯の光、自動販売機の光、駐車場の看板の光、建物から漏れる光で案外暗すぎるとは言えないものだが、今彼らがいる廊下は窓があるものの月明りすら届かない。彼らは、手の中に納まりかねない程小さく感じる懐中電灯の光だけを頼りに、目的地に向かって恐る恐る近づいている。と言っても、暗闇に、はたまたそれ以外の状況、環境に恐れているのは彼だけでもう一人の喋っている何かは恐怖を感じていいないようだが。
「ほらっ、何か近づいてきてるってっ。音が大きくなってるっ。」
「ほんとだっ。オレにも聞こえてきたぞっ。まったく、耳が無いってのも不便なもんだぜ。」
何かは、不便なんて何一つ感じてないくせに軽口をたたく。彼と何かには、この状況に対して温度差があるようだ。決して何かが強がっている訳ではなく、彼が人より怖がりという訳でもない。
「耳が無いならそもそも声なんて聞こえないでしょっ。というかこの先見に行ってきてよ。なんで曲がり角の先なんだよーっ。」
どうやら音が聞こえてくるのは廊下の角を曲がった先のようだ。得てして、恐怖を感じるのは視覚情報が無い場所からであるもので、そして暗闇の中感覚が敏感になっていると聴覚が余計な情報をいち早く収集してしまう。
「オレ、目も無いから見に行けないよ…。」
「見えてるでしょっ、目が無くても見えてるでしょっ。今の今まで何も見えてなかったのっ?」
「懐中電灯の光が当たってるところは見えてるよ。」
「人並みに見えてるっ。」
彼の口から今日一、いや、音楽の授業中に合唱をしている中、腹から声出して歌えと先生から言われて真面目に声を出したその時以来の声が出た。
「うあーっ、なんか音が聞こえたっ。さっきと違う音っ。」
「かー君の声が反響しただけでしょ。自作自演で驚いていたら無理ないぜ。」
「………。さっきまでしてた音、してなくない?」
何かにかー君と呼ばれた彼は、何かの突っ込みを無視して音に集中している。その場に立ち止まって耳をすませると、どうやらさっきまでかー君に聞こえていた音は止まったようだ。
「ほら、さっきまでコトッ、コトッ、ってしてた音無くなったよ。なんか立ち止まったとかそういう事じゃない?」
かー君は、さっきより語調を弱めて何かに話しかける。
「そうかー?オレにはカタっ、カタっ、って聞こえてたけど。」
何かは特段語調を変えることなく話し続ける。
「カタもコトも変わらないでしょっ。あーもー怖い、怖いっ。絶対曲がったら何かいるって。」
決して立ち寄る機会のない夜の学校の廊下、あるはずのない廊下から聞こえる固いものと固いものがぶつかって発生しそうなオノマトペ、真っ暗闇の懐中電灯の光が照らされる視角に対し広くない視覚情報。それらが、かー君に恐怖心に対してこれでもかと襲いかかる。
「廊下っ、廊下曲がるけど鈍角に曲がるからっ。限りなく鈍角に曲がるからっ。分かったねっ?」
「廊下を鈍角に曲がるってどういう事よ。90度に走りながら曲がんなよ。案外食パンかじった美少女とぶつかるかもよ?」
「案外って何っ?普通はぶつからないしっ?普通は気を付けて曲がるから誰ともぶつからないしっ。学校で食パン食べないし、そもそも美少女は食べながら歩かないしっ。」
かー君の口から今自分が置かれている状況への不満が込められた突っ込みが飛び出した。
「美少女だって食べながら歩く時は食べるだろ…。コンビニのホットスナックとか。」
「美少女はホットスナック食べないよっ。多分っ。ほらっ、右の方から行くよっ、右の方からっ。」
「えっ。右っ?どういうこと?」
かー君たちの進行方向から廊下を左に曲がると音が聞こえて止まった場所になる。そのため今歩いてきた廊下の右の方に寄ってから、左に曲がることで視覚情報を少しでも増やそうとしているようだ。
「そーっと行くよ。そーっと…。」
かー君は、廊下の進行方向の右側の壁を背に、恐る恐る左の曲がり角に懐中電灯の光を当てながら覗き込むように右足を進め左足は右足を追い抜かないところで止めてまた右足を進める。
「いあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ。」
「………。」
「ちょっと、なんで急に黙るのっ。なんか喋ってよっ。」
「音聞こえるって言うから聞こうと思って…。」
「いいよ、聞かなくてっ。絶対落としてるからっ。」
「わがままだなぁ。そりゃー音ぐらい聞こえるって。パトカーだって救急車だって場合によっては消防車だって町中走ってるんだから。」
