脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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怒り②グリニエル目線

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「朝早くから申し訳ない。ロレンザ殿。」

まだ朝食すらも取る前。
私は前夜の内に頼んでいた通り、早朝から彼の執務室に来ていた。


「…いや、構わないさ。
イザベラと話でもしたいとも思うんだが、私のことよりも勇者殿に気が向いているようでな…。
時間があった所だ。」

イザベラはロレンザ殿の婚約者。
そんな彼女は兄であり、憧れの剣士であるケインシュアと再会をして、共に剣術の鍛錬に勤んでいる。

そんな感動的なことでも、蚊帳の外にされてしまえば、ロレンザ殿でも寂しいようで、少し眉を下げている。

イザベラの前では彼も1人の男に過ぎない。
彼の弱みであるのだろうと感じた。




「そんなことより、君の方が心配だよ。
せっかくエミレィナを王家に迎え入れ、正式な血統が証明された今、何を渋る必要がある。
早く想いを伝え、婚約を結んでしまえばいいのに。」

「…。」

私にとってそれは簡単なことではない。

16年もの間、エミリーは私の妹として育ち、さらに4年の間は潜入騎士として私のそばにいる。急に私が好きだから婚約してくれと言っても、彼女にとって私は義兄であり主人。婚約者になるなどという考えにはならないだろう。

最悪の場合、気持ち悪がられ、騎士を辞めたいなどと言われれば、私は彼女の側にすらもいられなくなってしまうのだ。

それがあまりにも怖すぎる。



しかも、ヴィサレンスへと来てから、エミリーは随分とレヴィ殿と仲良くなった。

私がセレイン嬢に追われている間も、
会合している間も、エミリーはレヴィ殿と共に過ごしていた。

そんな2人がいつの間にか恋仲になっているのではないか。という不安が常に付き纏っているのだ。


「…まさかとは思うが、喧嘩なんぞしていないだろうね。
早朝から仕事をするのは、夕刻にエミリーとの時間を作る為。だと思っていたのだが…?」

「喧嘩はしていないが…」


「はぁ…一方的に拗ねているといったところか。
一国の王子がなんと嘆かわしい。」


「っ…。」

随分な言われようだが、否定することもできない。
その言葉に私は眉を潜めた。


「ふん…大方、レヴィとエミリーの関係にモヤモヤしているが、エミリーには直接聞けないのだろう。
今の関係を崩したくないとも思っているのか?
私も似たようなことがあったから分からなくもないが、そのままでは相手にもされないぞ。」



「っ!ろ、ロレンザ殿もこの気持ちが分かると?ならば、教えてほしい。
私はどうしたらいいんだ。
どうすればエミリーに嫌われることなく進展することができるんだ…っ。」



「…それじゃ、私とイザベラの話をしよう。
長くなるが、グリニエル殿にとって為になる話だろう。」

「っ。ありがとう、ロレンザ殿。」



広い応接室。
そこにある対面された1人用のソファ椅子に座り込み、私達は話を続けた。




「私とイザベラは私の一方的な一目惚れから始まったんだ。
漆黒の美しい髪に鈍色の瞳。
そんな血を浴びた女神は私にとって衝撃的だった…。」

「ち…血を浴びた女神?」

「ああ。その頃は国を覆うほどの防壁魔法を使うことができなかったからね。
近くに出た魔物の退治要請を受けた私が向かったんだよ。
そしたら私よりも先にその魔物を退治している綺麗な女性がいてね。
驚いたよ…。」

ヴィサレンスの王家は愛した者と想いが通じ合うことで更に力を得ることができる。
きっとロレンザ殿の今の力は、イザベラと想いが通じ合ってから得ることができたものなのだと推測した。


「彼女は記憶を無くしていて、どこの誰かも分からなかった。
容姿を元にサクリ国へと伝令を送ったが、行方知れずの者はいないと言われてね。
何者かも分からない者を監視するのに、私の近くに置いたんだ…。」







