地味教師とヤンキーくんのチグハグな2人の逢瀬

もちもちもちお

文字の大きさ
2 / 69

出会い

しおりを挟む
数年前の三月に卒業した大学で最後の最後までお世話になっていた教授達からは「……ほ、本当に、本当に大丈夫かい?あれだったら院で私の手伝いとかでもぶっちゃけ良いんだよ?」と有難くも声を掛けてもらっていた。僕としてはいい加減自立しなければならないと変なやる気に満ちていたのだ。今思うと痛いヤツだ。何とか自身を鼓舞して夢だった教職という夢を叶えたのはいいものの…。

人生は決して甘くは無い、という事だろうか。この根っからの陰キャというものには越えられない壁なるものは高過ぎたのだ。
いや決して教職を甘く見ていたつもりは無いのだが、日々の教員同士のやり取りやら生徒間のトラブル対処…そして自分のデスクに積もりに積もる…いや、押し付けられる書類の山。断る事が出来ない自身のせいではあるのだが。
………見事に心身を壊してしまったのだ。親にも親戚の皆さんにも心配されて数年間の療養をしていた。
あの時教授が、どうしてそこまで心配してくれたのか理解できた。僕には複数のタスクを捌くのが苦手過ぎたのだ。ある一定数ならばなんとか出来るのだが…こうストレスを溜めたり突発的なモノが降り掛かってくると頭の中がパーンとしてしまうらしい。教職としては致命的なステータスだ。
だが……だがやっぱり夢見ていた仕事だし、もう少しだけ頑張ってみたくて。



春からこの学園に無事赴任する事が出来たのは良いのだが。
震える手のひらが視界に入る。入学式と入職式を終えてからもう数週間が経っているというのに、未だに環境に身体が慣れていないらしい。本当は良くは無いが…それを隠すように普段から愛用しているカーディガンのポケットに手を突っ込んだ。
一日一日を何とかこなし、終えていく日々。相変わらずやる事は多いものの、入職時、先生方の前で挨拶をした段階で現状の僕のダメダメさ説明をした為だろうか。振り分けられる仕事は比較的少なめである。前の学校とは違って大分良い意味で緩く優しい職場だと思う。フォローも手厚いし有難い限りである。

こうして一人で校内設置の自販機で買った缶コーヒーを嗜むことが出来る程度には。
既に時刻は夕暮れ。空も濃い橙色に染まっており部活動を行っている声や、音があちらこちらから微かに聴こえてくる。生徒たちはそれぞれ青春というものを全力で謳歌しているのだなぁとついほっこりしてしまう。僕はこの性格故に自分が彼等の年齢の時は同じ様に過ごせなかったから…羨ましいなと感じてしまうのだ。だからこそ、そんな全力な生徒達を支えられる存在になりたい。あの時の自分を慰める為…でもあったりするのかもしれないな。
気が付けば手の震えが止まっていた。良かった。終業近くなると収まるだなんて現金な野郎だと思うが、今はそれで良いんだ。
緩くまだ若干の肌寒さを感じる風が僕のクルクル天然パーマを揺らす。
口内の苦味と微かに感じる甘味に今日もあと少しで終わりだなぁと耽るのだった。

ザリッ

「?!」
「…………ぁ。」

そろそろ職員室戻りますかぁと思っていたら、自分以外の足音が傍で鳴った。途端に心臓がドクンッ!と変に脈打ち、全身でバクバクと鼓動を感じる。立ち上がろうとしていたのだが、そんな事があった為にその場に尻餅を着いてしまった。凄く…凄く恥ずかしい。眼鏡もズレるし。
慌ててその場から立ち上がり、臀部に付着した土埃を払って眼鏡を直した。相手にとってもいきなり野郎にビビられるのも嫌だろうと…。一先ず驚いてしまったことに対して謝罪はするべきだ。そう思い足音の主の方に顔を向けたのだった。

「……地味セン?」
「………………………あ、浅見くん。」

まじかーーーーー!!!!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
も、申し訳ないけど結構僕が苦手としてる生徒じゃんか!!!!
学校内で一番のイケメンと称されているけど、学校内で一番の喧嘩しちゃう系男子で他の先生方も割と手を焼いてるって言われてる子じゃん。終わった。
そんな彼に対して失礼を働いてしまったのだ「地味が移ったじゃねぇか、お礼にちょっとその場でジャンプしてみろや」とか言われちゃうんじゃないの?慰謝料請求されんじゃないの?そんな意味わからない思考が脳内を占めていく。変な汗が滲む。

「ってあれ、怪我?」
「……………コケた。」
「コケた?首元……を?」
「……………………そー。」

焦っているのは間違いないのだが。それよりも制服をオシャレに着崩している彼の首元に、妙にハッキリと痣の様なものを見つけてしまった。
徐にその部分に手を添える。怪我の度合いがどの位のものなのか確認する為に、若干顔を近付けた。確かまだ養護教諭の田中さんは居るはずだ。いざとなったら行くように促す事位は僕にも出来るだろう。

喧嘩っ早いとは聞いてはいたが、案外日に焼けていないものなのだなと思えた。よくあるヤンキー漫画とかでは青空の下堂々と殴り合いをしているシーンとかあるから、こういう子達はみんな健康的な小麦肌なのかなぁとか勝手なイメージをしていたのだが。彼はそれに属しておらず、綺麗な色白であった。陶器肌?というのだっけ。若さゆえか肌が手に吸い付く。見た目も校則違反ではあるが、キラキラとした金髪でまるでお人形さんみたいだ。

それにしても、だ。
これは確かに痣ではあるのだが。多分あれだよなぁ。うん。
よく見ると反対側にもあるし。
僕が変に口を出すと下世話って言われてしまうタイプのやつかもしれない。
サイズ感的に間違いないと思う。
…キスマークだな。
ここは知らんぷりしていくのがベスト、かなぁ?生徒と言えど恋愛の一つや二つはあるだろうし、事件性が無ければ目を瞑っている先生方が殆どだ。僕もそれに倣うべきだろう。

「あー…その。そこまで問題なさそうだし、痛かったら保健室に行くといいよ。」
「キスマって奴だろ?へーき。」
「…分かってらっしゃる。流石浅見くん。」
「流石ってなんだよ…。それにしても、結構地味センは積極的なんだな。」
「はぇっ?」
「だって、毎日俺の事ビビってる癖にこういう時はベタベタ触ってきたり顔近づけてきたりしてさ。」
「えっ、あっ……や、やだったよね!!ごめんね!!」
「………別に、やじゃねーよ。ただ吃驚しただけだ。」

完全に自分の世界だったらしい。よくよく考えてみればそうだよね。同性と言えど教員にいきなり触られてしまえば誰だって驚く。これが女子生徒だったら下手したら通報ものだ。相手が浅見くんで良かった…。

「これはその、いきなり知らない女の子にされて…。逃げてきたんだ。」
「………………………え?」

待って。何それ、怖いんですけど!!!
女の子と言えど合意の無い行為は犯罪になるんじゃ…。そりゃ浅見くんも逃げ出してくるよ。もしかしなくてもこの着崩した制服って…そうなのか。

「女の子を殴る訳にもいかねぇしさ。向こうは俺の事を知ってるっぽいんだけど、俺はさっぱりなんだ。凄い………気持ち悪ぃ。」
「そ、それは……そーだよね。」
「ん。でも、地味セン………高城に触られたらへーきになった。」
「なら、良かった………ね?」
「ん。」

そう言うと浅見くんは何を考えたのか、僕の手を取り再度自分の首元にそれを添えた。夕陽に照らされているからかどうなのか定かでは無いが。何故か彼の頬が若干赤らんでいるように見えた。

「…………もっと、触って?」

なんで、とか。
どうして、とか色々聞かなければならない事が多いのだが。そこはやはり僕だった。
突発的な事に弱すぎる。


結局その場に腰を下ろした僕の脚の間に座り込み。彼が満足するまで触らせて頂いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄

むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」 兄、四宮陽太はブサイク 「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜 !?」 で弟、四宮日向はイケメン 「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」 弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。 「いや、泣きたいの俺だから!!」 弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。 ーーーーーーーーーー 兄弟のコンプレックスの話。 今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。 1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです(※)

会計のチャラ男は演技です!

りんか
BL
ここは山奥に作られた金持ちの学園 雨ノ宮学園。いわゆる王道学園だ。その学園にいわゆるチャラ男会計がいた。しかし、なんとそのチャラ男はまさかの演技!? アンチマリモな転校生の登場で生徒会メンバーから嫌われて1人になってしまう主人公でも、生徒会メンバーのために必死で頑張った結果…… そして主人公には暗い過去が・・・ チャラ男非王道な学園物語

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...