「なんでそんな…、他人事みたいなこと言ってるのっ。というか、外からの音じゃなくて今目の前から音が聞こえるのっ。というか、サイレンの音なんて聞こえないしっ。」
想像以上に真っ暗闇な学校の廊下。門を飛び出し一歩歩めば太陽の光こそないけれど、街路灯の光、自動販売機の光、駐車場の看板の光、建物から漏れる光で案外暗すぎるとは言えないものだが、今彼らがいる廊下は窓があるものの月明りすら届かない。彼らは、手の中に納まりかねない程小さく感じる懐中電灯の光だけを頼りに、目的地に向かって恐る恐る近づいている。と言っても、暗闇に、はたまたそれ以外の状況、環境に恐れているのは彼だけでもう一人の喋っている何かは恐怖を感じていいないようだが。
「ほらっ、何か近づいてきてるってっ。音が大きくなってるっ。」
「ほんとだっ。オレにも聞こえてきたぞっ。まったく、耳が無いってのも不便なもんだぜ。」
何かは、不便なんて何一つ感じてないくせに軽口をたたく。彼と何かには、この状況に対して温度差があるようだ。決して何かが強がっている訳ではなく、彼が人より怖がりという訳でもない。
「耳が無いならそもそも声なんて聞こえないでしょっ。というかこの先見に行ってきてよ。なんで曲がり角の先なんだよーっ。」
どうやら音が聞こえてくるのは廊下の角を曲がった先のようだ。得てして、恐怖を感じるのは視覚情報が無い場所からであるもので、そして暗闇の中感覚が敏感になっていると聴覚が余計な情報をいち早く収集してしまう。
「オレ、目も無いから見に行けないよ…。」
「見えてるでしょっ、目が無くても見えてるでしょっ。今の今まで何も見えてなかったのっ?」
「懐中電灯の光が当たってるところは見えてるよ。」
「人並みに見えてるっ。」
彼の口から今日一、いや、音楽の授業中に合唱をしている中、腹から声出して歌えと先生から言われて真面目に声を出したその時以来の声が出た。
「うあーっ、なんか音が聞こえたっ。さっきと違う音っ。」
「かー君の声が反響しただけでしょ。自作自演で驚いていたら無理ないぜ。」
「………。さっきまでしてた音、してなくない?」
何かにかー君と呼ばれた彼は、何かの突っ込みを無視して音に集中している。その場に立ち止まって耳をすませると、どうやらさっきまでかー君に聞こえていた音は止まったようだ。
「ほら、さっきまでコトッ、コトッ、ってしてた音無くなったよ。なんか立ち止まったとかそういう事じゃない?」
かー君は、さっきより語調を弱めて何かに話しかける。
「そうかー?オレにはカタっ、カタっ、って聞こえてたけど。」
何かは特段語調を変えることなく話し続ける。
「カタもコトも変わらないでしょっ。あーもー怖い、怖いっ。絶対曲がったら何かいるって。」
決して立ち寄る機会のない夜の学校の廊下、あるはずのない廊下から聞こえる固いものと固いものがぶつかって発生しそうなオノマトペ、真っ暗闇の懐中電灯の光が照らされる視角に対し広くない視覚情報。それらが、かー君に恐怖心に対してこれでもかと襲いかかる。
「廊下っ、廊下曲がるけど鈍角に曲がるからっ。限りなく鈍角に曲がるからっ。分かったねっ?」
「廊下を鈍角に曲がるってどういう事よ。90度に走りながら曲がんなよ。案外食パンかじった美少女とぶつかるかもよ?」
「案外って何っ?普通はぶつからないしっ?普通は気を付けて曲がるから誰ともぶつからないしっ。学校で食パン食べないし、そもそも美少女は食べながら歩かないしっ。」
かー君の口から今自分が置かれている状況への不満が込められた突っ込みが飛び出した。
「美少女だって食べながら歩く時は食べるだろ…。コンビニのホットスナックとか。」
「美少女はホットスナック食べないよっ。多分っ。ほらっ、右の方から行くよっ、右の方からっ。」
「えっ。右っ?どういうこと?」
かー君たちの進行方向から廊下を左に曲がると音が聞こえて止まった場所になる。そのため今歩いてきた廊下の右の方に寄ってから、左に曲がることで視覚情報を少しでも増やそうとしているようだ。
「そーっと行くよ。そーっと…。」
かー君は、廊下の進行方向の右側の壁を背に、恐る恐る左の曲がり角に懐中電灯の光を当てながら覗き込むように右足を進め左足は右足を追い抜かないところで止めてまた右足を進める。
「いあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ。」
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