ローグ・ライク・ななな不思議

鏑屋アレン

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謎の宝箱 ミミッコとの出会い

出会いは唐突に、ちょっぴり残念な少年の世界は急変?

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「キーンコーンカーンコーン」
 校内に16時を示すチャイムの音が鳴り響いた。教室には、何人かの学生がそれぞれ集まって話をしている。帰りの会が終わり少し時間が経ち、生徒はそれぞれ部活に向かったり帰宅したりで、授業時間の生徒が先生の話に集中していることで充満する熱気や休み時間のつかの間の休息で学校生活を全力で楽しんでいる生徒たちの活気は無く、生徒たちが思う思う自由に教室を使ってる。そんな中、川乃瑞希は、ただ一人自席に座って古文の教科書を読んでいる。決して勉学に熱心な性格故授業の内容で分からなかった点を見直し整理して、先生に聞きに行くために教科書を開いているわけではない。むしろ、そんな頭が秀でているわけではない生徒の鏡のような行動ではなく、その行動は授業に人並みについていけずにさらに反省することもなく、追い込まれてから行動し尚且つ間に合わないといった、情けないものなのから来ている。彼が古文の教科書を眺める理由は、チャイムが鳴った15分ほど後に視聴覚室で予定されている古文の補修テストのための準備だ。彼は、先週の古文の授業中に行われた小テストで赤点を取り、再度受け直しを先生から命令されていた。どうやら彼は期末に行われるテストで点数を獲得できる見込みが無く、この小テストである程度点を確保していないと古文の単位を取りこぼす可能性があるようだった。古文の単位を取りこぼせば何故か大学の入試で使えなくなるという話で、決して数学のできる訳ではない彼にとっては危機的状況なのだが、そんなことはつゆ知らずただぼんやりと教科書黙読していた。単語の意味や文法の理解を全くせずに時間が過ぎた時に、それはそれは恐ろしい結果が待っていることもあるのが社会だが、彼の人生にまだ分岐点となりかねない後悔は無かった。
 教室にかけられた電波時計の小刻みに動き続ける針がちょうど上を差し、針の中で2番目にゆっくりと動くそれがちょうど2を指したその時、彼はゆっくりと席を立ちカバンを肩にかけ、教室を出た。教科書はそれまでにカバンにしまっていた。視聴覚室まで普通に歩けば1分程度でたどりつく。彼は、やや下を向きながら真っすぐに視聴覚室に向かうと、廊下では人とすれ違うことなく視聴覚室の前まで早歩きで向かった。視聴覚室のドアは閉まっていて、彼はドアを開ける事に一瞬の緊張があったが慣れた手つきでドアを開け、部屋に入った。部屋には他クラスの話したことのない同級生の見慣れた生徒が席で教科書を読んでいたり、友達なのか話している姿があった。彼は、他の生徒とは近からず遠からずの席に座り、カバンから筆箱と古文の教科書を取り出し、視聴覚室にしか置いていない長机に置いた。あたりを見回すとまだ先生の姿を無く、いつも補修のテストに呼ばれる生徒と普段は見かけない今日たまたま補修なのかこれから定期的に顔を見る事になるのか分からない生徒を見て、少し安心しながら教科書を開いた。しばらくしていつもこんな機会にしか顔を見ない生徒がすでに視聴覚室にいた人数より多く入ってきて、定刻の16時15分を過ぎると授業中に見せる顔とは違うにこやかで優しさを覚える表情を見せる古文の先生が入ってきた。
「全員揃ってるかなー?ちょっと少ないかなー?じゃあ今から5分後、22分になったらテスト配るからそれまで教科書読んだりノート見たりして準備しててー。」
 古文の先生が優しく口を開く。もう定年まじかの細身で小柄な女性の先生でとても教職に熱心な先生は、一部の生徒からの信頼に熱い。彼は、よく怒られるので怖い先生というイメージしか無い。といっても、よく怒られるのは彼が原因でそれでも向き合ってくれるこの先生はやっぱり良い先生なのだが、彼はまだそれに気が付いていない。教科書を開き、自分の中でキーポイントになるであろうと思う古文の文章とその訳を必死に暗記しようとしていた。ただ、授業中に重要な文章の説明はあったし、それに伴う理由は黒板に書かれていたのだが、彼は我知らず自分が覚えやすそうな文章だけを心の中で復唱していた。遅れてやって来た生徒が、続々と席に着く。その様子を見ても先生はまだにこやかだ。約束の15分から約7分遅れで小テストが配られた。生徒たちは、直前まで教科書、ノートを開き、先生が閉まうように言うまで睨んでいて、彼もまた、同じように直前まで教科書を開いていた。そもそも、なぜ彼が教科書を開いてノートを開かないのか、それはノートに書いてあることがよく分からないからだ。解説不足でノートの意味を成していなかったり、失念からか抜けている箇所があるからだ。そんなこんなで行われた補修の小テストだったが、彼は案の定悪い点で、その場で採点していた先生は、それまでにこやかだった表情が一変、鬼のような形相でただ一言彼に課題を言い渡した。その後、憂鬱な気分と仕方がなかったという気持ちを持ち合わせながら、彼はゆっくりと教室に向かっていた。それは、やり直して行われた小テストの出来により課されてしまった課題にノートが必要だったからだ。
 校舎は、すでに生徒が帰っていて、校庭の部活の声がわずかに反響してくるくらいで、彼の足音が響き渡るほど静かだった。怒られて落ち込んでいる気持ち、家に帰ったら課題をやらなければならないという面倒くさいという気持ちは、広くて静かで奥行きのある廊下の先に吸い込まれるように消えていつのまにか無心になっていた。彼は、教室の向かいに配置してある個人ロッカーに入れてあるノートを取り出し、ふと教室を覗いた。意図があった訳ではなく、興味があるわけでもないのに、つい身体の癖で目を向けた。すると教卓の上にゲームでしか見ないような、こてっこてな宝箱が置いてあり、教室の後ろのドアの窓越しに既に生徒が帰った事を確認し教室に入ると、宝箱はこちらに向けて今にも空きそうな、二枚貝を炭火で焼いている、死んでいるはずが自然のエネルギーを一心に集中され最後の生命活動が力づくで強制されているその瞬間のように生々しさを感じさせた。
「なんだろー、これー?」
 息だけで出すような人には聞こえなさそうで案外聞こえてしまってる声で呟いた。
「えっ、オレのこと見えてんのーっ!マジかーっ!」
 有機物のように見えて無機物なはずのゲームに出てくる宝箱のような物体から音が発された。こそっと宝箱に近づいた彼は、14年間、中学生になるまで人並みに人生を送ってきたその経験からはまったくもって想像のつかなかった宝箱から声が突然出るという現象に、身体が恐れおののき両手を後ろにばたつかせながら文字通りの尻もちをついた。彼にとっては驚きのあまり尻もちをつくなど文字の世界の出来事であって、それを体現することなど無いと思っていたのか誰から見られた訳でもないが驚きという感情を忘れ恥ずかしさという感情が沸き上がった。
「えっ…。音するの?」
 やや苦笑いを浮かべながら、今度は息だけの声ではなく隣の人にぎりぎり届かないような弱弱しい声が出た。目の前の物体には当然聴き取れる訳がないはずの無いその小さな声に、かぶせるように宝箱から抑揚のしっかりある電子音とは思えない声が発された。
「ちょっとちょっとー。ホントにオレのこと見えてんの声聞こえてるのー。うわー初めてだよーオレのことに気が付くコに会えるなんてー。オレはミミッコって言うんだ。よろしくねっ!」
 宝箱からは、音が聞こえると思った矢先に自己紹介までされ、軽く飛び跳ねるモーションと木材とは思えない程躍動感のある歪む動きがあった。彼は恥ずかしさという感情を一瞬にして忘れ、再度驚きの感情を持ちつつも逃げ出す訳ではなく、その宝箱にやや興味を持つという落ち着いた感情も無意識に持っていた。彼は、ゆっくりと立ち上がりそれを見ると、それはこちらを向いて無造作にフタを上下にバタバタとして一見宝箱と見えたその中身からは舌が飛び出し、決して無作為に中身を見せることの無い宝箱とは遠く離れた箱だった。
「えっ…。どういう…。ミミッコ…?えっ…?」
 心は落ち着きを持ちつつもこの状況に理解に苦しむ彼からは、ゲームにありがちな偽物の宝箱に似たワードと既視感のあったこれが名乗った言葉の羅列をただ反覆することしか出来なかった。経験したことの無い状況に彼が置かれた時、自身の人生経験から咄嗟にでる行動は、反覆といったありがちな行動だった。
「そうそう、ミミッコっ!いやー、まさかオレのことが見えるなんてなぁ。今日だって1日中ここにいたし、なんなら君がこのクラスだって知ってるし、君の名前が川乃瑞希だってのも知っているし…。今日古文の先生になんか授業中に当てられて答えられなくて怒られてたのも知ってたけど、なんで急に見えたんだよーっ。」
 ミミッコは、饒舌に下を出しながら、ふた部分が器用に動き喋り始めた。楽しそうな心躍る口調だったが目が無いためその感情は声の抑揚でしか推し量れない。彼は、ミミッコの問いかけを考える間もなく、いや、この状況を何も考えることが出来ないまま思わず開いたその口は閉じることなくポカンと開いたままだ。古文の授業中に怒られたことは、彼にとって嫌な方の記憶に残る出来事だったがその話題に触れられても右から左へ声が流れていった。
「どうして急にオレが見えるようになったのか分からないけど、オレと一緒にこの学校の七不思議の解明やろうぜっ!」
「まぁ、そうだね…。うん…。」
 彼は、自身が今置かれている状況が自ら望んだ、予定した状況では無いためにこの状況を理解する事が困難であり、宝箱が話している言葉を嚙み砕き自身の理解能力から理解する事ができていない状況だったが思わず肯定の意を表す返事をした。
「やったーっ!よろしくねっ!いやー、ずっと寂しかったんだよ、誰も気が付かないし見えてないみたいだったし。最初は、本物の宝箱に混ざってる偽物の宝箱みたいに擬態してたんだけど、あまりに誰も声かけないから歌とか歌ってたんだけど…。まぁでも良かったぁ。川乃君なら…、かー君ねっ!これからよろしくねっ!」
 彼は、状況を把握する前に、投げかけられた言葉を理解する余裕無く、相手のペースで謎の約束を取り付けられ同情を誘うような言葉も投げかけられ、さらにかー君と呼ばれ友好関係の距離を縮められた。かー君は、内気な性格でその場に流されやすい性格があり、その性格故損に思う経験も損に気が付かず振る舞い続けることも多々あったが、今目の前で起きていて気付いた時にはもう戻りにくくなりそうな問題に、既に心の半分取り込まれていた。それは、かー君とあだ名チックに呼ばれたことが、中学生になって初めての出来事で嬉しさがあったからかもしれない。
「よろしくって言われても、何したらいいか分からないよ?七不思議の解明?あと、あなたはどういったひ、方なの?ミミッコって言ってたけど…。」
 かー君は不思議と落ち着きながら、ミミッコと名乗る宝箱を人と認識して話していいのか普通な混乱しながらも、とりあえず会話を繋ぐように質問を紡いだ。
「んっ、大丈夫、大丈夫っ!一緒にこの学校の七不思議を解明しようってことっ!オレのことはミミッコって呼んでねっ!ミミちゃんでもいいよー。むしろミミちゃんがいいーっ!」
 手に抱えて持つぐらいの大きさで、ハンドタオルより大きいくらいの舌を出した宝箱型の何かは、どうやらどちらかと言うと君ではなく何々ちゃんと呼ばれたいようだった。そして、自分の言いたい、お願いしたいことがあるのだが、それを誰かに伝える時間も十分にあっただろうに特別言葉を準備することもなく、そして説明する力も優れてるとは言えない評価が下されそうな何かだった。
「そう言われても…。ミミッコって呼ぶね。あと、七不思議の解明もまだ分からないし、あと、ミミッコは何者なの?学校の幽霊的な何かなの?」
 かー君には照れがあったのか、ミミちゃんと呼ぶことは拒否をした。いくら意思を持って喋っているとはいえ人形のような物体をちゃん付けで呼ぶことには抵抗があった。
「オレは何なんだろなー?ずっと長い間この教室のこの教卓の上にいただけだから分からないなぁ…。この学校の隠れボス的な感じかなっ!」
 本当に何も分からないのか、それとも隠し事をしているのか、表情のない身体の動きと声の抑揚からしか感情の読み取れないミミッコからは読み取ることが出来なかった。
「それでね…。七不思議っていうのはね…。」
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