6 / 7
皇太子
――百合と話がしたい。
翠妃様が離宮に来られてから二日経った、今日の昼のことだった。
居間は、とりあえず最低限生活に事足りるだけの品々が揃っていたが、豪華とは言えない小さめのテーブルと、シンプルなソファー。
そこに、皇太子様が座っていた。
隣に、少し緊張した面持ちで、ちょこんと寄り添うように座っているのは翠妃様だ。
薄紅の伝統衣装をまとっている。
この季節に合った涼し気な装いだった。
「百合はどこまで知っているんだ?」
何について聞かれているのか、はっきりとせず、わたしが答えに窮していると、
「百合は何も知りませんよ」
先輩侍女が代わりに答えてくれた。
「そうか……。
では、少し長い話になるかな。そこに座って」
促されて、わたしはテーブルを挟んで反対側に置かれた椅子に座らせていただく。
なんだろう、どんな話になるのかな……。
「この国の皇帝一族にはね、予知能力があるんだ」
は?
今、なんて言った?
なんの話だ、わたしをからかっている?
もしかして、何か試されている?
頭に?マークを浮かべ、受け答えできないでいるわたしをよそに、皇太子はなお続けた。
「この国ができた時から、歴代の皇帝には、未来が見える力が備わっているんだ。
こういう選択をすると、こうなるという未来の可能性が無数に見える。
その中で、国や国民にとってより良い未来になるような舵取りを皇帝はしているんだ」
なんとも、荒唐無稽な話であった。
その予知能力は、国の大事に関わることに、特に強く発現するのだそう。
個人個人の未来がすべて見えるという訳ではないそうな。
「百合は、歴史を学んでいたんでしょう?
おかしいとは思わなかった?
この国が、先の二度の大戦に関わらずにいられたこと。
地政学的には重要な位置にいてもおかしくないのに、世界史の流れにほとんど出てこないこと。日本ともほとんど関わらないよね」
全て、歴代の国王が国を守るため、できるだけ他国と関わらない選択を続けてきたからだそうだ。
台風や大地震、火山の噴火。
地理的に少なくはないが、大災害は必ず予知できる。
だから被害は最小限に抑えられてきた。
にわかには、信じられないけど……。
それに、どうして今、わたしにその話をするのだろう。
「これは知っているかもしれないけど、碧蘭は父上の側室になるはずだったんだ。
一昨日、我が父ながら情けないことに、碧蘭は結構酷いことを父にされてね。
私はそれを見逃す事ができなかったんだ。
私には、碧蘭が、私の側にいてくれる未来も見えていたしね。
間違ったことをしたとは思っていないよ」
翠妃様を見つめる皇太子様の目は優しかった。
「だけどね……、
ほとんどの国民は、そうは思わないんだよね。
皇帝のすることは絶対だから。
碧蘭本人ですら、皇帝の元を去って、私と一緒になることに、罪の意識を抱いてしまっているんだ。
百合は日本から来たから、この国の王宮の人間とは違う価値観を持っている。
だから、皇帝の行いをおかしいと思ってくれるだろう。そういう人が碧蘭の近くに必要なんだ。
碧蘭の味方でいてやってほしい」
「あの、差し支えなければ、翠妃様が陛下にどんな酷いことをされたのか教えていただけませんか?」
『判断を間違わない』と年配侍女に言わしめた皇帝陛下が、側室候補とはいえ、一人の少女にどんな酷いことができるのたろう……。
「それは……」
言いよどむ皇太子様に、翠妃様が口を開いた。
「皇帝陛下と王妃様のまぐわいを、目の前で見せつけられました」
次はお前ともこうするのだから、よく見ておくのだよ……と。
最初から最後まで、目をそらすことを許されなかったという。
「やっぱり、おかしいことだったんですよね」
可愛らしい声は、小さく震えていた。
翠妃様が離宮に来られてから二日経った、今日の昼のことだった。
居間は、とりあえず最低限生活に事足りるだけの品々が揃っていたが、豪華とは言えない小さめのテーブルと、シンプルなソファー。
そこに、皇太子様が座っていた。
隣に、少し緊張した面持ちで、ちょこんと寄り添うように座っているのは翠妃様だ。
薄紅の伝統衣装をまとっている。
この季節に合った涼し気な装いだった。
「百合はどこまで知っているんだ?」
何について聞かれているのか、はっきりとせず、わたしが答えに窮していると、
「百合は何も知りませんよ」
先輩侍女が代わりに答えてくれた。
「そうか……。
では、少し長い話になるかな。そこに座って」
促されて、わたしはテーブルを挟んで反対側に置かれた椅子に座らせていただく。
なんだろう、どんな話になるのかな……。
「この国の皇帝一族にはね、予知能力があるんだ」
は?
今、なんて言った?
なんの話だ、わたしをからかっている?
もしかして、何か試されている?
頭に?マークを浮かべ、受け答えできないでいるわたしをよそに、皇太子はなお続けた。
「この国ができた時から、歴代の皇帝には、未来が見える力が備わっているんだ。
こういう選択をすると、こうなるという未来の可能性が無数に見える。
その中で、国や国民にとってより良い未来になるような舵取りを皇帝はしているんだ」
なんとも、荒唐無稽な話であった。
その予知能力は、国の大事に関わることに、特に強く発現するのだそう。
個人個人の未来がすべて見えるという訳ではないそうな。
「百合は、歴史を学んでいたんでしょう?
おかしいとは思わなかった?
この国が、先の二度の大戦に関わらずにいられたこと。
地政学的には重要な位置にいてもおかしくないのに、世界史の流れにほとんど出てこないこと。日本ともほとんど関わらないよね」
全て、歴代の国王が国を守るため、できるだけ他国と関わらない選択を続けてきたからだそうだ。
台風や大地震、火山の噴火。
地理的に少なくはないが、大災害は必ず予知できる。
だから被害は最小限に抑えられてきた。
にわかには、信じられないけど……。
それに、どうして今、わたしにその話をするのだろう。
「これは知っているかもしれないけど、碧蘭は父上の側室になるはずだったんだ。
一昨日、我が父ながら情けないことに、碧蘭は結構酷いことを父にされてね。
私はそれを見逃す事ができなかったんだ。
私には、碧蘭が、私の側にいてくれる未来も見えていたしね。
間違ったことをしたとは思っていないよ」
翠妃様を見つめる皇太子様の目は優しかった。
「だけどね……、
ほとんどの国民は、そうは思わないんだよね。
皇帝のすることは絶対だから。
碧蘭本人ですら、皇帝の元を去って、私と一緒になることに、罪の意識を抱いてしまっているんだ。
百合は日本から来たから、この国の王宮の人間とは違う価値観を持っている。
だから、皇帝の行いをおかしいと思ってくれるだろう。そういう人が碧蘭の近くに必要なんだ。
碧蘭の味方でいてやってほしい」
「あの、差し支えなければ、翠妃様が陛下にどんな酷いことをされたのか教えていただけませんか?」
『判断を間違わない』と年配侍女に言わしめた皇帝陛下が、側室候補とはいえ、一人の少女にどんな酷いことができるのたろう……。
「それは……」
言いよどむ皇太子様に、翠妃様が口を開いた。
「皇帝陛下と王妃様のまぐわいを、目の前で見せつけられました」
次はお前ともこうするのだから、よく見ておくのだよ……と。
最初から最後まで、目をそらすことを許されなかったという。
「やっぱり、おかしいことだったんですよね」
可愛らしい声は、小さく震えていた。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。