54 / 92
本編
もう、迷いません。―10
しおりを挟む
あまりに意外すぎました。なぜここにいることが分かったのでしょう。
それに、どうやら騎士は姫がここにいることを知っているようです。どうして……?
「どうやってここが分かったの、ヴァイス兄? 恋しすぎてお姉さんのことなら何でも分かるようになっちゃったの?」
「まあミミ、もしそうなら気味が悪いわ」
自由なことを言っている双子は置いておいて、騎士のお父上が「よくここが分かったな」と息子に言いました。
「いや、修道院にいただけだ。修道院はここから近いだろう? そうしたらそこら辺を歩いていた人間が広場の騒ぎのことを噂していたので――慌てて来た」
「修道院に……?」
たしかにこの広場から修道院はさほど距離がありません。この広場からこっそり出て行った町人がいたなら、何もおかしくはないのです。
わたくしは広場の人々を見回しました。姫様のことを考える一心ですっかり意識の外になっておりましたが、彼らはすでに緊張を解き、好奇心に輝く顔でこの騒ぎを見守っていました。
……今更ながら、顔から火が出そうです。
ふむ、とアレクサンドル様があごを撫でました。
「修道院か。王宮にはもう行ってきたのか?」
「もちろん真っ先に。というかエヴァレット卿と一緒だったんだが、どこへ行ったんだあの男は」
初めて不在に気づいたかのように、騎士は辺りを見渡しました。
するとちょうど広場の入り口から、ひいこらとした声が上がりました。
「ヴァイス! この、急に馬で駆けおって――」
「卿も馬ではないか」
「お主ほど早く町を抜けられるわけがあるか!」
その言葉の通り、どこかのっそりと馬を操りこちらへやってくる人物が一人。
「エヴァレット卿……?」
その顔はわたくしにも見覚えがありました。修道院監査室の長ジャン・エヴァレット卿――
ころころと丸く太った小柄な男性です。彼をのせて走る馬はさぞかし大変でしょうが、それにしても。
「エヴァレット! これはどういうこと!」
見知った臣下の姿に、姫が威勢を取り戻しました。
ひっ、とエヴァレット卿は馬の上でのけぞりました。
「ひ、姫様。本当にこんなところにおられたのですか」
「ひっとはなに、ひっとは。お前はこの国の王女を見て悲鳴を上げるのですか」
「いやまさか本当にいらっしゃるとは。噂になっているのは似た面差しの別人かと思っておりまして――はあ、いえ」
アルベルト老がこっそりため息をつきました。
「影武者であったならよかったのだが……」
「何か言ったかしらアルベルト?」
「滅相も」
どことなくおどけた調子があります。エヴァレット卿の登場で場が弛緩したことを、喜んでいるようにも見えました。
エヴァレット卿はのそのそと馬からおりると、姫様の前で膝をつきました。まるで先ほどの礼を失した行いを埋め合わせるかのようです。
騎士のお父上がその姿をとっくりと見つめ、
「……エヴァレット卿。あなたが息子と一緒にいるということは……シュヴァルツ様は部屋からお出になりましたな?」
「ぐ、アレクサンドル、なぜ貴様がここに」
「話をそらせると思ったら大間違いですぞ、卿」
「………」
エヴァレット卿がうなだれるのを見て、たぶん誰もが不審に思ったことでしょう。騎士と、騎士のお父上を除いて――
「……ひ、姫様」
「何なのエヴァレット」
いっそう頭を下げる卿に、姫様は不機嫌な声で応えます。
卿の額に脂汗が浮いているのが見えました。いったい何をそんなに緊張しているのでしょう?
