4 / 15
月曜日(4)
しおりを挟む
近代的な街並みが見えてきて、僕たちが通う高校を通り過ぎ、ファミレスの前に絨毯を降ろした。僕はほとんど外で遊ばなかったので、都市部の風景といえば家から学校までの間と、最寄りの駅周辺くらいしか思いつかなかった。絨毯から降りたユミカは落胆の色を隠さずに言う。
「空飛ぶ絨毯でファミレスに連れてきてもらえるなんて、夢にも思わなかったわ」
次に女の子をエスコートするときは、もっとお洒落なカフェか何かにしなさい。ユミカはそう付け加えて僕を指導した。そんなことを言われても、僕はお洒落なカフェになど入ったことがないので、その内部や雰囲気を想像できない。
気を取り直して店に入り、ウェイトレスに案内してもらう。僕たちの他にも客はまばらに入っていた。通されたのは、小綺麗なテーブルと固そうなソファが等間隔に並んだ一般的なファミレスの座席だった。席に着いてドリンクバーを二つ注文すると、ユミカが不思議そうに尋ねる。
「さっきみたいに、ぱっと飲み物も出せるんじゃないの?」
「できるのはできるけど、せっかくだからドリンクバーを注文して、何飲む? 持ってきてあげようか? っていうのをやってみたかったんだ」
「ふうん。夢の中だからって、調子に乗りすぎじゃないの」
ユミカは呆れたような顔をしながらも、まあいいわ、私が持ってきてあげる、と席を立った。程なくして彼女は、僕が頼んだオレンジジュースと、自分のアップルティーを運んできた。
「ありがとう」
「これは空飛ぶ絨毯のお返しだから。勘違いしないでよね」
そう言って意地悪な顔をするユミカは魅力的で、僕は思わず、心を奪われそうになった。
これほど長い時間他人と話すのは随分と久しぶりだった。案外、悪くない。自分の意図したとおりになるのはもちろん面白いのだが、夢とはいえ、こうやって自我を持った人間とふれあうのも充実感があった。もっとも、それが本来のコミュニケーションであり、自然な喜びであり、僕が今まで手に入れられなかった、避けてきた類のものなのだろう。
ただ、こんなことができるのも夢の中に限った話だ。現実世界ではこんな風に明るく振る舞えないし、面と向かって女の子と話す度胸もない。ユミカとだって、実際には――。
どうしてだろう、悔しい気持ちがこみ上げてくる。誰かと仲良くなること、特に女の子と親しくなることなど、とうの昔に諦めてしまったはずなのに。
「空飛ぶ絨毯でファミレスに連れてきてもらえるなんて、夢にも思わなかったわ」
次に女の子をエスコートするときは、もっとお洒落なカフェか何かにしなさい。ユミカはそう付け加えて僕を指導した。そんなことを言われても、僕はお洒落なカフェになど入ったことがないので、その内部や雰囲気を想像できない。
気を取り直して店に入り、ウェイトレスに案内してもらう。僕たちの他にも客はまばらに入っていた。通されたのは、小綺麗なテーブルと固そうなソファが等間隔に並んだ一般的なファミレスの座席だった。席に着いてドリンクバーを二つ注文すると、ユミカが不思議そうに尋ねる。
「さっきみたいに、ぱっと飲み物も出せるんじゃないの?」
「できるのはできるけど、せっかくだからドリンクバーを注文して、何飲む? 持ってきてあげようか? っていうのをやってみたかったんだ」
「ふうん。夢の中だからって、調子に乗りすぎじゃないの」
ユミカは呆れたような顔をしながらも、まあいいわ、私が持ってきてあげる、と席を立った。程なくして彼女は、僕が頼んだオレンジジュースと、自分のアップルティーを運んできた。
「ありがとう」
「これは空飛ぶ絨毯のお返しだから。勘違いしないでよね」
そう言って意地悪な顔をするユミカは魅力的で、僕は思わず、心を奪われそうになった。
これほど長い時間他人と話すのは随分と久しぶりだった。案外、悪くない。自分の意図したとおりになるのはもちろん面白いのだが、夢とはいえ、こうやって自我を持った人間とふれあうのも充実感があった。もっとも、それが本来のコミュニケーションであり、自然な喜びであり、僕が今まで手に入れられなかった、避けてきた類のものなのだろう。
ただ、こんなことができるのも夢の中に限った話だ。現実世界ではこんな風に明るく振る舞えないし、面と向かって女の子と話す度胸もない。ユミカとだって、実際には――。
どうしてだろう、悔しい気持ちがこみ上げてくる。誰かと仲良くなること、特に女の子と親しくなることなど、とうの昔に諦めてしまったはずなのに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる