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番外編
ほほえみ――7
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『不可思議な森があった。森と呼ぶには貧相すぎる場所だ。緑豊かな東から来たわたしには到底腑に落ちなかったが、村の者はわたしの反応こそが不思議なようだった』
『わたしは助手と現地の村人とともに森に分け入った。中に道はなかったが、木々の合間が広いために歩くのに不自由はしない。そしてやや東へと進んだ先に、さらに不可解な泉があった』
……この泉がたたえる水は、一体どこからやってきたのだ?
……決まっている、空からだろう?
……では泉の上部だけ、木々の枝葉が伸びぬのはなぜだ?
……泉の付近には最初から樹がない。なぜかここにはぽっかりと空間が空いている。
……ではその空間はなぜできた? 不自然だ。
……それを人は自然が生み出した奇跡の光景と呼ぶのだ、ディーロゥ博士――
『偶然? そんなはずはない。自然界には人が思う以上に理がある。全ての事象には原因がある、理由がある』
『わたしはこの森を調べることにした。森と呼ぶにはあまりに貧弱なこの木々の集合体を、北の大地調査の“始まり”として』
――アクロ・ディーロゥ著『極寒のぬくもり』
*****
そうか、ここがあの“始まりの森”か。
ふいに脳裏に閃いた一節が、シグリィにその事実を気づかせた。
改めて目の前の森を見つめる。
名もなき森が“始まりの森”へと変わった。たったそれだけで、森の様相が一変したように思える。
――グリオット氏の蔵書には、大陸でも著名な博士の手による風土記があった。有名だということの証拠に、ろくに本を読まないセレンでさえその名を知っていた。むしろセレンのように長年を旅に費やしている人間からみると重要人物なのだそうだ。
東部に生まれたその学者は、東部から北にかけての地域の世界地図を格段に緻密にしたという。
そして晩年は、もっぱら北部の調査に没頭した。
(……始まりの森、の中には……泉がある。どうしてそこに泉ができたのか、博士は不可解に思った。だからこの森を調査して……)
博士の遺した自叙伝には、この森を調べることにした理由から事細かに記されていた。村の者との会話、助手との会話。
『その空間にだけ樹が生えていない場合、おそらく土に何らかの原因があると思われる。わたしはまず泉周りの土を採取した。また同時に、森の各所からも土を採取した』
『これはどういうことだ。森のどの場所も泉周辺の土も、目立った違いはない』
『では天候だろうか? しかし太陽も風も雨も、このような空間を生み出すのに必要な働きをしているようには思えない』
『まさか本当に“神の力”だと言うのだろうか? 村の者たちがかたくなに信じているように』
「神……か」
森の向こうに見える蒼。女神の涙と言われる空。
――氷の女神は、人前で決して笑ったことがなかった。いつでも冷たい視線で。いつでも拒絶を表に出して。
けれどシグリィはふと思う。
(笑いたくても笑えなかったのだとしたら……そんな自分を嫌悪して、歪んだ表現をすることもあるだろうな)
今なら分かる。笑いかたが分からないということが、どれほどの不安を呼び起こすのか。
“人”という存在を強く意識しているのなら、なおさら。
周りを突き放したのは、自分への苛立ちの反動だったのか。
それとも、
(自分が“笑えない”ということを、悟られたくなかったのか……?)
行方不明の三男坊の顔を思い出す。
シグリィにひたすら突っかかってきたあの子供の反応、足まで出ていたのはともかく、あれはまだかわいいものだったろう。人は異質なものと判断すれば、どこまでも冷淡になれる。
村に来たばかりのシリィたちを、問答無用で攻撃しようとした村人たちのように。
「ああ」
シグリィは吐息のようにつぶやいた。
「それは恐かった……だろうな。ラット……」
吐く息がことごとく白く染まる土地。
学者は伝記に『極寒のぬくもり』と名付けた。
ぬくもり。人のぬくもりがいっそう際立つこの世界で、人に異質と見なされること。
――私も恐いな。
ぽつりと落ちた言葉は、儚い白とともに虚空に消えた。
*****
そこは確かに“泉”だった。
森の中に突如現れたぽっかりとした空間と、その中央にたたえられた水。決して水たまりというレベルではない。
“誰かの涙だ”と思うには、量が多すぎるのが正直なところだ。
(……でも、いいところ。本当に……)
セレンは胸の奥に、感嘆の吐息を落とした。
静かな森には静かな泉が似合う。
大股で近づくのは気が引けて、足音を忍ばせ近づくと、暗い水面にやはり暗い自分の影が落ちるのが分かった。透明度までは分からないが、少なくとも濁ってはいない。
もしもこの泉の上部に梢があったなら、静かな泉に時折露が落ちて、さぞかし風流だっただろう。それこそ、涙が落ちるように。
「そこ。その草だよ。これ」
ノエフが泉のほとりの一点を指し示す。
そちらを見やって目をこらすと、たしかにほんの一部、見覚えのある草が密生している。
「……ここにしか生えていない草なのね?」
「本にはそう書いてあった」
「そっか。うん」
セレンは納得したかのように二度うなずいた。そして「下がってて、ノエフくん」
少年を自分の背後へ押しやり、杖を持つ手を草に向かって突き出す。
「――凍れる矛よ!」
短い詠唱とともに生まれた幾つもの氷柱が、草の根元へと吸いこまれるように降り注いだ。
ぎりぎりまで威力を殺した冷たい凶器は、草に傷一つ負わせることなく消滅する。しかし、
チリッ
強すぎる熱量に反応したかのように。草の周辺に、数秒乱れた火花が飛んだ。空気を揺るがすわずかな衝撃に、泉の水面が波紋を描く。
「やっぱりここだわ」
セレンは杖を両手で持ち直し、半身をそらして草に向き直った。
――何の変哲もない雑草の内側、異様に集積した力の気配が、ある。
「“妖精さん”の遺した力の核! ここを壊してしまわないと、≪虚無≫は消滅しない」
泉の傍ら。『ちいさな葉っぱをすみかにして』。
――そこは、“術者がかつて居た場所”。
「よ、妖精、もう死んじゃってるの?」
『遺した』という言葉の意味をとっさに悟ったのか、ノエフが顔色を変えた。しかしセレンが放った追撃による爆風が顔を襲い、少年は慌てて身をかばう。
セレンはわずかに逡巡した。どう答えるのがいいか――
「――少なくとも今ここにいないのは間違いないわ。いないでしょう?」
「………」
「でもね、かつてここに“居た”のは間違いないの。お話に出てきた“妖精さん”は!――烈風!」
風を叩きこむ。力の壁にぶち当たっては消滅し、その衝突が火花を生む。
森が、揺れる。
弱々しい梢のいくつかが、はらはらと舞い落ちた。
玄武の力を根本的に解析して解消する、そんな力は彼女にはなかった。力ずくで叩き壊すしかないのだ。核が抱えている熱量を超えるまで、力を、
「でも!」
ノエフは腕で顔をかばいながらも、必死で言葉を続けてきた。子供らしい素直で素朴な疑問を。
「妖精は泉をまもってたんだろ!? どうしてこんな……!」
「―――」
術者の手を離れて“育った”力に、元々の目的は意味を成さない。そんなことを子供に話していいものだろうか?
ここにたしかに“妖精”はいた。
けれど“彼”の意思はすでに、ここには残っていないのだ。
長い時を経て、心はとうに昇華されてしまった。力だけが置き去りにされて。
女神に与えられた力だけが、ここに。
(――ラティシェリ様)
シグリィは蒼を背負った森を見上げて思い返す。
この森には女神の力の欠片と、それを与えられた妖精がたしかに在ったという。それらはとても昔の話。今となっては真偽を知る者など一人もいない。
だが現実として、この森には不可思議な泉が存在した。
北を向けば蒼い夜に抱かれるこの森に。
真実を知るには、女神本人に訊くしかない。だがシグリィはその森を見て、半ば確信していた。太陽を見て明るいと思うように、ごく自然な気持ちで。
『神の存在を疑うわけではない。わたしの体にも、そのご加護はたしかにある』
『だが我々学者は、“神のお力だ”という一言で思考を止めることこそもっとも愚かだと考える。そもそも』
『神のお力だとしても、なぜこんな一空間に、不自然にそのお力が堆積しているのか?』
『理由は様々に考えられるだろう。だがわたしが最終的にたどり着いたのは、もっとも確率が低いながらも、もっとも納得できる考えだ。すなわち』
『女神ご本人が、この場所に“居た”ことがあるということ』
(この森に、たしかに来たことがあるんだな。ラット)
「セレン! ノエフ君も、よかった無事でしたか……!」
「え? あ、カミル! シグリィ様は?」
「シグリィ様は外です。セレン、この≪糸≫を」
「ああシグリィ様の! 助かったあ、これで……!」
カミルに預けた糸がピンと引っ張られる。一度は空気に溶け込んで見えなくなっていたそれが、目視できるほどに鮮明に浮かび上がった。
つながった――
無事だったか。安堵したのもつかの間、≪糸≫を通してセレンからの信号が波のように伝わってきた。
森内部のあらかたの状況を読み取って、シグリィはくいと≪糸≫を引っ張り返す。
――了承の合図。
≪糸≫自体は朱雀の力をベースに紡いだ。だがそれだけでは、≪虚無≫の中で消滅して終わってしまう。だから玄武の力でコーティングした、それが彼の≪糸≫。
細く細く、≪虚無≫との接触面を限りなく少なくすることで、反発を削って。
目的地まで通してしまえば、後は。
(過去に森で起きたことが、“おとぎ話”へと変わるほどの長い刻をかけて育った力――)
森への被害を最小限に。それを考えると、威力は大きいが繊細さにやや欠けるセレン一人の力では手に余る。だが、そこに彼の力を合わせれば。
シグリィは目を閉じる。
≪糸≫の向こう端、攻撃目標はセレンが固定してくれる。自分はそれを頼りに、セレンの詠唱に重ね力を――叩きこむ!
『重き風に』
『――抗える者、なし!』
その一瞬、森を支える土壌が唸り声を上げた。
まるで暴れた子供が捕獲されるのを見た獣の親のように、やるせない声で。
『わたしは助手と現地の村人とともに森に分け入った。中に道はなかったが、木々の合間が広いために歩くのに不自由はしない。そしてやや東へと進んだ先に、さらに不可解な泉があった』
……この泉がたたえる水は、一体どこからやってきたのだ?
……決まっている、空からだろう?
……では泉の上部だけ、木々の枝葉が伸びぬのはなぜだ?
……泉の付近には最初から樹がない。なぜかここにはぽっかりと空間が空いている。
……ではその空間はなぜできた? 不自然だ。
……それを人は自然が生み出した奇跡の光景と呼ぶのだ、ディーロゥ博士――
『偶然? そんなはずはない。自然界には人が思う以上に理がある。全ての事象には原因がある、理由がある』
『わたしはこの森を調べることにした。森と呼ぶにはあまりに貧弱なこの木々の集合体を、北の大地調査の“始まり”として』
――アクロ・ディーロゥ著『極寒のぬくもり』
*****
そうか、ここがあの“始まりの森”か。
ふいに脳裏に閃いた一節が、シグリィにその事実を気づかせた。
改めて目の前の森を見つめる。
名もなき森が“始まりの森”へと変わった。たったそれだけで、森の様相が一変したように思える。
――グリオット氏の蔵書には、大陸でも著名な博士の手による風土記があった。有名だということの証拠に、ろくに本を読まないセレンでさえその名を知っていた。むしろセレンのように長年を旅に費やしている人間からみると重要人物なのだそうだ。
東部に生まれたその学者は、東部から北にかけての地域の世界地図を格段に緻密にしたという。
そして晩年は、もっぱら北部の調査に没頭した。
(……始まりの森、の中には……泉がある。どうしてそこに泉ができたのか、博士は不可解に思った。だからこの森を調査して……)
博士の遺した自叙伝には、この森を調べることにした理由から事細かに記されていた。村の者との会話、助手との会話。
『その空間にだけ樹が生えていない場合、おそらく土に何らかの原因があると思われる。わたしはまず泉周りの土を採取した。また同時に、森の各所からも土を採取した』
『これはどういうことだ。森のどの場所も泉周辺の土も、目立った違いはない』
『では天候だろうか? しかし太陽も風も雨も、このような空間を生み出すのに必要な働きをしているようには思えない』
『まさか本当に“神の力”だと言うのだろうか? 村の者たちがかたくなに信じているように』
「神……か」
森の向こうに見える蒼。女神の涙と言われる空。
――氷の女神は、人前で決して笑ったことがなかった。いつでも冷たい視線で。いつでも拒絶を表に出して。
けれどシグリィはふと思う。
(笑いたくても笑えなかったのだとしたら……そんな自分を嫌悪して、歪んだ表現をすることもあるだろうな)
今なら分かる。笑いかたが分からないということが、どれほどの不安を呼び起こすのか。
“人”という存在を強く意識しているのなら、なおさら。
周りを突き放したのは、自分への苛立ちの反動だったのか。
それとも、
(自分が“笑えない”ということを、悟られたくなかったのか……?)
行方不明の三男坊の顔を思い出す。
シグリィにひたすら突っかかってきたあの子供の反応、足まで出ていたのはともかく、あれはまだかわいいものだったろう。人は異質なものと判断すれば、どこまでも冷淡になれる。
村に来たばかりのシリィたちを、問答無用で攻撃しようとした村人たちのように。
「ああ」
シグリィは吐息のようにつぶやいた。
「それは恐かった……だろうな。ラット……」
吐く息がことごとく白く染まる土地。
学者は伝記に『極寒のぬくもり』と名付けた。
ぬくもり。人のぬくもりがいっそう際立つこの世界で、人に異質と見なされること。
――私も恐いな。
ぽつりと落ちた言葉は、儚い白とともに虚空に消えた。
*****
そこは確かに“泉”だった。
森の中に突如現れたぽっかりとした空間と、その中央にたたえられた水。決して水たまりというレベルではない。
“誰かの涙だ”と思うには、量が多すぎるのが正直なところだ。
(……でも、いいところ。本当に……)
セレンは胸の奥に、感嘆の吐息を落とした。
静かな森には静かな泉が似合う。
大股で近づくのは気が引けて、足音を忍ばせ近づくと、暗い水面にやはり暗い自分の影が落ちるのが分かった。透明度までは分からないが、少なくとも濁ってはいない。
もしもこの泉の上部に梢があったなら、静かな泉に時折露が落ちて、さぞかし風流だっただろう。それこそ、涙が落ちるように。
「そこ。その草だよ。これ」
ノエフが泉のほとりの一点を指し示す。
そちらを見やって目をこらすと、たしかにほんの一部、見覚えのある草が密生している。
「……ここにしか生えていない草なのね?」
「本にはそう書いてあった」
「そっか。うん」
セレンは納得したかのように二度うなずいた。そして「下がってて、ノエフくん」
少年を自分の背後へ押しやり、杖を持つ手を草に向かって突き出す。
「――凍れる矛よ!」
短い詠唱とともに生まれた幾つもの氷柱が、草の根元へと吸いこまれるように降り注いだ。
ぎりぎりまで威力を殺した冷たい凶器は、草に傷一つ負わせることなく消滅する。しかし、
チリッ
強すぎる熱量に反応したかのように。草の周辺に、数秒乱れた火花が飛んだ。空気を揺るがすわずかな衝撃に、泉の水面が波紋を描く。
「やっぱりここだわ」
セレンは杖を両手で持ち直し、半身をそらして草に向き直った。
――何の変哲もない雑草の内側、異様に集積した力の気配が、ある。
「“妖精さん”の遺した力の核! ここを壊してしまわないと、≪虚無≫は消滅しない」
泉の傍ら。『ちいさな葉っぱをすみかにして』。
――そこは、“術者がかつて居た場所”。
「よ、妖精、もう死んじゃってるの?」
『遺した』という言葉の意味をとっさに悟ったのか、ノエフが顔色を変えた。しかしセレンが放った追撃による爆風が顔を襲い、少年は慌てて身をかばう。
セレンはわずかに逡巡した。どう答えるのがいいか――
「――少なくとも今ここにいないのは間違いないわ。いないでしょう?」
「………」
「でもね、かつてここに“居た”のは間違いないの。お話に出てきた“妖精さん”は!――烈風!」
風を叩きこむ。力の壁にぶち当たっては消滅し、その衝突が火花を生む。
森が、揺れる。
弱々しい梢のいくつかが、はらはらと舞い落ちた。
玄武の力を根本的に解析して解消する、そんな力は彼女にはなかった。力ずくで叩き壊すしかないのだ。核が抱えている熱量を超えるまで、力を、
「でも!」
ノエフは腕で顔をかばいながらも、必死で言葉を続けてきた。子供らしい素直で素朴な疑問を。
「妖精は泉をまもってたんだろ!? どうしてこんな……!」
「―――」
術者の手を離れて“育った”力に、元々の目的は意味を成さない。そんなことを子供に話していいものだろうか?
ここにたしかに“妖精”はいた。
けれど“彼”の意思はすでに、ここには残っていないのだ。
長い時を経て、心はとうに昇華されてしまった。力だけが置き去りにされて。
女神に与えられた力だけが、ここに。
(――ラティシェリ様)
シグリィは蒼を背負った森を見上げて思い返す。
この森には女神の力の欠片と、それを与えられた妖精がたしかに在ったという。それらはとても昔の話。今となっては真偽を知る者など一人もいない。
だが現実として、この森には不可思議な泉が存在した。
北を向けば蒼い夜に抱かれるこの森に。
真実を知るには、女神本人に訊くしかない。だがシグリィはその森を見て、半ば確信していた。太陽を見て明るいと思うように、ごく自然な気持ちで。
『神の存在を疑うわけではない。わたしの体にも、そのご加護はたしかにある』
『だが我々学者は、“神のお力だ”という一言で思考を止めることこそもっとも愚かだと考える。そもそも』
『神のお力だとしても、なぜこんな一空間に、不自然にそのお力が堆積しているのか?』
『理由は様々に考えられるだろう。だがわたしが最終的にたどり着いたのは、もっとも確率が低いながらも、もっとも納得できる考えだ。すなわち』
『女神ご本人が、この場所に“居た”ことがあるということ』
(この森に、たしかに来たことがあるんだな。ラット)
「セレン! ノエフ君も、よかった無事でしたか……!」
「え? あ、カミル! シグリィ様は?」
「シグリィ様は外です。セレン、この≪糸≫を」
「ああシグリィ様の! 助かったあ、これで……!」
カミルに預けた糸がピンと引っ張られる。一度は空気に溶け込んで見えなくなっていたそれが、目視できるほどに鮮明に浮かび上がった。
つながった――
無事だったか。安堵したのもつかの間、≪糸≫を通してセレンからの信号が波のように伝わってきた。
森内部のあらかたの状況を読み取って、シグリィはくいと≪糸≫を引っ張り返す。
――了承の合図。
≪糸≫自体は朱雀の力をベースに紡いだ。だがそれだけでは、≪虚無≫の中で消滅して終わってしまう。だから玄武の力でコーティングした、それが彼の≪糸≫。
細く細く、≪虚無≫との接触面を限りなく少なくすることで、反発を削って。
目的地まで通してしまえば、後は。
(過去に森で起きたことが、“おとぎ話”へと変わるほどの長い刻をかけて育った力――)
森への被害を最小限に。それを考えると、威力は大きいが繊細さにやや欠けるセレン一人の力では手に余る。だが、そこに彼の力を合わせれば。
シグリィは目を閉じる。
≪糸≫の向こう端、攻撃目標はセレンが固定してくれる。自分はそれを頼りに、セレンの詠唱に重ね力を――叩きこむ!
『重き風に』
『――抗える者、なし!』
その一瞬、森を支える土壌が唸り声を上げた。
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