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【side浅見】貴方のもとに帰りたい
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下校時、学校のそばにあるコンビニで買い物をする事にした俺達。
商品を選んでいる最中に、優志が学校に必要書類を忘れた事を思い出したらしく、そのまま取りに行かせる事にした。
残った俺は店内で彼を待つことに決めた。あまりにも戻るのが遅ければ、優志のリュックをそのまま預かったこともあり車内に戻ろうとも考えていたのだった。今のシーズン何がオススメなのだろう…美味しそうなものがあれば一緒に彼と食べようかなぁ、とか考えながら棚に陳列されている商品を眺めていた。
「みーっけた、浅見くん♡」
「……ぇ。」
そんな声が俺に掛けられた。
聞いたことのある声。
聞きたくない声。
恐る恐る声の主の方へ顔を向けてみる。
そこには…本来ならばこの場所にいるはずも無い…桐谷が微笑みながら視線の先に立っていたのであった。
ここ最近、こいつから連絡が頻繁に来ていた。内容は全て単調なもので『会いたい』とだけ。当然会うつもりもない。言われる内容はどうせ文化祭の時みたいな話だろうと考えがついていたからだ。
それに、優志に変に心配をかけたくないし。彼に伝える事は今は控えていた。
落ち着いたら改めて伝えよう、その程度であったのだ。俺としても桐谷に会う理由もないし、基本的にはずっと無視を続けていた。いつか諦めるだろうと。
だがそんな考えとは裏腹に、ほぼ毎時間ずっと連絡が来ていたのだった。こうも頻繁となると気も滅入ってしまうわけで。
ついこの間、田所達に相談をしてしまった。相談というか…愚痴に近いかな。
話し終えたあとスッキリしたので、そのまま桐谷の連絡先をブロックさせてもらった。もしやそれが原因でこいつはここまで態々会いに来たのか…?有り得なくもない話だ。
分からない…こいつが何を考えているのか。桐谷の癖に今は不気味に感じてしまった。
ガシッと腕を掴まれた。
とても、力強く。
触られたくない。
俺の身体は全て、あの人の…優志だけのものだから。誰にも触れられたくないんだ。
そう思い引き離そうとしたら…。
「駄目だよぉ、浅見くん。今ここで騒ぎを起こすのはよくないと思うんだけど。お店にも学校にも……ゆーしくんにも迷惑かかるんじゃないかな。」
「っ!!」
一気に顔の距離が詰められた。
周りのお客さん達はまだ何も気が付いていない。そっと、吐息がかかるレベルの距離に彼の瞳があった。
ニヤリ…とその瞳が細められる。
「ちょーっと俺と一緒に来てくれると、うれしーなぁ。」
「………クソッ。」
騒ぎは確かに起こしたくないのはその通りだ。彼にされるがままに腕を引かれて店を出たのだった。
駐車場には優志の車とはもう一台、別の黒のセダンが一台停まっていた。桐谷は迷いなくその車に近付いていく。
よく見ると運転席には藤本が座っていた。
…コイツら、グルか。瞬時にそう判断してしまった。
俺はその後部座席に抵抗も虚しく押し込められてしまい、直ぐに出ようと思ったのだがドアをロックされて出ることは叶わなかった。
しかもそのまま藤本は俺の方を見ることも無く発進させたのである。
本格的に不味い…全身に冷や汗が溢れてくるのがわかった。
ブブブブ…
スマホが着信を知らせている。
きっと優志が心配してかけてきてくれているのだろう。
だが、彼を危険な目に巻き込むわけにはいかないし。
「浅見くん、消してくれる?」
「………わかってる。」