「お、王宮の一大事であります。かような場所でお話することではないかと。はあ」
「構わないわ。回りくどいのは嫌いよ、今おっしゃい」
「―――」
わたくしが言うのもなんですが、本当によいのでしょうか? エヴァレット卿の様子をみるに、尋常ではない事態なのは間違いないでしょうに。
けれど、姫の命は絶対。卿はもぐもぐと歯切れ悪く語り始めました。
「……シュ、シュヴァルツ殿下がすべてお話しになりました。ここにいる非常識な騎士が殿下のお部屋に怒鳴り込みまして。ええ、はあ、ですが殿下のほうも、今回ばかりは立ち上がるつもりだったとおっしゃられておりまして――はあ」
「……お兄様が、何を話したと言うの?」
「ラケシス・リリーフォンスの無実を」
わたくしは胸の前で両手を組み合わせました。今の言葉は――
そしてエヴァレット卿は息も絶え絶えに、とんでもないことを口にしたのです。
「殿下は、ラケシス・リリーフォンスとのご結婚を宣言なされました。い、今、王宮はひっくり返るような騒ぎです。はあ」
……は?
「―――」
ぽかんと口が開いてしまいました。何でしょう、今、『結婚』と聞こえたような……?
いえ、聞き間違いですきっと。そんなはずはありません。
そう思ったのはわたくしだけではなかったのでしょう。姫はもちろん、姫付きの兵士たちまであんぐり口を開けています。冷静そうなアルベルト老までも。
やがて姫様がこほんと咳払いをして、
「……エヴァレット、私少し耳の調子が悪いようね。もう一度言ってちょうだい」
「ですから、シュヴァルツ様はラケシス・リリーフォンスと恋仲だと告げられまして、ええ、はい。正式に王室に迎え入れるつもりだと、陛下の前で申されまして――」
「な」
……聞き間違いでは、なかったようです。
「ちょっと待ってください」
さすがに口を出さずにはいられませんでした。だってラケシス、ねえ、ラケシス?
姉さんちょっと頭がおかしくなりそうよ。
「そ、それは何かの間違いではありませんか? たとえばお優しい王太子殿下が、ラケシスを命だけでもかばうためにつかれた嘘とか……」
「それは真っ先に王妃様がご指摘なされましたなあ。しかしシュヴァルツ様はきっぱり否定なさいまして、はあ」
珍しいことでございます――と、顔を上げたエヴァレット卿は、懐から出したハンカチで額を拭いました。
「殿下があれほどはっきりと何かを陛下の前でおっしゃることは。よしんば暗殺者ではなかったにしても、下賎の者との結婚などとんでもないと、陛下も王妃様も反対なされたのですが……ええ、はい」
「……本当に、本気で、ラケシスと恋仲だと……?」
「少なくとも本人は大真面目にそう言っていたぞ」
と、そう答えたのは騎士でした。「俺も直接本人に聞いた。それもシュヴァルツ殿下の一方的な片思いではなく、ちゃんと情の通じた相手だと言い切った。それで俺が牢のラケシス殿にも確認するよう、卿に頼んだんだが」
「……はあ、ええ。否定しておりましたなあ、ラケシス・リリーフォンスは。あれほど下手くそな嘘はまずもって王宮では見つかりません。あまり王宮に向いた人物ではなかろうと思われますが」
「卿の感想などどうでもいい。どうだ、巫女。とりあえずそれが真相らしいぞ?」
「ラ――ラケシスが――」
では、それでは。
ラケシスが王宮に侵入したのは、王太子殿下と逢い引きするためだったと――そういうのでしょうか?
