1 / 2
序章
しおりを挟む
ㅤ多くの人で溢れた大都会の奥深く。
ㅤ人並み外れた小さな道には、不思議がいっぱい。
ㅤもう一人の自分がいるといわれる、平行した世界。誰も知らない未知なる世界。
ㅤそこで貴方は何を見つける────。
***
ㅤ押し入れの奥深くから見つけた、光にかざすと透き通ったように輝くガラスのペンダント。それを首にかけ、黒のリボンで後ろの髪を束ねる。鉄で出来たチェーンが首にひっつき、ひんやりと冷たさが伝わった。白のシャツに真っ赤なお気に入りのフレアスカートを穿いて、家を出た。空を見上げると、生憎の天気で土砂降り。濡れないようにと傘をさすが、既にスカートは強く吹いた風により殆ど濡れていて、申し訳程度にしか傘の役割を果たしていない。それが冷たくて、身震いをする。スカートも靴も、大雨のせいでびしょ濡れだ。気持ちも下がり気味である。
ㅤ靴が水を含み、その重みを感じながらとぼとぼと歩いた。向かう先は、私だけが知っている秘密の場所。その抜け道は、都会の隅にある、人気の少ない場所だ。
ㅤ数分ほど歩いて辿り着いた路地裏には、同じ大きさと同じ間隔で並ぶ三つの水溜まり。この路地裏だけは、雨の日に必ず三つの水溜まりが出来ていた。これは、もう一つの世界、平行世界であるパラレルワールドの入り口であることも意味している。
ㅤ私は水溜まりが三つあることを確認し、狭い路地裏を通る為に傘を閉じた。鼓動が速くなる胸に手を当て、深く深呼吸をする。何度か来たことがあるものの、パラレルワールドへ行くことは、私にとって勇気が必要なことだった。
(何度も来てるのに、未だに慣れないなんて……)
ㅤ緊張をしてしまう自分に呆れながら、重い足を引きずり、路地裏の奥に進んだ。首にかけたペンダントを右手で握り、ゆっくりと前に進む。手には、汗が滲んで気持ちが悪かった。風が、私を追い返すように吹いている。それに負けずと、足を踏ん張りながら歩いた。
ㅤ私の進む方向と真反対に吹く風は、次第に強くなっていった。まるで、〝此処には来るな〟と言っているかのように。
ㅤそれもそうだろう。普通の人は〝もう一つの世界〟の境界線を越えてはいけないのだから。同じ世界に同じ人物が二人存在してはいけないのだ。
「きゃっ……!」
ㅤ路地裏の半分まで歩き進むと、泥濘のある土に滑った。右足を軽く捻り、転びそうになるのを、壁に手を付きながら堪える。履いていた黒のスニーカーは、泥まみれになった。あーあ、靴下まで泥がついちゃった。体勢を直そうとして、滑った足を持ち上げようとする。
ㅤその刹那、黄色い眼をした黒猫が私の前に横切り、ポツリと言葉を落とした。ギロリと睨むように私を見るその猫は、心を見透かしているようにも見える。
『冷たいモノには、熱い鍵。一つ越えれば、機械の実』
ㅤニヒヒ、と不気味に嘲笑いながら黒猫は言った。
ㅤ言っている言葉の意味が理解出来ず、棒立ちになって黒猫を見つめた。ニヤリと独特な笑みを浮かべるその姿は、悪魔のようだ。
『迷い込む時は、十分にご注意を』
ㅤ口角をぬるりと上げて、耳が痛くなるような嫌な笑い声を響かせながら黒猫は消えた。喋る動物に会うのはこれが初めてではない。毎回違うのは姿だけ。此処の路地裏に来る度、いや〝パラレルワールド〟へ行く時にだけ必ず現れる。
ㅤそして、最後はいつも意識が朦朧とし始めて、瞼が重くなる。毎回のことながら、それに逆らうことは出来ず、そのまま暗闇の奥底に沈んだ────。