そのままスマホの電源ごと切ったのだった。
本当はもっと抵抗をするべきだったのだが、この二人の空気感が前に見たものとはだいぶ違って…何もする事が出来なかったのだ。妙に静かというか。あれだ…嵐の前の静けさという言葉そのものを体現している感じがしたのだ。下手に突くと良くない気がしたのだった。
…この場で抵抗したとしてもどうせ逃げる事は出来ないのだろう。一旦この場は諦めて、到着した先で上手く逃げ出してやろう、そう思う事にした。
到着した先はもう使われていない廃工場であった。目視出来た限りでは俺達以外の人影は見つけられなかった。だが、敷地内は広い。他にも誰かしらが隠れている可能性は十分ありそうだ。
来た途中で道路標識を見ていたが、どうやらこの場所は自分達の学校から二つ先の市であったらしい。戻るにはだいぶ距離があるが…帰れないわけではない。何とかなるだろう。
……この腕と足に巻かれた縄さえ何とかできれば。
「……それで、なんでこうなってんだよ。」
「簡単な話だ。君は…浅見くんは高城と付き合ってるだろう?生徒の分際で。」
「……………。」
「別れてもらう為の話し合いをしようと思ってね。」
無理矢理縛られ、コンクリートの床に座らせられた俺の目の前には二人が見下ろす形で立っている。視線はあの時と変わらず鋭い。嫌な目をする人だ。俺のことが憎くて仕方がない、それがありありとわかる。
「おかしくないか?前回これに関して話し合いは終わったはずだと思ったんだけどな。」
「色々と考えたんだが、やっぱり納得できなかったんだ。だから俺が納得するまで話し合いをしようと思ったんだよ。」
なるほどな。
優志が前の学校で彼の事を嫌だと思った理由が分かった気がした。
「………そーいう自分勝手な考え方を持ってるから、ゆーしから嫌がられるんじゃないのか。」
俺が吐き捨てるようにそう言うとガシッと前髪を掴まれてしまった。
おいおい…仮にも他の学校で教員やってるんじゃないのか。
そう思っていたら、顔を無理やり合わされてしまったのだった。ドロリとした眼差しが俺を映した。顔は確かに笑みを作っているのだが、瞳は全く笑っていない。
「あははっ!………………本当に君はムカつくな。」
「………そりゃぁどーも。」
その後…あーだこーだとほぼ一方的に暴言を吐かれているだけであった。途中怒鳴り声も挟みながら。
こいつら二人は納得するまで俺との話し合いを求めるとか言っていたが、違う。
俺と優志を引き離したい気持ちをぶつけてきているだけなのだ。ただそれだけ。
逆にそれだけの為に…ここまでするのか。
正直…疲れてきた。
途端に、目の前に桐谷がしゃがみこんできたのだった。
何を考えているのか俺の方に手を伸ばし、スルッと頬と首元に手が添えられる。
ゾワッ…としてしまった。
気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い…!!
何するんだよ!!
「俺が今から浅見くんの事めちゃくちゃに気持ちよくさせてあげようかなぁって。良いっすよね、藤本せんせー?」
「勝手にしろ。俺は知らん。」
「ちょっ、まて、おい!!触んなおい!!!」
え!?
はぁ?!
何言ってんだこいつ!!!
てっきり暴行でもされるのかと考えていたが、そっち目的だったということか?!いやだ、絶対に嫌だ!!
必死に身体を捻り、何とか触れてくる手を退かそうとするが…上手くいかない。
目の前の桐谷も焦れったくなったのだろう。シャツの襟元を掴まれ、無理やり前部分を開かれてしまった。カランカランと釦が飛んでいく音が聞こえる。
や、やば…!!