『内部に詳しい人間がいなくては王宮には侵入できん』
騎士はたしかにそう言っていました。
王太子殿下ご自身が引き入れたというのなら、その条件は叶います。
「……ま、待ちなさい。ラケシス・リリーフォンスは帯剣していたはずよ。逢い引きならばおかしいじゃない――」
姫様はわなないていました。今聞いた言葉を、必死で否定するかのように。
「はあ……何でも殿下に剣の修業をつけていたのだそうで。そもそもはそういった繋がりで親交を深められたそうですな。以前、サンミリオンに殿下がおいでになったときから」
――サンミリオンに、王太子殿下とエリシャヴェーラ王女が来た、と。
ラケシスはたしかにそう言っていました。
では、あのときにはもう――
「まあ、姉としては信じられんだろうがねアルテナさん」
アレクサンドル様ののんびりとした声は、まるでわたくしの背中を叩くかのようでした。
「シュヴァルツ殿下は本気だ。そこは信じてやってくれないかね」
「――お父上は、ご存じだったのですね」
「私は昔殿下の教育係の一人だった。その縁で、今でも文のやりとりをしていてねえ」
「で、その親父殿の助言で俺はシュヴァルツ殿下を直接落とすことにしたわけだな」
騎士はわたくしの肩を抱いて言いました。「たしかに一番てっとり早かった。殿下が大人しく出てきてくれて助かった」
もう大丈夫だ――と、わたくしの耳元で囁きます。
嬉しい言葉でしたが……なぜか安心できません。
だって、こんなとんでもないこと。わたくしの中にある妹像が崩れ落ちそうなほどの衝撃なのです。ひたすら混乱するしかないではないですか。
「ヴァイス! 何をそんな女に親しげに……っ!」
姫様が烈火のごとく馬上で憤りをあらわにします。
騎士は、やれやれといった風情でようやく姫に視線を投げました。
「……少しは王女としての役目に邁進してくれるかと思えば」
「邁進しているわ、お前の言う通り! こうして銅像も建てたし、アレクサンドルの話もちゃんと聞こうとしているじゃない!」
何がいけないの!――叫ぶ姫様を、哀れむように見て。
「それが分からんうちは、俺が巫女を選んだ理由も永遠に分からんだろうよ。分かってほしくもないがな」
騎士はわたくしから手を放しませんでした。あくまでも、わたくしに寄り添ったまま。
わたくしは――そっと、彼の体を押し離しました。
「巫女?」
彼がふしぎそうに呼びます。そんな彼に、首を振ってみせて。
「駄目です……姫様をおとしめるような真似は……」
……我ながらかわいくない言動だと思います。
嬉しくなかった、わけがない。
そう、嬉しいのです。騎士が、はっきりと自分を選んでくれたことが。
それでもこれはよくないと思いました。姫様の目の前で――これは。
姫様が騎士を好いている、それは間違いなく本当だと思うのです。そうである以上、その気持ちをおとしめたくはないと。
姫様と対等になりたかった。だからこそ。
騎士はまぶしそうに目を細めてわたくしを見ました。
「分かった、すまん」
あっさりとわたくしから手を放し、にっこりと笑います。
「だから、俺はあなたがいいんだがな。アルテナ」
それに、どうやら騎士は姫がここにいることを知っているようです。どうして……?
「どうやってここが分かったの、ヴァイス兄? 恋しすぎてお姉さんのことなら何でも分かるようになっちゃったの?」
「まあミミ、もしそうなら気味が悪いわ」
自由なことを言っている双子は置いておいて、騎士のお父上が「よくここが分かったな」と息子に言いました。
「いや、修道院にいただけだ。修道院はここから近いだろう? そうしたらそこら辺を歩いていた人間が広場の騒ぎのことを噂していたので――慌てて来た」
「修道院に……?」
たしかにこの広場から修道院はさほど距離がありません。この広場からこっそり出て行った町人がいたなら、何もおかしくはないのです。
わたくしは広場の人々を見回しました。姫様のことを考える一心ですっかり意識の外になっておりましたが、彼らはすでに緊張を解き、好奇心に輝く顔でこの騒ぎを見守っていました。
……今更ながら、顔から火が出そうです。
ふむ、とアレクサンドル様があごを撫でました。
「修道院か。王宮にはもう行ってきたのか?」
「もちろん真っ先に。というかエヴァレット卿と一緒だったんだが、どこへ行ったんだあの男は」
初めて不在に気づいたかのように、騎士は辺りを見渡しました。
するとちょうど広場の入り口から、ひいこらとした声が上がりました。
「ヴァイス! この、急に馬で駆けおって――」
「卿も馬ではないか」
「お主ほど早く町を抜けられるわけがあるか!」
その言葉の通り、どこかのっそりと馬を操りこちらへやってくる人物が一人。
「エヴァレット卿……?」
その顔はわたくしにも見覚えがありました。修道院監査室の長ジャン・エヴァレット卿――
ころころと丸く太った小柄な男性です。彼をのせて走る馬はさぞかし大変でしょうが、それにしても。
「エヴァレット! これはどういうこと!」
見知った臣下の姿に、姫が威勢を取り戻しました。
ひっ、とエヴァレット卿は馬の上でのけぞりました。
「ひ、姫様。本当にこんなところにおられたのですか」
「ひっとはなに、ひっとは。お前はこの国の王女を見て悲鳴を上げるのですか」
「いやまさか本当にいらっしゃるとは。噂になっているのは似た面差しの別人かと思っておりまして――はあ、いえ」
アルベルト老がこっそりため息をつきました。
「影武者であったならよかったのだが……」
「何か言ったかしらアルベルト?」
「滅相も」
どことなくおどけた調子があります。エヴァレット卿の登場で場が弛緩したことを、喜んでいるようにも見えました。
エヴァレット卿はのそのそと馬からおりると、姫様の前で膝をつきました。まるで先ほどの礼を失した行いを埋め合わせるかのようです。
騎士のお父上がその姿をとっくりと見つめ、
「……エヴァレット卿。あなたが息子と一緒にいるということは……シュヴァルツ様は部屋からお出になりましたな?」
「ぐ、アレクサンドル、なぜ貴様がここに」
「話をそらせると思ったら大間違いですぞ、卿」
「………」
エヴァレット卿がうなだれるのを見て、たぶん誰もが不審に思ったことでしょう。騎士と、騎士のお父上を除いて――
「……ひ、姫様」
「何なのエヴァレット」
いっそう頭を下げる卿に、姫様は不機嫌な声で応えます。
卿の額に脂汗が浮いているのが見えました。いったい何をそんなに緊張しているのでしょう?
「お、王宮の一大事であります。かような場所でお話することではないかと。はあ」
「構わないわ。回りくどいのは嫌いよ、今おっしゃい」
「―――」
わたくしが言うのもなんですが、本当によいのでしょうか? エヴァレット卿の様子をみるに、尋常ではない事態なのは間違いないでしょうに。
けれど、姫の命は絶対。卿はもぐもぐと歯切れ悪く語り始めました。
「……シュ、シュヴァルツ殿下がすべてお話しになりました。ここにいる非常識な騎士が殿下のお部屋に怒鳴り込みまして。ええ、はあ、ですが殿下のほうも、今回ばかりは立ち上がるつもりだったとおっしゃられておりまして――はあ」
「……お兄様が、何を話したと言うの?」
「ラケシス・リリーフォンスの無実を」
わたくしは胸の前で両手を組み合わせました。今の言葉は――
そしてエヴァレット卿は息も絶え絶えに、とんでもないことを口にしたのです。
「殿下は、ラケシス・リリーフォンスとのご結婚を宣言なされました。い、今、王宮はひっくり返るような騒ぎです。はあ」
……は?
「―――」
ぽかんと口が開いてしまいました。何でしょう、今、『結婚』と聞こえたような……?
いえ、聞き間違いですきっと。そんなはずはありません。
そう思ったのはわたくしだけではなかったのでしょう。姫はもちろん、姫付きの兵士たちまであんぐり口を開けています。冷静そうなアルベルト老までも。
やがて姫様がこほんと咳払いをして、
「……エヴァレット、私少し耳の調子が悪いようね。もう一度言ってちょうだい」
「ですから、シュヴァルツ様はラケシス・リリーフォンスと恋仲だと告げられまして、ええ、はい。正式に王室に迎え入れるつもりだと、陛下の前で申されまして――」
「な」
……聞き間違いでは、なかったようです。
「ちょっと待ってください」
さすがに口を出さずにはいられませんでした。だってラケシス、ねえ、ラケシス?
姉さんちょっと頭がおかしくなりそうよ。
「そ、それは何かの間違いではありませんか? たとえばお優しい王太子殿下が、ラケシスを命だけでもかばうためにつかれた嘘とか……」
「それは真っ先に王妃様がご指摘なされましたなあ。しかしシュヴァルツ様はきっぱり否定なさいまして、はあ」
珍しいことでございます――と、顔を上げたエヴァレット卿は、懐から出したハンカチで額を拭いました。
「殿下があれほどはっきりと何かを陛下の前でおっしゃることは。よしんば暗殺者ではなかったにしても、下賎の者との結婚などとんでもないと、陛下も王妃様も反対なされたのですが……ええ、はい」
「……本当に、本気で、ラケシスと恋仲だと……?」
「少なくとも本人は大真面目にそう言っていたぞ」
と、そう答えたのは騎士でした。「俺も直接本人に聞いた。それもシュヴァルツ殿下の一方的な片思いではなく、ちゃんと情の通じた相手だと言い切った。それで俺が牢のラケシス殿にも確認するよう、卿に頼んだんだが」
「……はあ、ええ。否定しておりましたなあ、ラケシス・リリーフォンスは。あれほど下手くそな嘘はまずもって王宮では見つかりません。あまり王宮に向いた人物ではなかろうと思われますが」
「卿の感想などどうでもいい。どうだ、巫女。とりあえずそれが真相らしいぞ?」
「ラ――ラケシスが――」
では、それでは。
ラケシスが王宮に侵入したのは、王太子殿下と逢い引きするためだったと――そういうのでしょうか?
『内部に詳しい人間がいなくては王宮には侵入できん』
騎士はたしかにそう言っていました。
王太子殿下ご自身が引き入れたというのなら、その条件は叶います。
「……ま、待ちなさい。ラケシス・リリーフォンスは帯剣していたはずよ。逢い引きならばおかしいじゃない――」
姫様はわなないていました。今聞いた言葉を、必死で否定するかのように。
「はあ……何でも殿下に剣の修業をつけていたのだそうで。そもそもはそういった繋がりで親交を深められたそうですな。以前、サンミリオンに殿下がおいでになったときから」
――サンミリオンに、王太子殿下とエリシャヴェーラ王女が来た、と。
ラケシスはたしかにそう言っていました。
では、あのときにはもう――
「まあ、姉としては信じられんだろうがねアルテナさん」
アレクサンドル様ののんびりとした声は、まるでわたくしの背中を叩くかのようでした。
「シュヴァルツ殿下は本気だ。そこは信じてやってくれないかね」
「――お父上は、ご存じだったのですね」
「私は昔殿下の教育係の一人だった。その縁で、今でも文のやりとりをしていてねえ」
「で、その親父殿の助言で俺はシュヴァルツ殿下を直接落とすことにしたわけだな」
騎士はわたくしの肩を抱いて言いました。「たしかに一番てっとり早かった。殿下が大人しく出てきてくれて助かった」
もう大丈夫だ――と、わたくしの耳元で囁きます。
嬉しい言葉でしたが……なぜか安心できません。
だって、こんなとんでもないこと。わたくしの中にある妹像が崩れ落ちそうなほどの衝撃なのです。ひたすら混乱するしかないではないですか。
「ヴァイス! 何をそんな女に親しげに……っ!」
姫様が烈火のごとく馬上で憤りをあらわにします。
騎士は、やれやれといった風情でようやく姫に視線を投げました。
「……少しは王女としての役目に邁進してくれるかと思えば」
「邁進しているわ、お前の言う通り! こうして銅像も建てたし、アレクサンドルの話もちゃんと聞こうとしているじゃない!」
何がいけないの!――叫ぶ姫様を、哀れむように見て。
「それが分からんうちは、俺が巫女を選んだ理由も永遠に分からんだろうよ。分かってほしくもないがな」
騎士はわたくしから手を放しませんでした。あくまでも、わたくしに寄り添ったまま。
わたくしは――そっと、彼の体を押し離しました。
「巫女?」
彼がふしぎそうに呼びます。そんな彼に、首を振ってみせて。
「駄目です……姫様をおとしめるような真似は……」
……我ながらかわいくない言動だと思います。
嬉しくなかった、わけがない。
そう、嬉しいのです。騎士が、はっきりと自分を選んでくれたことが。
それでもこれはよくないと思いました。姫様の目の前で――これは。
姫様が騎士を好いている、それは間違いなく本当だと思うのです。そうである以上、その気持ちをおとしめたくはないと。
姫様と対等になりたかった。だからこそ。
騎士はまぶしそうに目を細めてわたくしを見ました。
「分かった、すまん」
あっさりとわたくしから手を放し、にっこりと笑います。
「だから、俺はあなたがいいんだがな。アルテナ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる