鈍色に色褪せた世界

虹奏りお

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序章

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ㅤ多くの人で溢れた大都会の奥深く。
ㅤ人並み外れた小さな道には、不思議がいっぱい。
ㅤもう一人の自分がいるといわれる、平行した世界。誰も知らない未知なる世界。
ㅤそこで貴方は何を見つける────。



***



ㅤ押し入れの奥深くから見つけた、光にかざすと透き通ったように輝くガラスのペンダント。それを首にかけ、黒のリボンで後ろの髪を束ねる。鉄で出来たチェーンが首にひっつき、ひんやりと冷たさが伝わった。白のシャツに真っ赤なお気に入りのフレアスカートを穿いて、家を出た。空を見上げると、生憎の天気で土砂降り。濡れないようにと傘をさすが、既にスカートは強く吹いた風により殆ど濡れていて、申し訳程度にしか傘の役割を果たしていない。それが冷たくて、身震いをする。スカートも靴も、大雨のせいでびしょ濡れだ。気持ちも下がり気味である。
ㅤ靴が水を含み、その重みを感じながらとぼとぼと歩いた。向かう先は、私だけが知っている秘密の場所。その抜け道は、都会の隅にある、人気の少ない場所だ。
ㅤ数分ほど歩いて辿り着いた路地裏には、同じ大きさと同じ間隔で並ぶ三つの水溜まり。この路地裏だけは、雨の日に必ず三つの水溜まりが出来ていた。これは、もう一つの世界、平行世界であるパラレルワールドの入り口であることも意味している。
ㅤ私は水溜まりが三つあることを確認し、狭い路地裏を通る為に傘を閉じた。鼓動が速くなる胸に手を当て、深く深呼吸をする。何度か来たことがあるものの、パラレルワールドへ行くことは、私にとって勇気が必要なことだった。
(何度も来てるのに、未だに慣れないなんて……)
ㅤ緊張をしてしまう自分に呆れながら、重い足を引きずり、路地裏の奥に進んだ。首にかけたペンダントを右手で握り、ゆっくりと前に進む。手には、汗が滲んで気持ちが悪かった。風が、私を追い返すように吹いている。それに負けずと、足を踏ん張りながら歩いた。
ㅤ私の進む方向と真反対に吹く風は、次第に強くなっていった。まるで、〝此処には来るな〟と言っているかのように。
ㅤそれもそうだろう。普通の人は〝もう一つの世界〟の境界線を越えてはいけないのだから。同じ世界に同じ人物が二人存在してはいけないのだ。
「きゃっ……!」
ㅤ路地裏の半分まで歩き進むと、泥濘のある土に滑った。右足を軽く捻り、転びそうになるのを、壁に手を付きながら堪える。履いていた黒のスニーカーは、泥まみれになった。あーあ、靴下まで泥がついちゃった。体勢を直そうとして、滑った足を持ち上げようとする。
ㅤその刹那、黄色い眼をした黒猫が私の前に横切り、ポツリと言葉を落とした。ギロリと睨むように私を見るその猫は、心を見透かしているようにも見える。
『冷たいモノには、熱い鍵。一つ越えれば、機械の実』
ㅤニヒヒ、と不気味に嘲笑いながら黒猫は言った。
ㅤ言っている言葉の意味が理解出来ず、棒立ちになって黒猫を見つめた。ニヤリと独特な笑みを浮かべるその姿は、悪魔のようだ。
『迷い込む時は、十分にご注意を』
ㅤ口角をぬるりと上げて、耳が痛くなるような嫌な笑い声を響かせながら黒猫は消えた。喋る動物に会うのはこれが初めてではない。毎回違うのは姿だけ。此処の路地裏に来る度、いや〝パラレルワールド〟へ行く時にだけ必ず現れる。
ㅤそして、最後はいつも意識が朦朧とし始めて、瞼が重くなる。毎回のことながら、それに逆らうことは出来ず、そのまま暗闇の奥底に沈んだ────。
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