「………んだよ、これ。」
「ぁ……ちょ……本当にやめろ!!!」
どうして今日に限って俺という奴は肌着を着てくるのを忘れちゃうかなぁぁ…。
シャツの下には何も身につけておらず、先日付け直された優志からの所有印だらけの肌を桐谷に曝す事になってしまったのだった。見られている相手がこいつとはいえ…流石に恥ずかしくて、顔が火照ってしまった。
だが桐谷は違う意味で顔を赤くさせていたのである。シャツを握る手が震えている。額に…血管が浮き出ていた。完全にブチ切れている。
「やめろじゃねぇよクソが!!!あぁ!?!…指輪が付いたネックレスに、身体に噛み跡とキスマですか…。そーですか。随分とゆーしくんに愛されてんだなぁ…浅見くんは…。」
「……………悪いかよ。」
「ほんと………ほんとに滅茶苦茶にしてやる。」
「っ!!」
やばい。マジでやられる。
絶対にそれだけは阻止しないと。
チラッと藤本の方に視線を向けてみれば、完全にこちらにはもう興味が無い様で廃工場の出入口に向かって歩いていた。
目の前にはもう獣のような桐谷がじわじわと距離を詰めてくる。
………やられる前に、やるしかねぇ…!!
頑張れ絢斗、優志のもとに帰るんだ!!
腹を括り…自分が今出来る最大限の優しい声色で、桐谷の名前を呼んだのだった。
「桐谷…しゃーねーからキスくらいはしてやるよ。」
「へぇ?乗り気だね。普段どんな熱いのをしてるのか確認してあげる。」
案外簡単に彼が乗った。
俺が恐怖で根負けしたとでも思ったのだろうか。何にせよ、チャンスだ。
あと数ミリで唇同士が触れ合うその瞬間…。
ガンッ!!!!!
「……………ッ!!!!!」
目の前の桐谷が消え……たのではなく、声も発する前に後ろに倒れ込んだのだった。
「……ははっ、ゆーし以外の奴とするわけねーだろうが。」
「…がはっ…て、てめぇ…!!!」
曲げていた膝を桐谷の顎に向けて勢いよくぶち当てたのである。少しだけ膝が痛いがまぁ良しとする。苦しそうな唸り声が聞こえた。彼は舌を噛んでしまったようで口の端から血が流れていた。
顔を顰め、いきなりのことで驚いているようだが俺だってやる時はやるんだ。
「っし、とれた!!」
「は、はぁ!?け、結構つよ……く……っぅ…!!」
そのタイミングで縄も解くことができた。
こいつもこういったことは初めてだったのだろう。何か唸っているが…残念だったな。縄の縛り具合が甘かったようだ。
次いで急いで足の方に手を伸ばす。桐谷が復活する前に解かなければ。
「……っよし!!」
どちらも縄を解くことができた。
後は…ゆらりと立ち上がったこいつを何とかするだけだ。
「…………浅見くん。」
「桐谷……俺はお前の事は好きになれねぇ、無理だ。こんなことされて余計に無理になった!」
「そんなに…そんなにゆーしくんが良いのかよ。」
「……………そうだ。」
はぁぁ…と一つ大きなため息を出され、口元を袖で無理矢理拭っていた。
これから、なにかされるのだろうな。
優志から預かったリュックをしっかりと背負い直す。これがあるから、どこか一人じゃない気がした。
桐谷が、真っ直ぐ俺の方に顔を向ける。
何故だろうか、瞳が潤んでるように見えた。
「……そうだね。ここまでしたんだ、好かれるわけないよね。」
「………。」
「だから、もっと酷いことをしても問題……ないよね?」
「…………は?」
桐谷は大きく息を吸い込み、声を発したのだった。
「おい!!!この金髪を仕留めろ!!!」
「ぇ…!?!」
