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リリベルのピクニック
しおりを挟むウィルの3日目の休み。
私は早起きしてお弁当を作る。
昨日の勉強会が終わった後、
頑張ったご褒美として
ウィルとピクニックの約束をした。
私は朝起きて野菜と肉をトルティーヤで巻いたサンドイッチを作る。
そしてカットしたフルーツとレモン水を持った。
用意を終えた私たちが
馬車に揺られてしばらくすると、
いつもの原っぱが見える。
それを過ぎるとお花畑が見えてきた。
今の季節は花がとても綺麗に咲く。
私は毎年ウィルとここでピクニックをするのが楽しみだった。
「……今年も綺麗ね。」
「ああ、一面菜の花だな。」
殿下の髪色のように綺麗な黄色。
あたり一面の菜の花を見て殿下を思い出す。
「今殿下のこと考えてただろ。」
なんで分かるのだろうと思って
素早くウィルを見た。すると
「リリィの考えていることは筒抜けになる時がある。」と笑っていた。
お弁当を取り出して2人で食べると、
いつものようにウィルは
私の手料理を褒めてくれ、
いくらでも食べられそうだと冗談を混ぜていた。
「……そういえば
殿下はどうしているかしら。」
「きっと、私の分の執務に追われているさ。
殿下にはリリィと2人で出かける
とだけ伝えたからね。
きっと今頃血眼になって
書類を片付けているんじゃないか?」
もしかしたら明日の夕方ごろには顔を出してくるかもしれないなどと迷惑そうに言う彼だったが、その顔は嫌そうという感情だけではなさそうだ。
「殿下に押し付けちゃって良かったの?」
「殿下がリリィを
振り向かせるために動いていた時の執務は
私がやっていたんだから、
それでおあいこじゃないか。」
ニコッと笑う顔は
いたずらをした時の子どものようだった。
珍しい顔を見れたなと思う。
静かに暖かい風が吹く。
2人ともフルーツまで食べ終わると、
花畑に横になる。
くすぐったくて良い匂いだ。
このまま昼寝でもできそうだなと思うと、
ウィルから提案がなされた。
「リリィ。食後の運動に一曲どうだ?」
そっとウィルが差し出した手を、
私は迷うことなく掴んで立ち上がる。
「……よろこんで。」
ウィルがパチンと指を鳴らすと
ダンスの練習に使っていた
夜会の音楽が流れた。
「いつ見ても凄いわね。」
「聞き慣れた音楽しか流せないけどな。」
そう言って手を取り、ダンスを始める。
彼のおかげで随分とダンスにもなれた私は
踊りながらでも話すことができるくらいにはなった。
「リリィと踊るのも
これが最後になるかもしれないな。」
「そんなことないわよ。
ちゃんと誘いに来てくれれば…」
「そんなこと、殿下が許すと思うのか?」
「…あー。それも…そうね。」
ウィルと踊れなくなるのは寂しいのに、
殿下が私を独占してくれるのは嬉しいと思う、不思議な気持ちになった。
「ただの幼馴染なのに、
踊ったり触れたりできなくなるなんて、
大人って窮屈なのね。」
「ああ。大人は窮屈だが、自由だ。」
ウィルの視線が私とぶつかる。
私の文句もすぐに上塗りしてしまう彼は、
私にとって魔法使い…。
「ウィル。ウィルも幸せになってね。」
ボソッと私が口を開く。
「私の幸せはリリィの騎士をやることだ。
しばらくはリリィを見守ると決めている。
でもリリィが立派に皇妃になったら、
その時にでも身を固めようかな。」
「ええっ。私の責任重大じゃない。
ウィルはモテるんだから
ウィルと結婚したい令嬢は山ほどいるのよ。」
「…それでも。…私の気が乗らないんだ。」
少し悲しそうな顔をして笑うウィルに、
何も言えなくなってしまった。
一曲が終わる。
私とウィルは止まり、少し体を離したが、
すぐにウィルに引っ張られて、
気づくとウィルの腕の中にいた。
「え…?」
「リリィ。…………幸せになれ。」
「っ!」
私は驚きで何も反応することが
できなかった。
「私はリリィが幸せならそれでいいんだ。
リリィはいつまでも私の大切な幼馴染だ。」
「忘れるなよ。」
そう言ってキツく抱きしめていた手を緩めた。
「急にびっくりしたじゃない。
もちろんよ。ウィル。
ウィルがいなかったらきっと私は私じゃなかったわ。
いつもそばにいてくれて本当にありがとう。」
今日は泣かない。
にっこりとウィルに微笑むと、
ウィルが小さな包みを見せる。
「私もリリィと出かけた時に
こっそりと買っていたんだ。」
渡そうかとは悩んだんだが、
やっぱり持っていてくれたら嬉しい。
そう言って包みを開けると中からガラスでできた栞が出てきた。
よく見るとマーガレットの形をしている。
「わぁ…綺麗な栞ね。」
「リリィの綺麗な髪色みたいだろう?」
ピンクのマーガレットは
ウィルが初めてプレゼントしてくれた花。
私はぎゅっと栞を握りしめた。
「…大切にするね。」
「ああ。」
私とウィルはもう一度菜の花を見る。
「来年も来れるかしら。」
「来年は殿下と来るといい。」
ウィルを見上げるとなぜかスッキリとした顔をしていた。
2人でぼんやりと菜の花を眺めると、
後ろから聞きたかった声が聞こえてきた。
「リリィ!」
「ん?……っ!殿下⁈」
髪を黒く染めた殿下がいた。
変装してまで私たちを追ってきたのだと
すぐに分かった。
「どうしてここが?」
「マーサな聞いたんだ。
きっとここだろうと言われてね。
まさかこんなに綺麗な花畑があるとは
知らなかった。」
「ええ。穴場なんです。
毎年ウィルとここで
ピクニックしてるんですよ。」
ね、ウィル?と言うと、
ウィルは私に哀れんだ目を向けていた。
「……毎年?」
「え?で、でんか?」
「リリィは他の男と出かけたことをそんなに楽しそうに私に話すと言うのか?」
「え、いや、その。
ら、来年からは殿下と一緒に…って思ったのだけれど、
殿下はピクニック嫌でしょうか?」
私は咄嗟に話を逸らす。
「ああ、来年からは私と行くのだな?」
ならばよかったとにこやかな顔に戻る。
「あの、殿下、執務はどうなさったのです?」
私はウィルの分も押し付けられた執務の心配をする。
「あんな執務が増えたくらい、
どうってことない。
私はリリィに会うためならたかが3日寝なくても平気なんだ。」
ニッコリと笑う殿下だったが、
私は聞き逃さなかった。
「…3日?」
「…っリリィ、殿下。
私はそろそろ戻ります。
2人でゆっくりと過ごすといいでしょう。」
ウィルはヤバいと思ったのか咄嗟に口を開き、
それでは。と言い残してさっさと帰っていく。
私は殿下に視線を移したまま、
その視線を離さずに言う。
「殿下。人には大切なものがございます。
その1つが睡眠です。
それをたかがとはなんですか?」
「え…?」
私が怒っているのが伝わったようで、
殿下は慌てだした。
「ああ、いや、リリィが心配だったんだ。
フレッドと2人で出かけるなんて
何があるかと不安で…。その、だな…。」
「私とウィルは兄妹のようなもので、
何かが起きるような関係では
一切ございません。
分かっていらっしゃいますよね?」
「…うっ」
「話を逸らさないでください。
私は3日睡眠を取らなかったことを
怒っているのです!」
私はしょんぼりしている殿下の手を私の方へと引っ張った後、膝をついた殿下を無理やり押し倒す。
「私が枕になるのでちゃんと寝てください!」
子どもを叱るように上から見下ろせば、
殿下はボッと顔を赤らめる。
「え、殿下?」
「いや、リリィ。
何でもないんだ。
睡眠を取らなかったことは謝る。
すまなかった。」
「本当に…。反省しているよ。」
殿下が顔を抑えて謝る。
それならばと私の怒りはすぐに収まりを見せた。
「それならよかったです。ではどうぞ。」
そう言って正座をしてポンポンと膝を叩いた。
「っ。」
殿下がゆっくりと私の膝に頭を乗せる。
上から見る殿下はなんだか可愛らしかった。
そっと殿下の髪を撫で、
落ち着きを取り戻した私はぽつりと話しかけた。
「殿下。私も、その…ごめんなさい。」
「何がだ?」
「…昨日ウィルに授業をしてもらって
色々学びました。
殿下が私ではない令嬢と仲良くすることを
考えてとても嫌な気持ちになったのです。
私はいつも殿下にそんな思いをさせていたのかもしれないと思うと申し訳なくな…っ」
話の途中で私の声は出なくなった。
殿下の唇が私唇に重なったからだった。
「リリィ。それは本当かい?」
「ぇ?」
驚きで腑抜けた声が出る。
「リリィがヤキモチを妬いてくれたなんて嬉しいよ。」
起き上がった殿下は私を寝かせ、
その上から私を見つめる。
「リリィ。
私の運命の人。愛しているよ。」
そう言うとまた私にキスをする。
それがどんどん深くなっていくと、
チュ。クチュっと音がする。
私はまだ深いキスに慣れないながらも
一生懸命それに応えたいと思った。
顔が離れると、少し物足りない気持ちになる。私は恥ずかしくなりながらも、殿下の腰に手を回した。
「…もう一度……もう一度キス、
…してほしいです…」
自分の顔が真っ赤なのが分かる。
「リリィっ。」
「んっ。」
殿下と呼ぼうとしたが、
キスによって阻まれる。
また深いキスを受けたが、
先程までのものとは勢いも角度も
違っており、殿下の舌が口内を這う。
私は入ってくる殿下の唾液をそのまま飲み込んだ。
「殿下?」
唇が離れたことで、彼を呼ぶと、
殿下は私の首筋にキスを落とされ、
それに驚いた私はピクッと体が跳ねた。
するとすぐに首筋にちくりとした痛みが走る。
「っん⁈」
「ごめん、リリィ。痛かったかい?」
「え?ええ、少し。」
「どうも上手く歯止めが利かなくてね。
これぐらいは許してほしい。」
私は何のことか分からなかったが、
このくらいなんてことはないですと、
殿下の愛情としてその痛みを受け入れ、
私たちは2人で帰路へと着いた。
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