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第四話

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バタンと音を立てて閉まった扉の向こうでジュリがわめいている。
「仲良しだな。部屋ん中までじゃれあう声が聞こえてたぞ」
その部屋の主──宮本がそういった。それが皮肉であることはすぐ分かった。
「悪い、助かった」
「本当に気の毒だな」
「はは、本当だよ……」
宮本はおしゃべりな方ではないらしい。すぐに沈黙が訪れた。なんとなく部屋を見渡すと、本人のイメージ通り、家具といったものは備え付けのもの以外になく、殺風景な様子だ。

「……適当に座れよ」
「……ありがとう」
リビングの椅子を引き、向かいに座る。部屋はSクラスの生徒を除いて、基本的に二人部屋だ。生徒の協調性を育むため、らしい。この部屋も二人用(というと十分すぎるほど)に作られている。8畳ほどのリビングに、個々の個室があるつくりだ。宮本は、俺がいるから仕方ないとでもいうように、つけているテレビをぼうっと眺めている。部屋は宮本のイメージ通り殺風景で、備え付けのもの以外の家具もない。唯一、テレビ台に何冊か雑誌が……

「あ」
間抜けな声が出た。
「なに?」
「あ、いや、なんでも」
見てはいけないものを見てしまった。慌てて気づかなかったふりをしようとするが、もう遅い。
「何だよ」
「いや、その」
ちらり、と目線をテレビ台の下に遣る。そこにあったのは紛れもなく……。
「こういうのが好きなんだな」
「いや、オイ、それは」
「いやいや、良いんだよ、趣味は人それぞれだしな」
埃を被らないよう透明なビニール袋に包まれたそれは、どこからどう見ても成人向けのいかがわしい本だった。表紙にはつやつやした黒髪に、発達途中にあるちいさな身体で恥じらった表情を見せる女の子のイラスト。ピンクの丸い文字で、「ミユとお兄ちゃんとヒミツのおべんきょう」と書かれている。
「お前、デリカシーってことを知らないのか!」
「エロ本持っといてデリカシーって言われても」
「エロ本って言うな!」
それならこれをなんと言えばいいんだ。紳士向け女児雑誌とでも言えばいいのか。いつも飄々としている宮本が、珍しく取り乱しているのがおかしくて、つい噴き出してしまった。
「笑うなよ」
「いや、おかしくて」
まさかこいつにこんな趣味があるとは。同性愛がベースのこの学園において、間違いなくこの性癖は異端だろう。俺もこの学園では少数派である身であるから、少なからず親近感を得た。
「……お互い頑張ろうな」
「何かその言い方……まぁいいわ」
「そろそろジュリもどっか行ったかと思うし、帰るな」
よっこらせっと立ち上がる俺の膝に、宮本は一冊の本をコツンとあてた。
「魔除けだ、持っていけ」
それは、さっき俺が見かけたものと同じ絵柄で、別の女の子が描かれていた。タイトルは「〇学生だってできるもん!」
何が魔除けなのかよく分からなかったが、もしかしたらちょっとしたジョークなのかもしれない。
「ありがと、借りてく」
扉をそろりと開け、念のため周囲にジュリがいないことを確かめる。時間は23時前。さすがにもういないだろう。自分の部屋の前、扉に耳を当て、物音がしないことを確認し、部屋に入る。手にはさっき宮本借りたエロ本。
「はは、変な奴」
久しぶりに、心から笑った気がした。
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