桐谷の声が言い切るや否や、廃工場の出入口からゾロゾロと数十名の輩が入ってきたのだった。全員が同じ制服を身に付けている。どうやら桐谷は新しい学校でも派閥を作ったらしい。彼等は俺を見るなり厭らしくニヤニヤとした顔をしていた。勝利を確信しているのだろう。
……だが、どうしよう。
流石にここまでの人数は相手にしたことが無い。
いけるだろうか。
違うな、いくしかないんだ。
俺は、優志のもとに帰るんだ。
「……気張れ、俺。」
商品を選んでいる最中に、優志が学校に必要書類を忘れた事を思い出したらしく、そのまま取りに行かせる事にした。
残った俺は店内で彼を待つことに決めた。あまりにも戻るのが遅ければ、優志のリュックをそのまま預かったこともあり車内に戻ろうとも考えていたのだった。今のシーズン何がオススメなのだろう…美味しそうなものがあれば一緒に彼と食べようかなぁ、とか考えながら棚に陳列されている商品を眺めていた。
「みーっけた、浅見くん♡」
「……ぇ。」
そんな声が俺に掛けられた。
聞いたことのある声。
聞きたくない声。
恐る恐る声の主の方へ顔を向けてみる。
そこには…本来ならばこの場所にいるはずも無い…桐谷が微笑みながら視線の先に立っていたのであった。
ここ最近、こいつから連絡が頻繁に来ていた。内容は全て単調なもので『会いたい』とだけ。当然会うつもりもない。言われる内容はどうせ文化祭の時みたいな話だろうと考えがついていたからだ。
それに、優志に変に心配をかけたくないし。彼に伝える事は今は控えていた。
落ち着いたら改めて伝えよう、その程度であったのだ。俺としても桐谷に会う理由もないし、基本的にはずっと無視を続けていた。いつか諦めるだろうと。
だがそんな考えとは裏腹に、ほぼ毎時間ずっと連絡が来ていたのだった。こうも頻繁となると気も滅入ってしまうわけで。
ついこの間、田所達に相談をしてしまった。相談というか…愚痴に近いかな。
話し終えたあとスッキリしたので、そのまま桐谷の連絡先をブロックさせてもらった。もしやそれが原因でこいつはここまで態々会いに来たのか…?有り得なくもない話だ。
分からない…こいつが何を考えているのか。桐谷の癖に今は不気味に感じてしまった。
ガシッと腕を掴まれた。
とても、力強く。
触られたくない。
俺の身体は全て、あの人の…優志だけのものだから。誰にも触れられたくないんだ。
そう思い引き離そうとしたら…。
「駄目だよぉ、浅見くん。今ここで騒ぎを起こすのはよくないと思うんだけど。お店にも学校にも……ゆーしくんにも迷惑かかるんじゃないかな。」
「っ!!」
一気に顔の距離が詰められた。
周りのお客さん達はまだ何も気が付いていない。そっと、吐息がかかるレベルの距離に彼の瞳があった。
ニヤリ…とその瞳が細められる。
「ちょーっと俺と一緒に来てくれると、うれしーなぁ。」
「………クソッ。」
騒ぎは確かに起こしたくないのはその通りだ。彼にされるがままに腕を引かれて店を出たのだった。
駐車場には優志の車とはもう一台、別の黒のセダンが一台停まっていた。桐谷は迷いなくその車に近付いていく。
よく見ると運転席には藤本が座っていた。
…コイツら、グルか。瞬時にそう判断してしまった。
俺はその後部座席に抵抗も虚しく押し込められてしまい、直ぐに出ようと思ったのだがドアをロックされて出ることは叶わなかった。
しかもそのまま藤本は俺の方を見ることも無く発進させたのである。
本格的に不味い…全身に冷や汗が溢れてくるのがわかった。
ブブブブ…
スマホが着信を知らせている。
きっと優志が心配してかけてきてくれているのだろう。
だが、彼を危険な目に巻き込むわけにはいかないし。
「浅見くん、消してくれる?」
「………わかってる。」
そのままスマホの電源ごと切ったのだった。
本当はもっと抵抗をするべきだったのだが、この二人の空気感が前に見たものとはだいぶ違って…何もする事が出来なかったのだ。妙に静かというか。あれだ…嵐の前の静けさという言葉そのものを体現している感じがしたのだ。下手に突くと良くない気がしたのだった。
…この場で抵抗したとしてもどうせ逃げる事は出来ないのだろう。一旦この場は諦めて、到着した先で上手く逃げ出してやろう、そう思う事にした。
到着した先はもう使われていない廃工場であった。目視出来た限りでは俺達以外の人影は見つけられなかった。だが、敷地内は広い。他にも誰かしらが隠れている可能性は十分ありそうだ。
来た途中で道路標識を見ていたが、どうやらこの場所は自分達の学校から二つ先の市であったらしい。戻るにはだいぶ距離があるが…帰れないわけではない。何とかなるだろう。
……この腕と足に巻かれた縄さえ何とかできれば。
「……それで、なんでこうなってんだよ。」
「簡単な話だ。君は…浅見くんは高城と付き合ってるだろう?生徒の分際で。」
「……………。」
「別れてもらう為の話し合いをしようと思ってね。」
無理矢理縛られ、コンクリートの床に座らせられた俺の目の前には二人が見下ろす形で立っている。視線はあの時と変わらず鋭い。嫌な目をする人だ。俺のことが憎くて仕方がない、それがありありとわかる。
「おかしくないか?前回これに関して話し合いは終わったはずだと思ったんだけどな。」
「色々と考えたんだが、やっぱり納得できなかったんだ。だから俺が納得するまで話し合いをしようと思ったんだよ。」
なるほどな。
優志が前の学校で彼の事を嫌だと思った理由が分かった気がした。
「………そーいう自分勝手な考え方を持ってるから、ゆーしから嫌がられるんじゃないのか。」
俺が吐き捨てるようにそう言うとガシッと前髪を掴まれてしまった。
おいおい…仮にも他の学校で教員やってるんじゃないのか。
そう思っていたら、顔を無理やり合わされてしまったのだった。ドロリとした眼差しが俺を映した。顔は確かに笑みを作っているのだが、瞳は全く笑っていない。
「あははっ!………………本当に君はムカつくな。」
「………そりゃぁどーも。」
その後…あーだこーだとほぼ一方的に暴言を吐かれているだけであった。途中怒鳴り声も挟みながら。
こいつら二人は納得するまで俺との話し合いを求めるとか言っていたが、違う。
俺と優志を引き離したい気持ちをぶつけてきているだけなのだ。ただそれだけ。
逆にそれだけの為に…ここまでするのか。
正直…疲れてきた。
途端に、目の前に桐谷がしゃがみこんできたのだった。
何を考えているのか俺の方に手を伸ばし、スルッと頬と首元に手が添えられる。
ゾワッ…としてしまった。
気持ち悪い…気持ち悪い…気持ち悪い…!!
何するんだよ!!
「俺が今から浅見くんの事めちゃくちゃに気持ちよくさせてあげようかなぁって。良いっすよね、藤本せんせー?」
「勝手にしろ。俺は知らん。」
「ちょっ、まて、おい!!触んなおい!!!」
え!?
はぁ?!
何言ってんだこいつ!!!
てっきり暴行でもされるのかと考えていたが、そっち目的だったということか?!いやだ、絶対に嫌だ!!
必死に身体を捻り、何とか触れてくる手を退かそうとするが…上手くいかない。
目の前の桐谷も焦れったくなったのだろう。シャツの襟元を掴まれ、無理やり前部分を開かれてしまった。カランカランと釦が飛んでいく音が聞こえる。
や、やば…!!
「………んだよ、これ。」
「ぁ……ちょ……本当にやめろ!!!」
どうして今日に限って俺という奴は肌着を着てくるのを忘れちゃうかなぁぁ…。
シャツの下には何も身につけておらず、先日付け直された優志からの所有印だらけの肌を桐谷に曝す事になってしまったのだった。見られている相手がこいつとはいえ…流石に恥ずかしくて、顔が火照ってしまった。
だが桐谷は違う意味で顔を赤くさせていたのである。シャツを握る手が震えている。額に…血管が浮き出ていた。完全にブチ切れている。
「やめろじゃねぇよクソが!!!あぁ!?!…指輪が付いたネックレスに、身体に噛み跡とキスマですか…。そーですか。随分とゆーしくんに愛されてんだなぁ…浅見くんは…。」
「……………悪いかよ。」
「ほんと………ほんとに滅茶苦茶にしてやる。」
「っ!!」
やばい。マジでやられる。
絶対にそれだけは阻止しないと。
チラッと藤本の方に視線を向けてみれば、完全にこちらにはもう興味が無い様で廃工場の出入口に向かって歩いていた。
目の前にはもう獣のような桐谷がじわじわと距離を詰めてくる。
………やられる前に、やるしかねぇ…!!
頑張れ絢斗、優志のもとに帰るんだ!!
腹を括り…自分が今出来る最大限の優しい声色で、桐谷の名前を呼んだのだった。
「桐谷…しゃーねーからキスくらいはしてやるよ。」
「へぇ?乗り気だね。普段どんな熱いのをしてるのか確認してあげる。」
案外簡単に彼が乗った。
俺が恐怖で根負けしたとでも思ったのだろうか。何にせよ、チャンスだ。
あと数ミリで唇同士が触れ合うその瞬間…。
ガンッ!!!!!
「……………ッ!!!!!」
目の前の桐谷が消え……たのではなく、声も発する前に後ろに倒れ込んだのだった。
「……ははっ、ゆーし以外の奴とするわけねーだろうが。」
「…がはっ…て、てめぇ…!!!」
曲げていた膝を桐谷の顎に向けて勢いよくぶち当てたのである。少しだけ膝が痛いがまぁ良しとする。苦しそうな唸り声が聞こえた。彼は舌を噛んでしまったようで口の端から血が流れていた。
顔を顰め、いきなりのことで驚いているようだが俺だってやる時はやるんだ。
「っし、とれた!!」
「は、はぁ!?け、結構つよ……く……っぅ…!!」
そのタイミングで縄も解くことができた。
こいつもこういったことは初めてだったのだろう。何か唸っているが…残念だったな。縄の縛り具合が甘かったようだ。
次いで急いで足の方に手を伸ばす。桐谷が復活する前に解かなければ。
「……っよし!!」
どちらも縄を解くことができた。
後は…ゆらりと立ち上がったこいつを何とかするだけだ。
「…………浅見くん。」
「桐谷……俺はお前の事は好きになれねぇ、無理だ。こんなことされて余計に無理になった!」
「そんなに…そんなにゆーしくんが良いのかよ。」
「……………そうだ。」
はぁぁ…と一つ大きなため息を出され、口元を袖で無理矢理拭っていた。
これから、なにかされるのだろうな。
優志から預かったリュックをしっかりと背負い直す。これがあるから、どこか一人じゃない気がした。
桐谷が、真っ直ぐ俺の方に顔を向ける。
何故だろうか、瞳が潤んでるように見えた。
「……そうだね。ここまでしたんだ、好かれるわけないよね。」
「………。」
「だから、もっと酷いことをしても問題……ないよね?」
「…………は?」
桐谷は大きく息を吸い込み、声を発したのだった。
「おい!!!この金髪を仕留めろ!!!」
「ぇ…!?!」
桐谷の声が言い切るや否や、廃工場の出入口からゾロゾロと数十名の輩が入ってきたのだった。全員が同じ制服を身に付けている。どうやら桐谷は新しい学校でも派閥を作ったらしい。彼等は俺を見るなり厭らしくニヤニヤとした顔をしていた。勝利を確信しているのだろう。
……だが、どうしよう。
流石にここまでの人数は相手にしたことが無い。
いけるだろうか。
違うな、いくしかないんだ。
俺は、優志のもとに帰るんだ。
「……気張れ、俺。」
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Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
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https://www.pixiv.net/artworks/100148872
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