脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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オークション2

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私が目を覚ましたのは、薄暗い部屋の中だった。

どこか薬っぽい臭いのする部屋は、なかなかにいい装飾の施された場所で、とても違和感のあるところだ。

貴族の中でも公爵以上、それも上流。そうでなければこの装飾品の部屋が用意できるのはおかしい。そんなことを考えさせられた。

私は腕を後ろ手に拘束されていたため、目を覚ました体勢のまま、体を起こすこともせずにキョロキョロと辺りを警戒する。


すると、そんな私に声をかける者がいた。



「……起きたか。」

その声はとても低く、男のものだということはすぐに分かった。ただ、その姿はぼんやりとしか見えず、私は声のする方に問いかけた。


「あなたは誰。私を買った人…ということのかしら?」


「………答える義理はないが、私はお前のではない。とだけはお伝えしておきます。」


主人ではない。となれば目の前にいる人とは違う者が私を買ったということになる。

この家の主人の執事といったところだろうか。たまに織り交ぜられた丁寧な言葉は、普段のものを隠し切れていない証拠だ。





「…そう。人身売買は刑に処されることと知って尚、私を買ったということよね。」


「…あの方が正気を取り戻してさえくれれば、法や刑など関係のないことだ。
お前は言われた通りにしていればいいのです。」



その男はそう言いながら私の手足に枷を付けていく。なにやらその枷はずっしりと重みがあった。

男は易々と付けているはずなのに、私はどうも手足が重い。魔力のない私は無鉱石の効果を受けないというのに、どうしたということなのだろうか。

すると男が自ら教えてくれた。

「これはディストネイルで開発された、対ヴィサレンス用の足枷だよ。魔力を使う者は無鉱石には触れられない。そうなると拘束する時も大変なんだ。
だからディストネイル国に研究費用を出し、ヴィサレンスの血を受け継ぐ者だけに反応するようなものを作らせた。
そして、今回完成したばかりのコレを対価としてもらったわけさ。
付け心地はどうだろうか。」



ディストネイル。それは魔法の栄えているヴィサレンスとは違い、様々な薬の調合や研究
で栄えている新国家だ。 

ディストネイルはヴィサレンスを敵対していると噂されており、対ヴィサレンスの研究が進んでいる。その為、今私が付けられたコレは魔力量に関係なく私の力を奪っているのだろう。


力を入れても座っているのがやっとというくらいだ。



「とても最悪よ。」


「…それは良かった。」

男はそう言って立ち上がると、そのままパチンっと指を鳴らして電気をつけた。



突然目に入るその光に、私は目を細めて耐える。

目を瞑る隙に何をされるか分からない。そう思ったのだが、その男は私に何をするわけでもなくただ立っているだけだった。

電気によって照らされた彼の顔は、どこか見たことのある顔だったが、すぐには思い出せない。



「…私に何を求めているの。何をしてほしいのよ。」



「お前にはある方のフリをしてほしいだけだ。その人になり、その人として振る舞う。それだけでいい。あの方が正気を取り戻せばお前は用済みにしてやる。
精々精進するんだ。」


全く分からない。
私は誰かの気を持たせるためにここに連れてこられ、ここで誰かのふりをしなければならないことは分かったが、その誰かという部分がわからない。

それがヴィサレンスの女。だということは分かってはいるが、ヴィサレンスに住んですらいない私の力量でどれだけフリを続けられるかなど、考えるだけで乏しかった。


「どんな女になれというの?
ちゃんと教えてくれないと分からないじゃない。」


「…………レティシアーナ。」

「っ。」


「……という女だ。あの方にレティと呼ばれたら返事をしろ。
あの方の思うように動けばいい。」


男はそのまま話を切り上げ、扉から出て行ったが、私はその名前に衝撃を受けて動けなくなった。






レティシアーナ。
それは前聖女であり、私の産みの親でもある。その人のフリをしろなどというのは、神道への勧誘、偽回復魔法での詐欺…はたまたどんな企みを持ってのことなのだろうか。


