脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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シスコン脚フェチ①

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右肩に微かな重みが乗り、私の右側には鮮やかな赤い髪が揺れる。


齢20歳と21歳。
今の仕事に就いてから早4年が経つ頃。
私は随分と仕事にも慣れ、義兄であるグリニエル様とは線を引いた関係を保っている。




「エミリー。私がいない間に報告書だけ置いて行くなんて、なんてつれないんだい?来ていたのなら顔を出して行けばいいものを…。」


報告書を出し終えて、王宮の廊下を歩いていた私を背後から抱きしめ、愛称で呼ぶのは、この国の第二王子であるグリニエル様だ。

王家の勲章とも呼ばれるその髪は、赤紫色の瞳によく似合う。





私は彼の執務室へと向かったのだが、彼がいなかった為に報告書だけを置いて、元来た道を戻っていたのだが、運悪く彼に見つかってしまった。




「おやめください。どこで誰が見ているかわからないのですよ。」

私がそう諭すと、殿下は笑っていた。

「エミリーは私の義妹いもうとなのだから、私が抱きつこうと何か言われる筋合いはないよ。」

私の名前はエミレィナ。私を本名で呼ぶのはほぼいない。みんな私をエミリーと呼ぶ。



「それでも一応義理なのですから、憚れるものでしょう。私は平和に過ごしたいのですから、余計な波風を立てないでいただきたいのです。

それに、義妹であるエミレィナわたしは教養として他国に出ていることになっておりますから、むやみやたらに私の存在を周りに知られないようにお願いしたいです。」



私がそう言うと、殿下はシュンとしぼんだように元気がなくなってしまった。

私は16で王宮から出るときに、他国に出たことにし、その時から髪色を変えて暮らしている。

本来の私の髪色はシャンパンゴールド。
しかし今は薄い茶色の髪色をしている。ピンクの瞳はどうすることもできずにそのままではあるが、そうでもしなければ、本来の私は目立ちすぎるのだ。





「それより殿下、どうしてこちらに?
報告書に不備でもございましたか?」

「……エミリー。お義兄様だろう?会わない間に呼び方まで忘れてしまったのかい?」





「はぁぁ…。」

この人は本当にマイペースだ。
どこで誰が見ていようがお構いなしに抱きついてくるだけでなく、自分の要求が通るまでは仕事の話も通じない時がある。

特に兄妹という類には過剰なまでも執着してくるのだ。

たまに私でさえどっと疲れていることを彼は気付いていないだろう。




「…あー……エミリー。サラッとしか見ていないが、報告書に不備はなかったよ。

それよりもだ、どうして今回の仕事の前に私の所に顔を出さなかったんだい?

研究室に行ってみれば、もう出発したと聞かされた私の気持ちが分かるかい?
どれほど心配していたことか…」

もう気付いている人もいるかもしれないが、殿下はかなりのシスコンだ。

私の両親と幼馴染だった国王陛下は、私の両親が亡くなったあと、名はそのままに、私を引き取ってくれた。

そこで私の面倒を見てくれたのは年のさほど変わらない殿下で、いつも優しく、私を本当の妹のように可愛がってくれた。

まあ、それは嬉しいものではあるのだが、私としては面倒くさいと思ったりもする。


私はこの国に…なにより彼に貢献したい。
そう思って、私は彼の専属である潜入騎士として働いているのだが、人目のつくような場所で親しげにされると仕事に支障が出てしまう為、勘弁してほしいと思うのだ。

まあ、一応、彼の補佐の補佐として仕事をしていることとなっている為、執務室への入室は大分浸透してはいるものの、こうやって抱きしめられるのは説明のしようがなくなってくる。


もしかしたら王宮に出入りしている貴族やら従者、侍女の調査をしなければならないことになるかもしれないのだから、日々目立つことなく暮らしておきたいのだ。

しかし彼は私がこの仕事をすることに反対しているため、顔が割れようが噂立とうが気にも留めない。






「…そこまでだグリニエル。」


低く落ち着きのある声。それは私をいつも助けてくれるある人のものだ。

「っ隊長!」

「ちっ。ケインか。」



漆黒の髪に琥珀色の目をした彼は、私の所属している潜入騎士の隊長を務めているケインシュア・カイルだ。私は彼の補佐として執務室に通っていることとなっている。

殿下の兄君に当たるブルレギアス様と同じ年、25であるため、私たちよりも4つ5つと離れている。殿下に対しても腰を折るようなことはしない彼は、剣術ならば誰も敵わないとすら言われており、戦場では“生きる剣”と呼ばれていたらしい。

そして彼は次期皇帝の右腕として名前が挙がったのだが、執務をひたすらこなす真面目な第一皇子ではなく、自由人で攻撃魔法の得意な第二皇子に就くことになった。

理由は聞かなくとも分かる。それは第二皇子の暴走を親族以外で止めることのできる唯一の存在だからだ。



「報告に行ったエミリーが、帰ってこないというから来てみれば、やはり思った通りだったな。どうせお前が邪魔しているんだろうと思ったよ。」



「だってケイン。聞いてくれよ。エミリーったら私に”行ってきます”も言わずに1週間も帰ってこなかったんだぞ。」



私の背に抱きついたまま、プリプリと頬を膨らませて怒るその姿はあまり怖くはない。ただ、面倒くさいとは思う。






「…仕事なのだから仕方がないだろう。
それに今回の仕事は早朝の出発だったのだから、ここにくる時間などなかったんだ。なあ、エミリー?」

隊長にそう言われて私はこくんこくんと何度も首を縦に振る。

しかし殿下は、何かが気にくわないらしく、ぷくっと頬を膨らませ、令嬢には見せられないような顔をしていた。


「エミリーに何かあったらと思うと怖いんだ。だからちゃんと気をつけるようにと毎回行く前に話したいんだよ。」

彼が私の身を案じてくれているのは分かる。
しかし、そんなに心配してくれなくとも、私だって弱いわけではないのに。と思う。



「グリニエル。よく聞け。
お前がそうやってエミリーに過剰なスキンシップをすることは、エミリーを危険に晒すことと同じなんだ。
それは潜入で顔が割れ、仕事ができなくなることだけじゃない。

お前を好いている令嬢だっている中で、こいつエミリーを特別扱いすることの危機感を知らないとは言わないよな?

エミリーはあちこちから命を狙われるだけでなく、からも興味を持たれるだろう。」

「っ!」



男という部分に強く反応を示した殿下は、私の背から離れてすぐ、私の正面に立つ。

「エミリー、悪かった。私は不用意に抱きついたりしないようにするよ。だからいつまでも私の妹でいておくれ。」

今にも泣き出しそうな顔をしながら迫る彼は、私から見ても冷ややかだ。

離れたことで、彼の耳のピアスがキラッと光る。それは彼の瞳と同じ色で、光り輝くそれは瞳と同じくらい透き通っていて綺麗だ。




「……お声をかけていただけるのは誠に光栄に思っております。
殿下が私のことを思って決心してくれたこと、私は本当に嬉しいです。」


「うぅぅ…そんなに寂しい事を言わないでおくれ。せめて誰もいない時くらいはお義兄様とは呼んではくれないだろうか?」




「はぁ…。お義兄さま…執務頑張ってください。」

私が少し眉を下げてそう言えば、殿下は目を瞑って余韻に浸っているようだ。

私は彼を甘やかしてしまう。
彼が調子に乗るのは私のせいでもあるのだろう。






「はぁ……。さあ、エミリー。
グリニエルはほっといて研究室に戻るぞ。」

「はい。…申し訳ありません、隊長。
御足労頂きましてありがとうございます。助かりました。」


私は隊長と共に歩き出し、殿下を廊下に残したまま、研究室へと戻った。


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