ㅤ人並み外れた小さな道には、不思議がいっぱい。
ㅤもう一人の自分がいるといわれる、平行した世界。誰も知らない未知なる世界。
ㅤそこで貴方は何を見つける────。
***
ㅤ押し入れの奥深くから見つけた、光にかざすと透き通ったように輝くガラスのペンダント。それを首にかけ、黒のリボンで後ろの髪を束ねる。鉄で出来たチェーンが首にひっつき、ひんやりと冷たさが伝わった。白のシャツに真っ赤なお気に入りのフレアスカートを穿いて、家を出た。空を見上げると、生憎の天気で土砂降り。濡れないようにと傘をさすが、既にスカートは強く吹いた風により殆ど濡れていて、申し訳程度にしか傘の役割を果たしていない。それが冷たくて、身震いをする。スカートも靴も、大雨のせいでびしょ濡れだ。気持ちも下がり気味である。
ㅤ靴が水を含み、その重みを感じながらとぼとぼと歩いた。向かう先は、私だけが知っている秘密の場所。その抜け道は、都会の隅にある、人気の少ない場所だ。
ㅤ数分ほど歩いて辿り着いた路地裏には、同じ大きさと同じ間隔で並ぶ三つの水溜まり。この路地裏だけは、雨の日に必ず三つの水溜まりが出来ていた。これは、もう一つの世界、平行世界であるパラレルワールドの入り口であることも意味している。
ㅤ私は水溜まりが三つあることを確認し、狭い路地裏を通る為に傘を閉じた。鼓動が速くなる胸に手を当て、深く深呼吸をする。何度か来たことがあるものの、パラレルワールドへ行くことは、私にとって勇気が必要なことだった。
(何度も来てるのに、未だに慣れないなんて……)
ㅤ緊張をしてしまう自分に呆れながら、重い足を引きずり、路地裏の奥に進んだ。首にかけたペンダントを右手で握り、ゆっくりと前に進む。手には、汗が滲んで気持ちが悪かった。風が、私を追い返すように吹いている。それに負けずと、足を踏ん張りながら歩いた。
ㅤ私の進む方向と真反対に吹く風は、次第に強くなっていった。まるで、〝此処には来るな〟と言っているかのように。
ㅤそれもそうだろう。普通の人は〝もう一つの世界〟の境界線を越えてはいけないのだから。同じ世界に同じ人物が二人存在してはいけないのだ。
「きゃっ……!」
ㅤ路地裏の半分まで歩き進むと、泥濘のある土に滑った。右足を軽く捻り、転びそうになるのを、壁に手を付きながら堪える。履いていた黒のスニーカーは、泥まみれになった。あーあ、靴下まで泥がついちゃった。体勢を直そうとして、滑った足を持ち上げようとする。
ㅤその刹那、黄色い眼をした黒猫が私の前に横切り、ポツリと言葉を落とした。ギロリと睨むように私を見るその猫は、心を見透かしているようにも見える。
『冷たいモノには、熱い鍵。一つ越えれば、機械の実』
ㅤニヒヒ、と不気味に嘲笑いながら黒猫は言った。
ㅤ言っている言葉の意味が理解出来ず、棒立ちになって黒猫を見つめた。ニヤリと独特な笑みを浮かべるその姿は、悪魔のようだ。
『迷い込む時は、十分にご注意を』
ㅤ口角をぬるりと上げて、耳が痛くなるような嫌な笑い声を響かせながら黒猫は消えた。喋る動物に会うのはこれが初めてではない。毎回違うのは姿だけ。此処の路地裏に来る度、いや〝パラレルワールド〟へ行く時にだけ必ず現れる。
ㅤそして、最後はいつも意識が朦朧とし始めて、瞼が重くなる。毎回のことながら、それに逆らうことは出来ず、そのまま暗闇の奥底に沈んだ────。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる