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09.婚礼の蟲毒(三)
❖◇❖
内裏では、麗景殿女御が中殿に召されていた。即位から丸二年を経過して、いまだ帝は御子に恵まれていない。東宮時代に入内した弘徽殿女御ばかりに目をかけておられたが、さっぱり兆しすらないまま年月だけが過ぎてしまった。
「ねぇ、命婦。万良しの月は格別ね」
廂の間から空をあおいで、凛子が美しい顔に笑みを浮かべる。その横顔は、月に照らされて輝く太陽そのもの。この世に類なき美しさだ。
凛子は、はらりと優雅に檜扇を広げて命婦を傍に呼びつけた。
「八条院に椿餅は届けたの?」
「はい。おおせのとおり、婚礼前日にお届けいたしました。帝と女御様から初夜の御祝いだと、家令に直接お渡ししてございます」
「そう。大納言の姫君は、わたくしの椿餅をお気に召してくださったかしら」
「もちろん、お喜びになられたでしょう」
嬉々として答える命婦には、凛子の真意が伝わらなかったようだ。まさか自分が八条院へ届けた祝いの菓子に呪詛がかけられ、毒が入っていたとは思いもしないのだから。
「暑し」
凛子は、天の月に向かってうっとりと目を細める。そして、ゆっくりと檜扇を前後に動かした。髪がそよぐかそよがないかの絶妙な加減で、暑気を祓うようにゆるりと顔を扇ぐ。
――初夜の祝いとは、我ながらよくぞ思いついたものよ。
弟宮の婚姻を心から喜ぶ帝の名を添えれば、疑われる心配もなく大納言の姫に菓子を届けられる。そして、初夜の祝いは夕餉かそのあと、床入り前に必ず御前に出されるはずだ。
――あの程度の量では、命を奪えないのは百も承知。
目的はそれではないから、別にかまわない。病弱な夏姫ならいざ知らず、昨日まで健やかだったであろう大納言の姫を病死で片づけるのには無理がある。ただ、今宵大納言の姫の身に大事があれば、月宮は椿餅を辿って必ずわたくしに会いにくる。
――必ず。
皇家と深い繋がりを持つ摂関家の一姫として、生まれたときから宝玉のように扱われてきた。帝の妃となって、いずれは国母に。そうなるためにこの身は生を受け、現世を生きている。
――わたくしの運命は、なに一つ間違ってはいない。
誤っているのは、帝位に就いた御方のほうだ。先帝は、月宮こそを東宮にと願っておられたのではなかったのか。そう聞いたから、入内の話にこころよい返事をしたというのに、東宮に立ったのは月宮ではなく日宮だった。
帝は、決して悪い御方ではない。むしろ、温厚で真面目で、非の打ち所のない大変優れた御方である。あのような御方の妃となれたのは、神仏に感謝すべき至福であろう。
けれど華がなく、退屈で、どのような優しさも甘い言葉もこの胸には響かない。ほかの妃と同衾なさっても、子を授からねばいいと思うだけで、嫉妬のしの字も心に感じない。
凛子は、ため息をついて命婦に視線を移す。
命婦を傍に置くようになって、五年の歳月が流れた。特別な信頼を寄せているかといえば、そうではない。しかし凛子は、真心を尽くしてくれる命婦に目をかけている。
命婦はもう二十五歳。盛りをとっくに過ぎてしまったが、礼儀正しくおしとやかで顔立ちも悪くない。そろそろ宮中での職を解いて、相応の公達と縁を結んでやってもいいと凛子は思っている。正室にはなれなくても、弘徽殿女御が重用した女官を粗末に扱う者はいないだろう。
「命婦。あなたには、心に留めた人はいないの?」
「心に留めた人でございますか?」
「そう、恋のお相手よ」
「い、いいえ。そのような御方は」
「わたくしが禁じていたのだもの、当然よね」
凛子がにこりと笑うと、燈籠の明かりの下で命婦が困惑したような表情をした。
「からかわないでくださいませ」
命婦が消え入りそうな声で抗議する。そのとき、夏の夜風がふわりと命婦の黒髪をそよいだ。
「命婦、それはどうしたの?」
凛子が、檜扇を閉じてその先端を命婦の首筋に当てる。そして、首をかしげて命婦の黒髪をそろりと檜扇でのけた。
「あなた、このような所に痣があったかしら?」
凛子が食い入るように見れば、命婦の喉がごくりと大きく上下する。
「む……、虫にかまれたのです」
「いつのこと?」
「……っ。二、三日になりましょうか」
「おかしいわね。あなたが外に出たのは昨日、八条院へ使いに行ったときだけのはず。弘徽殿に虫がまぎれ込んでいるのかしら。まぁ、よいわ。刺されたのはここだけなの?」
「は、はい」
「夏虫は毒が強いと聞くから、痕が残らないようにわたくしが薬をぬってあげる。わたくしの薬箱から薬を取っておいで」
「いえ、女御様。恐れ多うございます。ほかの者に頼みます」
「よいのよ、命婦。早く持っていらっしゃい」
「……では」
観念して、命婦が薬箱を取りにいく。凛子は再び月に視線を戻して、はたと思いあたる。弘徽殿の庭で八条宮と会ったのは、三日前ではなかったか、と。
「もしかして、命婦なの?」
❖◇❖
左近に背負われて北の対屋に現れたのは、よぼよぼの……もとい、白髪でひょろりと痩せた男だった。男は東市の近くに住む薬師で、名を坂上玄幽といい、もとは典薬寮で典薬頭を務めていた。内裏に暮らし月宮と呼ばれていた時分、八条宮は怪我や病で数えきれないほど玄幽の世話になったものだ。
玄幽はだいぶ前に官職を退いて、今は市井で町医者らしいことをやっている。羅城門の外に病で苦しむ民あれば、昼夜問わず駆けつけて無賃で薬を煎じてやる気前のいい御仁だ。
私財を投げ打っているお陰で、玄幽のすすけた色の狩衣はところどころほつれていて、かつて従五位下の位にあった者とは思えないほどみすぼらしい身なりをしている。だが、当時より少し耳が遠くなった程度で、薬師としての知識と腕は今でも健在で信用できる。
「慌てずともよろしい。宮様、北の方の身に起きたことを順に教えてくだされ」
沙那を診た玄幽が、湯桶で洗った両手を布で拭う。八条宮が記憶を辿りながら説明すると、次に玄幽は小梅から沙那の普段の様子を詳細に聞き取った。ふむふむと頷いて、時折、しわくちゃの黄ばんだ紙に震えた文字を書く。
「悠長に話を聞いている場合か、玄幽。見てみろ、この顔色を。どう考えても尋常ではない。こうしている間に、沙那は死んでしまうのではないか?」
「宮様は、黙ってそこに座っておりなされ。ところで女房殿、北の方が生来健康そのものであるとは間違いござらぬか?」
「はい。物心つく前から、恐れ多くも姉妹のように育ちましたが、姫様が病など一度もございませんでした」
「となれば、悪いものを口にしたか」
「そう申されましても、今日は姫様と同じものを宮様も食されたのです」
「ふむ。床に入るまで変わりはなかったというのも、間違いござらぬか?」
「はい。いたっていつもどおりで、美味しそうに椿餅を召しあがっておられました」
「ほお、夏に椿餅とはめずらしい。その椿餅は、宮様もお食べになったのか?」
八条宮が、玄幽に向かって首を横に振る。すると、小梅が椿餅の載った黒い盆を「こちらです」と玄幽に差し出した。盆には、白くつやつやとしていかにもおいしそうな姿をした丸い餅が二つ並んでいた。
沙那の足元でくつろいでいたナギが、盆に近づいて椿餅を嗅ぐ。そして、小さな桃色の舌で鼻の頭をぺろりと舐めて「みゃあ」と鳴いた。
「体の震えと息苦しさ、か」
白髭の生えた顎に手を当てて、玄幽が神妙な顔で考え込む。それから椿餅を一つ手に取って半分に割ると、顔に近づけて色や匂いを丹念に観察した。しかし、特に変わった様子はない。
玄幽は椿餅を盆に戻して、持ってきた木箱から乾燥した薬草と小さなすり鉢を取り出した。それをすりこ木でごりごりとすり潰して、女房が沸かした湯に溶く。
「宮様。薬湯を飲ませますゆえ、北の方の体を起こしてくだされ」
「分かった」
枕とうなじの隙間に腕を通して、青白い顔で横たわる沙那の体を起こす。ただ息をしているだけの脱力した体の重みがずっしりと腕にのしかかると、八条宮は沙那を胸に抱き寄せて小梅に目配せした。
小梅が布を沙那の胸元に広げて、玄幽から受け取った薬湯を匙ですくう。そして、乾いた唇にそっと匙を当ててゆっくりと傾ける。刹那、沙那の眉間がぴくりとわずかに動いた。
「玄幽。沙那は本当に大丈夫なのか?」
「二、三日寝込むだろうが、儂の言ったとおりに薬湯を飲めば大事にはいたらぬ。明日もまた、具合を確かめにまいりましょう」
「そうしてくれ。それから、喉の傷に効く薬はないか? 痕が残ってはかわいそうだ」
「明日、調合した薬をお持ちいたそう」
「頼む」
「むせる様子もなし、その調子でゆっくりと飲ませてさしあげなされ。どれ、そのうまそうな椿餅をいただいて、今宵は失礼つかまつろうかの」
椿餅を懐紙に包んで、玄幽が木箱を手に立ちあがる。八条宮は、左近に玄幽を邸まで送るよう申しつけて、腕の中に視線を落とした。
「八条宮様」
小梅が、薬湯を飲ませ終わったと声をかける。今は藁をもつかむ思いで玄幽を信じて、明日を待つしかない。八条宮は、盆に残った椿餅をじっと見た。八条院に、椿の季節に作る菓子をわざわざ夏に出すような変わり者はいない。
「沙那が食べた椿餅は、大納言邸から持参したのか?」
「いいえ、こちらに用意してございました。八条院の女房方が、姫様にお気遣いくださったのだろうと思ったのですが……」
小梅が困った顔をすると、控えていた北の対屋の女房の一人が「あの」と口を挟んで、椿餅を菓子置きに載せたのは自分だと言った。
「御所から、初夜の祝いとして届いたのです」
「御所というのは、帝からという意味か?」
「いいえ、宮様。帝と弘徽殿女御様からだと聞いております」
弘徽殿の名に、八条宮は顔をしかめる。いかに寵を受けていようとも、女御は帝と名を連ねて品を送る身分にない。それに、わざわざ嫁ぎ先に祝いを届けるほど、弘徽殿女御と沙那の間に特別な親交があるとも思えない。そこはかとなく、嫌な予感がする。
「椿餅が入っていた入れ物をここへ持て」
女房が棚から朱塗りの箱を取って、八条宮の近くに置く。箱の蓋に描かれた杜若に、八条宮の背筋がぞわりとした。
杜若は、恋しい気持ちを込めた歌によく使われる花だ。そして、高貴な紫色の花弁が似合うと、帝が弘徽殿女御にお与えになった印でもある。
「皆、もう下がってよい。今宵のことは、騒ぎ立てず口外しないように」
女房たちが、心配そうな視線を沙那に向けながら部屋を出ていく。いつまでも傍を離れようとしない小梅をなだめて、八条宮は沙那を御帳台の寝床に運んだ。小梅が退出すると、部屋には八条宮と沙那、そしてナギだけになった。
沙那にくっついて体を丸めたナギが、「みゃあ」と甘えるような声で鳴く。
「大丈夫だよ、ナギ。沙那は眠っているだけだから」
八条宮が沙那の頬に手を当てると、冷たかった肌はいくらか体温を取り戻していた。
――よかった、大事にいたらなくて。
ほっとすると同時に、沙那の様々な表情や言葉が八条宮の頭をよぎる。
――沙那と同じように、俺も必死に恋をしていた。
先帝は、月宮を東宮にとお考えだった。だが、八条宮は不忠と心得ながら辞退申しあげた。
妻に望むのはただ一人。
東宮になって何人もの妃を持つのは嫌だと月宮が駄々をこねたとき、先帝はとても悲しそうな顔をなされた。皇の血筋に生まれた者として、いかなる理由があろうとも帝の意に反するのは、帝位への軽蔑だととがめられてもおかしくない愚行だ。
しかし、先帝は苦悩の末に月宮の願いを聞き入れて、親王になることを条件に、式部卿宮家の夏姫を添い臥に選んでくださったのだった。
規則正しい寝息の合間に、沙那がむにゃむにゃと口を小さく動かす。八条宮は、寄り添うように沙那の隣で腕を枕にして横になった。
加冠の儀が行われた夜、夏姫は添い臥の務めを果たすために、内裏の奥にある淑景舎で月宮を待っていた。もとから体が丈夫ではなかった彼女は、特段不調はなかったものの念のため当時典薬頭だった玄幽に脈を診てもらったという。
事件のあと、緊張で少し脈は乱れていたが大きな問題はなかったと玄幽は証言し、典薬寮の記録にもそう書いてある。しかし、玄幽が淑景舎を出てわずか半時後に悲劇は起こった。
この世において、死は最たる穢れ。
親王の元服という晴れの門出を死で穢した夏姫は、宮家の姫であるにもかかわらず葬儀の一切を禁じられて、都のはずれにあるさびれた寺の裏山に埋葬された。そして今も一人、荒れた冷たい土の下に眠っている。
荼毘にふすも許されなかった体が土に還るには、どれほどの歳月を要するのだろうか。きっと、生きた年月よりもはるかに長くかかるのだろう。
――もしも夏が生きていて、描いたとおりの未来があったなら。
戻れない過ぎ去りし日に詮ない考えを巡らせては、当然訪れたであろう幸せな日々を想像し、絶望し、しまいに彼女の死を受け入れる。あのとき一生分の涙を流したから、涙はもう一滴も出ない。
だが今でも、夏姫を思い出した数だけ八条宮の心の中で彼女が死に、その度に言葉に言い尽くせない悲しみと無念が鋭利に心を切り刻む。
大きなあくびをしたナギの首元で、鈴がちりちりと曇った音を立てる。沙那の傍はよほど居心地がいいのか、ナギは丸めた腹部に顔をうずめてそれきりぴくりとも動かなくなった。
「み……や、さま」
かすかな声が耳をそよぐ。沙那のにこやかな表情に、八条宮はどきっとした。
――俺の夢を見ているのか?
沙那の顔は、目を閉じていても世の煩わしさを霧散してくれるような愛嬌に満ちている。
――本当によかった、あなたが生きていて。
八条宮は、沙那の頭をそっとなでた。
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