それから暫く、ロレンザ殿は止まることなくイザベラの話を続けた。

しかし、私は彼らの出会いには興味などない。
知りたいのはどう打開したのか。それだけだ。


それなのに、答えを聞くまでだいぶ時間が経っている。時計を見ると、話を聞き始めてから早くも半刻を迎えることが分かった。



もういい加減ゴールして欲しい所だと思っていると、やっとそれらしい下りへと差し掛かった。


「イザベラはかなりの鈍感でね。
関係を壊さないようにと回りくどいことばかりしていたことが裏目に出ていたんだよ。
「誰か好きな者はいないか。」
「結婚は考えていないのか。」
そういうことばかり聞いていたせいか、イザベラには政治に利用されるものとばかり思われていたらしい。」



「…。」

それはなんだかグサリと胸に刺さるかのように身に覚えがある。
私はその勘違いに気付いたまでは良かったが、それを払拭するために動いた為、との結婚を求めていないとして、エミリーは潜入の仕事に就き、その上、乙女を捧げてしまったのだ。

悔やんでも悔やみ切れないほど自分を恨んでいる。

「…わたしははっきり言ったんだ。
政略結婚は求めていない。
その代わり、私と恋愛結婚をしてくれないだろうか。と。」

「っ…」

私はあの頃に戻りたい。
私が今の言葉を4年前に言えていたのなら、私もエミリーと恋仲になれていたかもしれない。そう思った。


「まあ、早い話。私が言いたいのは、回りくどいことはせずに想いを伝えるべきだということだ。
見た所、エミレィナは君を嫌っているわけではない。
グリニエル殿が自身を好いていると気づくだけで、彼女の態度は良い方向に変わるだろう。」

「回りくどいことはせず…か。」


今まではどうにか彼女に好かれ、そして想いあってから婚約を申し出ようと思っていた。

しかし、それではきっと彼女が私の想いに気付くことはないというのだろう。

私はその助言を昨日も耳にしたことを思い出す。
そう。レヴィ殿だ。

レヴィ殿はエミリーをどう思っているのだろうか。

むしろ、あんなにも可愛らしいエミリーと一緒に過ごして恋心が芽生えないということはあり得るのだろうか。

もし、レヴィ殿がエミリーに対して何も思っていなくとも、エミリーはレヴィに好意的だと言っていた。

それならばわざわざ兄というポジションまでも捨てる必要などないと思ってしまう。
私はどうにかしてエミリーのそばにいたいのだ。


「…エミリーが他に誰かを好いていたらどうすればいい。」

「そんなことはないと思うが…
それならそうだとはっきり言われた方がいいだろう。
今はまずらエミリーの感覚に、兄としてでも主人としてでもなく、1人の異性として映ることだけ考えるべきだ。」


「…分かってはいるんだがな。」

私はなんだかぐったりとなり、休憩を挟むこととなった。

その間、私はエミリーのことが気になり、エミリーが毎日訪れているという修練場へと向かった。







話し声は聞こえない入口付近。
私はエミリーの様子を伺う為に修練場の中を覗く。

ここの修練場はレヴィ殿がエミリーの為に貸し切り、更に人払いをしているらしい。

ここに来るまで、誰1人としてすれ違うことはなかった。


誰もいないということは何をしても誰にもバレないことを意味している。

もし、2人が既に恋仲であったなら、中を覗くことが怖いと思う。



ロレンザ殿を待たせている為、早く中を覗いて戻らなければならない。そう思うのに、身体は拒否している。
全く動かないのだ。


一目…一目見るだけで、あとは戻ろう。
そう自分に言い聞かせ、修練場の中を覗く。


「…何の話をしているかが全く分からない。」



2人は休憩中なのか、中央にはおらず、隅の方にいた。それも、ここからはだいぶ遠い。
しかし、何となく何をしているかくらいは分かる。



見る所、特に問題はない。
少し距離感が近い気もするが、いい友人。と呼ぶに相応しいもので一安心した。



「…良かった。」



まだエミリーは恋を知らない。
それならば私が焦って想いを伝える必要も、まだないのではないかと思う。


「っ。」

私がその場を後にしようと後ずさると、レヴィ殿が動いた。
それは衝撃的なもので、彼がゆっくりと動いているように見えた。


私が目を見開くと、その間にレヴィ殿がエミリーに重なり、2人の頭が重なって見えた。
さらに、予想外なことに、エミリーも動かなかった。



「くっ…」

私はそのまま数歩後ずさり、その衝撃を抱えたまま、ロレンザ殿の元へと戻った。



その後の私が役立たずだったことは言うまでもないだろう。
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