私はその衝撃にグルグルと考え込む。
そうしている間に、また扉が開くと、見知った顔が入ってきた。










「っ…!…こ、…国王陛下っ。」











彼の顔を見て私は驚く。
この国の王、直々に人身売買の場を収めに来たのだろうか。そう思ったが、すぐにそれは違うことが分かった。

「レティ…。」


「っ。」





その言葉を聞いて悟った。

ヴィサレンスの女わたしを買ったのは国王陛下だということ。そして売られた私が主人として仕えなければならないのはこの方だということをだ。






「こ、国王陛下…。き、気を確かにしてくださいませ。っ。」

先程の男は入ってこない。
そのことを確かめて、私は陛下に何度も声をかけた。


あの男が陛下に何かをしたのだろうか。
陛下は正気のない虚な目で私を見ている。



「レティ。私の名を忘れたのか?
マルスと呼ぶんだ。恥ずかしがることはない。ここには私と其方しかいないのだから…。」


なんということだろうか。
私は一国の王を愛称で呼ぶなど恐れ多い。

しかしそうでなければ話を聞くことも難しそうなため、私はその名を口に出した。





「…っ。……ま、マルス。
聞きたいことがあるの、答えてくれるかしら。」


「……。」

言葉選びが不味かっただろうか。私は母を知らなすぎる。レティシアーナのフリをするなどほぼ無理に近いのだ。


そう思っていたが、すぐにその不安に言葉が被された。

「…レティから私に尋ねてくれるだなんて嬉しいな。」



優しく笑う陛下は、私のすぐ後ろにあったベッドへと私を抱き運ぶ。

育ての親である彼の香りは、とても懐かしく、そして引っ掛かりのある臭いがした。



そう、それは以前殿下の婚約パーティーで嗅いだ麻薬のものとよく似ている。


私はそのまま口を開こうと彼の顔を見る。
するとすぐに視線がぶつかった。

「へ、陛下…?」

「マルスだ。」

「ま、マルス。あの…っ。」


私が彼に問いかけようと口を開くと、それは彼の唇によって塞がれた。


「っ。」


私は咄嗟に口を閉じようとしたが、そのまま彼の舌の侵入を許してしまい、何度も何度も舌が絡められる。



「…ん。」


舌を噛んで正気を取り戻させはしないのかとは思うのに、どうしても力が入らないのは先程手足に付けられた枷のせいだろう。

「レティ。……レティ…。」

何度も愛おしそうに母の名を呼ぶ陛下は、母の何なのだろうか。

そう考えていると、前開きのドレスがどんどん脱がされていく。

今日のドレス選びは失敗だったとその時思った。

人目につかないようにと色味だけに拘った、動きやすいストレートドレス。しかしこうやって襲われかければ、もっと脱がしにくい物にすれば良かったと後悔した。


露わになった私の胸元に、彼はゆっくりと赤い印を落とす。そうしてそれを見る彼はとっても満足そうに見えた。

「…っ!」


私が気付かないうちに仕込んでいたのだろう。私は彼の唾液と共に薬を飲み込んだらしく、どんどん脈が早くなるのが分かる。

確かあの時の麻薬の作用は快楽だと言っていた。
自分の理想通りに事が進む幻覚が見え、そしてその通りに行動をする。それは体内に入った瞬間から少しずつその者の脳を蝕む。



「…陛下。おやめください、陛下っ。」


私の体内にも入ってしまったそれは、まだ数分しか経っていないというのに、私の心を乱す。

「…っ。エル、義兄さま…。」


会いたい。
殿下に。

今すぐ抱きしめてもらいたい。


そう頭が言っていて、聞かない。
それは私の胸の内にある欲望。
幼き頃の甘えたい欲望が、私を支配しようとしていた。



「っ…。」



「レティ…。今すぐ私のものとなれ。」


「…。」


上手く頭が働かない。
そうして彼は私に覆いかぶさり、何度も私の頬にキスを落とした。


何筋もの涙が瞳から溢れる。
もう逃げられない。
そう思うと、先程の扉が勢いよく開いた。





「エミリー!」

バンっと勢いよく開いた扉には義兄2人がいた。


「義兄…さ、ま。」

私の瞳から涙が流れると、すぐにブルレギアス様の守護魔法が私を覆い、国王陛下はその魔法に弾かれ、後ろによろめいた。

「ぐっ。」

「っエミリー!」

「待て、エル。」

咄嗟に駆け寄ろうとするグリニエル様を止めたのはブルレギアス様だ。
私は陛下を介して麻薬を少量だが体内に入れてしまった。何をされたかも分からない状態の私に、今すぐ触れるのは危ないということだろう。

私はそのまま力が入るわけでもないため、2人を横目にしながらベッドに転がっていた。





「…ブルレギアスにグリニエル…か?」

「はい。陛下。不躾と承知でここに参りました。今しがた騒動がありまして、陛下にもお話をお聞きしたく…。宜しいでしょうか。」

「…ブルレギアス、後にしろ。今私はレティと…。」


陛下はまだ私をレティシアーナだと思っているようで、保護魔法を施されている私にまた近付こうとしてくる。


「父上。目をお覚まし下さい!」

「なんだグリニエル。…それなら、報告だけ今聞こう。用が済んだら直ぐに出て行け。…いいな。」



「…っ。」

グリニエル様は頭に血が上っているのか直ぐにでも攻撃を仕掛けそうな勢いで陛下を睨む。

そしてそれを諭すように止めるのは、彼の隣にいるブルレギアス様だ。


「エル。落ち着け。お前はエミリーのこととなると本当に歯止めが利かないな。」

「っ。エミリーの身が第一です。さっさと始めてください。」

ブルレギアス様は陛下の様子を伺いながら口を開く。





「……陛下。以前グリニエルが潜入騎士に仕事を任せた際、人身売買の話を嗅ぎつけたのです。」



それは私が、麻薬の元手である伯爵邸に潜入した時のこと。
私はあの時、背に傷を負い、オークションに出されそうになった。

「人身売買か。国では禁止とされているが。捕らえることはできたのか?」



「はい。しかし、今回のオークションで出品された最後の1人を、まだ保護する事が出来ておりません。」


「……お前たちがいながら、みすみす見逃したなどという報告は聞きたくはないぞ。」


その視線は以前のように鋭く、先程まで幻覚を見ていたとは思えない程にしっかりとしている。

ただ、レティシアーナこことに関してだけが現実と幻覚がごちゃ混ぜになってしまっているようだった。

それはまさしくあの麻薬の特徴で、普段の生活には支障をきたさないことから、周りの者は気付くまでに時間がかかってしまうのだ。


「いえ、私たちが探していたのは、陛下の目の前にいる女性。です。」


「っ…。エミレィナ…だと?
何を言う。彼女はレティだ。間違えるはずなどないだろう。」


「陛下。レティシアーナ様は20年も前に亡くなられたではありませんか。まさか、彼女の最期を覚えていないのですか?」


「っ!」

陛下は目を見開き、頭を押さえる。
どうやら記憶と現実に起こっている今が彼の中でぶつかり合っているのだろう。
彼は混乱しているようで、そのままひざをついた。





「っ。レティは…レティはもう…。
いや、違う。レティは私にもう1度会いに来てくれたのだ…。
こうやって私のところに…。」


何が何だかわからない私はブルレギアス様に問いかけた。


「ブルレギアス様…どういうことでしょうか。陛下は母の力を求めていただけだったのではなかったのですか?」



「…ああ。…まず、順を追って説明しようか。その方がわかりやすいだろう。」



そう言った彼は真っ直ぐ陛下を見ながら口を開いた。



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